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七章 人間との共存、存在理由 巫女は、魂だけの姿となり、守れなかった者、思いを伝えたい者を探し彷徨う霊と化した。 彼女達の心は閉ざされたまま、目の前に広がる光、探している者を見つけることが出来なくなり、時が流れ、次第に本来の目的を見失っていった。
紅乃が話した、知られない、存在を忘れられていった島の話。 「……黒い影、その王子を探さないといけないわけですか。難しいですね。」 貴一は困ってしまった。藍と海樹も同じだった。だが、紅乃は出来るかもしれませんが、と自信なさげに言いつつ、その前にどうし様かとつぶやく。 「何か方法はあるんですね?しかし、今まで見てきた貴方からすると、自信のなさげがとてつもなく恐ろしいのですが、どうかしたのですか?」 紅乃は頭をかきながら、困ったと言う。 だんだんと貴一にはわかってきた。よく考えれば、彼がここへ来た理由あたりがやろうとしていることを邪魔する原因だろう。 「…俺がここに来たのは、青から血を分けてもらう為であって、今の俺にはほとんどそれをする為の力が残っていないんだよね。」 やはりそうきますかという顔の貴一。藍と海樹は使えない奴と同時に文句を言った。 「そんな事をいったってさ、俺だって好きでこんな体質になっ…!」 最後まで言う前に、誰かの手によって紅乃の口はふさがれた。 全員が注目した手の主は、いつの間にか目を覚ましていた青であった。 「…二人を助ける事を条件で、問題はないだろう?」 そう言い、上着のコートを脱ぎ、一番上のボタンをはずす。 「…仰せのままに、契約継続の為、あなたの命令に従わせていただきます。」 そう言い、紅乃の牙が青に襲い掛かる。白い青の首筋に噛み付く紅乃。そこからは、赤い血が流れ出る。 誰もそこから動かなかった。異様ともいえる光景を長い時間経っていると感じるほど見ていた。 「…ごちそうさま。さて、命令を実行させていただきますよ。」 紅乃は青の首筋を離し、黒い影の方へ向きなおす。一方の青は、血が抜けた為だろうか、その場に崩れるように座り込んだ。軽い貧血を起こしたようだ。 「そこで、おとなしゅうしとれよ…。」 その場に座り込んだ青に一度視線を向けてそう言い、先程までと違い、軽やかに船の手すりに乗り、ふわっと飛んだ。黒い影に向かい。 「迷える魂を救うべく、仮の者の心を囲う壁を打ち砕くものをこの場所へ!」 貴一達は初めてあって、初めてまともな彼の姿を見たと思った。 紅乃の言葉に影はビクッと反応をして、意識の方向をこちらに向けた。その間、紅乃を包むようにして光が流れ、その光はだんだんと人の形へと変えていった。 「…王子、貴方も待つだけでは何も変わりませんよ?今終わりを告げましょう。あなた方の物語に。私がずっとあなた方の物語を覚え、残していきますから。」 紅乃と影、そして、光で出来た人。その時丁度、水が目を覚ました。そして、目の前にいる光の人影を見て、目を疑っていた。 「あ、嘘…。王子…、涼樹…さ…ん…、どう…して……。」 どうやら、紅乃がこの場所に連れてきた光の人は話の中で死んだ王子のようだ。 『すまない、水。そして、静柳。そして、貴方には感謝しますよ。確かに、待つだけでは、二人はいつまでもここからはなれずに来ないでしょうから。』 王子の笑顔を見て、水の目からは涙が零れ落ちる。 『…静柳、聞いて下さい。そして、戻ってきて下さい。私が知っている、私が尊敬した、何者にも囚われない貴方に。』 誰もが王子と影を見守った。水でさえも、何も言わず、二人を見ていた。 王子の魂の何度かの声にやっと影が答えた。 『 …王…子…、私…は… 』 影の形は少しずつ人に戻りつつあった。膨大な大きさの影は今では小さくなっている。 『静柳、すまない。君や水を置いていったしまった事、二人だったら、あの後も大丈夫だと思ったが、全ては私のせいですね。』 影は完全に人の形になった。そして、その影は涙をこぼした。綺麗な、人魚と同じくらい純粋な涙を。 『 …私は、貴方も、水も、たくさんの人も、守る事が出来なかった。神の怒りを抑える事が、出来なかった…。みんなの命を奪ったのは、私…な…の…。』 『そんなことはない、君が悪いのではない。戻ってきて、私が知っている、私が尊敬した君に、戻っておくれ。』 その場から影は消え、身体を失った魂の姿があるだけだった。 「チビっ子、石かせ。蒼い月って奴。」 そう言い、子供達は急いでカバンの中から出して手渡した。 「戻るか否か、戻るのなら願え。己の心に。そして、守護者として後の時間を過ごす事を誓え。今の己を変えたいのならば!」 彼女の答えは肯定だった。戻りたいと強く心に願った。 「よし、なら今日からこれに宿る守護者だ。純白の翼を持つて、守るべきものを包み、迷うことなく己の意思を貫け!」 彼女の姿がはっきりと見えた。身体を持ったかのようにはっきりと見えた。そして、背中には大きな白い輝く翼があった。 