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第12章 配達屋と双子神 もう、日記どころの騒ぎではない。 どうして、こんなことになってしまったのか、自分でもわからないし、自分の力も感情も制御できなくなっていた。 変貌して灯露はどんどん相手を追い詰めて、とうとう倒した。 最後に、お決まりの台詞のような言葉を叫びながら、消えた。 だが、灯露はただその消えた場所を見続け、その場から動く事もなく、そして元の灯露に戻る事もなかった。 「…おい。」 皐月が呼びかけても反応はない。まるで、前の自分と灯露が逆転したようだった。 このままでは、自分にも攻撃を仕掛けてきてもおかしくは無い状態だ。 だが、どうやらそんな事は考えすぎだったようだ。 力を暴走させて無理やりあれだけ使ったのだ。疲れてしまって当然だろう。 精神的にも肉体的にも、そして、感情的にも。 糸がぷつりと切れた操り人形のように、ふわっと体が倒れる。 もちろん、皐月が手を出して倒れさえるような事はしないが。 「一度、戻る方がいいな…。」 きっと、これだけ力を使った事だから、鏡衣智は気付いているはずだから。 皐月は無言で灯露をおぶって来た道を戻って行った。 神社に着くと、玄関の前で鏡衣智は待っていた。やはり、お見通しというところだろうか。それが少し、気に喰わない。 「お疲れ様。」 きっと、感じてすぐに見ていたのだろう。 「…。」 「部屋まで、連れて行ってあげて下さい。」 「…。」 「大丈夫ですよ。今は皆、自分のことでいっぱいで、手が離せませんから。」 それが意味する事は、今朝の話だろう。 きっとまた、大変な事をあの四人にやらせているのだろう。 分かってしまえば、巻き込まれるのはごめんなので、灯露の部屋へと向かう。 面倒な事をするよりも、灯露の側でのんびりしている方が楽だろうし、いつまでも背中におぶっているのも落ち着かないからちょうどいい。 大人しく、階段を上っていく後姿を確認した鏡衣智は、すぐに外へ出て、四人の様子を見に行った。 そこでは、前回以上に大変な状況となっていたが、灯露と皐月は知ることはない。 まぁ、想像する事は可能だろうが…。 哀れな事に、四人についている彼等も、鏡衣智の仕業に文句を言うが、聞いてもらえなく、かなりな避けない事になっていたという事をあとで知る灯露だった。 ふっと、眼が覚めた灯露。 まだ、頭がはっきりと働いていないのか、自分がどうしていたのか、ここが何処なのかがわからずにいた。 だがすぐに、日記を取りに家に戻る際に貴一の姿をした『悪魔』と遭遇し、内から何かが溢れ、言葉が流れ始め、気付けば自分の見知った神社内での部屋にいた。 そして、部屋の隅で壁を背にして眠っている皐月の姿が視界に入った。 きっと、ここまで連れ帰ってきてくれたのは彼だろう。 後でお礼をしっかりしておかないとなと思う。 そんな時、外から賑やかな声が聞こえてきた。なんだろうと、部屋の窓から外を覗いた。 すると、そこでは鏡衣智達がいた。どうやら、力の制御の特訓をしているのだろう。 なんだか、大変そうである。 もうしばらく、自分は休んでいようかなと思って窓から目を離してふと見れば、いつの間にか皐月は起きていた。 自分が動けるのを確認したのか、もういいと思ったのか、皐月は部屋から出て行った。 それは本当に突然であった。だって、夕食だから下へ降りた時に、急に言われたのだから。 やはりといっていいのか、鏡衣智は自分が昼間どうなっていたかを知っていた。だから、別にそれでは問題はないと思っていたが、突然言い出したのだ。それも、かなり無茶な事を。 「明日、ある人に頼んでい置いた手紙が届くから、その後に行ってみようと思う。」 場所は、異界の扉がある異空間。それも、太陽の力と月の力を司る双子神のもとへ行くのだと言う。 同じ力を受け継ぐものとして、別次元であるからまったくの別物であるが、同じ仲間ということもあり、一度会うべきだと言うのだ。 「太陽も月も持つ力は人に恵みや安らぎを与えるいいものであると同時に、脅威と恐怖を与えるものであるから、無事に力を使いこなせるように、彼等に守護呪をかけてもらう。」 簡単に言えば、使いこなすために同じであってまったく違うその彼等に認められれば、力が安定するのだという。 本来、力の源は同じだから。 「だから、明日はいつ行くかは配達屋の関係によるけれど、起きておいてね。」 それだけいって、用意があるからなどと言って、さっさと部屋へと引っ込んでいった。 一緒に夕食を取る四人にとっては、今日一番見たくもない人物であろうから、少しほっとしている事だろう。 