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九章 勝負の中の罠 時刻は11時ごろ。約束とされた12時より早めに門へついておきたかった。 「水さん、すみませんが、三人と紅乃さんのことをお願いします。」 「あ、大丈夫です。」 「やですよ。青が行くのなら行きます。」 わがままを言う紅乃。だが、貴一の言葉で引き下がる。 「私の敵は一人ですが、余計なおまけでもう一人いるんですよ。海樹がその彼をどうにかしてくれるかもしれませんが、藍を置いてけぼりにしておくのはいけないですからね。貴方には、彼女達を守ってほしいのです。子供三人女一人では、何かと危ないでしょう?」 紅乃は水に弱かった。まっすぐ気持ちをぶつけてくるので、それがかえって紅乃には困るのだった。 「・・・でも。」 「お願いします、紅乃。貴一は仲間を取り戻す為に行くんです。旅に同行するつもりなら、優先するべき事があるでしょう?」 また、青の真剣な頼みも断れない男であった。 「わかったよ。お守をしてますよ。・・・だが、一つ言っておくぞ。ここは、“瀧静”じゃないんだ。」 「・・・わかっています。」 何か意味ありげな会話を聞く貴一。だが、今は藍の事が優先である。 三人は、宿を出て、闇の中に姿を消した。 「・・・青、会った時から無茶する奴だったからな。今回も・・・。」 何事もなく三人と一人が帰ってくることを、丸い月を見ながら心の中で願った。 門の前。三つの影がそこにはあった。一つは亜岳 翔維のもので、もう一つは東海林 瞳鈴のもの。最後の一つが藍のものである。 「翔維、彼等は三人、こちらに向かっているようです。獅子と龍王です。」 「そうか・・・。では、誰もここに近づけさせるな。監視者も守りも全て中へ引かせろ。」 「了解。」 翔維の命令で瞳鈴は門番も貴一達を監視させていた者達も、撤去させた。 「全員、一分以内にこの場所から離れます。あ、もう一人こちらに向かっているようです。」 今、追加報告が入ったことを知らせる。 「もう一人?」 「そうです。現在のNo.1を勤めている男だそうです。名前は柳里 青です。」 意外な名前に眉少しゆがませる。 「柳里と言えば、扇の戦術で知られている奴だろう?」 「そうです。元No.7で、貴一達が抜けた後直にNo.1の座についたようです。」 おかしいと、さらに眉をゆがませる。貴一達、抜けたのは三人である為、順番的には4か3ぐらいになるだろう。 「・・・強い、のか?」 「強いかと思われますが。元貴一の下の者ですからあまりわかりませんが・・・。」 「しかし、何故奴等と一緒にいるんだ。」 「わかりません。今でも、瀧靜でNo.1の変更はありません。」 少し面白くなりそうだといいながら、時計を見る亜岳。その会話をずっと側で聞いている藍。 時間は刻一刻と過ぎる。 「貴一のことだ。時間正確、もしくは早くに来るだろうからな。もうそろそろだろう。」 亜岳と貴一の付き合いが長いことがわかる。翔維の予想通り、この言葉を言った後、すぐに貴一は姿を現せたのだから。 両者の静かなにらみ合いが続いた。 貴一と翔維の二人が顔を見合わせた瞬間、その場は凍りついた。 「久しぶり、だな。貴一。」 「出来れば、二度とあんたの顔を見たくは無かったけどね。」 二人を見守る外野陣。誰も、二人の中に入ろうとはしない。ここに入るものは、二人の対決に水を差すようなまねをしない。二人をよく知っている者ならなおさらである。 「勝負はいつも通り。出来れば、一刻以内に終わらせたい。上の者がうるさいんでね。」 「私も、出来ればゆっくり寝たいので早めに帰りたいですよ。」 言葉を言い終わったと同時に刀を抜き、ガキンと鋭い音がする。 「腕は、落ちていないようだな。安心したよ。」 「それはどうも。こっちも、腕を落とさないように努力をしていますからね。」 どちらも引かず、刀のぶつかり合いが続く。