序章 遠い忘れられた記憶




 ほとんど建物がない静かなこの地にある公園。二つの影が走り回っている。幼い少女と少年だ。

 この辺りでは、大人と老人が何故か多く、子供が少ない為に、退屈である。だが、限られた人数だからこそ、仲良くなるのも早い。この二人もそうだった。

「・・・ちゃん、行こうよ。あっちにね、綺麗な花が咲いていたんだよ。」
「本当?行くー。」

無邪気に走り回る子供。それを上から不気味に見つめる影がある。一つではない。二つ三つ、もっと多くの黒い影がいる。その存在に子供二人は気がつかない。そう、この影は通常人から見えることはない影なのだ。


『見つけた。奇跡をも起こし、何でも願いを叶える何かをこの世に現すガーディアンの一人・・・。』

『面白い事に、ガーディアンは幻想人。探す手間が省ける・・・。しかも、もう一人のガキも幻想人。まだ、未覚醒の幻想人。殺るのは簡単な事だな・・・。』


影がスッと空から姿を消した。


 この日が終わり、次の日となり、また二人はそれぞれの両親に元気よく公園へと出かける事を告げ、走って行った。この後起こる悲劇など知りもせずに。恐れも何も知らない純粋な子供を襲う影が忍び寄っていた。

「・・・ちゃん、どうしたの?」
「あ、何でもない。ちょっと、何かがいたような気がしたんだけど・・・。」
「・・・?気のせいだよきっと。」

少年は不思議そうに空を見上げている少女の手を引き、家へ行こうと公園から出る。

 少女が気付いたもの。それはあの影だった。

 同時刻、少女の祖母も異変に気付いた。気付くのが遅すぎたと慌てていた。

「・・・さん、早く、あの子達を!」
「どうしたんですか?」
「早くしないと、命を落とす。助かったとしても、この生活を維持する事は出来ない!!」

事の重大さに気付いた少女の母は祖母には帰ってくるかもしれない娘の事を頼むと言い、慌てて外へと走って行った。しかし、祖母は大人しく待っているほど余裕がなかった。首から下げている水晶が異変を知らせていた。少女の身に、孫に異変が起きたと。急がないと取り返しのつかない事になると、いてもたってもいられず、家を飛び出した。
 彼等がこれから起こる忌まわしい終わりが見えない戦いの始まりだった。



 公園を出た後、二人は道に迷っていた。いつも歩いて見ていた道が、いつの間にか違っていた。自分達の知らない場所がそこにあったのだ。

「どうしよう、ここ何処だろう・・・。」
「おかしいよ。絶対おかしい。やっぱりさっきの黒い奴が・・・。」

少女は異変を察知したようだ。未覚醒から徐々に覚醒へと道を進めているのだろう。少年の方が覚醒の兆も見られない。だが、少女の方はちゃくちゃくと覚醒へと進んでいる。このような状況に対抗する為なのか、それとも別の何かが働いているのか・・・。

 二人は手を繋いだまま、先がわからなくて知らないその場所を歩きつづけた。どこかに知っている場所が見えてくるかもしれないと。どこかで両親とばったり出会うのではないかと信じて。だが、そんなものは一行に見当たらないし出会わない。第一に人一人、いや猫一匹でさえ出会わなかったのだから。ここは明らかにおかしい。人の気配だけではなく、生き物全ての気配が無かったのだ。これほど、子供にとって恐ろしい事は無かった。

「僕達、どうなるんだろう・・・。」
「だ、大丈夫だよ。きっと、これは夢だよ。」
「ゆ、夢?だったら早く覚めてほしいな。」
「そ、そうだよね。やな夢、早く目を覚ましてくれたらいいのに。って、自分か。」


必死に気を紛らわそうとする二人の会話。だが、顔は恐怖で引きつっている。そこへ、不気味な声が響いてきた。


『・・・ようこそ、闇の世界へ。さぁ、おいで。君達は選ばれた、大事なお客様。』


『早くおいで。そして、お眠り!!』


黒い影が現れたかと思ったら、伸びてそれは手となり、二人を捕まえた。


『さぁ、行こう。生贄の祭壇へ・・・。さぁ、儀式だ。やっと手に入った幻想人の生贄!』


影は騒ぎ叫ぶ。そして、二人を引き離す。


『まずは、ガーディアンではないこのものからだ。』


「・・・!・・・きーちゃん!?きーちゃん、離して、きーちゃん!!!」
「や、やだよ。やめて、放して!」


少女が必死に叫ぶとも、影は反応を示さない。抵抗しようとも、影は動かない。きーちゃんと呼ばれた少年が徐々に見えてきた祭壇の上へと影が降ろす。少年の抵抗も影には無意味だった。


