四 盗賊と信頼の歌

 

 

 

目が覚めると、日は真上まで昇っていた。

「・・・寝過ごした。」

隣のベッドにはすでに流衣の姿は見られなかった。

下へ降りて朝食か、キリーアと話でもしているのだろうと、すぐさま身支度をして下へ降りた。

下は、昨日と変わらず人でにぎわっていた。この宿屋は酒屋も飲食店もかねているからだろう。昼はそれの客が多い。この中から二人を捜すのは至難の業だろう。

「まいったなぁ・・・。」

頭をかきながら、階段の上から下を眺めて困り果てる。蒼は大勢いる中から特定の人物または物を見つけるのが苦手なのだ。

「そう言えば、ここだったらあるよね。」

ふと思い出す。自分は今まで色眼鏡をかけていたことに。いつの間にかなくしてしまっていたが、思い出したので買いに行こうと、二人の事は後回しにして店を後にした。

入れ違いに、流衣とキリーアが店に食料調達から戻ってきたのだが、蒼は知らない。

 

 

蒼は街の中を人込みを掻き分けて歩いていた。

「眼鏡屋、眼鏡屋・・・。何処だ?」

歩いても自分が捜している色眼鏡が売っている店はなかなか見つからない。

しばらく歩いて、そろそろ宿屋に戻ろうかと考えた頃、やっと一軒の眼鏡屋を見つけることが出来た。

蒼はゆっくりと扉を開けて中に入った。

中で、気に入った色眼鏡を見つけると、それを買い、久々に蒼の顔に色眼鏡が戻ってきた。やはり、これがないと何かが違うと言いながら、満足そうに歩きだす。

その時、ドンッと何かにぶつかった。

「痛たた・・・。あ、ご、ごめんなさい・・・。」

反動でこけてしりもちをついた蒼は参ったなと、ずり落ちたフードをかぶりなおして、ぶつかったものに目をやり、人だと確認すると同時に謝罪する。

「・・・。」

相手、小柄な男だった。何も返事も非難もせずに、ぶつかった拍子に落としたと思われる紙の束を集めていた。

「すみません、手伝います。」

と言い、蒼も急いで散らかった紙束をかき集める。

やっと、最後の一枚も拾い終えた後、相手に手渡して、本当に住みませんでしたと深々と頭を下げて謝罪する。

「あ、いや、別に・・・。」

男が少しうろたえている。何かあるのかな?と少し不信に思うその時、ふと自分達が拾い上げた紙の内容が目にとまる。

「・・・砂漠盗賊長ザーガ様・・・?」

ポツリと言葉を漏らす蒼。相手は目を丸くして一刻も早くここから逃げ出したい反面、書かれた内容を知られてしまった戸惑いがあるようだ。

「・・・あ、その・・・。」

「あの、勝手に内容を読んでしまって、その、すみません。」

また、謝罪をして頭を下げる蒼。相手が怯えているにもかかわらず、相変わらずマイペースな男だ。

そこへ、二人を影にするものが現れた。それは、蒼よりも大きな男だった。頭から布を巻き、顔もほとんどかぶさっていて、顔がほとんどわからない状態である。

男の登場を見たとたん、蒼とぶつかった相手は慌てて何かを言っている。

蒼は、仲間だろうと判断して、今はそれよりも宿屋に帰らなければ流衣達が怒るだろうと、『すみませんが、この辺で。』と言い、この場を後にしようとした。

だが、現れた大男がそれを許さなかった。

「待て、お前には悪いが、しばらくここにいてもらっては困る。」

蒼の腕をつかみ、強引に反対の進行方向へ連れて行こうと引っ張る。

「あ、あの、すみませんが、僕、帰らないと友達に叱られて・・・。」

