白い影が世間から消えた 長年追い続けてきた刑事のもとへ送られたカード そこには、キッドはもう現れないと本人からのメッセージが書かれていた 丁度、クリスマスが来る少し前 キッドが、快斗が工藤邸からいなくなって数ヶ月 彼がいたときと同じように、待つために お隣の少女も驚くほど、しっかりと食事をする探偵 もう、探偵の誕生日は過ぎた タイミングよく届けられた誕生日カード それを見て、うれしさとともに、寂しさが溢れた きっと、事前によういされたものだろう でも、探偵には今は何よりもうれしいものだった そして、あの怪盗との約束の、怪盗の誕生日がもうすぐやって来る 怪盗が落ちてきた日+++お帰りなさい 快斗が出て行ってからもうすぐ半年が経つ。丁度、12月21日に彼は姿をくらました。 最初は追いかけていたが、途中でそれを新一はやめた。 帰ってくるという言葉を信じていないみたいで、嫌だったから。でももし、21日を過ぎれば、絶対に探し出して会いに行くと決めているが。 それがたとえ命の危険が伴う場所であろうとも。 「工藤君。」 「大丈夫だよ。灰原。・・・それに、あいつは言ったから。」 あの日だけは約束を違えたが、今度こそ、きっと守るために帰ってくるだろうから。 あの日の言葉を信じて、ただただ新一は彼の帰りを待つのだった。 帰ってきてかえって心配させるようなことがないように、普段は無関心だった睡眠や食事にも気を使うようになった。 一人ということに寂しさを覚えるようになったから、今ではちょくちょく哀や博士が来たり、隣へ行ったりして食事をするようになったが。 食器の片づけをしていたら、携帯から着信音が聞こえてくる。 何だろうとメールを見ると、また、あの男がこちらに来るという連絡。といっても、本人からではなく、自分のことを知っている蘭からだった。きっと、和葉あたりから聞いて連絡をくれたのだろう。 あの男が連絡なしにくることはよくあったから。 「・・・迷惑な人ね。」 「・・・。」 どうしようと考えていた時、再び反応を見せる携帯。今度は目暮警部からの電話だった。 「はい。」 「工藤君。」 「どうかしたのですか?」 「それがだな・・・。」 話が長くなるので、今から迎えを寄越すから来てくれないかということ。あの男と会わないで済む確率が高くなるので、はいと答えた。 「今日は思う存分行ってきなさい。」 「いつもそういってくれるとうれしいよ。」 「馬鹿言わないで。無茶する貴方の為に制限しているんだから。」 あの男はきっとここへ直行してくるだろうから、その相手をしておいてあげるからと追い出す哀。 ちょうど、外に迎えの車がやってきた。顔馴染みの刑事、高木だった。 「ごめんね、せっかくの休みに。」 「いえ。気にしないで下さい。」 それに、今日は土曜日だからもういいやと休んだだけだから。 ちらりと、側にあるカレンダーに目をやる。だが、すぐに目線は高木に戻り、そのまま出かけた。 哀は新一を見送った後、そのカレンダーを見る。 「はやく、帰ってきなさいよ。」 明日は20日。約束の日の前日。 最初におめでとうと言いたかったなと思いながら、すぐに探偵の顔になった新一は、警視庁へと向かう。 新一が出かけてから数時間後に、あの迷惑な客は姿を見せる。 しかし、哀に捕まる前に逃げて、慌ててメールを入れる哀。電話はいつも警視庁では切っている彼だから、繋がることはない。でもこのままでは、あの男が新一のもとへ行ってしまう。 どうか、メールに気付いてと願いながら、送る。 「と、いうわけなんだ。」 内容を簡単に説明されて、聞いていた新一は目を通していた資料を閉じた。 今回のことは、潜入捜査。犯人はわかっているが、証拠がない。しかし、見つけようと思えばちょうど明日に犯人が主催しているパーティがある。そこに、関係者が集まるという情報と、さらに何かを企てるという情報があり、今度こそ捕まえると準備をしている。 だが、刑事とばれてはいけない。そして何より、そこの招待状がない。