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なんだかよくわからないが、話を済ませたらしいキサは前と変わりなく元気な笑顔で、常識を無視して、窓から夢世界へと帰っていった。 「あの四人の人も郁や雅季さんの中に戻ったの?」 「そうだね。正確には石にだけどね。」 郁と雅季は石を見る。確かに、何か前とは違う気がする。暖かい何かがそこにある。母親のような温もり。 「ご馳走様。あ、今日は家に戻ってもいいですか?」 昼を食べ終え、お皿を流しへと持っていったところで思い出した灯露が鏡衣智に問う。 「いいけど、どうしたんだい?」 「ちょっと、忘れ物を取りに行くんです。」 「忘れ物?」 今必要なものなのかと聞けば、日記で毎日書いているから、ないと困るのだと言えば、言っておいでと言う。 「もちろん一人は危ないから。皐月君。ついていって下さいね。」 にっこりと魔王もびっくりな笑みで皐月に頼む鏡衣智。もちろん、拒否は許さないと目が言っている。やはり、最強なのは鏡衣智さんだと思う灯露。 「…わかった。」 「よし。あとの四人は力の制御の練習をしておこうか。また迷惑な人達が来たらこまるからね。」 昼のご飯が丁度終わった四人に、悪魔のような囁きを告げる。 「…今日は学校休んでいる分の勉強をしておきたいのですが…。」 「そんなんじゃ駄目だぞ?君だったら普段からしているから問題ないでしょう?」 拒否権はなしで、連行される事が決定した。 まぁ、実際に自分がどうこの力をつかえるかわからないので、一度しっかりと自分の力というものと向き合って認識しておく必要もあるので、今回はしょうがないと諦める事にした。 「あ、鏡衣智はん。どうか、あの恐ろしい奴はやめてほしい…です。」 少しずつ標準語を覚えていく風里がお願いをうするが、笑顔でわかったと返されても、あまり本当にどうなのかわからない。 前回以上に得体の知れない恐ろしいものとあたる可能性さえ出てくる。 「鏡衣智…。ほどほどにしておけよ?」 「でもね、こういいった事は、危険にさらされた方が発揮できるし、覚えやすいものなんですよ。」 やはり、まだ見えてこない戦いの先にいる魔王より、近くにいる天使の皮を被った悪魔の方が恐ろしいということが、再認識された。
また何かあって大変な事になりそうなので、できれば自分も残っておいた方がいいのかもしれないと思ったが、せっかく一度家に戻れるし、母の事も気になるので、灯露は皐月と共に神社の石段を下りて行った。 「そう言えば…。出会いはこの場所からだったんだよね…。」 自分がはじめて、無意識だったけれども力を使った場所。そして、皐月と出会った場所。 「これから、どうなるんだろうねぇ…。」 彼女の独り言を聞いているのか聞いていないのか。ただ、歩くだけの皐月。 しばらく歩いていくうちに、灯露は前方に人影を見つけた。 皐月との出会いと同じような感覚。誰だろうと、だんだん近づくその人影を見ていた。 そして、足を止めた。これ以上、勧めなくなった。 もし、あのまま時が流れていれば、間違いなくあれは彼であっただろう。 記憶に残っている彼の面影を持つ自分達と同じような年の青年が立っていた。 さすがに、足を止めて驚きと同時に何らかの恐怖で振るえを持つ灯露に不振を懐いた皐月は、睨むようにその相手を見た。 「…き…ちゃ…ん…。」 その言葉がつぶやかれた時、さすがの皐月も驚きと同時に厳しい顔になる。 普段の彼から見れば、珍しい事であるが、灯露は気付いていないそれに皐月は気付いたのだ。 「魔王の手のものか…。」 「え…?」 魔王という言葉に、どうにか自我を取り戻した灯露が皐月の顔を見る。 「あれは、お前の知っている守矢貴一じゃない。あれは、その守矢貴一を手にかけた者だ。」 それを聞いていた相手は、すぐに貴一のものとは思えないような低い声で、気味悪く笑った。 よく、正体を見極められたものだと、感心と小馬鹿にするように笑う。 「この姿だったら、そこのお嬢さんをこちら側へ引き釣り込めるかと思ったんだがね…。」 あんたがいたんじゃ、やはり無理だったようだなとまだ笑っているそいつ。 もう少しはやく気がついてすぐに避ければ良かったと、少し後悔をする皐月。 