貴方と出会ってから

私の世界は全て変わったのです

 

 

 

 

貴方が大切

 

 

 

 

ある小さな国では、現在国王審査のもと、武術で戦う大会が行われていた。

小さくても豊かで平和な国に、そんなものは似合わないと誰もが思うだろう。

しかし、戦争をするために強い者を集めて行っているわけではない。

国王の一人息子である皇子の教育係り兼護衛をするものを決めるための大会である。

昔から、その美貌で金目当て以外にも狙われる皇子。心配でしょうがない国王が教育係りでなくとも、強くて決して皇子に手を出さない者を護衛にと決めた時にはじまった。

まず第一審査は紙にかかれた問いに関するアンケート。

第二審査は皇子のことをよく知り、武術でもそれなりに強い女の子、蘭との腕試し。

第三審査は上位に残った者同士のトーナメント戦で優勝した者がなるというもの。

現在、大会といっても受付が終わってアンケートを答えている頃だ。

これで危ないと思った者は全員省いていく。

500問もあるもので、途中から素が出てくるものが多い。

それに、皇子のことを知らないと答えられない問題もある。

これに関してはこれから覚えたらいいのだが。

知っていた者で安全な者の方が後々面倒なことにならなくていい。

さて。現在そのアンケートなのだが、肝心の皇子は相変わらず脱走していた。

皇子だとわかる服は脱ぎ、国民と同じようなものに着替えている。

「うわー、人だらけ。」

皇子こと、新一は他人事のように人だかりを鑑定中。

外から見れば、そこに集結する人の多さに嫌になる。

しかも、この中から一人、確実に決まるのだ。

「最悪。」

誰も決まらなければいい。変な奴が来ても嫌だし、その辺は父を信用しているが、何があるかわからない。

「ったく。暇人も多いよな。」

あまり人のいない町へ出るか、森に入ってあの泉のほとりで昼寝をするか、どうしようかと考えていた時、通行人にぶつかってしまった。

まだここは人の通りが多いところ。ぶつかるのはしょうがない。

だが、相手が悪かったようだ。

第一審査で落ちて気が立っている、町でも有名な乱暴グループの一人だったのだ。

だからこそ、落とされたのだが。

「おい。」

すみませんとすぐに謝ったのだが、肩をつかまれて呼び止められる。

そして、相手の方を無理やり向けさせられた。

「何か?」

「俺にぶつかって謝ってすむと思ってるのか?!」

いちいち大きな声で大げさに言わなくてもいいのに。

「そうだな。あんた、綺麗だから・・・。」

しばらく相手をしてもらおうかと、無理やり腕を引っ張っていく。

その力は強くて、どんなに抵抗しても離れない。

そんだけ丈夫だったら問題ないだろと思うが、相手はすでに別方向へと気が向いている。

そこへ、小さな丸いものが男の顔に直撃した。

「いっ・・・だ、誰だ?!」

相変わらず腕は攫まれたままだが、意識が少しそがれたようだ。

「馬鹿なことをして、恥ずかしくないのですか?」

ふわりと、身体が宙に浮いた。強く攫まれていた腕には、優しく包むように触れる手があった。

「まったく、綺麗な手にこんな跡をつけて。愚か者が。」

一発、綺麗に蹴りを入れた。動きは一瞬で軽やかなものであったが、相手は見事にすっ飛んで落ちた場所で数回転がって倒れた。

なんだか凄い音がした気がしたが、気のせいだろう。それに、同情してやるつもりなどないし。

「ありがとうございます。」

