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四章 紫朱金と蒼白銀の使い 驚いたのは、少なからず貴一達三人だけではなかった。守宮錠と朱従も驚いていた。自分達の知らない世界がそこにあったからだ。 貴一は我に帰り、何かを言おうとして言葉を止めた。青の目から雫が零れ落ちたからだ。見たことがなかった、青の素顔と涙。今の青には何も見えていないだろうし、何も聞こえていない。 「…殺していないから問題はないでしょう?本当の話を教えただけなんだから。でも、少し意地悪すぎたかな、青。せっかく五年間、隠しとおしてきたんだから。」 輝にとってはただの過去。青にとっては大きな複雑な思いが残る過去。そして、何も知らず、輝を恨むだけの過去。どうして姉が死んだのか知らなかった自分が情けなくなっていた藍。 「さてと、どうする、裏切り者の守護獣さん達。」 と、持っていたナイフを三人目掛けて投げた。誰も動かず、ナイフは藍の頬をかする。かすったところから、赤い血がにじみ出、流れ落ちる。 輝は何かを言おうとして、言葉を止めた。何かに驚き、怯えていた。 「お、落ち着け、青!!」 怯えた理由は青らしい。放心状態の三人は我にかえり、側に立っている辰二と弥生を床に倒す。そして、輝と青の方を見た。 ガチャン、と、己の腕を縛る鎖を壊す。ゆっくりと立ち上がり、輝を真っ直ぐ見る。 「落ち着くんだ、青!」 輝は貴一達のいる方へ走る。貴一達は輝なんか目に入らない。今は青だけ。 後ろに走った輝、振り向いて輝の目を見透かす青の瞳。いつの間にか、髪の色が変わっていた。そして、瞳の色も…。 「……契約違反だ、契約の審判者が裁きを下すまでも無い。俺が直々に裁いてやる。」 目の前にいるのは確かに青本人であるが、あきらかに別人である。 瞳は赤みがかった紫が光の加減で金色をおびたり、髪はいっそう銀に近くなり、輝いている。 「二度目はないとわかっているはずだがな……。」 今の彼は正気なのかそうではないのか。怯える輝と驚きの為、どうすればよいのか立ち尽くす一同。 「お、落ち着け…、契約は破ってはいないだろう…?」 「殺す殺さないの問題ではない。手を出すか出さないかの問題だ。」 言葉はとても冷たかった。彼の目も冷たかった。 「『蒼い月』と『白い日』のありかの予言はしてやったが、もういらないな。悪いが、お前はもうここで死んでもらう。」 青は本気である。目は見たことがなかったが、優しい彼には似合わないものであるため、誰もがわかる。 青は扇を取り出し、パッと開いた。 「人を殺めるのを止める為に剣も刀もやめたが、これでもそれ以上に使う事は出来る事は良く知っているな…?」 ここにいる全員は納得する。貴一達も先程見たあれは確かにそこ等の奴より強いと言える。 「青、止めろ。人を殺めるのを止める為に使う扇で人を殺せば取り返しのつかないことになるだろう!!」 貴一は青を止めにかかる。海樹と藍も止めに入る。どうすれば彼が元に戻るかなどわからないが、今ここで青が人を殺めれば、二度と青は戻ってこないだろう。 「青、落ち着け!私は何とも無いから、抑えて。」 藍が青のもとへ走る。それを貴一が追いかける。海樹は辰二と弥生の動きを封じているため、この場所から動けないが、必死に説得をする。 「青、止めて――!!」 先程までの青の殺気は治まった。そして、暖かい空気が部屋を包み込む。同時に、青は我に返ったのか、落ち着き、また、涙を流した。 『………青、自分を見失わないで。むやみに力を使っては駄目よ。』 どこからか声が聞こえる。その声は、この部屋にいる誰もが知っている者の声。 「…凛、さん……。」 青が名前を呼ぶと同時に、そこにうっすらと凛の姿が現れた。 『青、久しぶりね。まったく、にくらしいほど大きく可愛くなっちゃってね。』 冗談交じりに五年前とかわらない凛が話を続ける。 『藍のこと、確かに最後にお願いしたけどね、あの人を殺して守るのは駄目よ。あなたが苦しむでしょう?青は、我慢しすぎなのよ。』 優しく凛は触れる事の出来ない己の手を青の頭に載せ、子供をあやすようになでる。本当は触れていないし、青も触れられている感覚は無い。これが、生きているものと、死んでいるものとの違い。 『青は優しい子だからね、私と鈴華ちゃんは最後まであなたがついてくれていて寂しくはなかったのよ。あの時、励ましてくれて、うれしかったんだよ?だって、私の不注意であんな事故が起こったのよ?鈴華ちゃんは笑ってわざとじゃないからって言うけどね、やっぱりね。』 少し寂しそうな凛。だが、彼女の話はまだ続く。 『藍のこと頼んだけど、青自身、自分を苦しめて生きるのは止めて。ね?見ていて悲しいから……。』 二人は少し悲しそうな表情を浮かべていたが、すぐにもとの表情に戻す。何事もなかったかのように。 『さぁ、天から使わされた、この地に眠る月と太陽の封印を解いて神獣を呼び出す使いさん。『月』を持つ者として相応しいのは誰かな?』 「……それは、本当の持ち主である人の子。」 『よくできました。太陽の方も、しっかり持ち主を判断して下さいよ、天の使いさん。』 