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三章 重い契約 時刻は夕方、三人は純と菖蒲を神社の神主に頼み、指定された場所へ向かった。本当は、二度と行きたくなかった、組織のある場所。 「嫌だね、一年前とまったく変わってないよ。」 瀧靜の本拠地まで続く細い寂しげな小道を歩きながら、海樹は文句を言う。 「しょうがないだろう?整備してもほとんど意味がないだろう、こんなところなんか。」 また二人はいい合いを始めたが、すぐに止まった。視界に組織の建物が入ったからだ。 門まで来ると、そこにはいつもいる警備の人間はいなかった。おかしいなと思い、まぁ、呼ばれているのだから警備を取ったのだろうと判断し、中へ入ろうとした時、後ろから声がした。 「結構速かったね、そんなに心配?」 現れたのはあの三人とナイフを突きつけられている奈央。 「さて、蒼い月はどこ?」 しかし、三人は答えなかった。 「ちょっと何よ、持って来てないって事は無いんでしょう?!」 しかし、答えなかった。不審に思った辰二ははっと気づいた。 「隠されている場所へ行っていないから存在が不明、ですか?」 「……まさに、そのとおりだよ。暗号のような文は菖蒲が受け継いだが、場所は誰も知らない。だが、今朝方、ふと思い出した事があってね。時間の都合上、確認は出来なかったんですよ。」 それを聞いて、奈央は目を丸くする。 「……なら、その場所はどこだ?」 「奈央をかえしてくれるなら、かえさないんだったら、教えないけどね。」 「……かえすことはかえす、だが、お前達が動けばこちらも問題が生じる。しばらくおとなしくいると言うのならな。」 貴一と青のにらみ合いが続く。実際は青の方はサングラスでさえぎられているのだが。 「…ま、いい。教えるよ。ただし、その子とあの二人には二度と手を出さないでくれ。」 「…約束は必ず守る。」 そう言うと、深呼吸をして、こう言った。 「ここからすぐ近くの丘の上にある一本の大木と、その周りに咲いている七色の花々がポイントで、雨上がりにあそこに虹がかかった時、大木の穴に入った虹を鏡で反射させて樹の中を見るとき、地平線を描いた絵が浮かび上がる、七色でね。そこに隠している場所が書かれているんじゃない?」 そう言った。その後、聞いた暗号のような文を言って、言葉を止めた。 「確かに、わかりにくい隠し文ですね。」 「守宮錠、朱従、今すぐ行ってきてくれないか?」 その言葉に、直ちにと答え、二人はすぐに去っていった。 その場に残ったのは、三人と青、そしていまだ人質となっている奈央。 「しかし、こんな状態で青と再開するなんて思っても見なかったけどね。」 貴一は笑みを浮かべていた。何に対してなのかは、本人以外知る由も無い。 「一年前と、えらく変わったものね。」 「そうだぞ、こっちは青がNo.1って聞いて驚いたぐらいだよ。」 次々というが、一向に返事は返ってこない。 「……青、この一年間の間にいったい何があったんだい?」 三人ともが知りたかったこと。一体何が、あの人一倍人思いで優しい彼を冷たい氷のようにしたのか。そして、元No.7と下にいた彼が守宮錠や朱従を追い抜かし、No.1の座を勝ち取ったのはいったい…。 「……契約だからだ。」 長い沈黙の後、一言小さな声でそう答えた。 「見つかり次第、蒼い月は輝のもとへ渡されるが、この者達を思って取り返すなら、手渡される、あの部屋から奪い取れ。渡した後はどうなろうと関係はないからな。」 そう付け足した。三人とも耳を疑った。もしかすると、今でも彼は一年前と同じように優しい心を持ったままなのかもしれない。 「…青、お前、どうして。」 「約束のはずだろう?望むことを叶える為、一度きりだけ、協力をすると。俺は過去に助けられている、その時、契約をしたはずだがな…?」 