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五 戦闘序章歌
日は暮れて、今は夕食でにぎわう宿屋。 「遅い。いくら出かけたとしても、遅すぎる、蒼の奴。」 「おかしいわね。朝は眠っていたから起こさずに出て行ったけど。あの楽器以外は荷物あるからね。どこまでいったのやら・・・。」 宿屋の一室では、流衣とキリーアが蒼の行方不明によって騒いでいた。 宿屋の亭主に蒼を見なかったかと問い掛けると、一人、外へ出た事は確かだと行っていた。確かに、ずっと中にいてもしょうがないから散歩に出かけたかもしれないと、初めは二人ともそう思った。 だが、余りにも遅すぎる。もう、昼食を過ぎて夕食なのだ。 「やっぱり、何かあったんだよ。」 「そうだな。この辺はあまりいい噂はないからな。盗賊がよく出没するし、役人も役立たずだし。第一にここの役人はあまりよくはないからね。」 困り果てる二人。そこへ、亭主が一人の客を連れて二人の前までやって来た。 「あの、こちらの方が、あんた達の連れを見たと・・・。」 「何?見たのか、本当に蒼を見たのか?!」 亭主の連れて来た男に飛びつく流衣。亭主とキリーアが慌てて引き離す。 「・・・あぁ、確かに見たぞ。わしの店で色眼鏡を買っていきよった。確か、あれは3時頃だったと思うが・・・。」 「ここへ来たのがはじめての奴だったら、こいつの店へ行くには時間がかかるだろう。それに、あの人だかりだからな。」 「確かに・・・。」 これで、蒼が3時までは無事だった事が判明した。しかも、眼鏡屋にいたことがわかったのだ。そう言えば、蒼は昔から色眼鏡をかけていたことを思い出す。どうして再会した時にしていなかったのかと思ったが、どこかでなくしたのだろうと片付ける。 「で、色眼鏡を買って、その後はどうした?」 「よくわからんのじゃが、外で人の声がしたから、誰かとぶつかったんじゃないかの?」 人とぶつかった。ただ、ぶつかっただけならいいが、何か胸騒ぎがしたのだ。あの日、襲撃を受けた時と同じような胸騒ぎがした。 「で、外を確認しなかったのか?なぁ!!」 「落ち着け。一応、何があったのかと窓から見た。あんたの連れと知らない男が必死になって散らかした紙束を拾っていたよ。」 「紙束・・・?ったくあいつは。どこまでマイペースな・・・。」 「蒼君、固い奴だと思ってたけど、良い奴なんだな。」 口をはさむキリーアをきっとにらみつけて、男から続きを聞く。 「それから後はよくわからんが、大きな男が現れたな。」 「大男?で、その後は?!」 「すまんが、その時電話が鳴ってな、受話器を取ったんじゃ。」 何それと、拍子抜けする流衣。その後、見ても蒼の姿はなかったという。男は、肝心な所を見ていなかったのだ。 「何だよそれ?!」 「お客さん、怒鳴っても困る。だが、これが最後だと思うぞ、あんたの連れの目撃は・・・。」 といっている亭主に少し酔い気味の男が話し掛けた。 「何だぁ?大男の話かぁ?そういやさ、今日街中をすぐに角曲がって行ったがな、荷物担がんと子供担いでたぞ?しっかも、珍しい髪した男をな。」 持っていた酒をグイッと一気に飲み干す。そして、すぐにどこかに行って、騒ぎ始めた。 そして、あの男が言った本当の最後の目撃で確信した。蒼は連れさらわれたと。 「やばい、蒼やばいじゃんか?!」 「そうだ、やばいぞ。この辺は確か最近勢力を伸ばしている盗賊がいたよな?蒼君、絶対裏で売りさばかれてるぞ?!」 二人の想像の方が恐ろしいぞと亭主は内心思いつつ、抑えるようにとなだめる。 「厄介事はごめんなんじゃが、客人が人攫いにあったとなればこちらとしても評判が悪くなって困る。出来る限りの協力はするよ。」 「サンキュ、じゃさ、早速だけどさ。」 キリーアはすぐに蒼を連れて行ったと思われる盗賊の資料をそろえて持ってきてくれるようにと頼んだ。 流衣はそれほど表に出さなかったが、かなり焦っていた。 また、あの日と同じように失ってしまうのではないかと。せっかく失わずにすんだと思って安心しすぎていた。
その頃、蒼は流衣の心配をよそにぐっすりと眠りについていた。 「完全に夢の中のようですぜ。御頭、これ、明日でいいっすよね?」 「ああ、明日決行だ。いつまでも、こいつをここに置いておくわけにもいかないからな。」 蒼はガーザと男との会話で目を覚ます事は無い。先程の夕食に睡眠薬を混ぜられていたのだ。彼等の計画の話を聞かれない為に。知らないのならば、知らないままでいいと。知ってしまえば、知っていながら黙っていたと言う事で、役人達に罪を問われるとわかったからだ。あいつらは、己の為にしか動かない連中だと一番ガーザは知っていたからだ。 「で、この少年はどうしておきます?明日、御頭は出るでしょう?」 「問題はない。