しかし、新一の父親、つまり優作が手配して招待状はすでに手元にある。 あとは明日を迎えるだけだが、潜入するメンバーとして、本当は巻き込みたくはないのだが新一もと言ってきている。 実は、同時に捜査している事件でも動きがあり、そちらに人数が取られることと、そういった場で慣れていて対応が出来る者が少ないために、子供の頃からパーティといったものに免疫のある新一に頼んできたのだ。 「いいですよ。・・・明日ですね?」 「ああ。ただし、無茶はせんでくれ。」 本当に、今回のことは巻き込むつもりはなかったから。彼は二件の新一の身に起こったことを知っているから、余計にそういった場へは出さないようにしようと努めていたのだ。幼い頃から知っていて、息子のように可愛がっていたから。 だが、今回はしょうがない。新一の力がないと駄目なのだ。自分も、本当は向かいたいが別件で借り出されている。だから、自分の代わりに警察を動かせる彼に頼むしかない。 明日の昼ごろに来てくれと頼み、それにはいと答える新一。そして、話はそれで終わるはずだった。 「待って。」 佐藤が帰ろうとする新一の腕を攫んだ。 「どうかしたのですか?」 「えっと、今日は私達と泊まらない?」 「そうした方がいい。」 さっきまではすぐに帰りなさいと言っていた目暮までがそういう。 実は、外で待機している番の者が、服部が姿を見せたことを知られたのだ。警視庁の人間にとって、新一はなくてはならない存在で、少なからず誰からも好かれて恩を持っている者が多かった。だから、知った時はなるべく彼とはあわせないようにと、無線を使って連絡を取り合っていたぐらいだ。 「・・・彼が、こっちに来た見たいなの。」 それを聞いて、身体が強張る新一を見て、行きましょうと出口とは反対の方向へと向かう。 服部でも入って来れない場所。関係者以外立ち入り禁止の中にある個室。 中に入った後、先ほどまでいた部屋に現れ、目暮の嘘を聞いて、嘘だと言ってなかなか帰らない姿があった。 新一は、哀はどうしたのだろうかと携帯の電源を入れて、メールに気付いた。 「・・・悪いな。・・・見損ねたよ。」 だけど、哀同様に守ろうとしてくれる人がいたから、今は大丈夫。迷惑をかけていることには違いないがと、新一は思うが、周りにとっては、もっと自分を大切にして周りを迷惑といわずに頼ってほしいと思っているのだが、まだ、彼には届かない。 こうして、一夜を警視庁で過ごした。もちろん、哀にはメールを入れて。 次の日。朝から佐藤と高木に外へ連れ出されたかと思ったら、高木の家に連れて行かれてお風呂に入って、潜入用に変装した。 もちろん、二人もしっかりと正装していた。ただ新一にとって予定外だったのが、今の格好だ。 「あの・・・。」 「大丈夫。可愛いから。」 鏡に映ったのは、自分の顔をした女の子であった。まだ、服部がうろうろしているし、何より大阪であった事件の容疑者の一人がそのパーティに出席するということで、彼の父親も出席する。そうなると、鉢合わせる可能性だってあるから、変装をかねて性別も偽ることにしたのだ。 だが、新一にとってはいつも見る顔のままだったのでばれるのではと心配だったが、佐藤が言うように、綺麗な女性に変身させられているため、気付かれることはないだろう。 「今日は一日、よろしくね。ほら、高木君。車で出るわよ。」 「はい。」 まだ納得できないが、遅れては大変だと車に乗り込む二人に合わせて乗り込んだ。 今日も一日は長そうである。 会場に向かい、そこに現れる人物達を見て、さらにため息が出る。何気に親の関係で知っている人物もいたからだ。なので、女装で良かったかもしれないと思う反面、藤峰有希子と似ていると言われたらやばいと、気を引き締める新一。 三人は車から降りて、会場の中へと向かう。すでに、白鳥や千葉を含めて五人ほど中に入っているだろうから、彼等を一度合流する為に、招待状を見せて中に入り、待ち合わせ場所へと足を運ぶ。 そんな彼等はまだ、この先何が起こるかなんて知らない。 