|
第9章 月の光臨
時は変わらず進み、日常と言う名の日々が目覚めの朝を告げる。 起きた郁は隣の部屋で寝ている兄のもとへと向かった。そして、昨晩の事が偽りなき真実だと、思い知った。 下に降りると、鏡衣智を含め、数名がすでに起きていた。 鏡衣智は二人の姿を確認すると、話があるのなら後で聞きますよという。その態度から、昨晩何があったのか知っているようだった。 まだまだ謎の多い、天界人という鏡衣智。まるでこの先を知っているように振舞う男。 いったい何年生きているのかさえわからない。だが、そんな彼でも変えられないものや譲れないものがあると気付いたのは最近。 まだ、何が起こるのかはわからない。相手側がどういう状態なのかも、自分は知らない。この日常を過ごす間に、どんどん変わっていくとわかっていても、知らない事が多すぎるし、昨日の真実で混乱をしている自分には少し整理する時間がほしかった。 残りの者が起きてきて、朝食をとった後、部屋を出る鏡衣智についていく郁と雅季。 入ったところは隣の部屋。誰もいない静かな、部屋。
部屋の扉を閉めて、向き合って座る三人。 「どうやら、真実を知って、力を得たようだね。」 まるで見ていたかのように話す。 「お蔭様で。信じていたものを壊されましたよ。」 兄弟と信じていた。それがいきなり赤の他人だといわれても、すぐには信じられない。それだけ長い間、一緒にいすぎたのだ。 「でもね、それが真実。二人なら、すぐに受け止められるよ。兄弟だろうが赤の他人だろうが、二人は二人。親友という絆を作り上げていくように、そんなことで簡単に離れるものじゃないからね。二人なら、そんな肩書きがいらない兄弟なんだよ。」 そういわれて、少し肩の力が抜けた気がした。ここで否定されれば、どうすればいいのか悩み、前へと進めなくなる気がしたからだ。 「それで、知っているなら教えてほしいんです。」 「何をだい?」 「誤魔化すなよ。」 「手厳しいね・・・。でも、今更ごまかしたところでどうなるという問題でもないしね。」 本気かふざけているのか、相変わらずわかりにくい男だ。 「母は、母はいったい何によって消されたのですか?」 知りたいと思った。知らずに過ごしてきた自分達は真実を知ったのなら全てを知って受け止める義務があると思うから。 「それと、もう一人の母。間違ってしまった、守矢貴一の母は、今どうしているのですか?」 二人の母。その後の行方を知りたい。 「雅季君のお母さんは、事故で亡くなっているよ。少し前、にね。貴一君が亡くなった後、しばらく塞ぎこんでいたがこれでは駄目だと少しずつ元気を取り戻してやっていたらしい。だが、私と君たちが出会う少し前、事故で亡くなったよ。気付かれてしまったらしい。」 気付かれて、事故で処理されて殺されていたという事実。何に気付かれたかというと、最初の生贄の母として、その匂いがあったのだという。そのせいで、五十年前の関係者の子供として見られ、消されたのだった。 「郁さんのお母さんは、あの後森の中で見つかって、しばらくは逃げて、数日間はこっそりと過ごしていたらしい。たまに、連絡を取っていたからね。それがある日、途絶えた。気になって行ってみると、倒れて意識を失っている彼女がいた。その後治療をしたが、ちょうど見つかってしまって治療を途中で奴等を攻撃しつつ逃げている間に、巻き込めないといってね、無理やり私から離れて最後の力を使って消えてしまったよ。」 力を使いすぎると、いや、普段以上の眠る力を使うと、自分自身も巻き込まれる。それを承知の上で使い、鏡衣智を逃がし、二人の監視者としてもいいからと頼んで消えた。 器が消えれば見えなくなる。残るのは魂だけ。心配だけが残る彼女はずっと上へ行くことなく、見守り続けた。 「入れ替わった真実を、彼女は知らない。」 「だけど、俺の母はただ一人、彼女ですよ。」 「私もそうだ。あの人しか、私は知らないのだからな。」 別の母がいる、兄弟ではないといわれても、今のが偽者だとしても、兄弟であの人が母。守矢貴一もきっとそう思っているだろう。急に母親が違うといわれても、すぐに理解なんて出来ない。すぐに母親だと思えない。自分達はずっと母親と兄弟だと信じてきたもの否定されることになるのだから。 「だから、最初にもいったように。たとえ偽りだとしても、それが真実と決めるのは本人。全ては本人が決めること。たとえそれが嘘であっても、それを信じることで人は進めるのなら、それを真実と思って進めばいい。」 決めるのは本人。他人ではない。他人は自分の代わりになどならないのだから。 鏡衣智も何度も経験してきた事。自分の代わりはどんなにさがしてもないのだ。そして、大切な友人もそれぞれがたった一人で持つものは違い、同じものだといっても、代わりにはならない。その人はその人。 「あとは、一番力の強い、厄介な二人だなぁ。」 どうしようかと少し苦笑する鏡衣智にふと雅季が気付いてあの日のことを聞いてみた。 