とりあえず、助けてくれたこの男にお礼を言う。

が、少し驚いた。

「お前・・・。」

「覚えていただけていたようで、うれしいですよ。」

相手は、黒羽家の人間で、国王の側近や護衛などをいろいろやってきた家系。

家を継ぐ者は『キッド』という名を継ぐ。継いだ者は、その時から何かの頂点に立つようにと教育されている。

なので、過去に黒魔術の頂点に立ったという者もいたりしたのだが・・・。

そんなこいつと出会ったのは数年前。皇子の顔は知られていないから、ばれてはいないと思うけれども。

妖しげな計画が立てられた際に、誘拐された彼は、なんとか目を盗んで森の中に逃げ込んだ。

その時に追いつかれそうになったところを助けられたのだ。

それ以降、家の事情もあって会うことはなかったのだが。

こんなところでまた会えるとは思っていなかったので、ちゃんとお礼も言いたかったので素直に喜ぶ。

「あの時は、本当にありがとうな。」

「いえいえ。どういたしまして。・・・それにしても、よく人に絡まれるんですね。」

「それは・・・。」

「ちゃんと前みないと駄目ですよ。」

そう言いながら、新一は抱き上げられたまま、歩き出すキッドに、どこ行くんだと聞く。

「せっかくお会いできたのに、話をする時間がないのは悲しいじゃないですか。」

と、言う。

そして連れて行かれたのは第三審査のトーナメントの発表される場所。

「お前、出るのか?」

「ええ。・・・今となっては、無意味なことですが。」

何故か、興味がなさそうである。

「無意味?」

「そうです。目的がすでに終ってしまったので。」

「・・・国中の情報を手に入れたかったのか?」

「まぁ、そうですね。探し物をしたいたので。」

だが、それが見つかって今は無意味な大会なのだと言う。

それを聞いて、少ししょんぼりする新一。キッドなら、いいと思った。だが、今の彼には面倒でしかない仕事なのだろう。

「どうかされましたか?」

「いや、何でもない。・・・それより降ろせよ。」

「嫌です。」

そのまま、張り出された紙を見て、当てられた控え室へと向かう。

「もう、どうでもいいのなら、帰ったらどうだ?」

「中途半端にするわけにもいきません。」

どうやら、逃げる事は負けだと言い聞かされて、勝ち続けなければいけないらしい。

そういうところには厳しいので、黒羽家も大変だなと新一は思う。

「頂点に立ったとしても、この国王は信用しているけれど、皇子はどうかしらないですから。たぶん、お断りすると思いますし。」

とりあえず、目の前の敵を倒すのだと言う。

だが、新一にしてみれば、やっぱりキッドは駄目なんだと思って少し悲しかったり。

「それにしても、あれから大丈夫でしたか?」

「え?あ、ああ。大丈夫だったぞ。」

「それは良かった。あの後も、何やらおかしな動きがあったので、巻き込まれていたらどうしようかと思っていたのですよ。」

そう言うので、乾いた笑みで誤魔化す新一。

その真っ只中で逮捕劇をやった新一だ。巻き込まれるより、自らその中心へ行ったのだ。

心配させない為にも言わないが。

まだ話だけでもしたかったが、時間が来たらしい。

案内の者に呼び出される。

新一を置いておくわけにはいかないと、案内の者に聞くキッド。

ちなみに、その案内は新一も相手もよく知る者同士。

「・・・いいでしょう。」

案内役だった真がそれだけいい、新一もキッドの後ろについて舞台がある会場へと出たのだった。

 

 

 

 

 