なんだかよくわからないうちに、話はどんどん進んでいるようで、また、遅れているのかもしれないなぁと、今度は追いつく努力をしようと決意する灯露であった。 次の日の朝。いつものように普通に起きた灯露。下に降りるとすでにあの四人以外の面々は揃っていた。 いつでも出発可能だという事だろう。 そんな状態の中、こんにちはーと、玄関から声がした。 だが、鏡衣智達は出る気配もなが、声の主らしき足音が近づいてくる事から、はじめから中へ入るように言っていたのだろうと思われた。 ひょこっと現れたのは、自分より幼く見える少年と同い年か少し年上ぐらいの、人懐こそうな少女だった。 少年が、頼まれていたものだぞと、渡せば、ありがとうと受け取って中身を確認する鏡衣智。 どうやら、中身はなんらかの文字が書かれた札のようなもの。それと、何らかの資料であった。 「それで、あの二人のところへ行くんですよね?」 「そうです。お願いできますか?」 どうやら、この少年がその双子神のもとへ連れて行ってくれるようだ。だから、配達屋が来た後という事なのだろう。 「あ、名乗り忘れていましたね。はじめまして、灯露さん皐月さん。ラーティンス・ベルリーラです。」 「私はキャリーシャ・ドットリカ。よろしくね。」 やはりといっていいのか、相手は自分達のことは知っているようだ。まぁ、鏡衣智の知り合いのようなので、自分達の事を知らないという事はないだろう。 「ま、話は後でゆっくりとしたらいいですし、まずは出発しましょうか。」 指をパチンと鳴らし、それが合図であるのか足元にいつの間にか模様が現れて、視界が変えられた。 「さぁ。ここが全ての異界を繋ぐ扉のある場所。そして、太陽神と月神のいる場所。」 出てきたのは、目の前に大きな扉のある場所だった。 そして、その扉の前には幼い少女と、あまり似ていない無愛想な少年がいた。 彼等が、この扉の双守人であり、自分達と同じ太陽と力をそれぞれ持ったもの。 「待っていたわ。」 「もう少し、はやいと思っていたがな…。」 にっこりと微笑む少女と、相変わらず無愛想な少年が近づいてきた。 待っていたという事は知っていたという事で、こうなる事をあらかじめ分かっていたという事だろう。 前もって準備がいいというのか、流されているというか…。このように進むように予め道をつくられていたのか…。 今は気にせず進む事だけを考えていたらいいのかもしれない。 きっと、あの戦いを二度と繰り返す事がないようにと、願っているのは皆同じだろうから。 協力してくれる人達の思いを、無下には出来ないと思うから、今は流されている事にしよう。 鏡衣智が前に、最期は結局自分が頼りなのだという事だから、それまでは人の手を借りればいいと言っていた。 人は一人きりでは生きる事は出来ないから、必ず誰かが側にいるのだと言う。 何かを成すべき時は、一人ではどうしようもない事もある。だけど、助けてくれる人が一人二人と増えれば、心の支えにもなるし、実際も強いんだと言っていた。 だから今は、その準備の時なんだと思う。 やはり、自分はまだまだ何も知れなくて危なっかしい子供のままだから。 でも、今なら少しわかる気がする。 かつて祖母が言っていた事が。 「日の光の祝福を。」 「月の光の祝福を。」 何やら儀式の祝詞のようなものを空に向かって言い始めた双守人。 「時には優しく、時には厳しく。」 「光で浄化せよ。全てに祝福を。」 いつの間にか彼等はそれぞれ太陽と月の飾りが先端についた杖を持っていて、その杖の宝石のような部分から淡い光があふれ出した。 次第に安定した光がその場にあふれ出した頃、光は灯露と皐月を包み込んだ。 「太陽の神からの守護を。」 「月の神からの守護を。」 「「与えん。」」 光は灯露と皐月の中へと吸い込まれるように消えていく。 「自分を信じて、頑張ってね。」 少女は灯露と皐月に言う。 「仲間を信じ、そして突き進め。」 少年も灯露と皐月に言う。 「そろそろ時間の限界だから、戻ります。」 この世界ともお別れ。 なんだか不思議な感覚に包まれていて、いまだにはっきりとどうしていたのかわからない。 だけど、心の内が何か変わったような気がした。 暖かい光のようなものがあるような気がしたのだ。 「そろそろ、本格的に準備をしますか。」 鏡衣智が言う言葉にうなずく灯露と皐月。 もう、皆決めたから。 本来持っていたものも取り戻し、目覚めさせた。 あとは、この戦いを終わらせるだけ。 「今、扉を開き、我等をあるべき場所へ。」 言葉が言い終わる頃には視界はもとの見知った場所に移っていた。 ちょうど、昼食の用意が出来たらしく、郁達は帰りを待っていてくれた。 あとがき これで、覚醒編は実質終わり。あとはその後というか幕間といった終幕だけ。 戻る / 進む |