これ以上、灯露同様に自分の周りで誰かが消えるのは嫌だったのだ。 第一に、皐月が感情をあまり表に出さなくなったのは、体質から人の血を欲し、その欲に負け、過去に人を襲った事があった。 その時は鏡衣智がすぐに見つけた為に、相手は死なずにすんでいる。 だが、それが皐月にはとても恐ろしかった。また、同じ事を繰り返すのではないかと。 それから、欲に耐える為に感情を殺し、抑えるようにした。 学校へ通うときも、無愛想だとあまり人が寄ってこないから。一人の方が楽だったからだ。 理由はそれだけではなく、親の事も関係しているのだが…。 顔は覚えていない。ただ、あの日に巻き込まれて命を落としたという事を、一緒に過ごしてきた鏡衣智から聞いている。 しかし、最近は同じような境遇に立つ者達が自分の周りに増えた。そのせいなのか、少しずつ感情が表へ出るようになった。 だんだんと、押さえが利かなくなったのだ。 関わった者達が自分の前からいなくなるのが、嫌だったから。 「まぁ、いいわ。本来なら、あの四匹の獣達を儀式で祭壇から魔王様へ捧げるべきだが、そっちの小娘を手に入れる方が簡単だ。」 まだ、ただ一人力を覚醒させることなく、足手まといとなっているのだから。 その言葉が、灯露の体の中に突き抜ける。 自分でも思っていた事を、倒すべき敵から言われたのだ。それも、まるで足手まといな自分がいるから、貴一が死んだのだと言われているような気もして、頭が真っ白になってしまった。 「うるせぇ。こっちははやく戻らないとあいつがうるさいんだ。」 すぐに片付けてやると、もう使いこなせるようになったのか、すぐに力を解放させて戦闘状態に入る皐月。 それを見て、やはり自分はまだ守られるだけの足手まといなのだと思い知らされる。 考えれば考える程、悪い方向へと向かっていく灯露の思考。 目の前で、力をぶつけ合う皐月と相手の事は、見えているはずだが、その瞳は何も写していない。 繰り広げられるその光景を、瞳は写す事がない。 ただ、真っ白になった世界から、声が聞こえる。 それと同時に、溢れる思いと言葉。 真っ白の視界に、紅が混じった時、はじめて目の前で繰り広げられているそれが眼に入った。 相手も苦戦しているが、同じように苦戦して切り傷から血を流す皐月の姿が映る。
もう二度と、失いたくはない
その思いが灯露の心の中を埋め尽くした。 無愛想であまり好きでない相手で、第一印象はあまりよくなかたっとも言える皐月。 そんな皐月でも、貴一と同じように目の前で何も出来ずに失うのは嫌だった。 「…皐……月…。」 怪我は大丈夫かと近づこうとする灯露に、動くなと止める皐月。 今のこの不安定な状態では、簡単に連れて行かれてしまうだろう灯露を心配しての言葉だったのだろうが、今の灯露には拒絶された思いでいっぱいだった。 だが、このままでいる灯露ではない。今までだってそうだった。 許せないと思う。 何度も何度も同じ事を繰り返して、ただむなしいだけのこの戦いが。 灯露は一度目を瞑り、精神を落ち着けてから眼を開く。 相手を見据えて、知らぬ間に頭に浮かんだ言葉を呟く。 すると、灯露は光につつまれて、灯露が合図を与えれば、その光は貴一の姿をしたものに襲い掛かった。 いったいどういう事だと、驚きながらよける相手だが、容赦ない灯露の攻撃を少なからず喰らっている。 そして、灯露の姿を見て、完全に動く事は出来なくなった。 それは、皐月も同じだろう。 そこにいたのは、灯露であって灯露ではないのだから。
太陽は光と恵みを与え、月は闇と恐怖を与える。 その反面、太陽は脅威の力を見せて恐れられ、月は穏やかな安らぎによって好まれる。 表と裏として存在しながら、知らぬ間に逆転してしまうもの。 決して怒らせるな。 強大な力を持て余すものは、自ら破滅を受け取るが、強い意志を持つものは、全てを扱い服従させる。 かつてから、太陽と月は恐れられた。 どうして光を持つのか。闇の中でも輝くのか。 そして、闇は恐れる。 全てを浄化し、無に還すその光を…。
光を身に纏った神が今、この地に降臨する。
闇を浄化し、無に還す為。 神が裁きを与える為。 この地に降臨する。
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