六 変化の歌

 

 

 

 ここはどこだろうか

 体がふわふわして、浮いているようだ

 だが、体が動かない

 重く、何かに縛られているかのように・・・

 

 なんだろうか、あそこに光が見える

 あれ?目を開けていないのに、光があると何故わかる?

 


 “ 蒼、現代の瀧を継ぐ者よ。我の声を聞け。

   我、瀧との約束を交わした者。蒼、お前の守護を頼まれた者。 ”

 


 声が聞こえる。誰だろうか。知らない声だが、何か懐かしい

 声は続けて話し掛ける

 


 “ 今、蒼、お前の中に眠る力の封印を解こう。本来の力を取り戻せ。

そして、お前が呼ぶとき、我は力を貸そう。

瀧のように、蒼、お前も己の意思のまま進め。迷わず真っ直ぐ。

本当に大切な事は何かわかっているはずだからな・・・ ”

 


 自分に眠る本来の力。なんだろう、それは・・・そんな物、あるはずがない

 あ、体が沈んでいく。思いまぶたを開けないと

 誰かが、来る。誰かが、呼んでいる―――?!

 

 

「蒼、蒼―、起きてるか――?!」

ゆっくり目を開き、声のする方を見た。

「あ、良かった。起きていたようだな。」

ガーザが来た。どうやら走ってここまで来たようだ。蒼は、起き上がって、ずれた色眼鏡をかけなおす。そして、ずれたフードを深くかぶる。

「何やってるんだ、まったく。いちいちフードなんかかぶるなよ。暑苦しい奴だな。」

「でも、かぶっていないと、明らかによそ者だってわかって・・・。」

「そうだったな。それより、今事態がよく悪いんだ。話は後だ。」

よく見れば、ガーザは汗をかいている。よっぽど慌てているのだろう。

話を聞くと、蒼が誘拐されたと言われて、今度こそ処刑すると役人達が動き、今夜にでも襲撃をするとの事だ。

「・・・大変な事になってますね。」

「ああ、だから、今は逃げるぞ。」

「でも、僕が戻ったら・・・。」

「馬鹿言うな。あの連中は、お前が戻った所で襲撃を止めるような奴じゃない。」

確かにそうだな。と納得する蒼。今も昔も、役人や偉いさんは自分の為にしかしないし、邪魔なものは理由をつけて始末するような連中もいる。

「とにかく、今は全員の安全確保が先だ。お前も、悪いがもうしばらく付き合ってもらうぞ。」

「はい、僕は構いませんよ。だって、どっちにしても邪魔者ですから。」

「何馬鹿なことを言っている。こっちは人手が足りんで忙しいんだよ。」

「あ、すみません。」

何故か誤る蒼。しかし、今はそんな事をしている場合ではない。とにかく行くぞと、腕を掴み、無理やり立たせて入り口まで歩いて行った。

 

 

今だに、キリーアとの再会以上に機嫌が悪い流衣。そのわけは、役人達によってだった。

「なぁ、本当に盗賊だけを捕らえて、蒼に手を出さないと思うか?」

隣に立つキリーアにボソリと呟く流衣。キリーアは真っ直ぐ慌しく歩き回っている役人達と町人や軍隊を見て、ゆっくりと左右に首を振った。

「・・・私が思う限りでは、あいつ等は約束は守らないな。」

だんだん、役人達への不快感を抱き始めている二人。信頼を出来ずに、何かあればこちらで勝手に動こうと考えている。

「・・・蒼に、何かしたら、俺はあいつを抑えられない。ばばあ・・・キリーア、悪いが、その時は止め役になってほしい。」

お互い顔を見て目を合わせずに会話を続けている。

「・・・あんたが真剣に私に相談事なんて、珍しいものだな。本当に重大な事なんだな。」

「ああ、俺は、俺を手放したらあいつを止められない。それに、あいつを手放した事は、あいつと出会ってから一度も無い。だから、どうなるかは俺もわからない。」

「・・・・・・。」

二人の会話がぷつりと途切れた。

だが、二人の間には契約が成立していた。信頼できるものだからこそ、成立できた事だった。

「悪いな、本当なら、巻き込みたくは無いんだがな・・・。」

「助け合いがお互い様で、人間の常識のルールだろ。それに、私もあいつ等は気に入らないからね。」

戦闘準備が整い、今から襲撃に行くぞと号令がかかった。

 

 

町から岩場へ続く列があった。それを、ガーザ達は岩場の上から隠れて見ていた。一般の家から考えると、屋上の窓のような場所に当たるだろう。岩で、身体を隠しながら攻め来る者への攻撃を可能にする、一番有利な場所。

