時は流れ、庭で昼寝をする新一と見つけた志保は、見なかった事にしてその場から立ち去った。

キッドの膝の上ですやすやと眠っている新一の姿があったのだ。

一瞬、キッドと目線があったが、無視しておく。

「それにしても。」

自分達の前では素を暴けだすし、無防備にもなるが、キッドが来てから今まで以上に警戒心がなくなっていった。

まぁ、自分達がいるし、四六時中キッドが側にいるので大丈夫だろう。

「・・・あれでまだだなんて、信じられないわ。」

そう。城の者達誰もが気付いているのに、実はまだ主と従者の関係をやっている二人。

どちらもお互いが好きなくせに何も言わないから変わらない。

そもそも、前に話をしている段階では、新一が恋心に気付いていないのだということを知った。

それにはキッドに哀れみを感じた。

しかし、大事な皇子様の心を持っていった男にそれ以上同情はなく、わざわざ教えてやる義理もない。

「でも、鬱陶しいのよね。」

何か方法がないかと、紅子に相談しようかと考える志保だった。

その頃。

「・・・うー・・・・・・ぃと・・・ご・・・め・・・。」

「いいよ。まだ眠かったら寝てても。」

「うん・・・。」

少しだけ開いた潤んだ蒼い瞳。眠そうにしていて声をかければ、また閉じられて眠りの世界へと旅立っていく。

「いつまで経っても、貴方は変わりませんね。」

あの日も、こうやって無防備にも眠っていた、愛しい存在。

手を出す事は周りも許さないだろうし、嫌われたら地獄に叩き落されるような状況になるだろうから、いまだに前へは進めない臆病者だけれども。

もしなにかあれば、必ず守ろう。好かれていても、嫌われていたとしても。

 

 

 

 

 

「キッド。丁度良かったわ。」

新一へ読書の合間の珈琲のおかわりを入れて歩いていたら、紅子に呼び止められた。

一刻も早く戻りたいが、最近不穏な動きが見せる中、情報交換は必要なのだ。

たいてい、志保か紅子が他から集めた情報をまとめて持ってくるために、無視するわけにはいかないのだ。

「明日、正式に国王様の引退と、新一様の王位継承の発表がなされるわ。・・・もちろん、時がくるまで儀式はされないけれど。」

「そうですか。」

「それで、気をつけて頂戴。まだ、反感を持つ者が残っているようなの。」

平和な国であるが、だからこそ反感を持つ裏の人間というものがいるのだ。

「しっかり、見ていてちょうだい。外はこっちに任せてくれてもいいけれど、中までは間に合わないわ。」

「わかりました。」

では、珈琲が冷めますからと、踵を返して部屋へと向かう。

部屋に入って消えた背中にぽつりと呟く言葉。

「いいかげん、気付きなさい。馬鹿者。」

新一の気持ちもキッドの気持ちも知っているからこそ、思ってしまう。

「予言が現実にならん事を・・・。」

導き出された予言は二つ。どちらに流れるかはわからない。

何故なら、新一自信が未来を変えてしまう力を持っているから。

だからいつも、二つの未来を見る。しかし、三つ目の未来へと変わる事もある。

最悪な未来にだけはならないようにと願う。

「弱気になってちゃ駄目よね。」

深呼吸をして、その場から離れた。

彼等の話を盗み聞きするなんて野暮な事はしたくないから。

なぜなら、魔女はとても耳がよいから。

 

 

 

 

