あの日、俺の前に闇が現れた。

ただ、平凡で変わらない大切な家族と毎日過ごしていられるだけで幸せだったのに。

それを壊しにくる闇が現れた。

それが、俺の人生を大きく変える別れ道だったことに俺はその時気付かなかった。

 

もっと言えば、闇が近づいていたことさえ、気付かなかったのだ。

大切な今という時間が全て崩れ去ってしまうなど・・・。

 

 

 

堕ちても人のまま・・・

 

 

 

コツコツ・・・

静かな礼拝堂に響く足音。この馬に似合わぬ黒をまとう闇の住人・・・悪魔が神そ象徴する十字架を見上げていた。

「・・・何の用だ。」

「いえ。とくには・・・。扉が開いていたので、誰かなと思いまして。」

「そうか・・・。」

足音が止まる。それを合図であるかのように悪魔のアヤが振り返った。









「お前、本当に神がいると信じているのか?」

「・・・アヤにしては珍しい質問ですね。」

アヤと呼び捨てにされたことにむっとしていたが、マリアネアの返事をおとなしく待っていた。

「そうですね・・・。私は信じてますよ。たとえ、いなくても。」

「・・・。」

もとより、マリアネアは神などを信じてはいない。もし神がいたのなら、家族を、兄を助けてくれても良かったのではないか。だが、確かに『神』が存在するということは知っている。

『神』とは、人の中にそれぞれ持つものなのだと知ったのだ。この教会にきてから。

だから、それを信じて今を生きている。多くの人が神と崇めるものと違っていたとしても、後悔も恥じもしない。胸を張ってこれが『神』だと信じる。

「私の中にある、『神』を信じていますよ。」

「まじめなシスターの言葉じゃねーな。」

「あら?教会の、それも神の御前に立つ悪魔も似合いませんよ?」

ふふふと笑う少女にうるせぇと怒鳴る。

「お前、絶対神父より黒いだろ!」

「そんなことありませんよ。私は私です。」

「ぜってぇ、お前が一番黒だ。」

「ではそうしておきましょう。」

ふんっとそっぽを向いてすっとアヤは姿を消した。悪魔なら容易いことだが、人には出来ない芸当。

だから、悪魔は恐れられ、たとえ害がなくても差別を受ける。

それが、大きないがみ合いや争いを生むと分かっていながらやる人間は何と愚かで弱い生き物なのだろう。

自分もそうであったけれど、違う選択も道もある事に気付いた今では、悔やむことばかりだ。

「・・・そう言えば、アヤも本来は同じ迷い人でしたね。」

クロスから聞いたアヤのこと。同情はしないが、どこにでも同じように悲劇は起こり今もどこかで起こっているのだと理解させられた。

まだ幼い自分は、両親亡き自分には兄だけが最後の家族だったのにと、奪われたという悲しみからたくさんの言葉という名の負の力をぶつけてきた。

だからこそ、そんな自分を恥じた。そうやっていつまでも人に当り散らしては生きていけないし前へは進めない。

落ち着いてから知ったアヤの身の上に、はじめて周囲を見る事ができた。

それまでは、少しずつ成れ初めても、内面に気付かなかった。

自分だけが不幸だと思い込んでいては駄目なのだ。ここの教会に集まる人間は、全員何らかの過去により何らかの『不幸』を背負っている。それを本人達が『不幸』と認識しているか否かはわからないけれど。

もし、これが神が与えた試練なら、なんと残酷な神なのだろう。だから、マリアネアは神を信じていないが、教会の、仲間と自分を信じる事にした。そうして、自分の中に神ができあがったのだ。

それから、もう泣かないと決めた。あとで、周囲を見えるようになってから気付いたが、泣いている自分に気付き、いつも遠くから手を出す事を拒む自分がいたから見守ってくれていたクロス達の存在。

だから、余計に泣かずに笑顔でいようと決めたのだ。それでも時折涙はこぼれてしまうけれども。

そして、少しずつ彼等の内面が見えるようになってきた。

ずっと昔に置き忘れて来てしまった何かを、やっと取り戻してきたようだった。

「それでも、やはり神は嫌いだわ・・・。」

神を見上げて、悲しげな表情のマリアネアは呟いた。

その頃、姿を消したアヤは屋根裏部屋で一人考えていた。

今自分が持つこの魔剣を見るたびに、思い出す家族と、家族を壊した男のことを。

「マリー・・・。」

今はもう、届く事のないアヤの声。

 





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