…工藤邸で恒例となった月夜のお茶会。

 12月のある日、怪盗からの提案でいつもとは違うお茶会をした翌日から、まるでタイミングを図っていたかのように冷え込みが激しくなった。
 暖冬の今年は各地のスキー場は悲惨な声を上げているらしいが、その冷え込みと人工増雪機でどうやらなんとかなりそうだと…何処かのニュースで耳にした。

 ──そして、その後に続けられたキャスターの声。


「さっむいな〜ぁ」

 お天気お姉さんの予報は当たるかもしれねぇなぁ…


 …どうやら、今年のクリスマスはイブも含めて雪が降るらしい。




Evolutionslehre -Heiligabend-







「それでしたら僕の──」
「や。いらねぇし」

 つーか「早く帰らせろ」って意味で言ったンだけど?

 とあるビルの玄関前で、全然寒そうな表情も仕草もせず呟いた名探偵。
 その呟きに、名探偵の隣りにいた迷探偵が自分の着ていたコートを脱ごうとして…すかさず拒否される。(笑)

 …ちなみに拒否のあとに続けられたお言葉(笑)は、幸か不幸か聴き取られなかったらしい。

「なあ、白馬。オレって此処にいる意味あるわけ?」
「ありますよ! 現場に貴方のような名探偵が不要なはずないでしょう!」
「って言ってもな〜、ドロボーには興味ないんだけど…」
「要請があれば参加されるじゃありませんか! しかも僕がいない時ばかり!!」
「…それはお前がいないからだろ。「専任の探偵」が入る現場にまで首を突っ込む趣味、オレにはねぇよ」




 ──本日、12月24日。
 言わずと知れたクリスマス・イブであり、探偵の言う「お天気お姉さん」が期待混じりにホワイトクリスマスの予報を出した日であり……世間を騒がせる怪盗の予告日でもあった。

 この日の名探偵はやはりと言うかなんと言うか、公僕の方々から「助けてくれ〜」と言う切実な要請を苦笑いと共に受け入れ本庁へと赴いていた。
 電話越しに聞く限り夕方には帰れるだろうと楽観視(笑)した名探偵。
 いつも自宅を出る時には隣家へと預けている子猫の存在が気になったものの、今日は科学者も薬学者も外出することを前以って聞いていたため「すぐに帰ってくるからな? 大人しくしてろよ?」と子猫に言い残して自宅を出た。

 …ちなみにこの時、言い付けられた子猫は「解かりました!」とでも言うように「にゃん♪」と鳴き声を上げらしい。(笑)

 名探偵の予測通りに夕方に解決を見せた事件。
 いつもの如く盛大な感謝をされつつ一課を後にした名探偵は、騒がしい捜査二課の方に一瞬だけ視線を向け、

「そういや今日ってアイツの予告日か…」

 今日の紅茶は熱めに煎れるか…ああ、寧ろ温かいスープにでもするか。

 …などと、かの怪盗が犯行後に自宅へやってくるのを決めつけて、帰宅してからの行動予定を考え始めていたのいだが──


「工藤君! 貴方もキッドの要請を受けたんですね! 今日と言う日に貴方と共にいれるとは…っ! あ、そんな処ではなく早くこちらへ!!」

「はぁ?」


 ──人の話を聞かない何処かの誰かに引っ張られ、そのまま現場へと引き摺り込まれたのだった…。




 ……そして、冒頭に戻る。

 今この場にいるのは新一と数人の黒服男。それと人の話を聞かない迷探偵。
 黒服男達はこの迷探偵の下部(?)らしいが、その出で立ちに嫌悪感を覚える(笑)新一の機嫌は先ほどからかなり悪い。

「てかさ。もう犯行終わっただろ」

 怪盗の獲物があったのはこのビルの最上階。
 中森警部以下、過半数以上の警官はそちらへと向かっていて…犯行時刻が過ぎた今、その全てが夜空を舞うキッドを追いかけて車を走らせて行ったばかり。

「貴方がこちらに残ると言うので」
「だから、オレは関わらないって言ってンだろ? 気にせずキッドを追いかければ良いじゃねぇか」
「しかしそれでは…」
「キッドを捕まえるために此処にいたんだろ? それ放棄するってどう言うことだよ」

 「探偵」として許せない行動にはっきりと問いかける。
 あくまでも警部達の好意で現場へと入れてもらっているのにも関わらずその行動がこれでは、中森警部が日頃彼のいない時に文句言うのも無理はない。←どうやら新一は良く聞かされているらしい(笑)

「…さっさと行けば?」

 屋上からそのまま飛び立って行った白い影を、新一はきちんと視認している。勿論、その影が米花町とは別方向に飛んで行ったのも…
 だからその方角を指差せば、何か考えている様子だった迷探偵は自分の中でどんな結論をつけたのか解からないが、

「解かりました! この白馬 探、必ず貴方の前にあの気障なコソドロを連れて来ます!!」

と、黒服達に「行きますよ!」と声をかけ身を翻した。
 それにどこかイヤイヤそうにしながら(笑)着いて行く男達。
 中には新一に向かって「すみませんでした」とか「気にしないでくださいね?」などと小声で言い残していく者もいる。
 その言葉で彼等の心情を察した新一は、苦笑を返しながらやはり小声で「お疲れ様です」と返しておいた。

 …数十秒で人の気配が周囲からなくなる。
 そうなった処で、新一は唇の端を少しだけ吊り上げ、


「……まあ、あっちにはダミーが飛んでるだけ、だろーけど?」


 かなり鬼なお言葉を漏らした。(笑)

 怪盗が犯行後に工藤邸を訪れるのは既に恒例。
 素顔を知り、恋人という関係になってからはそれ以外でも恒例になり…今では工藤邸に住んでいないのがおかしなくらい、かの怪盗は新一と同じ時間を過ごしている。←まだ未同棲(笑)
 そんな彼が米花町とは違う場所に飛んで行った、と言うことは、警察をそちらへとおびき寄せ自分は安全に工藤邸へと移動をする為である。

 それを確信している新一は、さっさと帰りたいが為にダミーのことは何も言わずにただ「追いかけろ」と言った。さりげなく影の方向に指も差してみたが、別に「アレを追いかけろ」とは言っていない。(爆)
 …因みに言えば今回の暗号には中継地点の記述はなく、元より現場ではなく自宅で怪盗を待つつもりだった(笑)新一は独自に中継地点を割り出すこともしなかったので、本当に怪盗が立ち寄るだろう場所を把握していなかったのだ。

「さーて、帰るか。この様子じゃオレの方が後になりそうだけど」

 彼の誕生日に家の鍵を渡しているのだから、この寒さの中、外で待っているなどと言うことはないだろう。寧ろ返って来た新一の為に何かしら用意しているかもしれない。(笑)
 そう考えながら身を竦め、迷探偵の前では1度も見せなかった寒さを現す仕草をしたした時、


「どうせなら一緒に帰らない?」

「へ…?」


 聞き慣れた声と共に、新一の身体には自分の身体よりも大きなコートがかけられた…。






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