そう言って、凛の姿が薄れていった。そして最後に、『藍、貴一、海樹…、自分を抑えすぎる青を、助けてあげてね。』完全にその場から凛は姿を消した。 突然の現象に目を丸くする輝と辰二と弥生。凛が消えると同時に目を瞑り、前に体が倒れ行く青を慌てて支えて体を抱える貴一。青の髪は何時もの蒼銀色に戻っていた。 「さて、とにかくあとは逃げますか。」 貴一は海樹に青を渡し、窓から飛び降りる。藍もそれに続き、海樹は気を失っている青を肩に担いで追いかけた。 「…あ、守宮錠、朱従!」 我に返り、隣に同じように呆然と立っていた二人を呼ぶ。 「あ、輝さん…?」 「輝さん……、あ、あの女?!」 そこにはもう、三人の姿と青の姿はなかった。 「月だけじゃなくて、青までつれていかれた。」 悔しそうに言いながらも、契約は続く。下手に手を出せばこちらの命は無い。 「今すぐ追いかけて、月と青を連れ戻せ!!」 輝の絶対命令が再び下った。 辰二と弥生はすぐさま飛び出していった。こうなったのは、自分達にも責任があったからだ。 『蒼い月』と青と持ち出して逃げた貴一達はすぐに神社へと戻った。早くこれをあの子達に渡そうと、そして、まだ残る、神獣を呼び出す為に『白い太陽』を見つけるのをどうするのかを聞く為に。 神社に戻れば、寝ていると思った子供達は三人とも起きていた。夜遅くまで起きているぐらい、今まで生きてこようと思えばいろいろあるから出来るわ!と怒られた。見た目はまだまだ子供なのだが、立派にやっているようだ。 「おい、なんでこいつ連れてきたんだよ!」 海樹が肩に担いでいた青を降ろして抱きかかえている姿を見て怒鳴る。それもそうだろう。奈央を連れ去ったり、月を横取りしようとした奴等の仲間だったのだから。 「そんなことないよ!その人悪い人じゃないよ、純!」 貴一達は訳を話そうとしたが、先に奈央が止める。 「この人は、悪い人じゃないよ。だって、鈴華ちゃんのお兄さんなんだもん。私を連れて行ったとき、誤ってた。鈴華ちゃんのこと、ありがとうって言ってた。私達が鈴華と友達だった事、知ってた。」 涙をこらえながら言う奈央。それを聞いて驚く純と菖蒲。側で聞いていた神主は青の姿を見て驚いていた。 「どうして彼がここにるんだい?!彼はあそこから出てくるなんてことほとんどないのに!!」 と、いることが不思議らしい。当たり前と言えば当たり前だが、少し引っかかる。どうして青の事を知っているのかが気になるので、聞いてみた。 「彼は、ここに水と食料をわけてくれていたんだよ。純君達が鈴華ちゃんとよく遊んでくれたお礼だってね。鈴華ちゃんが無くなって五年間ずっと。ずっと気にかけてくれていたんだよ。菖蒲ちゃんの両親が殺された日、弱いばかりに組織を止める事が出来なかった自分の罪だからと言ってね。せめて、君達は生き延びてほしいってね。」 それを聞いて、怒っていた純は次第に悲しそうな顔をする。怒りの行き場がなくなり、今まで気にかけてくれていた人を、友達の家族を知らないから悪いと決め付けて。 「やっぱり、青は優しい子だよね。」 昔から変わらず、優しい少年のまま。変わったのは優しすぎて、己を苦しめてまでも救おうとすること。昔からかもしれないが、今はそのせいで、誤解が生じ、取り返しのつかないことにもなる。 「でも、連れ出して良かったかもしれないよ?馬鹿に青を渡すのもったいないし。」 「確かにね。それに、たくさん助けてもらったお礼しないといけないからね。」 海樹の腕の中で、まだ眠ったままの青の姿を見ながら言う。お疲れ様、ご苦労様、よく頑張りました。と優しく頭を撫でて。 次の日の朝、貴一達は神主に泊めて貰ったお礼をいい、子供達を連れて出発する事にした。『白い日』を探して神獣をこの地に呼ぶために。もちろん、青もつれていく。 青は海樹が抱きかかえて連れて行くことになった。どうも、正常な同じ呼吸を繰り返すだけで、目を覚まさない。昨日のあれは身体への負担が大きいのだろう。貴一も自分の持つ特殊能力を使う時はいつも眠りから目を覚ますのに時間がかかる。 海樹は、荷物と武器と青をずっと持ち歩かなければいけなくなった。 そんな海樹を見て、藍はちゃかす。『お姫様を誘拐した魔王みたい』と。確かに青は18の青年だが、身なりは綺麗で美人。女に見間違われてもしょうがないかもしれないが、魔王と言われた方が気に入らないらしい。 「魔王が嫌なら、ヴァンパイアなんてどう?青を襲っちゃ駄目よ?」 「誰が襲うか―――!!」 叫ぶ海樹に貴一の言葉が入る。 「お姫様だっこっていうのがいけないんじゃないか。クスクス、これじゃぁ、君がそんな顔だからどうしても青を誘拐してきた悪い人みたいに見えるよ。」 「貴一、お前までそんなことを…。」 悲しくなる海樹。子供三人に笑われ、仲間にも笑われ。青が目を覚ましたら文句を言ってやると心で叫ぶ海樹だった。 貴一が進み、藍がそれに続き、子供達が追いかけ、海樹は青を抱きかかえてまた旅が続く。 もちろん、海樹がこの中でわがままを言える立場でないことぐらい本人も自覚している。
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