8章 石の鼓動と過去

 

 

 どこかの店の主だと言う人や、鳥かごに入った蝶。そして、獣の耳や尾がある少年と、言葉を話す猫。

世界は不思議なことであふれているんだなと、つくづく感じた。

今、自分が置かれている状況でさえも、たまに夢ではないのかと思うぐらい、おかしなこと。だから、それほどまでは驚かないが、それなりに驚きはする。

だけど、これだけおかしなことがあったら、自分に起こるこれも、現実なんだなと思い知らされる。

怪我をしたら痛いし、一緒にいてくれる仲間達が、離してくれた過去や、あの災害の時のように、失いたくはない。それに、相手も人ではなかったとしても、痛いという思いや、大切なものを守りたいと言う気持ちはわかるから、このまま『倒す』という言葉で片付けてよいのか迷うところだ。

事の始まりは、人が引き起こした。恐れて切り離した弱い人。勇敢に立ち向かって命を落とした人。そして、大切なものを失い、まわりの行動を見て、絶望した人。

灯露は、たとえ反抗してさらなる被害をつくった原因の人だとしても、憎めないと思った。

だから、五十年前の時、皐月の祖父達は倒せなかったのだと思う。倒すだけではいけないとわかったのだと思う。

「私は、どうしたらいいんだろうなぁ・・・。」

一人、借りている部屋の窓から空を見上げてつぶやく灯露。

 時は残酷にも流れ続ける。止まる事はなく。それ故に、心が止まった『魔王』は流れから外れていく。

 いとしい人との再会を夢見て、死なない自分の唯一の希望として、生き続けている。いや、眠りの中で、待っているのかもしれない・・・。

 

 

 最近、場所がかわったせいもあって、なかなか寝付けない郁。

 理由は今の現状と場所、そして『物の怪』という、内の敵。そして、夢に見る、どんどん光の中で立っている顔が見えない人が置いていってしまう夢。

 相手が誰かはわからないが、自分が追いかけると、置いていくのだ。しかも、相手はとても悲しそうにしている。

 それが何を意味するのかは自分はわからない。だが、何かあることは確か。

 慣れている修道院での生活ではないから、余計に夢が気になって寝付けないのだ。

「まただ・・・。」

今日もやはり同じものを見る。ただ、少しだけ違うのは、視界がゆがんでいたこと。

 ぐにゃりと、ねんどを混ぜるように、ゆがむ視界。だけど、あの人だけはゆがんでいなかった。

 その時、ドクンと自分の心拍音が耳に聞こえる。体全身に感じる。奇妙にリアルなそれに、恐怖を覚える。

「何だったのよ、あれは・・・。」

この部屋に来て数日。そして今日、今までと少し違った夢を見た。もとは同じだが、何か伝えたいのか、夢は違った。

 何かが違い、それが意味する何かをまだ知らずにいる。

「・・・お兄様も・・・夢を見るといっていたけど、同じかしら?」

内容は多少違うものの、似ている夢。もしかしらたら、兄も同じように夢の内容が何かのはじまりだと告げんばかりにかわっていたのかもしれない。

 もしかしたら・・・自分の思い過ごしかもしれない・・・。

 首からかけられた、大切な、唯一自分のものであるそのクロスを握り、神に祈る。

「どうか、私達に・・・神のご加護があらんことを・・・。大切な人を、失わないよう・・・。」

クロスはまるで答えるかのように、脈打つ。夢と同じように、郁の心拍音と同じようにドクンドクンと脈打つ。

「え?」

少し振動しているのがわかるクロス。これが、あの夢を引き起こしたものなのか。

 

『 近いが、少々違う。お主の力が封印で抑えきれなくなたから、私の存在に気付いたのだ。 』

 

声が聞こえてくる。まわりを見ても、誰もいない。鏡衣智の声ではないから、違うと思われる。

 声がしてくる方向。それは自分の手の中。つまり、自分が手で握っているクロス。

「え、嘘・・・。」

『嘘ではない。目をそむけるな。神に忠誠を誓う少女よ。』

そして、クロスは続けてこういった。ずっと呼びかけていた。ずっと、この鼓動が交わる日を待っていた、と。

 一つの試練という名の課題を受けるに値する力を手に入れるまで、待つつもりだったと、クロスはいった。いや、クロスというよりも、中央に飾られた珠が、話したといった方がよいか。