本を読んでいる最中になくなった温もり。

どうしたのだろうと見渡しても姿はない。可笑しいなと思えば、部屋をノックする音が聞こえ、探していた人物が入ってきた。

その手には、新しく入れられた珈琲のカップを持って。

「読み終わりましたか?」

近づいてきて、カップを新一の方へ差し出す。

「・・・。」

「離れていて、すみません。ほら、おかわり入れてきましたよ。」

カップを受け取って、それを一気に飲み干す。

ほどほどの温度にしているので、火傷するようなことはないとわかっているからだ。

「最近、寂しがりやになりましたね。」

「・・・お前が甘やかすからだ。」

「甘えて下さるのはうれしいですよ。ただ、他の方には無防備にならないでいただきたいだけです。」

むうっと怒って、そんなに頼りないのかよと文句を言う。

「頼りないのではなく、頼ってほしいのですよ。それに、私が嫌なのですよ。」

「・・・どうしてだ?」

「・・・そのうち、わかりますよ。」

「今は駄目なのか?」

「今は聞かないで下さい。お願いします。」

もし否定されたらと思うと、言えない言葉。今日も新一に隠して腕に抱きしめてそれ以上問わせないようにしてしまう。

「本はもう、よいのですか?」

「ああ。読めた。新しいのはもうないし。」

だから、寝ると言う。

駄目だと言っても、聞かずにずっとこの本を読み続けていたのだ。眠いに決まっている。

本を横に置いて、キッドを手招きする。すると、やさしい腕に包まれる。

「女史に怒られますよ?」

「・・・。とりあえず寝る。」

怒られるのは嫌らしいが、眠気にも勝てないらしい。

キッドの腕の中で、大人しくなる新一。眠気で重くなっていく目蓋。

とろんとした、蒼い瞳が隠されていく。

「おやすみなさい。」

ベッド上に運び、寝かせて部屋を出ようとしたが、ぎゅっと服を攫んで放さない新一の手があった。

その手に苦笑しながら、戻ってきて、腰掛けるキッド。

「近くにいる事を許していただくのは光栄ですが・・・。危ないですよ、新一。」

額にキスをし、寝顔を見つめる。

寝ているところにキスをすることはたまにある。そこまでは許してほしい。頬や額だけれど。

 

 

 

 

 

 

そして、あの場所で再会してから三年。新一の十七回目の誕生日がやってきた。

そして、警戒していた事態も起きた。そう、とうとう動き出したのだ。今まで情報でちらほら出てきていた輩が。

 

 

 

新一の部屋で、キッドと紅子と志保が服装のチェックをしていた。

「これって、結構無駄な出費だよな。」

新一自身が好きではないので、これでも王族としてはシンプルなもの。

だが、王族は国民の税で生活しているようなものでもあるから、こういった出費を嫌がる新一。

食事も無駄に多い量を作らなくてもいいのにといつも思う。

まぁ、そこは食が細い新一だからなのかもしれないけれど。

「そんなこと言わないの。」

「たまにはいいのよ。」

「そうですよ。それに、お金を使う分だけ、町にも戻りますから。」

町一番の仕立て屋と布屋は儲かっている事だろう。

まぁ、小さな国なので、そんなにそういった職人がたくさんいるわけでもないので、国の中でまかなうにはそれなりに儲けられるのだが。

その時まで、普通にしていた紅子が、突如表情を変えた。

「・・・動き出したみたいだわ。」

「やっぱり?なんかざわついてるんだよね。」

「しっかり掃除しとかないと。」

そんな三人の言葉を聞いて、ため息をつく新一。

だいたい、状況が理解でき、これから彼等が何をやるのかも想像できたからだ。

「あのな。いくらなんでも『掃除』という扱いはどうかと思うぞ?」

一応、彼等も彼等なりに考えて行動しているのだろうから。じゃなきゃ、ただの馬鹿だ。

まぁ、ただの馬鹿の可能性もあるけれど。

「抹殺されないだけもうけものだと思って頂きたいですね。」

「いいのよ。あんなのに肩を持たなくて。それに、手を差し伸べる価値もないわ。」

「もともと、反乱起こさなければいいだけの話なんだから。」

いや、何か文句があるから反乱をおこしているんだろうと思うのだが、これ以上は言っても無駄そうなので黙っていた。

しばらくして、部屋をノックするものが現れた。

「えーっと・・・。」

「どうかしたの?」

入ってきたのは高木だった。

「松田君と萩原君がちょっと・・・。」

「やっぱりね。」

「どうしたんだ?」

一人わかってない新一。今まで彼を遠ざけて事に及んでいたのだからあたり前の反応だが、今はそんなことを言っている暇はない。

「今すぐ出るわよ。」

「まったく、修理にどれだけ時間がかかると思ってるのかしらね。」

「いつも、一瞬で戻ってるらしいけど?」

「私の魔術のおかげよ。その後、しばらく動けなくなるのよ。」

まったくと言いながら、言い返す紅子。

状況はわかっているが、いったい何が始まるんだろうわかっていない新一は、突如キッドに抱き上げられた。

「え、おい、まさか・・・。」

「そのまさかです。」

「まったく、嫌になるわ。」

紅子は箒を取り出し、それを馬車のような乗り物に変えた。

それにあたふたしている高木を押し込んで、志保を乗せて窓から飛び出した。

「では、私達も行きますよ。」

「馬鹿、何考えてるんだよっ?!」

「もちろん、新一のことですよ。」

窓枠に足をかけたキッドが新一を抱えたまま、ふわり、と、宙に飛び出す。

突然のことで、思い切りキッドの服を攫んだ。皺になっている可能性が大きいが、今回は許してほしい。

その直後、城から盛大な爆発音が聞こえてくるのだった。

 

