怪盗が庭に落ちてきて、もうすぐ一年 今日は怪盗の生まれてきた日を祝おう 出会えた事に感謝しながら そして、これからも一緒にいられるようにと願って 月を眺めながら夜を過ごそう 怪盗が落ちてきた日+++月夜の誓い 会場から帰ってきて、服部をお隣に預けて工藤邸のリビングに落ち着いた二人。 それにしても、あそこに快斗がきてくれて良かったが、どうしていたんだと聞けば、哀に連絡が繋がらないからどこにいるかと聞いたらしい。 だから、哀も服部のことを佐藤から聞いても、すでに快斗が向かっていたので任せたのだ。 しっかり、現在お仕置き中らしいが・・・。恐怖が勝っている新一は頭の中から追いやった。助けてやる義理もないことだし。 今は快斗がいるから、一緒に過ごす時間を大切にしたい。 それにほら、もうすぐ日付が変わる。そうしたら、こいつの誕生日。 ずっと、言おうと決めていた言葉。 ほら、秒針が0を指した。 「おめでと。快斗。」 「ありがと。」 久しぶりに温かい腕に抱かれた。とっても温かくて、落ち着く。今日も、心音は聞こえる。彼が生きている証拠。その音を聞いて、本当に良かったと思う。彼が帰ってきてくれて。 「なぁ。」 「何?」 「・・・誕生日プレゼント。」 「どうかしたの?」 そう言ったっきり、少し黙る新一。顔は快斗の胸に押し付けているために表情は伺えない。 「用意してない。」 ぼそりと呟かれた言葉。その言葉に苦笑する快斗。きっと、いろいろ悩んで結局決められなかったのだろう。自分は新一がいれば良いと思っているから、何かほしいとも何も言わなかったから。 案の定、お前が行ってしまう前にほしいものを言っていかないからだと言う彼らしい言葉を聞いて、そうだね、ごめんと返す。だけど、顔には自然と笑みが浮かんだまま。用意してくれようとしていた気持ちと、待っていてくれてプレゼントまで用意してくれようとしていた彼の思いで、うれしさがいっぱいで、これ以上はもらえないぐらい充分気持ちというプレゼントをもらったので、別に気にしなくていいよと答えた。 だが、新一はそれでは嫌らしく、今すぐ何か言えとやっと目があったかと思ったら、睨みながら言うのだった。睨むといっても、快斗には効果はまったくないし、怒っている姿も美人さんだと綺麗だねということを思っていたが。 「そうだね・・・。」 とりあえずは、新一の存在を確かめて、このままゆっくりと時間を過ごしたいと、新一を抱きしめたまま言う。それに顔を真っ赤にして馬鹿というが、思いは同じらしく、大人しく腕の中に納まっていた。 半年振りに触れるお互いの肌、体温。だけど、半年前と変わりはない。 自然と合わされた互いの唇。やっぱり、自分が好きなのは快斗で、彼だけが側にいても気持ち悪さなど感じないと再認識する。 昨日は、あの男に手を攫まれただけでも、近くにいるだけでも・・・名前を呼ばれるだけでも恐怖と嫌悪感を懐いていたのに。 「快斗。好き。」 「俺も好きだよ。・・・愛してるよ、新一。」 「うん。」 気がついたら朝になってしまっていて、朝食を仲良くとったあと、新一の部屋で二人一緒にベッドの上に転がって、のんびりと時間を過ごした。寝ていても、もうこの腕はどこにもいかない。 この腕の中は安心する反面、離れてしまうと寂しさを感じていたから、もう朝になってどこかいってしまうこともなく、こうやってすぐ近くにあるから、余計に安心して眠る新一。 快斗にしてみれば、新一の全てをほしかったりもするわけで、無防備に寝る姿を見ると抑えるのは辛かったりもする。だけど、彼の寝顔を見れるまでにかかった時間と、その大切さから手を出す事はないが。 「・・・何処まで持つでしょう。」 その問いに答えるものはいない。 生憎お隣の少女も、馬に蹴られるのはごめんよと、朝から姿を見せないし、冷たい指摘すら飛んでこなかった。 なので、二人仲良く一つのベッドの中で抱き合って眠るのだった。 昼頃。 食事はしっかり取ってもらわないとと、やってきた哀。リビングは人気のなさが伺えるほど、シーンとしていた。 まだ部屋ねと思い、邪魔はしないでいようと思うのだが、やっぱり三食しっかりと食事は取って欲しいので、これでも朝は勘弁しておいたのだから諦めてもらうわよと、部屋へと向かう。 そして、目撃したのは、快斗に擦り寄って無防備に寝る新一の姿と、苦笑している快斗の姿があった。 「・・・別に、昨晩は何もなかったからね。」 