 これが、鏡衣智のいっていた、魔放石。

『さぁ、真実を知る勇気があるか・・・。』

うなずいていた郁。知らなければいけないと、自分の中の誰かがいう。でないと、ここにはいる事が出来ないと。

『では、見るが良い。お前たち兄弟の両親の真実。そして、殺されたわけ。そして、夢に出てくる、人の正体を知るがよい。』

そういうと、クロスは光を放ち、郁を包み込む。

 パタリと、郁の体はその場に倒れた。眠り込んだ郁は起きていられなかったのだ。

 そして、石が導くままに、夢の中に入った。灯露とは少し違うが似たようなもの。

『とうとう、時がやってきたみたいだ・・・。巻き込まれてくれるか・・・。悪いな、キサ。私は、この束縛から逃れられないから、また巻き込む・・・。』

石の存在もそれっきりその部屋にはなかった。

 同時刻、雅季も眠り込んで倒れていた。場所は別々だが、通過する道は同じ。

 

 

 気がつけば、知らないところだった・・・。というか、知っている場所だが、こんなところにはきたことがなかったからそう思っただけだった。

 石に導かれて着いた場所は、教会の裏の森だった。

「ここに何があるわけ?」

『静かに・・・。ほら、やってきたから・・・。』

「え、あ、神父様・・・。」

現れたのは知らない女の人と両親を亡くした自分と兄を育ててくれた神父だった。

『あなたはいったい何者なんですか?』

『今は、答える必要がないことです・・・。それに、知る必要のないことです。』

『でしたら、何故。何故あの二人を頼みたいと、貴方がいってくるのですか?』

その言葉にえっと、なる。神父は亡くなった両親が、すんでのところでここまでたどり着き、預けて息を引き取ったのだと教えてくれていたからだ。

『あの二人の両親の事は、新聞を見て知っています。しかし、どうしてあれで行方不明とかかれているあの子供二人を貴方がつれていたのですか?!』

神父の問いに、困ったと絶対に秘密だと念を押して、こう答えた。

『私が・・・。私が、あの二人の本当の親だから、ですよ・・・。亡くなった二人には、私の代わりを頼んだのですよ。私はいつ命を奪われるかわからない身ですから・・・。』

『どういうことです・・・?二人に嘘をついて育てられてきたと?それに、あなたが命を狙われる事なんて・・・。』

『あるんです。もう、何十年も前のことですが・・・。私の母が関わったことで。あの二人もまた、巻き込まれるでしょう。ですが、それまでは普通の生活を送ってほしいという、私の、親としての願い。ただの、我が侭です。』

『では、私にも、その真実を知りながら、嘘は神に対する罪だとわかっていながら、嘘をつらぬきとおせとおっしゃるのですか?』

『別に、話してくださってもかまいませんよ。神父様は何も知らないですし、巻き込む気もありませんから。それに、二人それぞれに託したクロスが、真実を二人に告げてくれるから・・・。』

まるで、死を覚悟している女に、神父はどうして死に急ぐんでしょうかと問う。その答えは、守りたいものがあるからだった。

失いたくないものが出来れば、それを必死に守り通す。その為に、己の身に何が起こってもそれは己の弱さのせい。

『わかりました。真実をあの二人が知るというのなら、それはその時期がきたことということ。それは、神がお決めになる事。それまでは、私は何も知らなかったことにしておきましょう。不本意に、あの二人に重い荷物を背負わせたくはありませんから。』

『ありがとうございます。神父様。』

そういって、女は森の置く深くに消えていった。自分の本当の母は、それっきり、この世からも消えたのだ。その後、追っ手に見つかり、消されたのだ。

「ねぇ、五十年も前から、私の祖母から、ずっと続いていたの?」

『知られたら、邪魔される前に消してしまおう。だからこそ、祖父母代から父母代は、知られていたから、孫、子を手放したり、人に預けて、自分達だけで片付けられたらそれで良いという感じで、時を過ごした。結局、50年経って、孫の代に回ってしまったが・・・。」

顔も知らない、夢で出てきた人だった母。どんな思いで自分と兄を手放して、戦地に乗り込んでいったのか。

『・・・本当に、大切に思っていた相手だから、守りたい。その気持ち、お主も知っているであろう?』

「・・・うん。わかる。日常を過ごした神父様に、たった一人の家族の兄様、優しく声をかけてくれた灯露。失いたくないと、思う。」

 兄の雅季もちょうど同じような質問を、石にされていた。

『・・・大切なものがあるということは、己を弱くもするが支え、助け、そして強くなることもできる。守りたいという純粋な思いと許さないという復讐の思いとでは、表にでる力はかわる。復讐の思いは闇に食われる。お前もまた、守りたいものがあるのだろう?』