脱走したり告げ口したり俺等を売るような真似はしないだろうからな。」 「・・・信頼できる奴なんすか?」 疑う。蒼を今日始めて知った男にとっては当たり前の行動だろう。 「大丈夫だ。こいつは、あそこの役人達のような奴じゃない。こちらの出方によっては心強い味方になってくれるだろうからな。」 「・・・もう、町に戻れないっすね。いいんすか?」 「こいつは、町の住人じゃない。ただの旅人だとよ。それに、ここらの奴じゃない。見てみろ、珍しい髪色しているだろ?」 そう言えば、蒼の髪など見た事がないなと納得する。この辺では茶と金が多いからだ。あと、いても赤っぽい色だ。 「この辺では珍しいすけど、どこから来たんしょうね?」 「わからん。だが、俺の記憶が正しければこいつは・・・。」 言おうとして、奥から別の男、いや子供が走ってきた。 「大変、大変!今町ですごい騒ぎになってるよ?!」 「何の騒ぎだ?また、役人どものしょうもないことだろ?」 「違う違う、俺等が人を一人さらったって噂が立って、役人どもが今度こそ全員処刑を決定するって!!」 「何?!」 考えてもいなかった自体になっていた。確かに、周りからみれば蒼を連れてきた事は、仲間がいるのだから、人攫いになってもおかしくは無い。 「くっそ、あいつ等はこれを気に、俺等を消すつもりだぜ。」 計画がおかしくなってしまう。明日と言ったが、明日では遅い。いや、もう計画自体遅いのかもしれない。あいつ等は今夜にでも攻め来るだろうからだ。 「どうします?このままじゃ・・・。」 「・・・わかっている。ひとまず、何人か、奴等に顔を知られていない奴等に町の様子を見てくるように手配しろ。そして、こっちは来るならば備えて打ち返せばいい。今のうちにそうだ、カールに指示して子供等を安全な場所へ避難させろ。町に確か、あいつがいるはずだからな。」 「承知。すぐに手配します。」 かなり焦り出す盗賊たち。全ての計画が崩れていく。 このままでは、仲間を全て守りきれない。もしもの時は・・・。ガーザはある覚悟を決めた。 それを知らず、まだ眠ったままの蒼。もうすぐ薬の加減が切れる。その時、目を覚まして驚くだろう。
すでに、客を引きのけ、静かになった宿屋の一室。 「何これ、何も資料にならないじゃんか。」 「そうだな。頭の顔がわかんないんじゃどうしようもないな。他に何かないのか?」 頼んだ資料がまとまったからと手渡された二人は、それに目を通してあまり役に立たないと判断した。彼等のことは、誰もほとんどわかっていなかったからだ。 「あんた達は、こんな状態で私達の連れが連れて行かれたと言うのにさ。今まで何も対策をしなかったわけ?」 「申し訳ございません。奴等は私達の考えを上回る輩でして・・・。」 偉いさんから使わされた役人は謝る。しかし、流衣達にはこの男達がとても気に食わなかった。見るからに何も考えていないからだ。考えているのは自分の事だけ。他人のために役に立とうなどと考えないふとどきな奴だ。二人には、雲って欲に刈られた彼等の眼を見て、何も期待はしていないが、かなりむかついていた。 このような役人がいるからこそ、町は滅びるからだ。それを何もわかっていないからだ。それに、こう言う奴に限って、多くのものを犠牲にして消滅させるのだ。そして、被害にあった者は、自分達のようになる。 思い出す、あの日襲撃してきた輩のこと。何年も前、守護竜を捕らえてさらなる名誉と金を手に入れるために襲ったこと。 憎たらしい思いに刈られ、すんでのところで己を抑えているが、何時まで持つのかと額から汗がにじみ出ていた。 何時まで抑えられるか。己の中に眠るもう一人の己に。あの日から、共に過ごしてきた、アレを表に出してしまいそうであった。
役人達は議論の結果、今夜中に蒼を連れ戻すと言った。それと同時に、盗賊達を全員処刑することも決定した。 これを、ガーザの命令で動いていた子供達は知り、慌てて知らせに戻った。
「やはり、あいつ等は・・・。」 「本当に、表向きで正義だとそれでいい奴ですね。」 ガーザはすぐに寝ている子供達を起こして、起きている見張りの子供達に避難するように言い、子供達の養育をしている女達に町の知り合いのところへ避難するように言い渡す。 「時間がない!早く行動しろ!!」 本当に時間はなかった。もし、町へ向かっている間に奴等と合流すれば子供達は間違いなく殺される。 「御頭、あの少年はどうします?」 「やべ、忘れてた?!」 慌てて奥へ行き、眠っている蒼を起こしに行った。 一刻一刻と、最後となるかもしれない大きな役人と盗賊との戦いが始まろうとしていた。 そして、流衣も、己の中に眠る合成共有して今を成り立たせているもう一人が、牙をむこうとしていた。
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