──誰もいない工藤邸。

 とある怪盗の手によって飾り付けられたツリーの明かりだけが、暗闇の中でリビングを照らしどこか幻想的な輝きを彩っている。
 そんなツリーの下には…プレゼントを入れるには大きく、人間が履くには小さい靴下。


 …その靴下は、不規則にもぞもぞと動いていた──




Evolutionslehre -Heiligabend- 2







「快斗?!」
「そう。快斗君です♪」
「なんでだ…? てっきりもう家に行ってンだと思ってた…」
「そんなの、此処に新一がいたからに決まってるじゃん♪」
「…オレ、現場に入ってないぞ?」
「それも知ってる。ずっと此処にいたンでしょ?」
「じゃあもしかして…ずっとこの辺にいたのか?」
「や…、それ取りに少しだけ隠れ家に行ったよ。近くだったからね」

 この寒さで新一ってば薄着なんだもん。

 新一の肩にかけたコートを指差しつつ困ったように言った快斗に、新一は「あ…」と呟きを漏らしてから礼を口にする。

 だって快斗は普通にコートをきているのだ。
 そうなると、今かけられているコートは別に用意した物だということ…。

 手間をかけたことに申し訳なさそうな表情を見せた新一。
 それに「気にしないで〜」と返した快斗は、そのまま新一の冷たくなった手を取り歩き出す。

「あー、手も冷たくなってるねぇ」
「そりゃ、この寒さだしな」
「解かってるならもっと厚着しようよ;」
「仕方ねぇだろ。こんな時間まで外にいる予定じゃなかったンだから」

「……白馬には今度きっちり制裁を加えよう。」←マジ顔。

 自分のせいではないと自己主張。
 快斗も同意見なのかそれ以上は何も言わず、ただ「次に会った時は覚悟してろよ?」と呟くに留めた。←充分。

「帰ったら紅茶入れようね」
「だな。それか、スープかなんか作っても温まるし良いかと思ったんだけど」
「それも良いね〜、どうせだから夜食も兼ねてそうしようか」

 帰路をのんびりと進みながら帰宅後の行動を決め合う。
 新一が今日の夕方まで本庁にいたことは警視庁に仕掛けてある盗聴機で把握済みなので、快斗からすれば「きっとご飯食べてないだろうし…丁度良いから食べさせよう」と言ったカンジ。(笑)
 そんな快斗の思惑(笑)に気づかない新一は、「やっぱ夜間飛行しただ身体も冷えるよなぁ」などと、その通りだが微妙に違うことを考えていて…

「──あ。」

 …不意に思い出した事柄に動きを止めた。

「ん? どーしたの?」
「あ…いや、……忘れてた」
「なにが?」
「…今日、クリスマス」
「そうだね。イブだけど」

 だけど新一がイベントごとを忘れるのはよくあるでしょ?

 しっかり正確に(笑)把握されている自分の性格にちょっと居た堪れない気持ちになりつつ、新一は快斗の問いに首を振った。
 なんせお天気お姉さんの「ホワイトクリスマス」の言葉を覚えていたくらいだ。(笑)
 当然、今日が何の日かも覚えていた。家には蔵(…)から探し出したツリーだって飾ってあることだし。

 だけど新一が「忘れていた」のはイベントではなく…そのイベントに付いてくるオプションの方。


「そうじゃなくて…プレゼント、買ってない」


 午後から買いに行こうとしていた処に要請を受け、仕方がないので事件が終わってからの帰宅途中に購入しようと考えていたプレゼント。
 それが帰宅する直前の嫌な遭遇(笑)のせいですっかり忘れてしまい…それどころか買いに行くには遅すぎる時間になってしまった。

「え? あ、別に良いのに…」
「何言ってンだよ。どーせお前のことだから、オレと灰原とキッドに用意してるんだろ?」
「…バレてます?」
「イベント大好き人間の行動くらい簡単に読める」←言切。
「あらら;」

 自分だけじゃなく、隣家の少女や飼い猫にまできちんと用意しているだろうことを予測した新一の発言。
 しっかり正確に把握されている自分の性格(←お互い様・笑)に苦笑を零した快斗は、それでも気にしないからと首を振る。

 …確かにプレゼントは用意してある。(当然ながら新一と哀とキッド用にそれぞれ準備)←笑。
 だけど相手からの所謂「お返し」は期待していなかったし、快斗からすれば自分を受け入れてくれている人達が喜んでくれればそれで良い、という考え。