「郁や灯露さん、不本意ながら、何も知らなかった自分に導く言葉をくれる鏡衣智さん。知り合った人達はいい人が多いから、この場所を失いたくないと思いますよ。」

雅季はそう答えていた。

 そんな二人に、同時に絶望に近い言葉をかけられたのはその時だった。

『母の真実。そして、お前たち兄弟の真実。お前たちは本当の兄弟ではない。』

何それと、二人は次の言葉が出なかった。たった今、母親だといったあの女が、自分は自分達の親だといったのではないかと。その二人の驚きは予想していたが、辛い者。石はしっかりと真実を伝えようと話す。母親も気付かなかった、さらなる事実を。

『事故があった・・・。誰も気付かれずに事故が・・・。病院の手違いで、子供が入れ替わってしまったのだ。』

「何・・・それ・・・。」

「いったい誰とだ。そいつは今何処にいる?!」

二人がいうと、いつの間にか、隣にいた事に気付いた。どうやら、同じ時間に同じ時間同じ場所にいたのだ。だけど、それには気付かなかったようだ。

『お前たち兄弟は間違った。入れ替わってしまった。…『守矢 貴一』と入れ替わってしまったのだ。』

その言葉を聴いて、嘘といってしまう。嘘だといってほしかった。

 その名前は、つい最近聞いた名前。一番はじめに、始まりの生贄として殺されてしまった子。灯露が看取った、幼馴染の名前だった。

「そんなことが・・・、どうして。どうして誰も知らなかったんだ。」

『当たり前だ。母親も気付かなかったのだから。どちらも、同じ選ばれたものだったから。母親は、生まれてすぐに抱いた後、次に抱く時には入れ替わっていた。生まれた日が同じ三人の子供。だが、誰も気付かなかった。どちらも間違いないと思っていたのだ。持つ力が同じだったから。違和感なく、受け入れてしまった。』

残酷な現実を告げられる。必死で守ろうとした母親は、守れずに我子を一人失っていた。それに、母親も気付かない。

 兄弟じゃないという誤解の事実。殺された偽の家族。自ら死を選んででも守ろうと出て行った母親。郁との本当の兄弟はすでに亡くなっている、同じ今回の『遊戯』と言う名の愚かな事のメンバーの深い絆による間違い。

 

『だから、覚えておくのだ。自分の入れ替わりを。』

『自分の本当の兄弟で家族だったものを。』

真実を話した石はもう鼓動を伝えてこなかった。

それは、自分にもう溶け込んでしまったから。

 

 

 部屋を出ると、兄もちょうど部屋を出るところだった。

「郁・・・。あれはやはり・・・。」

「本当なんだと思う・・・。」

少し寂しくなる事実。たった一人の家族だと思っていた相手は本当はただの赤の他人。そして、自分と入れ替わった相手、自分の本当の兄弟はもうこの世にはいないという事実。

「・・・今度こそ、終わりになるのか?」

郁はクロスを剣に変え、天井に向ける。終わらせるという誓いを、あの石の声の主に伝える為に。

「・・・終わりにするべきなんだろうな。本当の母が願ったように、自分達は守られた。だから、恩返しに、これを終わらせないといけない。」

「本当のお兄さん。顔は知らないけど、普通に会っていたら、仲良くなれたかもしれない。」

この二つの剣が何に使われるのかはまだわからないが、必要な事はよくわかった。

 

 時は待ってくれない。

 辛い真実を知っても、進まなければいけない。

 灯露が過去を思い出に変えて、立ち向かっていくように、自分達も強く大切な人を守れる人になりたいと願いながら。

「もう寝よう。今日は寝れるかもしれない。あの人が母親だとわかったのだから・・・。」

「そう・・・ですね・・・お兄様。」

今は眠っていよう。朝が来るまで・・・。

 久しぶりに別の夢を見た。

 楽しい、兄と神父や他の子供たちと遊んだ日の光景・・・。

 気付かないうちに、隅の木の陰から見守ってくれている人が、去っていく。

 母親は、死ぬまで、二人を見守り続けていた・・・。

 そして、死んでも尚、二人の笑顔を見守り続けた・・・。

 

 

 あとがき

 

久しぶりに書いた続き。かなり設定が妖しい…。ちゃんと繋がっているといいのだが…。

やっとやっと、石の二人組み覚醒というか、真実を知る過去話編?

とまぁ、二人は兄弟ではありませんでした。本当の兄弟はすでに亡くなっていたり。あう。

ここにまで、貴一君はかかわってくる。本当はここまで関わってくる人じゃなかったはずだったのだけど。ま、いいよね?

さてそろそろ、重要な二人の覚醒が近づく?今度も皐月君はきれる?大丈夫かいな…。





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