そう言えばそういったものがあった気もする。本人が忘れていたのに、彼は忘れていなかった。そう言うことは、少なからず、今回はそれなりに協力をしてくれる仲間なのかもしれない。 「……貴一、望む道を見つけたら、そのまま望むとおりに進め。迷わずな………。」 そう言った後、二人は戻って来、手には蒼い丸い水晶を持っていた。 奈央は解放され、手下に街の隅まで送られた。 「で、どうするつもり?」 「せっかく、青が教えてくれたんだからさ、行って見る価値はあると思うよ?」 三人の意見は一致した。 奈央を純と菖蒲同様、神社の神主に預け、再びその場を出て行った。 向かった先は、先程までいた組織が作り上げた黒い建物。 その頃、組織内のある部屋で、二人の会話があった。 「紫影…、今は青でもいいですね。聞いておきたいことがあります。」 これは辰二、そして、話し掛けられているのは、組織内名、紫影という、蒼銀髪男。 「……なんだ。」 少し間を持って質問を許可する。 「あの三人、鳳凰と龍皇、そして獅子の三人。おとなしくしているとは思えませんが、あなたはどう思いますか、青。」 あの三人を知る者ならどうしても、このまますんなりと行くとは思わない。かえって不自然すぎるのだ。あの時、子供が解放された後、すぐに取り返しにきても良かったようなものの、背を向けて歩く自分達に何も言わず、何も返さない。何かあると考えた方がいいぐらいだ。 「……それは、あの三人次第だろう。俺は知らない。」 「相変わらず、他人には興味なしですか。そうですよね、輝さんにも興味がないようですしね。」 長い沈黙が二人を包んだ。沈黙を破るのは朱従の呼び出しだった。 時刻は日も暮れ、大分暗くなってきた。貴一、海樹、藍の三人は、青に教えられた現も主である輝の部屋の窓を見上げていた。 「結構高さがあるな。外部侵入者を防ぐってところか?」 門の警備の人間を素早く眠らせて言う海樹。きっと、侵入者を許した罪で彼に罰が下るだろう。しかし、三人にはそんなことはどうでもよかった。 「さて、私達を甘く見ている道楽馬鹿に一年ぶりの対面と行きましょうか。」 藍は憎しみを抑えながら言う。 彼女には優しい姉がいた。姉も組織の中にいたのだが、今から五年前に輝に殺されたのだ。だから、今でも憎んでいる。捨て駒のように簡単に切り捨てる輝のことを、そして、組織のことを。 「よし行くよ。」 風呂敷で包んでいた弓術具を出し、紐のついた弓矢を目的の部屋の窓目掛けて飛ばす。 「少しずれたか。まいいや。」 そう言い、下から少しくいくいと引き、矢をそこから抜いて、下の輪に上手く入れた。そして、その輪をとおり、矢は下の降りてきた。 弓矢につけられた紐は細くてもろいが、それのさらに後ろには太くて丈夫な紐が結ばれていて、矢をどんどん下に引けば、太い紐が部屋の窓枠の下にある輪をとおって往復する。これの片一方を何かにがっちりと結んでおけば、簡単に登る事が出来る。三人は組織活動時、こういったことはしょっちゅうやっていたので、問題は無い。 「さて、敵情視察して、行けそうならさっさとやっちゃいましょう。」 三人は闇に紛れてロープを上った。あたりはすでに、真っ暗となり、灯りは無かった。 部屋の中では、蒼い月を持つ輝と渡した辰二と朱従、そして、窓際の壁にもたれて立つ青の姿がある。 「これが『蒼い月』か、結構小さいな。さて、次は『白い日』を探そう。そしたら、神獣を呼び出せる。」 蒼い月である、蒼い水晶を眺めながら言う輝。それを見守る三人。 「喜びのところ邪魔してすみませんが、気になることがあるのです。」 「…本当に邪魔して困った人だよね、守宮錠。」 「本当に申し訳ございません。どうしても気になることがあるのです。あの三人のことです。」 「大丈夫、今そこの窓の外にいるよ。」 その言葉を聞き、誰もが驚いた。 