第2章 儀式の塔の宣戦布告





五限目の国語の授業を受けていた時だった。鏡衣智に呼ばれて、もうじき現れるらしい敵がどこから来るのか、郁も風里も警戒していた。灯露ももちろんの事、警戒していた。皐月はどうでもいいと言う感じであくびをしていたのだが・・・。

国語教師が、次の本文を誰かに読ませようと、今日の日付を見て当てようとした時、ものすごい音を立てて、グランド側の窓ガラスが割れた。それも、端から順に窓ガラスは砕け散ったのだ。

 教室中はパニックを起こし、何人かは慌てて教室から出て、担任は隣のクラスへ行って、窓ガラスが無事か、不審者は来ていないかなどを聞きに言ったり、職員室へいって、何者かが窓ガラスを割った事を報告するなど慌しくなった。

 そんな中、落ち着いている四人。クラスが違うが騒ぎを聞きつけてやって来た羽梟も入って五人。

「どうやら、来たみたいやな。」

「せやけど、どっからどすの?」

と風里が窓の外を見たとき、瞬時に黒いマンとを被った何者かが侵入し、何人かで風里と郁を捕獲した。

「郁、風里さん!!」

気付いた時には二人ともすでに黒いマントの奴等に取り押さえられている。下手に動いて二人に何かあっても困る。

教室に残って何が起こっているのかわからなくておどおどしたり腰が抜けているクラスメイトがいる。クラスメイトがいる中で、派手に動く事は出来ない。

『 まずは二人・・・。 』

そう言いながら、黒いマントの集団は入ってきた窓から外へ飛び降りた。

 教室内では人が飛び降りたと騒いだ。だが、窓の外には、校庭にすら人影はなかった。

「まずい・・・ね。とにかく、雅季さんに知らせておくか・・・。」

羽梟はポケットから携帯を取り出し、以前に聞いておいたメルアドにメールを送った。

『 鏡衣智の言った通り、奴等らしき奴等が現れた。白藍と妹君が連れて行かれた。 』

きっと、呼んで直に飛んでくるだろう。

「とにかく、皆さん本日は帰って下さい。明日については後で連絡網をつかって連絡します!」

そう言って、担任はクラスの中の生徒を外に出した。実は、このクラスだけではなく、また彼らが他のクラスにきても困ると言う事で、生徒は強制下校となった。次の日ももちろん、警察に届けて調べるので、休校だ。

 下校する為に門で待っていた灯露達のもとへ、慌ててはっきりと事情が掴みきれていない雅季がやってきた。

「じゃぁ、郁と白藍さんは連れて行かれたんですね?」

「そうなの。」

郁は石を持っているだけで、命は奪われないだろう。計画を知られて消されるかもしれないが、今は白藍が問題である。幻想人としてまだ完全には覚醒していないものの、幻想人には違いがないので、鏡衣智が言う生贄にされてしまう恐れがあるのだ。

「とにかく一度、あの男のもとへ行くべきですね。何せ、私達は相手の居場所を知らないのですから。」

雅季の言う通りだった。灯露達は敵の存在をある程度聞いて知っているが、どこにいるのかは知らないのだ。

「まだまだ、知らない事が多すぎる・・・。」
その言葉を最後に、誰もが言葉を口に出す事はなく、鏡衣智がいるはずの神社へ向かった。


 神社の石段を上り終えると、すでに鏡衣智と達烏と邦陣が立っていた。すでに、事態を把握しているようだ。

「急ごう。まさか、ここまでやるとは思ってもいなかったからね・・・。」

どうやら、予想以上の成果を敵側はあげていったようだ。

「で、まだ聞きたいことがあるのですけど・・・。」

「それは、移動の間に話すから・・・。とりあえず、この陣の中に入ってほしい。」

鏡衣智は灯露達全員を魔法陣をも呼ばれる物の中に入ったことを確認すると、達烏にやってくれと指示を出した。

「繋ぎの場より闇飾塔へ!」

達烏は陣に真っ直ぐ棒のような杖を立てて叫んだ。

 陣は光を放ち、その中に立つ全員を光で包み込み、その場所から、陣もろとも灯露達は消えた。




 一瞬で視界が変わった灯露は今何処にいるのかわかっていなかった。鏡衣智の説明で、やっとここが現実から切り離された異空間の一部だとわかった。そんなあまりにも無防備な状態の灯露。