それが偶然か、奇跡か、それとも・・・作為的にか・・・。 中に入ると、いかにも無駄にお金を使っていますという感じで、本に関してはうるさいが、それ以外では両親が両親なのでお金はあるが、庶民派な新一にはわからないものだった。 「こら。未成年がお酒飲んじゃ駄目でしょ?」 少し離れていた佐藤が戻ってきて、新一に言う。 「一応、年設定が年設定なので、いいかなと思いまして。」 「そうね。じゃぁ、私と一緒に飲むわよ!」 少し目が輝いたような気がする。気のせいだろうか。・・・そう思いたい。 「さ、佐藤さん。今、仕事中。」 おろおろと止めに入っても、言いくるめられる。彼女の言い分では、時間が来るまでは動かないから、それまでは飲むわよということ。それに、いつまでも端っこで立ってるだけで回ってくる使用人達がどうぞと差し出してくれるものを断るのも怪しいし、せっかくなのに断るのが勿体無いということ。 ですがと高木が言う前に、すでに使用人からお酒をグラスに貰っている佐藤がいた。彼女の飲みっぷりは知っているし、飲みすぎるとどうなるかも知っているので、新一も慌てる。 「佐藤さんっ!」 二人に呼ばれても、いいのよと言って飲む。どうやら、相当周りの視線や声をかけてきたりするのが鬱陶しいようだ。・・・佐藤に新一。二人もの美人がそろえば、自然と注目されるし、それと一緒にいるのが高木なのだから、誰もが声をかけてお近づきになろうとするだろう。 それが、佐藤にとっても新一にとっても、鬱陶しいものだった。だから、わからなくはないのだが・・・。 「佐藤さん。飲みすぎてはいざって時に動けませんよ。」 「そうね。それが問題なのよ。」 それなりに、お酒を飲みすぎたらどうなるか自覚しているようだ。なら、ここで頑張って止めよう。 「それに、主催者も現れましたし。」 すっと、視線を向けた方を佐藤と高木も見る。そこには、ステージに立とうと段を上る主催者の姿があった。そして、挨拶がなされ、袖に引っ込んだ。 「・・・どうやら、そろそろはじまるみたいですよ。」 「そうね。なら、飲んでられないわ。」 祝い酒にして飲んでやるわと気合の入る佐藤。 その後、予定通り事が運び、証拠も押さえて白鳥と高木が相手を取り押さえ、連行していった。 もちろん、証拠を押さえ、トリックを見破って導いたのは新一だ。だから、これ以上この仕事で時間とられたくなかったからありがとうと、佐藤にお礼を言われ、何故か乾杯していた。もちろん、またお酒だ。 そろそろやばいかなと思っていたら、案の定佐藤はつぶれはじめた。しょうがないなと思いながら、千葉を呼び、そろそろ引き上げましょうと会場から出ようとした。 その時、背後から声をかけられた。 その声は新一が良く知る声で、出来れば聞きたくない声だった。その声に佐藤も千葉も反応し、振り返って背後にいる新一と相手の姿を確認して、近寄ろうとした。 だが、相手・・・服部は抵抗してもきつく新一の腕を攫み、彼等とは反対の方角へと歩いて行った。 慌てて佐藤に怒鳴られて千葉は追いかけようとするが、まだ、たくさんいる人の中を通っていかれて、見失ってしまったのだった。 「くそっ。・・・哀ちゃん、はやく出て。」 すぐさま携帯を取り出して、馴染みとなった彼のお隣さんへと電話をかける。 「はい。」 「ごめんなさい。服部君が新一君をっ!」 「・・・わかりました。・・・でも、今日は大丈夫です。ですから、とにかく外で待機していて下さい。後程連絡を入れますから。」 「わかったわ。待ってればいいのね。」 すでに酔いがさめてしまった佐藤は、千葉に行くわよと行って外へ向かう。彼が何事もなく出てくることを願って。 その頃、人がいない廊下の端に連れてこられ、壁に追いやられた新一は、震える身体をなんとか保ち、相手を睨みつける。 「そないにせんでもええやろ。・・・しっかり話つけよう思てんねん。」 逃げるから、時間がかかってしもたわという男に、やっぱり嫌悪感しかなく、早く抜け出したい思い出いっぱいだった。 