「だって、紫影…、青の様子がおかしいもの。クスクス、隠しても駄目だよ。ま、今は青の仕事範囲じゃないけどね。」 その言葉で、青を壁から離し、窓を勢いよく開けた。 ドガ あけたと同時に三人の人影が守宮錠の肩や足に蹴りを入れ、入ってきた。 「…いらっしゃい、裏切り者の守護獣さん達。」 その部屋の雰囲気はおかしなものだった。 「さて、どうしたものか。これはそう簡単にこれは渡さないよ。」 主と守りと奪い返す者とのにらみ合いが起こる。関係なく見守る青を除く部屋内にいる人物は今すぐにでも飛び掛って倒す勢いである。 そして、部屋の中で戦闘が始まった。 「…輝様に歯向かう裏切り者、今すぐ地獄へ叩き落してくれるわ!」 朱従のその一言によって戦闘が始まった。朱従と藍、守宮錠と海樹、そして輝と貴一。 「輝さん、悪い事はいいませんからそれを渡していただけませんか?」 「何馬鹿なことを言っているんだい?貴一、一度も俺に勝てたことが無いくせによく言うものだな。」 この二人は回りの二組と違い、にらみ合いのままであった。 「貴一、あなたなんか青で十分だ。青ではもったいないぐらい。」 輝の隣に立っていた青を後ろから押し、前に出す。 「私は相手が誰であろうとも手加減はしませんから…、青を倒してあなたを倒させていただきます。」 そう言って、愛刀を鞘から抜き、構えた。青は無言でしまわれていた扇を出し、手に持つ。 同時に何か合図があったかのように動き出し、扇と刀がぶつかり会う。 正確で、お互いどちらも引かない。回りから見れば、扇と刀では刀の方が強いと思い、貴一が弱いと思われるだろう。 実際は、青が扇を使っているというのが、刀と同じくらいの威力があるということ。刀を使う素人ならば何人束になろうとも、青に勝つことは出来ない。 「…扇一本で抑えられるなんて、腕が鈍ったかな?」 「……そんなことはありませんよ。」 ガキィィィン――――― 部屋中に鉄同士が激しく当たる音がする。青も貴一もお互い構えも息もペースも崩さない。それを見守る輝。今の彼は完全に油断しているだろう。 海樹が守宮錠に一発首辺りに攻撃を掛け、一瞬緩んだ隙に輝に向かって走っていった。輝は貴一と青の戦闘に目がいっている。 「…返していただきますよ。元の、本当の持ち主に返すべきなんですから。」 油断していた輝の持つ蒼い月を取り、少しは離れて言う。 「さすが、海樹はよく気がつく。」 感心する貴一。その場にいた誰もが動きを止めた。 「…か、返せ。お前等なんかに渡さない!守宮錠、朱従、今すぐ取り返せ!!」 輝の絶対命令が下る。二人は命令どおり戦闘モードへと再び切り替える。 「お前等なんか、別に怖くは……。」 言いかけて、最後まで言えずに言葉を止める海樹。視界に入ったのは、青、見方を人質として脅す輝の姿。 腕を縛り、その場に座らせ、己の方を向かせて、首にナイフを突きつける。貴一達の方からは青の顔は見えない。 「逃げてもいいけど、そうすると、青は死ぬよ。結構仲が良かったお友達がね。」 右手はナイフを持ち、左手は青の肩をつかみ、言う。 いくら今は敵かもしれない男であるが、この部屋にあることを教え、何より一年前まで一緒にいて友達と呼ぶ仲間を思えばどうしても動けなかった。 「今すぐ返しな、さもないと、青は二度と太陽の光の元には出られないよ。」 輝のことだ、何をしてでも目的を成し遂げる。青のことを部下として大事にしていたとしても、必要ならば殺すだろう。 「…青を今すぐ離せ。」 「なら、それを返せ。」 再び沈黙と貴一と輝のにらみ合いが続いたが、それは青の言葉によって止まる。 「……貴一、言った筈だ。己の望むとおりの道を進め、と。今それを持ち帰らなければ、約束破りになる。」 確かにそうだが、『仲間』を置き去りにするほど嫌な奴にはなりたくはない。 