二章 せまりくる静かな影

 

 

 貴一はまだ深い眠りについたままの海樹を担ぎながら、藍は履物の紐が切れた菖蒲をおぶりながら、古い小屋から少し離れ、森の中を二人の子供の後に続きながら歩いていた。

「もうすぐです。すぐ洞穴があります。」

「あ、あった。」

兄妹は洞穴を見つけて走っていった。まったく子供はどうして元気なんだかとぶつぶつ言う藍に対し、私達が歳をとって鈍くなったのかもしれないねと楽しそうに言う。

第一に、こんな薄暗い森の中を楽しく騒いで歩く子供と自分達も不自然だが、なにより、無駄に馬鹿でかい男一人を担いでいるにもかかわらずさわやかな貴一が一番場違いで不自然で違和感を覚える。

「なんだかねぇ…。」

どうしてか、情けなくなった。よく一年以上も、この二人と付き合っていられたのだと、感心してしまう自分がいた。

 三人と子供達は、洞穴の中で話を始めた。

 どうしてこの洞穴に来たかと言うと、どこで誰が聞いているか判らない為、確実に人のいない、人が来ない場所に移動したのだ。

 先程、話そうとした菖蒲にここから離れてからとわざわざお願いした。

「さて、これでやっと話を聞けるわ。いつの間にか夕方じゃないの。」

日は大分傾いていた。すみませんと子供達は謝るが、何も返事をしない。

「さ、話してくれるかい?」

「……はい。」

これでやっと、話の内容に入った。

 

 

 五年前、まだ母も父もいた頃、純と奈央にはもう親がいなかったけど、家族同然でほとんど家に一緒にいて幸せだった。

 しかし、父が急に、今晩は純と奈央の住む、神社の神主さんから借りているこの場所、今晩だけはそこにいなさい。そう言い、私は言われたまま行くことにしたの。

「……菖蒲、一つだけ聞いてほしいんだ。最後の私の頼みであり、お願いだ。」

その時の菖蒲はどうしてそんなことを言うのかわからなかったが、父の言う事は素直に聞く子だったので、頼みがあるから聞いてほしいと言われれば、答える。

「……忘れないで覚えていてほしい。七色の橋が天にかかる時、天と地が繋がり、その場に何者にも怪我される事の無い蒼の月が現れる。その月、再び太陽と出会う時、地に白き翼と浄化角の2頭の獣が現れ、願いを叶えるだろう。」

それが父の最後の言葉であり、父が私に託したまだ世の誰も見つけられなかった最高の二つの水晶とそれにまつわる伝説、ペガサスとユニコーンをこの地に呼び出すもの。

 次の日の朝、街へ純と真央と出かけたが、そこで顔見知りに人に出会って、無事だったの?!と驚きながらも安心感をもって良かったと言う。どうしてかというと、家まで行った菖蒲は言葉をなくした。そこには破壊され、形が辛うじてしか残らぬ家と飛び散る血の跡、そして、動かなくなった父と母。目の前で運ばれていく。

「何があったの……?」

目からは今まで忘れていた涙が流れ落ちた。純も奈央も初めて菖蒲の涙を見た。

 その後、父が最後に言った言葉を話した。どうしても話しておきたかった。

「なら、その言葉通り考えて、『青い月』を探そうよ。だって、いつも菖蒲のお父さん、青い月がどうしても見つからないって言っていただろう?」

 そうして、三人はなんとか近所の人の助けを借りつつ生きてきた。一向に答えのわからない暗号のような文を何度も口ずさみ考えながら。

 

 

 話し終わり、菖蒲は口を閉ざした。肩が震えている。それはそうだろう。あまり思い出したくない、両親の最後なのだから。そして、両親の最後の願いをまだ叶えてあげられていないのだから。

「だいたいはわかったわ。行動は明日からね。今日はこの馬鹿が起きないだろうから。」

そう言って、人差し指で側でごろんと転がっている海樹を指差す。

「あの、そろそろ晩御飯…、これぐらいしかないけど。」

そう言いながら、持っていた袋の中に入っていた5つの小さなパンを差しだす。これは、三人が近所の人間から頼んで分けてもらった大事なものなのだろう。5つあっても、三人の子供にしては、一食分にしかならないだろうに、三人はこれを二日かけて食べるのだと言う。