だが、その後同時に後ろに下がった。二人の息はぴったりである。 「さて、私はあなたのお相手をしましょう。龍王。」 「ふん、お前なんか役不足だ。」 「それは、一度でも私に勝ってから言って頂きたいものです。」 「お前も、偉そうな口は俺に勝ってからにしろ。」 この二人も長い付き合いである。そして、いつも引き分けで終わるのだ。 「今日こそ、貴方を倒させていただきます。」 「うるさい。お前なんかに負けるわけは無い。」 四人の戦いが始まった。 貴一と翔維の静かなぶつかり合いと、海樹と瞳鈴の激しいぶつかり合い。 その間に青は当たり前のごとく、すばやく藍の元へ行き、縄を解いた。 「ありがとう。」 「どういたしまして。」 こちらには敵がいないので神経を張り巡らせる必要は無い。 「・・・今のうちにここから離れないのか?」 「それが・・・。」 したくても出来ないのだと言う。もう少し時間がかかるのだと。あの時、嗅がされた薬の中に体の自由を奪う痺れ薬の成分が入っていたのだろう。今はどうしても身体に力が入らない。これがなければ、今ごろ縄抜けで早々と逃げていたのだ。 「そうか・・・。」 「だから、あの二組の勝敗が決まるまで、私達はここから離れられないのよ。青じゃ、私を運べないでしょ?これも、彼等の計算のうちだったのよ。」 油断をした自分が悪いのだと、悔しい藍。自分さえ捕まらなければ、あの二人がライバルであるあの二人と戦わずにすんだのだ。 「・・・気に病むことは無い。いずれ、決着をつける日は来るのだから。たぶん、今回もつかないだろうがな。」 「確かにそうかもしれない・・・。」 二人が心配するのは、決着がつかない可能性があることだ。 貴一達は組織を抜けた為に、彼等とは滅多に会う事は出来ない為に、決着をつける日がなくなるのだ。始めてあった時からライバルであり、対立してきた貴一達は、今回を逃すと、決着をつける日がなくなるのだ。だから、無理にも決着をつけようとする。そして、お互いどちらも引かずに決着はまたつかず、それでも続けようとする。 「四人が一緒になると、周りが見えなくなるからね。」 「確かに、そうかもしれ・・・?!」 のんびりと会話を続けている暇ではなかった。何かが青の頬をかすめた。 「何?!」 「わからない。だが、今は亜岳の命令で門番から監視に外回り全員が中で待機をさせられている。俺も貴一もいる中で、マスターがこの絶好の機会を逃すわけが無い。」 忘れてはいけないが、青は瀧靜の現No.1の人間である。ここの人間だって、貴一達が死んだと報告されてもそう簡単に信じるはずが無い。今、目の前にいるのならば、嘘だと信じるだろう。 「もう、このくそややこしい時に!!」 「とにかく、藍は宿に戻るべきだ。」 青は藍を肩に担ぎ上げ、その場を立ち去ろうとする。 「なっ?!」 足を踏み込んだ方向に矢や槍が落ちてきた。それと同時に、二人の男が二人の前に立ちはだかった。 「こんばんは、ここのNo.4の榊だ。で、こっちがNo.4の翼。悪いが、せっかくの獲物を逃がすのは惜しいんでね。あんた、瀧靜のNo.1だからな。」 相手は自分の事を知っている。やはり、ここでの戦いは避けることはできないようだ。 藍を肩に担いだまま、二人の男を見て動かない青。 「まずは、お手並み拝見と行こうか!!」 榊と翼が同時に足を踏み出し、攻撃に入る。榊は槍を持つて、翼は細い剣を持つて。 「青、私をほっといていいからって、駄目だって!!」 藍は、自分を担いだままでは青が不利だと思い、今は手放すように言うが、一向に聞いてくれる気配がない。青は、ひたすら相手を交わし、攻撃パターンを計算する。 「ち、なかなかやるな。これならどうだ。」 今度は、榊と翼が何人も現れ、一斉に攻撃を仕掛ける。 「どうだ、俺達の幻影は。」 しかし、青は何にも慌てずにそれをかわす。だんだん、相手も遊ばれているように思え、いらいらが積もり出す。 