「…悪いね、私はよくばりなんだよ。」 バシィィン 静かな部屋に響く音。輝は青のほほをひっぱたく。そのせいで、かけていたサングラスはずれ、床にカチャンと静かに音を響かせて落ちる。 青はゆっくりと目を開け、輝の方を見る。その目は透き通る蒼。今貴一が持つ『蒼い月』と同じ色の瞳。 「今回の任務失敗、初めからこのつもりだったんだな。別に、俺は損をすることはないし、先に『白い日』を手に入れればいい。その後から奪い返す事だってできるんだからな。」 その後、こう続ける。『これで青は俺のもの。』と。 輝の言葉に誰も動かない。三人は、青がどうして輝のものとなるのかがわからない。 「何の話だって感じだろうね。教えてあげるよ。今日は特別だよ。青と俺は契約をしたんだよ。五年前からの契約に少し付け足してね。五年前にした契約が白紙に戻ったんだよ、契約したものがなくなったからね。引き止める際に交わした契約があってね、それについ最近、つけたしたんだよ。」 クスクスと笑みを浮かべて言う。こうなることは初めからわかっていた口調。 「青とは、五年前に『ここを出れば貴一を含め、多くのものが血を流す』と言ってやった時、『手を出さないと言う事を契約にここに残る』と言うんだよ。貴一を含め、自分の名前を知る者、顔見知り全員にと付け足してね。自分ばっかりがそんなんだろうけどね、青にとっては、『居場所』だったんだろうね。家族はもういないからさ。」 その言葉に何もいえない一同。青には確か、妹がいたはずだ。 「だから、君達三人が一年前裏切った時、『死んだ』とされていたが、生きている事ぐらい俺はわかる。遺体が無い以上、偽造をすることぐらい鳳凰ならいくらでもできるだろう?実はね、青も知っているんだよ。だけど、どうして出たのか、死んだと偽造したのかとかは一切答えてくれなかったけどね。俺は契約があったから、追いかけなかっただけだけど、今回は君達から来た。だから、歓迎してあげようと思ったんだけど、やっぱり裏切り者は罰を下すっていうのが俺の性分だしね。でも、契約を破るわけにはいかないからね。五年前みたいになるのはごめんだから。」 自分達の知らない所で行われていた契約。 「ちょっと待て、五年前って契約が白紙に戻ったって、五年前って言えば藍の姉ちゃんが死んだ時じゃないか!」 いいところに気が付いたねと笑う輝。それはまるで悪魔のようである。 「五年前、契約で妹鈴華に手を出さないということで契約したものがあったんだけど、俺は妹以外何も見ない青に腹が立ってしまってね、殺そうと思ってしまったんだよ。でも、いざ殺そうとナイフを振りかざしたら、急に苦しくなってね。その間に彼女は逃げたよ。これが、青と契約した時、その契約を破るものを死へと誘うものなんだってさ。だから、契約には逆らわないようにと今は気をつけているよ。だから、君達は無事なんだけどね。」 輝の話は続く。そして、自分達の知らない話があった。 襲われそうになればすぐに逃げて助けを呼べ。兄、青の言葉を素直に聞く妹の鈴華は動きを止めた輝を通り抜けて外に出た。 大通りへでて助けを呼ぼうとしたが、そこへ一台の馬車が走ってくる。操車は慌てて止めようとするが間に合わない。少女と車はぶつかり、大惨事になった。 そこまで輝が話したとき、止めろと止める青の声があがる。 「やめないよ、あの馬鹿にしっかりと真実を教えておかないとね。」 そう言い、止めろと首を振る青を無視し、もしくは、それを楽しそうに見ながら続ける。その馬車の操車は藍の姉、名木倉 凛だったと。 藍の目から涙がこぼれ落ち、貴一と海樹は全てを疑った。 そして最後にこう言った。 『凛は俺が帰りの車として呼んだ。そして、二人はお互いよけようとして結局死んだんだ。すぐにどうにかしたら、今ごろ生きていたかもしれないけどね。』 残酷な悪魔が隠されてきた真実を話した。 |