「ほら、私達は持っているからいいよ。それに、たまにはたくさん食べなさい。依頼主に何かあれば、こっちの仕事上責任だよ。」

そう言い、ふっくらとした袋の中よりはるかに大きなパンを手渡した。いいのと言うと、早々と食べなさいと言われ、慌てて口に放り込む三人。

「甘い……。」

「クリーム入りだからだよ。だから言っているだろう?契約書には石を探し出すだけじゃなくて、あんた達三人の安全も守る責任があるんだからね。」

口はきついが、いい人だと安心する子供達。

「ありがとうございます。」

と、素直なお礼をいい、言葉が詰まった。

「すみません、お名前聞くのを忘れていました。」

そう言うと、藍と貴一はそう言えばと依頼主に己の名を名乗っていない事に気づいた。

「これはすみません、依頼主さん。私とした事が…。私は貴一と言います。新城 貴一です。呼び方は依頼主さんのお好きなようにどうぞ。」

と、わびをいれて改めて自己紹介をした。

「私は名木倉 藍、こっちは京野 海樹。一年前から三人で何でも屋を営業中。旅をして移動する為、いろんなところに出没します。」

はぁ、といいながら、自己紹介を聞いた。

「そう言えば、えっと、名木倉さん、京野さんって強いですよね。何か武道かしているんですか?」

純は純粋に強く、そして、人を守る力を持つ彼等に惹かれていた。

「一年前、ここから出て旅に出る前まで武道全般は全部やって来たのよ。その時の仕事も、ある意味で今と変わらないけどね。」

「その時何をやっていたんですか?」

純にとっては単純に知りたい事だったが、一瞬空気が凍ったかのように、眉をひそめる二人。聞いてはいけないのかと思ったりし、今のは訂正すると言おうとしたが、まぁ、依頼主の質問だからと言って、話し出した。

「私と藍、そして海樹は一年前までここの政府ですね、そこを裏から支えるというのですか?とにかくここいら一体を支配している組織、『瀧靜』の元上級階級なんですよ。」

「私はいちよう、女では一番だけど、上にはこの二人がいるんだよね。いつも二人には勝てなかったんだよね、悔しい話。ちなみに言うと、元No.3だよ、私はね。」

純と真央、菖蒲の三人は聞いてはいけない話を聞いているようだった。この街で知らない者はいないと言われるほど勢力を挙げてきている瀧靜と彼等は関係していて、しかも、元上級階級だと。強いわけがわかった。

「あ、名木倉さんが3番目でこの二人に勝てなかったって事は…。」

「そう、察しのとおり、この二人が元No.1No.2だよ。目立つ二人だったからね、仕事上では結構街を歩くから顔とかばれないようにするのが大変だったよ、まったく。おかげでいつも…。」

「でも、君がいてくれたからいつも大事にならなかったじゃないか。」

はははと昔を思い出して楽しそうだ。それを見る藍は見る見るバックに黒いオーラを漂わせる。子供三人は、この人たちと一緒にいて本当にいいのだろうかと怯える。

 賑やかな洞穴での時間は過ぎていき、時間は夜。子供達は寝る時間。まだ起きない海樹の為に、貴一と藍が見張りを交代する。

 そうしながら、夜が明けていくのだった。

 

 

 

 少し時間を戻す。今は昼を回った程度。子供を見つけたと報告を受け、今度は今朝より倍にして向かわせたにもかかわらず、やられたとのこと。

「すごいね、狙う場所が正確に致命傷にならない腕や足を狙ってますね。これは弓矢の跡だけど、全部持ち去っているみたいですね。意味が無いのですが…。さて、どう思います、紫影、朱従。今朝といい、これはあの三人がこの辺一帯にいる証拠かと思われますが…。輝さんに報告しておきましょうか。」