「あたり前よ。精神的にも受け付けない男が現れて、それでなくても事件で忙しかった彼にゆっくり休ませてあげなくて手を出すなら、容赦なく貴方も地下への招待状をさしあげるわよ。」 今なら迷惑なお客と同等扱いではなく、少し優遇してあげるわよと言われても、そもそも地下へなど近寄りたくもない。こういう点では快斗も哀には適わなかったりする。 「・・・お願いだから、それは・・・。」 「それより、昼食食べて頂戴。」 隣で作ったものを持ってきたわと言う哀。さすがに二人の会話の声で、起きる新一。 「快斗?」 もぞもぞと動いて起きようとする新一。そして、哀の存在に気付いて顔を紅くして布団に潜り込んでしまった。 「そんな馬鹿なことしてないで、早く降りてらっしゃい。」 これ以上は見ていて目の毒だと去っていく哀。だけど、どこか楽しそうであるのは見間違いではないだろう。新一が幸せなら、それでいい。幸せのために必要不可欠となったこの男が今は側にいる。感情もあんな顔もこの男がいなければ見られることがなかったかもしれないもの。だから、人間らしく戻った新一を喜び、二人が仲良くしている姿を見るのになれていたので、多少物足りなさもあったので、うれしくなったのだろう。 「やっと、日常が帰ってきたわね。」 どうせあの男のことだ。きっと近いうちに住み着くだろう。それを、新一も望み、受け入れるだろうから、そう遠くないこと。 「・・・あの両親だものね。」 両者の両親を知る哀だから、反対せずに追いやるだろう。快斗の母ならば、新一を奪って買い物にでも出かけてしまうだろう。新一の母ならば、快斗を連れまわして出かけていくだろう。 「平和な日常の中でいられるといいわね。」 すぐには彼等も来ないだろうが、近いうちに必ず来るだろう予想が出来た。 久しぶりに四人そろっての食事。 半年の間のことについて、互いに話しあった。こんなことがあった。あんなことがあった。他愛もない話から、事件の事、学校の事、日常の事、・・・快斗の事。そして、向かった時の事、もう駄目かと思った事、マジシャンとして名を売り出し、帰ってきた事。 近いうちにショーがあるから来てねと誘うと、三人とも行くと答えた。 新一は事件がなかったら、哀は用事がなかったら。だけど、二人とも行きたいと願っていた。口では素直に言わないが。 食事も終わり、実験や発明の続きがあるからと、二人は隣に帰る。 「また、明日ね。」 「ええ。明日もちゃんと起きて朝食食べてるか確認しに来るわ。」 「・・・。」 なんだか、手を出しそうになっているのがばれているようで、苦笑する快斗。わかってない新一はどうしたんだと快斗を問い詰める。それには曖昧に返事をしておいて、玄関を閉めた。 まだ新一は突っかかってくるが、上手く流して片づけをし始める快斗。それにすっかり拗ねてしまい、片づけが終わって新一とじゃれようとリビングに顔を出したら、新一の不機嫌なオーラに気付いて慌てる。 「新一?新一―。返事してよー。」 ぷいっとそっぽを向いて、無視される。ちょっと切ない。 背後まで近寄って、手を伸ばそうとしたら、少し距離をとる新一。さすがに、悲しい。 「お願いだよ、新一。どうしたのー。」 哀とだけわかる話をしたことで嫉妬したこともあるし、誤魔化されて放っておかれて拗ねていたりする新一は、今更素直に言葉など出ないので、そのままそっぽ向いたまま。本当は構ってほしいし、このまま快斗が行ってしまったらと思うと嫌なのだが、一度やってしまった行動を取り消すことは出来ない。そのまま逃げるように距離を取って、自業自得なのだが、寂しさでいじける。 だが、新一同様に、快斗も新一のことが好きでしょうがないので、こんな態度は辛い。だから、もう逃がさないと背後に迫って捕まえた。 重くないように体重はかけずに、新一を背後から抱きしめる。 「ねぇ。逃げないでよ。悲しいでしょ。」 「・・・だって。」 「何?言ってごらん。」 横に顔を出して、新一の顔を覗き込む快斗。目は潤んでいて、本当にどうしたんだろうと心配したが、その心配は無用だったようだ。 ぼそりと聞こえた言葉から、ごめんと快斗は謝ってしっかりと抱きしめた。 寂しい。その一言。だが、快斗には何を意味しているのかわかった。自分だって新一に放って置かれれば寂しいから、同じだろう。 「大丈夫。俺は新一一筋だから、ずっと側にいるから寂しがる暇もないよ。」 