以前、郁が吸血鬼を許さないと皐月に攻撃を仕掛けたとき、覚醒と言う形で暴れようとした日のこと。 「あれは、本当の覚醒じゃない。あれはただの力の暴走。ちなみに、皐月君を助けようとして灯露さんも風の魔法を使っているが、あれもただの自分の防衛として自然と働いたもの。完全なる覚醒ではない。」 完全に覚醒していないから、自我を失ったり、知らないうちに使ったりする。そう、まだしっかりと制御できていないのだ。 「そうだね・・・。あの二人の覚醒を言葉でいうなら、月と太陽の光臨だね。太陽のように全てを平等に光と恵みを与え、悪しきものには容赦なく制裁を加える神でもある太陽と、闇の中を光の力を借りて自分を狂わずに闇を支配する闇の王とも言われる月。」 物語にありそうな内容だが、これはこれから起こる事実というもの。雅季も郁もただじっと聞いていた。 「二人の力によって、魔王との戦いは左右される。それに、急がして覚醒をさせれば、反対に力に飲み込まれてしまう。反動が大きいからね。」 そうすれば、二度と目を覚まさないかもしれないという可能性。考えればゾクリとする。 「二人はあの二人の補佐する力と、相手側の力を抑える力があるんだよ。二人の力や残りの二人の力を解放させて補佐する解放石と、相手側の力を抑えて二人や残りの二人の戦いやすいように補佐する解封石。それがそれぞれ、東の水属性の蒼竜、北の地属性の黒獅子の二人の基本的な力。後は、その石が二人にそれぞれあった力を教え、導いてくれるはずだよ。」 そういって立ち上がった鏡衣智。もう、話は終わりということ。 それに、そろそろ戻らないと何かあったのかと他の面々が心配するだろう。得に、このことを知らないだろう、同じ境遇にいる四人は。
学校がないと、楽だけど暇だなと実感する。今は何事もなく時間が進み、これが平和というものなんだなと、灯露は自分にと与えられた部屋で転がっていた。 その時だった。ガッシャンと何かが壊れる音がしたのは。 何事だと、灯露は部屋を出て音のもとへと向かった。そこには、紅い血を流す皐月と、あのクロスの剣を構えている郁がいた。 どうやら、いきなりの敵の襲撃があったようだ。 鏡衣智や達烏を呼んでこないとと思ったが、その間に二人がどうにかなったら困ると動くに動けずにいた。 そして、騒ぎを聞きつけた羽梟がやって来て、誰か呼んで来てほしいと頼んだが、どうやら三人とも感じたこれと同じような影を始末しに出て行っているらしい。 そんなことをしている間に、影はゆっくりと動き、皐月に襲いかかろうとしていた。 「水沢!」 「危ない!!」 羽梟が助けようと飛び出すが、間に合わない。 また、目の前で。そしてまた、自分は助けられないのか。灯露は現実から逃れようと、目をきつく瞑った。これ以上、見ていられないのだ。
―――――――――――――――ッ!!
その間に何が起こったのか。どれだけの時間が経ったのか、わからない。何も聞こえない。まるで、壊れたテレビのように、聴覚は音を拾わない。 灯露はぎりぎりのところで、このままではあの日と同じになると、覚悟を決めて皐月のもとへ飛び出そうとしていたのだ。 そして見た。つい最近見た、もう一つの皐月の姿がそこにあった。 この前のものは、防衛本能で、力が暴走して発動したものだと、鏡衣智が話してくれた。だが、今回はどうか。 「み、水沢…?」 皐月は容赦なく影に喰らいついた。影はものすごい音のような悲鳴をあげて、消滅した。 この皐月とこの前の皐月は違う。すぐに、灯露は理解した。そして、気付いた。 「…月夜に現れ、全ての魔を支配する吸血王。」 昔、祖母に聞かせてもらったお話に登場するもの。 今更ながら、気付いた。 「…いつか選ぶ日に、間違いのない、自分で選ぶ道を突き進め。」 祖母が話しの最後に何度も言い聞かせるように言った言葉。 きっと五十年前にも、あったのだろう。今日と同じ日が。
闇夜を照らす月の輝きの魔を得て、今光臨する王。 新たに時が動くのは近づいた。
残るは、優しき心と暖かい思いやりを持つ、太陽の輝きを得る、神のみ。
あとがき のわ。どんどん展開が怪しいというか、ややこしいというか、わかりにくくなっていくお話。 とうとう、皐月君変身!です。残るは太陽の灯露ちゃんのみ!! なので、お分かりの通り、もう少しで第二部の覚醒編が終了します。やっと来たよ〜。長い道のりだった。 しかーし!まだ、本当の敵と対決もしていなければ、謎過ぎる話の内容が残っているので、まだまだ続きます(涙 このサイトを立ち上げてからずっと続いているのですが、これより他の話の方が制作時間短くはないけど、結構あるのですよね。逃げたくなるから、逃げているのかなぁと思って、ため息一つ。 いつになれば、これは完結するのか。そして、完結したらどうなるか。いまだに不明。 とにかく、第二部を頑張らねば…。ですので、もうしばらくお付き合い下さいませ。 戻る / 進む |