「・・・よく今まで無事だったよな・・・。」

「な、あんたに言われたくないよ!」

納得した反面、一番分かっていなかったのでは荷かと赤くなって反省していた時、皐月に言われた言葉。事実だからこそ、言い返せないところだが、言った相手が皐月だったのが気に食わない。

「まぁ、まぁ、今はけんかは止めておこうね。これから、この空間が流れて目的地まで行くけど、はぐれたら困るからね。」

鏡衣智は二人の間に入って、けんかを止めた。そして、簡単に話を始めた。

「今向かっている所は闇飾塔。生贄を捧げる塔の一つ。実は、生贄を捧げるに当たって、捧げる塔の順番が決まっていて、過去に一度だけ生贄の儀式が行われているから、二つ目の塔に彼女達はいると思うんだ。」

敵側も律儀に守るべきルールは守っているらしい。守らないと、儀式が成功しないらしいけど、敵側にそれだけ気を配る余裕があるのなら、もっと他の事に気を向けて、このような事を起こさないでほしいと思ってしまう灯露。

「最初の生贄は数年前。それから、奴等の動きはあまりなかった。だが、ここに、一箇所に復活の為の必要な条件がそろっているのだから、動くのは当たり前だろうね。」

「なら、そうなる前にどうして手を打っておかなかったのですか?!」

ひょうひょうと言ってのける鏡衣智に怒鳴る雅季。皐月もじっとにらみつけるように鏡衣智を見る。厄介な事に巻き込んだ張本人だからだ。

「確かに、君が言いたい事はわかるよ。」

先程の態度とは裏がえってまともに放し始める。

「しかし、それが出来なかったんだ。だから、五十年前も起こってしまった。阻止は出来たけど、被害は酷かったよ・・・。」

予測できていたにもかかわらず被害を出してしまったと言う鏡衣智の目が、普段見せない悲しみの目をしているように見えた。

さすがの雅季も一瞬だが、あの鏡衣智のそんな表情を見て怒鳴る事は出来ない。

確かに、大事な妹が連れて行かれたといって余裕を無くしていても、落ち着かざる得なかった。

「だから、今回はあえて全ての条件をそろえる事にしたんだ。奴等に対抗できるだけの力を持つ者を選んでね・・・。」

「鏡衣智、ついた・・・。」

鏡衣智が上を見上げるように視線を上げたとき、達烏が目的地に到着した事を告げた。

「さぁ、行こうか。二人を取り戻して、宣戦布告をする為に・・・。そして、奴等を今度こそ眠りにつかせるために・・・。これ以上、このような事を起こさない為に・・・。」

光が視界を奪った。


 視界はすぐに、あの異空間から暗い建物の中に変わった。





 鏡衣智が言うには、これが儀式を行う二つ目の塔である闇飾塔らしい。

 灯露は何故か、この塔の雰囲気に覚えがあった。肌が少し鳥肌たって、心もがこの空間を拒否する。それが何故だかわからないが、自分は過去に、消えている部分で知っている気がしたのだ。

 知られたら、きっと鏡衣智に余計な心配をかけるため、心を落ち着かせて行くよと言う鏡衣智の後を追った。

 達烏を先頭に、暗くて先がどこまであるのかわからない階段を昇った。

「こえれは何処まで続いているんだ?」

「さあね。私は来た事がないからわからないね。」

「嘘つきが・・・。」

それっきり、会話は途絶えた。だが、長く途絶える事はなかった。

 塔の一番上についたからだ。薄暗い儀式を行う台がある部屋に。

「郁!」

「郁、風里!」

そこで、二人の姿を見つけた。そして、黒い影のような集団も見つけた。これが、二人を連れ去った奴の正体。

 見た瞬間、雅季は郁のもとへ突っ込んでいった。なりふり構わず、妹を助ける為に。達烏と羽梟も応戦した。鏡衣智は風里を保護し、雅季が連れてきた郁に治癒術をかけて、スリムいていた傷を治した。