『さぁ、生贄の儀式。我等が仕えし魔王様の復活の為に!』


「やめて、きーちゃんを放して!やめて、きーちゃん!!」

少女の声は影には通じない。影は儀式とやらに気がいっている。

 その時、少女は自分の中で何かがプツリと音を立てて切れた。動きも一瞬止まる。そして、怒りに燃え、がっと目で少年を捕まえている影をにらみつける。

「・・・きーちゃんを放せ。今すぐ・・・放せ。きーちゃんに手を出すな―!!」

少女が叫ぶ。今まで以上に強い力がこもり、少女を捕らえていた影がよろめき、久しぶりに地面を踏んだ。少女は怒りに燃え、知らず知らずの間に体の周りに薄っすらと炎のようなオーラを漂わせていた。本人は全く気付かずにだ。


『まずい、覚醒だ。あいつはやばい。早くこやつを差し出して一度元世界へ戻すべきだ。』


「うるさい、私は一人では帰らない。きーちゃんと帰るんだから!!」

少女は無我夢中で叫び、指で紋章を描く。そして、魔法を発動させた。


『グゥワァァ―――――!!お、おのれ、小娘が、たかが今覚醒したばかりの子供に?!』


『時間がない。こやつをすぐに生贄として捧げよう。』


『その間、我等が時間を稼ぐ。』


「・・・うざい、邪魔するな。きーちゃんを返せ・・・。今すぐきーちゃんを返せ!この化け物が!!」

少女は相手の正体を探るよりも先に消滅させていった。影はどんどん悲鳴を上げて消えていく。

「邪魔するな!きーちゃんを返せ!!」

怒りに任せ、影を葬り去る少女。だが、間に合わなかった。あの影が少年を手にかけ、残ったのは冷たく動かなくなった少年だけだった。あの影はもちろん、全てを始末した後に、少女が消し去った。それでも、少女は間に合わなかったのだ。

「きーちゃん・・・?嘘だよね、ねぇ、返事してよ。何時もみたいに名前呼んでよ・・・。」

少年を抱きしめて泣きじゃくる少女。影が消えた後、二人は元の知っているあの場所へと戻ってきていた。そこを、祖母達に発見された。その時には二人とも動かなかった。

 一刻を争う重大な事態だと理解した祖母はこの残された寿命を使い、少女の覚醒を未覚醒の状態へと戻した。そして、記憶を消した。今はまだ知るには早すぎると判断した事もあったからだ。

「・・・始まってしまう。魔王降臨時や五十年前のような出来事が。目覚めてしまった。あいつらはきっと、また狙ってくる。」



少女と少年は離れ離れになる事になった。少年の母も、必死に助けようとしてくれた少女に感謝しているが、失った息子の顔を見て、ありがとうがいえないとさらに自分を追い詰めていた。


 その後、少女は何事も無かったかのように過ごし成長していった。大好きだった祖母は亡くなったが、元気に過ごしている。少女は、あの日の出来事を綺麗さっぱりと忘れてしまったのだった。




 この平和な時間が続くかと思われたが、その少女に再び間の手が忍び寄ろうとしていた。




+++ あとがきと言う名の言い訳 +++
第二幕覚醒編の序章をお読み下さいましてありがとうございます。
さてさて、今回から本格的に話の内容へと突入していきたいと思います。徐々に明らかになっていくだろうと思われるそれぞれの過去や思い。そして、五十年前の出来事と、魔王降臨時の事。あと、謎が多き鏡衣智さん。どこまで明らかになっていくかはまだまだ不明点が多いところなのですが、頑張って仕上げたいと思います。本人的に結構話し的に気に入っているので、完結させたいと願っています。(結構続きそうなのですが・・・)
何はともあれ序章。しかし、長いですね。いいのかな?ま、いい事にしておこう。
で、これは誰の過去話かわかりますか?感の良い人ならばばれてますよね。あはは、でも、まだ秘密ですよ。この先の内容でちらっとこれが出てきて内容に入るので。しかし、この時に最初の生贄が出たとはね。大変な設定だわさ。
それでは、本編へとお進み下さいませ。