ずっと、見事に勝ち続けていくキッド。

真に彼の事をと頼んだので、安心して目の前の敵に向かう。

キッドは知っている。真が腕がいいこの国の護衛だという事を。

「・・・真さん。」

「わかっています。・・・黙ってますよ。」

「ありがと。」

最初は真も驚いた。脱走した相手が選手控え室にいたのだから。

「・・・彼、ですか?」

「・・・。」

彼とは、以前助けてくれた相手のこと。名前や素性はいわなかったので誰も知らないけれど。

新一は本来人見知りをする方だ。家が家で、いろいろ狙われるからである。

だが、キッドにはそんなことが無かった為に、付き合いの長い真は気付いたのだ。

「彼が、一番の有力候補です。・・・心配しなくても、大丈夫だと思いますが?」

真が言うが、違うんだと首を振る新一。

「あいつはただ、上を目指すために今ここにいるんだ。」

その言葉が何を意味するかわかった真。キッドを継ぐ者は同じ枷を受ける。

「・・・ですが、知れば・・・。」

首を横に振る新一。

「邪魔、したくないから。」

「・・・。」

それ以上、真は何も言わなかった。新一も同じ。

その間にも、キッドはどんどん勝ち上がっていった。

そして、最後の決勝戦だった。

もう二人、候補としてあがっていた服部家と白馬家の者はどちらもこの男によって、場外反則で負けになっていた。

理由はわからないが、それは一瞬の出来事だったらしい。

その相手が今、キッドの前に立っている。

だから、新一はとても心配だった。

だが、時間は来て、開始の合図がなされる。

しばらく攻防が続いた後、キッドが攻めに入った。相手は押され気味で、これなら大丈夫かと思った。

「・・・やはり、あの男。」

真はずっと、あの男が何をしでかしているのかと、目を放さないでいた。

だが、何かをしたのは前の試合で二回だけ。服部家と白馬家の際にだけ。

同じような状況になり、今回でやっと見極められた。そう、登録されていない、未確認のもの。

つまり、この場所で使用を認めていないものが彼の左腕の装備されていた。

「どうした、真。」

少し様子が変わった真に、どうしたのかと聞く新一。

「相手が反則を行っています。」

すぐに国王へ知らせてきますと、すみませんと一言言って新一の側を離れた。

だが、その気配に気付いたキッドが余所見をしてしまった。新一の方を見たのだ。

「あ・・・っ。」

新一も気付いた。こちらをキッドが見た瞬間に、男がそれを持ち出そうとしたのだ。

「キッドっ!」

走って近づき、叫ぶ。

キッドは気付いて避ける。しかし、次の攻撃が止む事はない。

止めさせなければいけない。

新一は飛び乗ってキッドに飛びついた。

「ほぉ。何かと思えば・・・。なら、勿体無いが、お前から始末してやるよ。」

はっきりと見せたそれ。左腕はすでに人のものではなかった。

禁忌を犯したり、呪いを受けた物が持つような異様なもの。だが、この男に関しては、自ら操れるこの腕を手に入れたのだろう。

駄目だと、新一はキッドの前から動かずに抱きついたまま。

「新一。」

ぎゅっと押さえつけられて、動くなといわれては避けようにも間に合わない。

 

 

 

ピ――――――――――――――――――――――――――ッ

 

 

 

新一は首から提げていた紐に付けられた小さな笛を思いっきり吹いた。

その音が会場中に響き渡り、男がそれを降り降ろして、観客が皆息を飲んだ。

だが、それが新一とキッドに届く事はなかった。

それを押さえて間に入ってきたものがあったからだ。それは、真の愛用の刀。

強い力で上へとあげられ、後ろに倒れそうになった男の首へ、綺麗に飛んだ蘭が蹴りで一撃を加える。

「・・・そのまま倒れると、貴方の背中はしばらく痛むわよ?」

いつの間にか、真横に立っていた黒髪の女が告げる。

だが、そのまま倒れると、本当に皮膚が熱く、ひりひりし、慌てて立ち上がる。

「迷惑な方への撃退用だから、きくでしょう?」

いつのまにかその場所は何かが零れていたらしい。

その中身を入れていたであろうビーカーを持った白衣の女が左側に立っていた。

男は知っている。この者達が何者なのか。

この国を守る最強の護衛団だ。

ただの護衛ではなく、それぞれ役職を持っているのだが、これだけ集まっては太刀打ちできない。

慌てて男は逃げようとその台から降りた。

だが、その台を背中にして持たれている二人の男が言う。

「気をつけな。ここには何が埋まってるか、わかんねーぜ?」

「だから、案内がいるんだ。従わねーとドカンだぜ?」

煙草を捨てて、靴で消したサングラスをかけた無愛想な男と、長髪で笑みを見せる男。

この二人の姿を見て、さらに慌てる。

「それぐらいにしておいてやったらどうじゃね。」

と、男が唯一逃げられる入り口のある場所から出てきた白衣を着た老人。

さすがに、これだけ集結したことにキッドも驚きが隠せなかった。

国王が、最後に言葉で処罰を決める。

「反則により、処罰を下す。・・・松田、萩原。」

「承知いたしております。」

「さぁて、行くぜ、お馬鹿さん。」

男を両サイドから逃げられぬように捕らえて歩き出す。

このやりとりに、観客は言葉が一切なかった。

「えっと、新一・・・?」

驚きで固まっていたキッドだが、やっとでた言葉で新一の名前を呼ぶ。

「良かった。」

どうやら、助かったようなのだが、キッドとしてはいまいち状況がぴんとこない。

「まったく。危ない事はしないでほしいわ。」

「予言で分かっていたけれども。心臓に悪いわ。」

「そうよ。考えて行動してよね、新一。」

「これこれ、志保君も紅子君も。そんなに言ってやるな。それに、蘭君。この場では駄目じゃよ?」

「あ、そうだったわ。・・・すみません、新一様。」

「お怪我がなくて、何よりです。」

と、新一を立たそうと手を貸す真。

「これにより、勝敗は決まった。・・・彼の者を我が息子の新たな護衛とする。」

と、国王優作の言葉が響いた。

だが、それを止める言葉が出た。

「父さん。こいつはやる事があるから、駄目だぞ。」

「ま、話は後で聞く。とりあえず、戻ってきなさい。いいかげん、大人しくしていておくれ。そして王位を継ぐ者だと自覚しておくれ。・・・二人を丁重に案内してあげなさい。」

その言葉に、護衛である彼等は頭を下げて、二人を案内するために連れ出す。

ここでやっと、新一がこの国の皇子だとキッドは知ったのだった。

 

 

 

 

 