「…どうする?私も生きていると思うけどね。あの女がそう簡単にやすやすと人に殺されるようなやつじゃないからね。もしそうなら、とっくに私が殺しているよ。」

ごもっともな話といい、隣に立つサングラスを掛けた男、青に話を向ける。

「……確率は高いが、確証は無い。報告はいちようしておくが、動くのは輝の命令でだ。」

そう言って、その場を去る。

「なんだよ、まったく。」

「彼なりにいろいろあるんでしょう。何せ、昔はお友達でしたからね。」

「確かにな、でも、今のあいつ…昔からだけど、感情がほとんど動かないし、考えが伺いにくいしわけがわかんないよ。」

歩いて小さくなっていく青の姿を見ながら言う。

「さて、私達は暇ではないんですから帰りますよ。」

そして、記憶を消された男達全員が回収され、元の静かな何もない場所に戻った。いつの間にか、空は暗くなり、日は傾いていた。

 

 組織が本拠点として置いている、『浄龍』へ戻り、今朝と先程の事の報告と、一年前行方をくらませた三人組の影が見え隠れしている可能性があることを報告した。

 組織の主、神乃宮 輝は薄笑いを浮かべながら、二人を下がらせ、青を呼んだ。

「どうする、青。あっちから尻尾を見せているよ。馬鹿な奴等。俺はあいつ等が死んだということが嘘だって事ぐらいわかっているのにね…。」

「……。」

青は何も答えない。

 薄暗い部屋の中、奥で座っている輝と、入り口近くの輝の座っている席より低いその床に座っている青がお互いの様子を伺っている。

「次の任務、三人で子供捕まえて蒼い月を手に入れなさい。そして、邪魔をする者がいるのなら、迷わず始末しなさい。」

それを聞き、青は立ち上がった。そして、出る際で声を掛けられた。

「いい子、明日行くんだったら、その後一度来なさい。契約の話があるから。」

そう言うと、青は反対に言い返す。

「…契約は必ず守ってもらいます。守らなければどうなるか、あなたは経験済みでしょう……?」

そう言い残し、部屋を出た。それを見届けた輝は怪しげな笑みを浮かべていた。

「契約は守るよ、ただ条件をつけるけどね。こちらの不利になることはしないからさ。」

 朝日が昇り、夜は明けた。

 

 

 

 よく寝たと朝日によって目を覚ました海樹がのびをする。

「おはよう、昼寝大魔王。」

「は?!なんだよそれ。」

少し眠かった気は藍の一言で完全に吹き飛ばされた。

「はい、そこまで。それより早く朝食を頂こう。きっとあちらさんは私達の存在にとっくに気付いているだろうからさ、戦闘中におなかがへるなんてとっても情けないよ?」

確かにそうだと納得した二人は、貴一が火を起こして暖めたスープとパンを食べた。子供達もこれを一緒に食べた。

 ちょうど食べ終わり、片づけをしていた頃、人の気配を感じたと藍が貴一と海樹に言う。

「ここでは逃げ場が無いですからね。」

「まだ結構距離はある。洞穴出ていよう。その方がいいだろう。きっと、あの小屋の捜索中あたりじゃないか?」

全員、急いで支度をし、外に出た。そこで、言い争いを始めた。輝は性格がひねくれていると言い出した藍に藍の方が性格がひねくれていると言った海樹との言い争いだ。

「だいたいね、私より海樹の方が絶対にひねくれ馬鹿よ。」

「なんだよそれ!」

「…相変わらず声が大きいですね。任務中は大声を出さないと何度も注意されたはずですけどね、『瀧靜』元No.2の龍皇。久しぶりですね、と和やかに挨拶を交わしている余裕は無いのですが。」