「黙っていろ。お前は関係が無いが、あの紙の内容を見られた以上、今返すのは無理なんでね。」

ひ弱そうな男は紙束を今度はばら撒かないようにしっかり持って、大男に着いて歩く。

「あの、確かに紙の内容見てしまいましたが、僕は砂漠盗賊長ガーザ様までしか見ていません。内容なんか読んでません。」

「・・・。」

「すみません、御頭。俺、てっきり内容全部読まれたかと・・・。」

どうやら、相手の勘違いだったようだ。だが、今更返すわけにはいかない。

「それでも、お前は俺様がガーザだと知ってしまった。だから駄目だ。」

「え?あなたがガーザさんだったのですか?じゃぁ、盗賊やっているんですか?」

とても、間抜けな返答で質問だ。二人とも呆れている。

「・・・お前、もしかして俺がガーザだとも知らなかったのか?ま、知ってる奴はいないだろうが・・・。大体俺様宛の紙を見てわからないか?」

と言われても、盗賊自体を知らない為に頭の名前も知るわけが無い。

そう言うと、相手は蒼がこの町の住人ではないとわかったらしい。見れば、格好で直わかるようなものだが・・・。相手は全然気にしていなかったらしい。

「とにかく、俺が御頭だとわかった以上、ここでの仕事が終わるまでは返すわけにはいかない。とりあえず、アジトに来てもらうぜ。」

ガーザはひょいと蒼を軽々と持ち上げた。蒼は抵抗する気力もなければ、抵抗してもどうにもならないと判断した挙句、まぁいいかと、かつがれたまま大人しくしていた。

 

 

町から少し離れ、砂漠に少し入ったところにある岩場。ここが盗賊達の今のアジト。

「ほらよっと。」

ガーザは蒼を降ろした。

ここは、砂漠の光をほとんど通さず、暑さもほとんどなく、岩に囲まれている場所。

「御頭、これを・・・。」

「ん、あ、目を通しておかなきゃいけなかったんだ。あ、カールはもう行っていいぞ。」

カールと呼ばれたあの男は一礼をしてここから出て行った。

きっと、ここへ来るまでに歩いた岩場のどこかの空間だろう。そこのどこかが彼等の寝床なのだろうから。

「で、どうしたものか・・・。」

ガーザは蒼を見たまま少し困っているようだ。そう思うと、それほど悪いやつではないのだろうなと勝手に判断する蒼。何しろ、彼は縛られてもいないし、危害を加えられているわけでもないからだ。

「ん?それは、楽器か?」

ガーザは唯一蒼が持っている楽器に目がいったようだ。蒼は、宿屋から出てくる時、このヴェルダだけは手放す事が出来ないので持って来たのだ。といっても、彼の所持品はこれぐらいしかないのだが・・・。

「これですか?これはヴェルダという物です。」

「ヴェルダ?聞いた事がないな。一度、弾いて聞かせろ。そしたら、そうだな。用事が済み次第、町に返してやる。」

「本当、ですか?」

「盗賊の頭やってる奴だが、約束は守るぜ。盗賊も信用第一だからな。」

誰に信用してもらうのだか。心の中だけに文句を収め、約束を守ってくれるのならば、用事が早く終われば早く帰れると考え、演奏を始める。

本体を構え、弓を弦に当て、弾き始める。

ヴェルダから流れ出すメロディ。優しく当たり一面を包み込む。

演奏している間の蒼の周りは別の空間があるように見えた。

別の、広がる森が見える気がした。風が木々の葉を揺らし、大地を水が潤し、偉大なる守護竜がいる。かつて、永遠の森と呼ばれた砂漠にあったといわれる本当の永遠の森が彼の周りにはあった。ガーザにはそう見えたのだ。