 

 

 

 

「なんなんだ?いったい。」

どうして城から爆発音がするのだろうか。そして、他の皆は無事なのだろうか?もしかして、これも全部やつらの仕業なのかとぐるぐる考えていた。

「まったく。迷惑な方々ですね。」

「あの二人に関しては今にはじまったことじゃないわ。」

「そもそも、私達護衛のメンバーが皆、めちゃくちゃだからどうしようもないわ。」

一応、彼等もめちゃくちゃだということは自覚済みらしい。

「で、何が起こってるんだ?」

「・・・今まで黙っていましたが、萩原及び松田の両名が、現在城にて、相手を迎え撃つ為に仕掛けた地雷や時限爆弾が発動し、外で活動中の普段はいない彼等も帰ってきているということで、かなりややこしい事になっているのですよ。」

「・・・あいつらか。」

だが、キッドは活動中で普段はいない彼等のことは知らなかった。まぁ、ほとんど城にいないのでしょうがないわ。

「あえて言うのなら、やむえない場合に関しての、戦闘部隊よ。・・・もし戦争なんて起こるのだったら、戦場で暗殺部隊として働いているでしょうね。普段は外で気ままに仕事をしているみたいだけれども。」

「この国で悪さをしないために契約を交わしたのよ。まぁ、命を助けられた恩があるようだから、刃向かうなんてこと、しないのだけど。」

で、それが誰なのかと聞けば、驚く名前だった。

「ベルモット、ジン、ウォッカの三人よ。」

「って、ちょっと待って下さい。彼等って!」

「そうよ。世界でも名の知られている、裏業界でかなり有名な暗殺者達よ。」

そんな三人とつながりがあるとは。驚きを通り越して呆れてしまうかもしれない。

やはり、あの国王は只者ではない。

「あの三人帰ってるのかよ。」

「あとで、挨拶に来るんじゃないかしら?とにかく、今は隠れてましょう。」

「高木さん。・・・状況、わかる?」

「あ、はい。えっと、城門付近で不審者発見。その際に萩原及び松田の両名が仕掛けた仕掛けに引っかかり自爆。重症を負うにも、命はあるようです。佐藤がそれを回収したのち、広場へ放置。その後、町で暴れる者達は、ウォッカ及びジンの両名が回収。城に侵入した物はベルモットが壁に貼り付けにして捕獲・・・。やはりこちらも広場へ放置。その後、盛大に迎えるためということで、仕掛けた時限爆弾にて、城の大半が爆破。これも広場へ放置。といった状況です・・・。」

性格に伝えてくれるのはうれしいが、戻ってからの仕事を思うと嫌でしょうがない紅子。

「・・・帰りたくないわね。」

「せっかく完成に取り付けた薬品もぱぁね。」

「一人残らず回収していただけるとよいのですが。」

それぞれげんなりしている三人をおろおろしながら見て、さらに言う高木。

「えっと、毛利及び京極の両名が、回収及び捕獲しそこねた残党は回収しているはずです。あと、鈴木財閥の協力の元、包囲網は完成。逃げられることはないかと思います。捕らえたものから広場へ全て放置されています。なので、広場には近づかないのがよいかと思います。」

聞けば聞くほど、少し反逆者を哀れに思う新一だった。

そして、広場の利用者には迷惑をかけているなぁと思いながら、反逆者の山を思ってため息をつくのだった。

 

 

 

 

 

しばらくして、ベルモットが姿を見せた。

「クールガイ、久しぶりー。」

飛んで快斗達のいる木の上へとやってきたベルモット。さすがというか、身軽だ。

「命を狙われるなんて今に始まったことじゃないけれど。相変わらず美人ねぇ。」

相変わらずなのりで、ベルモットが新一を抱きしめる。奪われたということで、むっとなる快斗がベルモットから奪い返す。

「ったく、心の狭い男ね。嫌だわ。」

「うるさい。」

「ま、いいわ。もうすぐしたら片付くから、帰ってらっしゃい。・・・生誕祭、やるわよ。ついでに、婚約の発表もするみたいよ。」

クスクスと笑みを見せて、降りて去って行った。

「婚約者・・・?」

「どういうこと?新一。」

もしそれが新一の願うことなのなら、快斗は心を偽って側にい続けようと思った。

その時が来てしまったのだと思いながら。

「誰だよ。ったく、勝手に決めやがって。」

このように、新一は乗り気ではなく、反対に今知ったといった感じだ。

なら、新一が側にいることを許さない相手なら絶対に認めないと密かに誓う快斗だった。

側では、やはり馬鹿ね、婚約者が誰なのか知っている志保と紅子は呆れているのだった。

 