 そりゃ、貰えれば嬉しいが…その為に相手に無理はさせたくない。それが自分の好きな相手なら尚更。

「絶対買う。明日で良いか? 何か欲しい物があったら言えよ?」
「…欲しい物?」
「どーせなら希望を聞いた方がオレも買いやすいし…何かあるか?」

 首を横に振った快斗に「貰う限りは返す! じゃなきゃオレも受け取らない」といった勢い。
 お構いなしにプレゼントの希望を尋ねてきた新一に、

「…欲しい物、言っても良い?」

と、快斗は数秒考えてから顔を上げた。

「良いけど…あまり無茶な要求はするなよ?」
「大丈夫。新一だからお願いしたい物だから…」
「? なんだ?」

 こくり、と首を傾げて自分を見上げてくる新一に、快斗は意を決したような表情で「欲しいもの」を口にした…


「……キス、したい」



「…………」

 予想外…と言うか予想すらしていなかった言葉。
 その言葉と、なによりも快斗の真剣な表情に、目を見開いていた新一の顔が一気に赤くなる。

「………っ///」

 口をパクパクを動かし、それでも出てはこない言葉と声。
 ただ真っ赤になってあわあわ(笑)し始めた新一に、快斗は柔らかな笑みを浮かべてもう1度尋ねる。

「キスしたいな」
「──っ!!」
「…駄目?」
「だ…っ、だめ………じゃ、ない…けど…」
「じゃあ、良い?」
「い、い…って言うか…///」

 告白して、恋人になって。
 その日のうちに工藤邸の鍵で自由に出入り出来るようになって…週末には泊まるようにもなった。

 だけどそれから半年。この2人の間には全くと言って良いほど進展と言うものがなかった。(爆)

 飼い猫である子猫が溜め息(…らしきもの)とともに隣家の少女に相談(…らしきもの)を始めて早半年。
 そりゃ、たまに工藤邸のリビングで抱き合ったり、一緒に買い物して周囲からは「うわっ、ラブラブじゃない?!」ってくらいの雰囲気を醸し出していたりするのだが…態度に表れているものなんてそのくらい。勿論、快斗が週末に泊まっても部屋は別々だ。

 …そんな状態だった2人の間。
 抱き締められ、快斗の腰に腕を回すのでさえ顔を赤くしていた(そして快斗はそれを可愛く思っていた・笑)新一が、突然の要求(?)に真っ赤になり普段からは想像もつかないほどに慌てても無理はなく…

「……その…、此処で、…か?」
「うん。今したい」

 快斗に「欲しい物」をプレゼントしたかった新一からすれば、正直「そのくらいいつでもどーぞ!」なカンジ(笑)なのだが、いきなり言われれば慌てるし、なによりこれがプレゼントになるとは思えない。
 新一だって快斗が好きだし、ずっと片想いだったし(←気づいてないだけで両想いだったのだが・笑)、…触れていたいとも思う。

 だから…


「…わ、解かった…///」


 1回だけ頷いて、あとは恥ずかしいから目を閉じた──






 こうして、付き合い始めてから半年経って、漸く最初のステップに到達した(笑)2人のカップル。
 プレゼントを貰えた怪盗は至極嬉しそうな表情で探偵を抱きしめ、今だ恥ずかしがっている探偵はそんな怪盗の胸で顔を隠し…

「──あ!」

 腕の中からまた何かを思い出したように上げた声に、快斗は腕の力を少しだけ抜いて、新一の顔を覗き込む様にして聞き返す。

「? 今度はなに?」
「キッド!」
「…ああっ!!」

 すっかり忘れていた子猫の存在。
 いつもなら隣家に預けているから良いものの、今日は誰もいない為に工藤邸に置き去り(…)になっている。


 大慌てで(走って)工藤邸へと帰った2人が、普段ならすぐに玄関へとやって来る筈の子猫を見つけたのはそれから数十分後。
 1人(←匹)でちゃんとお留守番をしていた子猫は、ツリーの下に置かれていた靴下の中ですやすやと寝息を立てていたらしい…。(笑)




「これからは毎日しようね♪」

「え?!///」





【はっぴーくりすますv】

 ──やっと此処まで進展した進化論。
 恋人になってから半年ですよ、半年!! それまで進展全くナシ(爆)
 …書かなかったオレのせいでもありますが(爆)、でも始めからクリスマスまでは進展なしの予定だったんですよ(笑)←笑い事じゃない!!(By.快斗)
 漸くキスまで辿り着いた彼等ですが…同居(同棲?)はいつ?
 まだまだまだまだ…(エンドレス)ステップは残っているぞ!!(笑)

 こんなお話し(しかもシリーズもの;)で宜しければ、クリスマス限定でフリー配布♪
 配布期間は24日と25日の2日間のみ。報告は任意です。
 桜月を喜ばせたい方は(笑)、BBSや拍手コメント欄にでも一言くださいv

 ……猫キッドの隣家への相談歴(笑)が半年なのは、女史と知り合ったのが半年前(快斗の誕生日前)だからです。←シリーズ5作目『eine Hochzeit od』参照。


 『Evolutionslehre』=進化論。『Heiligabend』=クリスマス・イブ。
 どこまでもドイツ語でv
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桜月雪花samaから頂いてきたクリスマスのお話です。
猫キッドですよ、猫キッド。もう可愛いですよ。
ステップアップしたことよりも、賢くお留守番して寝ているキッドが・・・。
可愛いですよ、雪花sama。
甘くて可愛いお話が読めてほくほくです。ありがとうございます。



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