人もまばらになった頃。

王座の前には新一とキッド、そして護衛をしている者達がそこに集結していた。

「さて。まずは聞こうか。キッド。・・・皇子の護衛をするこの一団に入るか否か。」

その言葉に、最初は興味がなかったが、皇子が新一ならば別である。

だから、入らせてもらうという方を答えとして選んだ。

最初と言っている事が違っていたので新一は驚いていたが、その様にただただキッドは苦笑するだけ。

「では、キッドを正式に入団許可する。・・・今日より、教育係り兼護衛の任をしてもらおう。」

「はい。仰せのままに。」

頭を下げて、誓うキッド。

「では、同じ護衛の者達の紹介をしておこう。」

その言葉に、順番に端から名乗る。

「私は導き手兼護衛の『紅の魔女』の小泉紅子よ。」

「主治医兼護衛の『科学者』の宮野志保よ。」

「食事係兼護衛の『メイド頭』の毛利蘭よ。よろしくね。」

「剣術指導兼護衛の『騎士団隊長』の京極真。」

「危険物処理兼護衛の『偵察班隊長』の萩原研二だ。」

「同じく危険物処理兼護衛の『情報処理班隊長』の松田陣平。」

「わしは送迎兼護衛の『研究者』の阿笠博士じゃ。」

「私は報道兼護衛の『警備隊隊長』の佐藤美和子よ。」

「僕は送迎兼護衛の『警備隊補佐』の高木渉です。」

と、綺麗に自己紹介をしてくれた。

「今日より、お前は『教育係兼護衛』の『キッド』だ。」

キッドという名だけで、役職のようなもの。

「新一。部屋まで案内してあげなさい。」

どうやら、他の者達は仕事があるようで、それぞれ散っていった。

新一は聞きたそうにしているキッドを無視すると決め込んで、すたすたと歩いて行った。

 

 

 

 

「ここが、俺の部屋。お前はこの右隣。左隣が志保で、さらに隣が紅子。向かい側が蘭で、その右隣が真。左隣が博士で、真の隣が研二で、さらに隣が陣平。わかったか?」

見事に、護衛団のメンバーがそろっているらしい。

まぁ、何かあればすぐに動けるようになのだろうが。

「部屋でいるものがあったら言ってくれ。」

じゃーなと部屋に一人引っ込もうとする新一の腕をつかんだ。

「あの・・・。」

「何だよ。」

「その、知らなかったとはいえ、すみませんでした。」

最初、やる気はないと言っていたのだから、本来はここに混ざるはずの無かった自分。

皇子なんて、国王がよくても見た事も会った事もない奴なんてどうでもよいと言っていた。

だから、謝ろうと思っていた。その言葉は知らなかったとは言え、新一に不快な思いをさせてしまっただろうから。

「別に、言ってなかったからいいだろ。それに、皇子と聞いて媚売ってくる奴はいらねーし。」

これ以上話はないと言わんばかりに中に引っ込もうとした。

だが、ここで逃がすわけにはいかない。

ちゃんと、話がしたいのだ。

「新一のことは知っていますが、皇子である新一は何一つ知りません。」

「・・・。」

「ですから、今日一日。私に時間をいただけませんか?もっと貴方を知るために。」

頬に添えられた手が、下を向いていた新一の顔を上に向けさせる。

「興味がないと言った理由は、貴方に再び会えたからです。ずっと、貴方を探していたのです。」

ですから、もし新一が・・・新一様がお気に召さないのでしたら、すぐにでもこの城から離れましょう。しかし、側にいてもよいのなら、今部屋の中に通していただけませんか?と聞くと、ドアを閉めようとノブに添えていた新一の手が離れた。

「ありがとうございます。」

「・・・様はいらないからな。」

「わかりました。新一。」

今まで新一と呼んでいて、これからもそう呼んでもよいのだと許可をもらえて、うれしいキッド。

「なぁ。お前の名前。知ってるけど、ちゃんと聞いてないぞ。」

「それは失礼しました。改めまして、今日より教育係兼護衛をさせていただきます『キッド』こと、黒羽快斗と申します。」

「・・・よろしく。」

ふわりと抱き上げられた。今日やあの日と同じように。

「やっと、見つけましたよ。本当に、探してしまいましたよ。」

「ごめん。」

新一の情報は一切なく、最終手段が国王が開催する皇子の護衛選びのこの大会。

人が多く集まることと、もし護衛になれれば、見つけられなかった多くの情報を得られると思ったから。

「新一が皇子なら、尚の事大歓迎ですよ。」

「でも、お前。」

「大丈夫ですよ。・・・新一の中での一番になってみせますから。」

今はきっと意味がわかっていないだろうけれど。

こうして、新しいメンバーが増えたのだった。

 






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