「来たみたいだな。御頭、どうします?」

「とりあえず、入り口へは近づけさせるな。時間を稼ぐ。逃げる時間を作るんだ。」

「了解。」

命令を受けた戦闘技術を身に付けて、ここで足止めとして残った男達が次々と集団へと矢を放つ。致命傷にならない程度に、はずしながら威嚇するのだ。

「あ、危ないぞ少年。」

元気な、同い年ぐらいの男が側を通った。

「何だ、来たのか?今取り込んでいるが・・・。そうだな、あそこの連中の中に、蒼、お前の友とやらはいるか?」

そおっと、岩の間にある隙間から見えるようにと、場を空けてやるガーザ。

蒼は、必死に集団の中から流衣とキリーアがいるかどうかを探す。

「あ、いた。あそこ。」

集団から少し離れて立っている二つの人影がある。あれが、流衣とキリーアだ。

「よし、騒動に紛れて連れて行ってやる。だから、しばらくここで大人しくしていろ。」

ガーザは蒼の頭を抑えて、身体を見えないようにし、攻撃に加わる。

どちらも引かず、長引くと誰もが思った。

だが、役人の一人が、町に避難していた盗賊の仲間としてどこでか知られてしまっていた一人の少女をガーザ達の前へ連れて来て、人質として銃口を突きつけた。

「バルダ?!」

「ギースタの野郎、汚い真似を・・・。」

誰もが動きを止めた。

この町で今勢力を伸ばしている役人の一人、ギースタの思わぬ行動によってだ。

バルダと言う名の少女は怯えて泣いている。

「盗賊どもに告ぐ!この小娘がお前達の仲間だと言う事はわかっている。今すぐそこから出てきて、降伏せよ!さもなくば、お前達の為に、この小娘が犠牲となる!」

盗賊と襲撃して戦っていた兵士も町人も動かしていた手を降ろし、武器を下げた。ガーザ達もそうだった。

それを見て、怒りを覚える蒼とキリーア。そして、流衣。

流衣、彼の怒りが頂点に達した。

流衣は思い出したのだ。あの日、自分の目の前で殺した男と殺された少女の事。殺した男は、襲撃してきた者。そして、殺された少女は、彼の妹だった。

「・・・お前、何をする・・・?俺の、前で・・・その子に手を出すな―――!!」

流衣は、バルダとギースタの二人を、あの日の妹と襲撃者と重ね合わせていた。

彼の怒りが爆発する。それと同時に、彼を突風が包み込み、次に人々が見たときには、彼はいなかった。いたのは、狼人。

爪が伸び、牙が生え、眼は鋭くそして金に輝き、耳は人間のものとは違っていた。

流衣が解放したもの。それは狼神だった。

「・・・やめろ、俺の前で殺すな―――!!」

流衣が叫びを上げる。それと同時に、彼はギースタに飛び掛り、バルダを口にくわえて助け出した。

流衣はすでに人の形を無くし、狼の姿となっていた。

狼の流衣の眼は真っ直ぐギースタを見据え、怒りをぶつけていた。ギースタはそんな流衣に恐怖を覚え、腰を抜かしている。だが、流衣は容赦なく襲い掛かろうとする。

「待ちな!これ以上する事は約束上、許さないよ。」

流衣に立ちはだかるキリーア。

「・・・。」

にらみ合いを続ける流衣とキリーア。それを見守る大衆。どちらも動かなければ、周りも動かない。

その時、あたりに流れるメロディがあった。誰かの歌声。狼は岩場の上を見る。キリーアも見る。誰もが、歌を歌っているその誰かの方を見た。

歌っていたのは、蒼だった。



“ さぁ、思い出して。本来あるべき姿を。己の存在理由を。

  そして、大切な何かを・・・。失う前に、思い出して。何が大切かを・・・。 ”



誰もが、蒼の歌に耳を傾けた。誰もが、蒼の歌に魅了されていた。



“ 何を思う。真実を知りながら、真実を受け入れようとせずに。

  何を見る。真実を見ながら、真実から目をそらして。 ”



流衣の姿は蒼の歌を聞くごとに、もとへと戻っていく。彼の中にいる狼神が眠りにつき、静かに帰ろうとしている。



“ 恐れず、眼をそむけずに、見てごらん。

  ―――流衣、帰っておいで。君は、ここで彼を殺してはいけない。 ”



眼を閉じ、流衣の姿が完全に人の姿を取り戻した。

そして、誰もが動きを止め、二人を見守っていた。

だが、一人、気に食わず、再び銃を構えるギースタがいた。

「・・・これで、あいつは終わりだ。」

蒼の登場により、誰もが油断をして隙を見せていた。ガーザにも言えることだ。

 






ズバン―――――

 






静まり返ったその場に響く銃声。誰もが、敵味方関係なく、銃声がした方向を見て、当たった方向を見た。

飛び散る血。倒れ、上から落ちる二つの人影。叫ぶ人の声。

落ちた人影は二つ。一つはガーザ、もう一つは蒼。

蒼は、歌い終わった後、流衣の変化が戻った事に安心したが、ふと視界に入ったギースタにより、顔をこわばらせ、銃声と共にガーザに飛び掛り、上から落ちた。

弾は、蒼の身体を貫き、砂と岩を赤く染めた。

「おい、蒼、何バカな事をやって・・・。起きろ、大丈夫か?!」

顔色を変えてしまっているガーザ。慌てて降りてきた仲間も、蒼に気付いて走ってきた流衣達も目を疑った。

「なぁ、蒼、どういうことだよ・・・?」

崩れるように膝を突く流衣。キリーアは顔を歪ませている。

 





     あとがき

 だんだんと、展開が読めてきました・・・?
 流衣君は怒り爆発。挙句の果てに蒼君は落下で瀕死。
 さて、次へどうぞ。これ以上は言葉がない・・・汗





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