「ちゃんと話聞いてや。わいはずっと工藤のことが好きやってん。」 「・・・していいことと悪い事ってものがあるだろ。」 こいつのせいで、しばらく人が触れるのが怖くなった。それに、付き合えないと、嫌いだとも言った。なのに、まだ言ってくる。本当にいい加減にしてほしい。 そもそも、自分は好きな人がいるとも言った。といっても、快斗がいってしまってからだったので、本人を合わせて諦めさせるという方法は取れなかったのだが。 その為、いないんやろとさらにしつこくなったこいつ。いい加減にしてほしい。それに、これ以上近づいてほしくないし、手を攫んで話さないこの手から逃れたい。 「いい加減にしろ。」 「わいはいつでも本気や。照れ屋やのはわかるけどな。」 まったく日本語が通じていない時点でしょうがないのかもしれない。 本気で嫌だと暴れても、押さえつけられて両サイドに腕で逃げ場を奪われてはどうしようもなくなる。 目の前には、あの時と同じ目がある。それを見た瞬間、がたがたと、震える。 怖い。嫌だ。 助けて。 助けて、快斗。 いないはずの相手の名前を呼ぶ。 すると、それに答えるかのように、聞こえた声。それは、自分が待ち望んでいたもの。 「快斗。」 「誰や。」 「初対面の相手に失礼ですよ。それに・・・新一から離れて下さい。」 容赦なく蹴りを入れようとすると、さすがに本能で避けたらしく、掠った程度。だが、新一の側から離すことは可能だ。 その隙に、快斗は新一の腕を取り、懐へと抱き込んだ。だが、それに服部が反抗してくる。 「何やお前。工藤にべたべたするなや。」 「そんなことを言われてもね。君は嫌われている。だけど、俺は好かれている。だから、問題はないと思うけど?」 さっきまで嫌がっているのに、無理やりはよくないよと言われても、引かない男。 背中に回った腕。感じるぬくもり。本物だと思うと同時に、彼の顔を見上げる。そこには間違えることなく、自分の待っていた思い人がいる。 こんなところで会うとは驚きだが、約束の日までに帰って来てくれたことがうれしくて、そしてまた一緒にいられるということがうれしくて、自らも腕を背にのばして抱きついた。 その様を見て、面白くないのが服部。服部の存在で、再び怖いという思いから震え始める新一の身体を少し強く抱きしめる腕。小さく大丈夫だよと言われると、まるで魔法がかかったかのように、震えは止まった。 「・・・本当に、いい加減にしていただきたい。」 闇を駆ける白を纏う怪盗の気配が現れる。冷たい瞳が服部を見る。さすがに今まで感じたことがないほどの圧力から、動けなくなる服部。 「・・・寝ていて下さい。・・・無事に起きれる保障はありませんがね?」 どすっと、鳩尾に一発入れる。それで崩れても、まだ辛うじて残る意識を途切れさせる為、背後に回って首に一発入れる。 これでやっと、相手は床の上に倒れこんだ。 「・・・新一。無事で良かったよ。」 「快斗。本当に、快斗だよな?終わったのか?」 「はい。全て終わりました。少々手間がかかりましたが。・・・ただいま、ありがと。新一。」 「お帰り。」 抱きしめあう二人。 しばらくそうした後、新一は佐藤に連絡を入れた。今いる場所を伝えて、服部ともども工藤邸の隣まで送ってもらえるように頼んで。 「本当にいいの?」 「はい。」 「大丈夫ですよ。新一に手を出させはしませんから。」 新一と一緒にいる時間が多くなったことで、快斗のことはすでに警察内部でも知られている。そもそも、中森警部のお隣ということでも、知られているから、覚えられるのははやかった。 そんな彼は、しばらくマジックの修行で新一の側からどこかへ旅立っているということは聞いていたので、帰ってきてくれた彼にお帰りなさいと言う。 結構気にしていたのだ。彼が旅立ってから、どこか新一は寂しそうにしていたから。 女の感というのか、鋭い佐藤はしっかりと気付いていたが。生憎少々鈍い高木は未だに気付いていなかったりもする。 |