全員がその声の主の方へ向く。

「…話の最中悪いが、こちらも任務の為許してもらうよ。」

現れたのは忘れもしない、サングラスに蒼銀の髪を持つ男。そして、めがねを掛けた真面目男。もう一人、組織内で女性No.12を争っていた女。

「青!!しかも辰二と弥生まで?!」

「しかもとはなんですか、しかもとは。」

海樹の言葉が気に入らない様子の辰二。

「今ここでは、任務の最中より、そちらの名前は控えて頂きたいものです、元No.1獅子の貴一さん、No.2龍皇の海樹さん、元No.3鳳凰の藍さんの三方。」

青は一歩前に出て話す。表情は相変わらず読めない。

「で、何の用…と言っても、目的はお互い反対だろうね。」

「そのようですね、さて、こちらの仕事、そちらの子供をこちらに渡してもらえますか?」

その青の言葉を聞いてもあまり驚きはしなかった。むしろ、相手の目的ははっきりしてすっきりとした。

「こちらも仕事なので、渡す事はできません。何より、この子達は物ではありませんから、そう言ったことは控えて頂きたいものです。」

「それは失礼、しかし、そうなると…。」

青と辰二はお互いを見、辰二が一歩前に出る。

「決着をつけなければいけないようですね。」

持っていた刀を鞘から抜き、構えた。貴一も一歩出て、辰二と同じく刀を鞘から抜いて構える。

 何か合図があったのか、同時に動き、同時に攻撃をし、また動きが止まる。

「あの、あの人…。」

「大丈夫だよ。あいつ、貴一の腕はまだ落ちていないし、あの男は私等がいなくなってから昇進したんだろうけど、貴一には勝てない。」

藍の言うとおりであった。

「結構いいところいっているけど、まだまだですよ。守宮錠さんは攻撃より守り、瀧靜の経済を安定させる為の仕事の方が向いていますよ。」

そう言い、次の瞬間、キィインと音が立ち、勝負あった。辰二の刀は先が折られて後ろ、青の足元に突き刺さった。

「…まったく、さてどうしたものか。」

青は慌てる事も無く、負けた辰二を見ている。

「すみません、戦術ではやはり勝てませんね。」

「おっと、逃がさないよ。」

貴一は辰二の腕をつかみ、刀を前に出し言う。今すぐ手を引けと、二度と現れるなと。

「…ならば、こちらから俺が三人の前に現れるのは止めましょう。彼をかえしていただけますか?輝に怒られますから。辰二…『瀧靜』現No.2の守宮錠が今消えれば、組織内のバランスは崩れますから、駄目ですか?」

相手が相手である為もあり、約束をするのなら守る男なので辰二を放した。だが、少し甘かった。辰二を解放したと同時に、叫び声が聞こえた。

「まったく、何やってるのよあんたたちは。失敗して、二度と現れないなんて約束しちゃって。輝さんの怒りを買うわよ。」

現れたのは藍とそう変わらない女。彼女こそ、現No.3の朱従、月深 弥生。

奈央を捕らえ、動かないように指示を出す。

「朱従さん、人質は言いですが、ややこしいので言葉を知る本人の方にしてほしかったですね。いくら似ていても、わかるでしょう?」

「違ったのか?しょうがないじゃないか。ま、いいだろう。」

その場を去ろうとする朱従と守宮錠を追いかけようと走りだす海樹と弓を手に持ち、何本も向けて打つ藍。

 その場の誰もが動きを止めた。

「こちらも、一年間遊んでいたばかりではありませんから……。」

青の手には綺麗な扇があった。一年前と動きが明らかに違う。扇一つで何本も打たれた弓矢を全て地に落とし、走ってきた海樹の動きを封じた。

「……昔から扇を持って舞を舞うのはとてもすごかったけどね、こんな時まで舞を舞うなんてね。」

 さすがと言うべきだ。元No.7でありながら、現No.1の紫影、柳里 青。

「今宵、『瀧靜』にて取引をしよう。『蒼い月』とあの子供。」

そう言って、その場を去ろうとした。誰も青を止めることは無かった。

「……奈央、奈央は?!」

「大丈夫、責任持って仕事するから…。」

やっと我に返り、離れ離れにされ涙を流す純を慰める藍。

 蒼い月のありかはまだわからない。





     あとがき

 一人連れて行かれちゃいました。
 なので、仕事をする為にそろそろ彼等は乗り込むはず・・・。



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