そして、蒼がいつか見た守護竜が唯一友とした人間の男、瀧の絵と似ている気がした。

『まさか、こいつはあの男の生まれ変わりか・・・?!』

聞いた事がある話。人間も動物も植物も、全てにおいて、生まれ変わり再びこの地へと戻ってくると。あの男がこの地に戻ってきてもおかしくない。

だが、これは何かの間違いだ。そう言い聞かせ、我を取り戻すガーザ。

演奏し終えた蒼は、これでいいのかと、男に尋ねる。

「ああ、良かった。お前、それを商売に旅をしているのか?」

「いいえ、旅は気まぐれなので。商売は何もしていませんよ。ただ、ぶらぶらと・・・。」

「何だそれは。よく、それで食べていけるな?」

「えっと、死にかけた事がありましたが、集落に住んでいた方に助けてもらったり、今は友達と再会が出来て・・・。」

そう言えば、連れてくる前に友達がどうのと言っていた事を思い出す。

見ている限りでは、蒼は危なっかしいというか、何も考えていないと言うか、何かが抜けているように見える。そのため、根は優しいガーザはほって置けない状態にいた。

「しかし、もったいないな。」

「何がですか?」

本当にわかってない奴だなと、苦笑するガーザ。それを見て、本当に盗賊の頭なのだろうかと疑いつつある蒼。

「お前、それだけ人の心を動かす事が出来る演奏が出来るんだったら、もうかるだろうし、わざわざ旅に出る必要もないだろう?」

「あ、そのことですか?でも、それは出来ないんですよ。やらないといけないことがあるんで。」

「やらなければいけないこと・・・?」

この話に興味を覚えるガーザ。何をしなければいけないのかと質問を与えると、蒼は警戒もせずに答えようとする。

「実は、僕の住んでいた村が襲撃に遭って、それが最近になって永遠の森が関係している事がわかったんです。再会できた友達が僕の母から聞いた話もあって、確信できて・・・。それで、僕や友達のようにまだどこかで生き残った仲間がいるかもしれないので、捜そうかなと。それと、森を守っていた守護竜とも会えたらいいなと。瀧さんの事で、いろいろ話がしたいと思ったから・・・。」

男は表には感情を出さなかったが、いや、感情を無理やり抑えていたのだが、心底驚いていて、先程のことが確信に変わるのではないかと考えていた。

「あ、そういえば、名乗っていませんでした。僕は蒼と言います。」

こんな時に場崩しのような発言をと、何とかならないのかと、またも苦笑する。よくこれで、村の襲撃の後から生き延びれたものだと感心してしまう。

それと同時に、瀧と字は違うが、読み名が同じ事に引っ掛かりを覚えつつも、ガーザも改めて名乗る。

「俺は、紙を見た通り、この辺一体で勢力を伸ばしている砂漠盗賊の頭のガーザだ。ガーザ・ガディス、蒼でいいか?しばらく悪いがここにいてもらうからな。」

お互い名乗り、知らぬ間に信頼関係が結ばれていた。

ガーザも蒼が街の地位と名誉や金だけの為に何でも犠牲にする役人のような気に入らない人間ではないと判断したからだろう。

蒼も、何かされるわけでもないし、何より一緒にいて結構楽しい気もしたので、別にどうでも良かった。どこか、流衣と似ている所があったから余計なのかもしれない。

お互い、立場は盗賊と人質状態だが、お互い気が合うからか、日が暮れる頃には仲良くなっていた。

後で知った話だが、ガーザは悪い盗賊ではなかった。むしろ、悪いのはあの街の役人だと言う事がわかった。

ここにいる仲間たちは、役人達の富と名声を確保する為によって切り離されて裏切られ、犠牲とされた人の集まりで、あとはそれによって町を出ようとして親とはぐれた子供や育てられなくておいていかれた子供ばかりであった。

その為、盗賊であるガーザであるが、彼等は好きになったのかもしれない。自分もある意味迷子だからだ。盗賊達も自分と同じ迷子で、居場所を捜しているのだろう。

だから余計に、親近感が沸くのかもしれない。






   あとがき

 やっと出てきた。もう一人の重要キャラ。
 これでそろったそろった。さて、どうなるでしょう。
 それにしても、補欠をほる頭。いいのかなぁ。それでよくやってこれたものだ。
 でも、知らな過ぎて、マイペースな蒼のような奴がいるって事自体、彼等には驚きだろうね。





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