「翼、俺達の力を思い知らせてやるぞ!」 「了解!」 二人は同時に同じフォームを取り、何かの武道術のような攻撃を青に向けた。 藍は、見ていられないと、目を瞑る。自分がこんな体でなければよかったのにと何度も心で叫びながら。 だが、何も起こらなかった。 「・・・悪いが、そのような攻撃で俺は倒す事は出来ないよ。」 青が扇で二人の槍と剣を受け止めたのだ。言葉と同時に、扇に振動を与え、大きく振るい、相手の武器を宙に舞わす。 相手の動きは止まり、呆然と青を見ていた。 「まだ、やるつもりか・・・?」 扇を二人の方へ向けて言う。 「そんな、バカな・・・。」 相手である青見て、大きな力の差を見せ付けられた。完全な敗北である。青は左手を一切使わずに、右手だけで二人の武器を取り払った。もちろん、左手には左肩に担がれている藍の体を支えるのに使われている。二人は、右手だけでも敵わなかったのだ。 「おのれ・・・。」 あからさまな敗北を味わった榊は、ホイッスルを取り出し鳴らす。 「集合、あいつを倒せ!」 榊に仕えている下っ端の者達がぞろぞろと現れた。 「な、榊!」 「おい、どういうことだ翔維。お前、そこまでして勝ちたいのか!」 外に集まり出てきた者を見て、戦う事を止めた四人。 「知らない。俺は貴一、お前を倒す為に人払いをした。一対一で勝たなければ意味がないからな。」 「そうです。翔維がそのようなことをするはずがありません。」 「じゃぁ、あれは何だって言うんだよ!最初から、貴一もあーやってやるつもりだったんだろ!!」 「止めろ、海樹。今はそれより藍と青だ。」 正々堂々の戦いに水を差されて、怒りが現れる四人。意見は一致で、邪魔者排除である。だが、人数が多すぎる。 「くそ、榊!俺の邪魔をするなー!!」 翔維の叫び声は掻き消される。 「・・・少し、大人しくしていてもらうよ。」 「その声はカリスか?!」 素早く、翔維の体の自由が奪われる。 「悪いね、マスター命令だ。瀧靜No.1の捕獲。もしくは消す。瀧靜をつぶすいい機会とのこと。」 「聞いていない。俺はあの男と勝負をする為に!!」 「うるさいよ。あんた、私情で物を言うんじゃないよ。」 私情と言う言葉で言葉を止める翔維。 「組織という大きなものは、一人一人が支える事によって、犠牲になるこによって成り立つ物。今は、あの男を捕獲あるいは始末するかによって、こちら側の体制が少しよくなる。そこの、獅子や青龍は組織に戻る事はないんでしょう?」 この男の言っている事は確かに正しい。だが、青は今は旅の仲間であり、何よりあそこには藍もいる。 「待ちな。邪魔をするつもりなら、俺を倒してからにするんだな。」 止められる貴一達。この男、確かに強い。相手をしていれば、どちらも無事ですまないうえに、その間に青と藍が駄目になる。 「そう、大人しくしていればいいの。」 男は、戦闘態勢を消した貴一達を見て警戒を少し解く。 「でも、一つ教えてくれたら通してあげなくもないよ。」 男の誘惑の条件。 「知らない?瀧靜にいる謎の男のこと。裏である組織でもほとんど正体がつかめないという、貴方の所の裏の裏である階級のNo.1の白銀の月。」 翔維と瞳鈴の動きが止まり緊張感が高まる。貴一と海樹にも緊張が走る。 「知らない、白銀の月。マスターからの命令で彼を捕獲して仲間にするように言われているの。」 「・・・知らないな。悪いが、それは瀧靜のマスターしか知らない話だと思いますよ。」 「そうか、ならしょうがないね。大人しくそこで見ていて頂戴。」 男の視線は、貴一達から青達へと向かった。 青はなんとか今は全ての攻撃をかわして、確実に敵を倒している。だが、やられるのは時間の問題である。藍を担いでいることと左手を使わないという大きなハンデがあるからだ。 徐々に、逃げ場を失い、追い詰められていった。
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