 

 

 

 

騒動が落ち着いて、生誕祭が出来るように紅子が急いで城を戻し、広場に集められた人の山を片付けて(邪魔なので一時的に牢屋へ放り込んでおいて)始める。

新一の誕生日を祝うもので集まった中に姿を見せる。

本当ならこの日まで姿を見せないはずだったのだが、三年前に急遽見せてしまってから、誕生日には顔を見せるようにしていた。

そして今年、王位を継ぐ。

・・・いつの間にか、誰かと交わされた婚約も発表される。

「このたび、王位を継がれた新国王は共に歩む者として婚約を結ばれることになりました。」

蘭の説明の元、知らされる事実。そして、紹介された人物に驚くお互い。

「え?なんで?」

「私がですか?」

お互いどうなっているのかわからずあたふたする。

新一の相手として紹介するように前に出されたのは『キッド』だった。

もとから似ている二人なので、兄弟のようだと国中から言われていたけれど。それに、この国では結婚は異性でも同姓でもできる国。

確かに問題はないのかもしれないが、どうしてか回りは皆普通の反応。

実際、この二人が気付いていないだけで、どこに行くにも一緒であれだけ甘い空気をかもし出していたら気付くというもの。

反対に祝福されるような事態になって、二人ともお互いの気持ちを言いあっていないために慌てふためく。

「ごめんな。なんか、巻き込んだみたいで。」

キッドとして、頂点を目指すと言う枷を持つ快斗。自由でいるはずの彼を縛ってしまうことになるので、謝る新一。

新一としては最近この気持ちを理解したのでうれしいけれど、迷惑をかけたくないという思いが残っているが故に、すぐに婚約なんて解消してやるからと言う。

しかし、キッドの答えは違った。キッドも、これを逃すと二度とチャンスはこないと思ったから、駄目かもしれないが、今の思いを伝えるのだった。

「私はあの日、出会ってから、新一に心を奪われました。再会して、今日までの間、この思いは募る一方です。もし、新一が許してくださるのなら、生涯のパートナーとしてお側にいさせていただけませんか?

差し出される手。突然の思ってみなかった告白に、驚く新一。

だけど、気持ちが同じならと、手を取らずに首の後ろに手を回して抱きついた。

「さて。熱いお二人さん?誓のキスをここでしてもらいましょうか。」

キスなんて、頬になら挨拶でするけれど、口だと言われて、それも人前で好きな相手となんて、顔を真っ赤にして本当にしなければ駄目かと他の者達に聞くその姿は悪い。あの目が非常に悪い。

「さっさとして頂戴。」

「新一。誘惑しては駄目ですよ。」

「誘惑なんてしてないぞ?」

わかってないこの人は、無意識に人を誘惑するので、これからも苦労は耐えないでしょう。

「とりあえず、部屋に早く戻るためにね。」

片手を新一の腰に沿え、もう片方の手を新一の頬に触れ、優しい触れるだけの短い口付けを交わす。

その後に、聞こえる声や歓声に、状況を思い出した新一は、すぐさま奥へ引っ込んで逃げた。

あとは任せるとキッドに追いかけさせて、残った者達で、盛大にその日は騒ぐのだった。











思いがけなかったことだったけれど、貴方が許してくれるのなら、側に居続けよう。

そして、守ろう。大切な貴方を。







「新一。」

部屋に戻る廊下で見つけた後姿に名前を呼び、腕を攫んで捕らえて振り向かせる。

「いいのかよ。お前。」

どうして、もっと早く気付かなかったのだろうか。彼はこんなにも態度で示してくれていたのに。

「お前はやることがまだまだあるんだろ?」

「ですから、これが私の望んだことですよ。・・・前にも言いましたよね?貴方の一番でいると。側に居続けると。お忘れになられましたか?」

首を横に振る新一。泣きそうになっている彼は自分に飛びついて顔を隠した。

「どこにも、いかない?」

「ええ。貴方が望むのなら。」

他の誰よりも、貴方が大切だから。

 





     あとがき

相互リンク、どうもありがとうございます、あゆsama
リクエストいただきながら、内容がこんな風に方向ずれていってすみません
最終的に行き着いた場所は、やはりファンタジーでした。汗
書き直しはいくらでもしますので、いくらでも言って下さいね。
あゆsamaのみお持ち帰り可能です。



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