 この光景を見て、灯露はドクンと何かが動いた。

 以前、どこかでこのような光景を見た事がある。そう脳が判断したのだ。

 いつどこで、誰といたときに見たのかはわからない。だけど、自分を変えてしまったきっかけであったはずだ。

 呆然とその光景を見ていたとき、横から皐月が肩を激しく掴んで揺らして名前を呼んだ。

「おい!」

「・・・あ・・・水・・・沢・・・さ・・・つ・・・き・・・。え?水沢?どうしたの?」

焦点が合っていなかった目がやっと合ったような感じ。すっとぼけたような具合だったが、意識がこちらに戻ってきたのだから、今はいい。

 皐月はそこで大人しく座っていろと素っ気無くいい、座った灯露を確認すると、全てが終わるまで側にいてくれた。

 確実に自分が経験したような物とは違うのに、懐かしいような暖かい感じがした。

 気が付いた時には、影は全て、消えていた。鏡衣智達が後始末をして、二人の無事を教えてくれた。




 再び、達烏の陣によって異空間から神社に戻った。

「これで、奴等に宣戦布告すると言ったようなものですね。」

「奴等の邪魔をして、儀式を止めさせたんだからな。敵と見なされたな。」

「敵と見なされたのはあの始まりからでしょう?」

会話をしながらのんきにお茶をすすっている鏡衣智。先程までの戦闘が嘘のようだ。連れて行かれた二人は今はぐっすりと夢の中だ。二人を確認した後、鏡衣智は予想外だった灯露を見て困ったように言った。

「でも、まさかあそこで灯露さんが意識を引きずり込まれるとは思っても見ませんでしたよ。」

「す、すみません・・・。」

「鏡衣智・・・、あれは普通じゃなかったぞ。」

「しかし、原因がわかりませんからね。何せ、奴等は何も関わっていないからね・・・。」

達烏も邦陣も、何も感じなかった。にもかかわらず、灯露は意識を引きずり込まれかけていた。

「何かあるんだろうけど、今は何とも言えないね・・・。」

「大丈夫です。今はほら、いつも通りですし。」

そう言って、この話はこれで打ち切った。



 そして、全員で今後どうするかを考えた。



 その結果、しばらく学校は休む事になるだろうと、鏡衣智から校長へ連絡が行く事になった。

達烏の予測だと、近いうちに彼等は姿を見せると言うからだ。烏天狗の達烏は今まで滅多に占わないが、占いで外れた事はなかった。だから、間違いなく来ると、鏡衣智も確信したのだ。



 この休憩は、長く続かないようだ。けど、今は出来る限り休みたいと思う。

 思い出した反面、思い出したくない記憶が灯露に襲い掛かるから。

 思い出した瞬間何かが変わるだろう。

そして、とても恐ろしい事、取り返しのつかない事になる。

 そんな気がしてならないのだ。





 +++++ あとがき +++++

なんとか、宣戦布告できました。これからお互いどのように動くかが勝負の分かれ目。
いちよう、覚醒編なので、未覚醒の六人が覚醒したら終わりです。
もちろん、最後は灯露ちゃん。そして大爆発して鏡衣智さん大慌て。な予定。
序章の内容、お気づきの方、もし、あの時点であの状態の彼女が現時点でああなるとどうなるか。
もう、誰にも止められないね。でも、止められる人が一人。
それが・・・。(今は言えないわ・・・。だって、これがとってもメインなんだもの〜)
とにかく、まだまだ続くので、もうしばらくお付き合い下さいませ。