彼女は、紅乃の言うように、蒼い月に宿る守護者になった。そして、子供達と水を守る守神になった。 「よし、終わり。」 紅乃は満足そうであった。そのにいた誰もが満足だっただろう。 「で、あんたはどうする?王子さん。」 隣に存在している王子に話し掛ける紅乃。水ははっと気づいて、伝えたかった思いを伝えようとする。 「王子、いえ、涼樹さん、私はずっとあなたのことが好きでした。」 王子はにっこりと笑顔を作り、私もでしたよと答えを返した。 その場には、王子の姿は消えた。水は思いを伝えることが出来て、やっと心の時間が流れ始めた。 その後、船では何事も無かったかのように航海が続けられた。 「で、この子どうするんだ?」 とりあえず部屋に連れてきた水を見てどうしようかと困っていた。あのままほっておけば人間に捕獲されてしまって危ないので、部屋に連れてきたのだ。 「どうするもなにも、ついて来たいって言うのだから連れて行ったらいいじゃないのかい?」 と、簡単に言う紅乃。しかし、どうしても、この男もついてくるような雰囲気なので、海樹は言ってやる。すると、もちろんついて行くさと答えた。 「ただ問題は、足が魚だと目立つ事なんだよね。」 「何か方法はないのかねぇ?海樹はどう思うの?」 海樹の反対は無視で貴一と藍は話を進めていた。 「どうするも何も…。」 「…大丈夫ですよ。」 海樹が最後まで言う前に青が言う。どうやら、方法はあるらしい。 「先に服を着ていただけるといいのですが…。」 確かにそうかもしれないと、藍はカバンから自分の持っている服の着替えを出して来て、水に着せた。 「よく似合うわね。」 うれしそうだった。水は顔を赤らめて恥ずかしそうにしていた。 「さてと、紅乃、今は元気だから問題は無いよね…?」 「え、何?もしかして…。」 「そう、今君が考えたこと。今回の約束は二人を助ける事。まだ彼女はこのままでは助かったとはいえないよね…?」 紅乃が青に脅されている。あまりそう言った感じには見えないのだが、怯えている紅乃が不自然で、青が悪い人のように見える。 「…わ、わかったよ。」 と、恐る恐る腕を青の前に差し出す紅乃。それを確認すると、持っている扇を取り出して、スッと腕を切った。そこから流れ出る血を操るかのように小さな瓶に入れた。」 「痛いよ、ねぇ、本当に痛いんですけど〜。」 「わめくな、うっとうしい。」 頭をペシっとなぐられる紅乃。いつの間にか腕の傷は跡形も無く消えていた。やはり、人間以外の物が混じるものだろう。 青は瓶に入れた血に何か呪文のようなものをかけたのか、赤から透き通った水のようになった。 「…飲んで下さい。」 透明の水になったそれを水に渡した。 「大丈夫です、死にませんから。吸血鬼になる心配もありませんから、ご心配なく。」 そう言われて、覚悟したのか、うなずいて瓶の中の液体を飲んだ。全て飲み終わった頃、水の身体には異変が起こり、魚だった足は人の足にかわった。 「水、とくに海のような塩水にかかると足が元に戻るのでしょう?今回は、あの巫女さんがいたから人となっていた。」 全てがばれていた。水は小さく頷いて話の続きを聞いた。 「少々のことでは元には戻らないと思いますが、塩水に長時間浸かっていたりすると、足は元に戻ります。意思を持って、もっと早く足を戻したいのなら戻す事は出来ますが…。」 どうやら、海に入っても、しばらくは元に戻らないらしい。 「でも、どうやったんだい?」 「貴一も知っているでしょう?ヴァンパイアの血は薬になるって。」 貴一はなるほどねと納得したようだ。 こうして、旅のお供が二人と一人増えたのだった。 海樹の荷物がまた増える事だろう。 水の都の住人は水と緑を愛する島の住人と共存する事を誓いました 水と緑を愛する島の住人は水の都の住人を大切な友人としていつも迎えました 島はいつも、水の都によって守護され、水の力を持つ守神が守りました 争いを知らない平和な島と都でした お互いを必要とし、支え、助け、自然の流れに沿って過ごしてきました 島と都のものはお互いを使役することなく、同じ生命を持つ者として過ごしました これが、都の住人が人間との共存を考え、一緒に存在し様と決めた理由でした 自然の流れに逆らうことなく流れ続ける時のように、水も流れていきました しかし、ある日流れに逆らう自体が起きました 自然の流れに逆らった時、水は流れを変えて襲い掛かりました 誰も、汚れたその地を見ることを拒んだので、海の神がそうしたのでした 失われた都と島。しかし、生き残ったものがいました 都を任される者と島を守る事を任された者 たくさんの流れにそむき、寄り道をしたけれど、二人はこれからも共存する事を願い、お互いを存在理由にし、自然に流れる時の流れに沿って、歩む事を決めました 二人は感謝しました。 寄り道をしてしまい、道に迷った私たちを正しい道に戻してくれた事を。
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