「・・・でも、お前。」 帰るんだろ?と聞かれて、新一がここにいてもよいならいるよと言えば、いいのかと下手に出る新一。もっと、我侭いってくれてもいいのだけどと思いながら、母親は現在新一の母親と海外ではしゃいでいるから大丈夫と答えると、少なからず驚いているようだった。 だが、妙に納得している新一に、どうしたんだろうと思えば、親友だったから知り合いだったということを伝え、なるほどと快斗も納得。 「世間って狭いね。」 「そうだな。」 こんな目立つ白を纏う気障な怪盗はそんなにいないだろうが、探偵はいくらでもいる。その中から新一と快斗は出会ったのだ。 「これで、記憶のない過去に会ってたら笑えるな。」 「・・・ありそうで嫌だな。」 昔は結構どちらも忙しくて海外飛び回っていたようだから、自分は飛んでいた記憶がある。快斗の方は、最初は海外に行ったこともあったが、ほとんど日本の家で父の帰りを待つのが多かったので、海外の記憶は薄いが。 そんなことを考えながら、そろそろ寝ようかと新一に話しかけると、嫌という答えが返ってきた。困ったなと思うと、突如新一からのキス。 本当に突然だったし、半年前のあれが最初で最後のような気もしたから、余計に驚いた。目をぱちぱちして新一の様子を伺うと、どうも手を出したくなるような気が起こるというか何と言うか。 「新一さん?」 「さん付け嫌。」 「新一。」 「何?」 「いきなりどうしたのかな?」 「・・・馬鹿。」 また、ぷいっとそっぽ向かれた。今はしっかりと近くにいるのだが、顔をあわせようとしてくれない。さらにわけがわからずに少しパニックになっている快斗は、なんとか機嫌を直してもらおうと、新一に話しかける。 「・・・寝る。」 「そうだね。寝ようか。」 軽々と新一を抱き上げて、寝室へと向かおうとする。 部屋に入って、新一はベッドの上に降ろされた。そこまではいい。その後が新一には問題だった。快斗が、客まで寝ようと出て行こうとするのだ。だから、服の裾を攫んで行かないように引き止めた。 「あの、新一。寝るんでしょ?」 「・・・馬鹿。」 「えっと・・・。」 「・・・俺だって、お前が好きなんだぞ?お前だったらいいと思ってるんだぞ?」 それとも、俺は駄目なのかと潤んだ瞳で見られたらひとたまりもない。 がしっと腕を攫んで新一の上に乗りかかる。 「あのね、お願いだから煽らないで?・・・哀ちゃんに殺される。」 「どうして灰原がお前を殺すなんてことになるんだ?」 きょとんとする新一に、さっきの哀との会話の意味を教えた。だが、それを聞くと、どうして駄目なんだと反対に聞かれた。 「それはですね、俺が新一に対してはこれ以上我慢の限界といいますか、半年ぶりだったので、余計に思いが溢れてぐるぐると回っているといいますか・・・。」 「一方通行じゃなくて、俺も好きなんだぞ?」 「それはわかってるよ。でも、無理させたくないんだよ。」 新一は、人に触れられるのを恐れている。とくに抱かれる対象になるということで、二度も同じような事になれば、さすがに嫌がるだろうから押さえている快斗。 「・・・馬鹿。お前、馬鹿だ。」 「馬鹿って・・・。」 「好きじゃない奴には抱かれてもうれしくもないし悲しいだけだ。でもな、お前は違うだろ。俺は、お前のことが・・・、お前ならって思ってたのに。」 もういい、馬鹿っと布団にもぐってしまった新一。どうやら、ずっと快斗をお誘いしていたようだ。気付いたら慌てて布団をはいで新一を抱きしめる。まだ逃げようとしても、逃がさない。 「ねぇ、本当にいいの?」 「・・・もう言わない。」 「でも、うれしいな。新一からお誘いしてもらえるとは。」 「・・・嫌い。」 「そんなこと言わないで?」 嫌いという言葉は悲しいからやめてと言えば、ごめんと返ってきた。新一も、快斗に嫌いと言われるのは辛いから、言われて悲しいという気持ちはわかったので素直に謝ったのだ。 「ねぇ、・・・いい?」 「・・・快斗が望むなら。」 「ありがと。」 優しい触れるだけのキス。それからだんだんと深く、新一を攻めるものへと変わった。 その間に、ゆっくりとはずされていく新一のパジャマのボタン。 「ん・・・ぃと・・・。」 空気がなくなって苦しくなっていく新一は、ぎゅっと快斗の服を攫んで握る。解放された時には、すでにくたくたになっていて、快斗もこれ以上進むのはどうかと考えたが、抱いてとはっきり言いだす新一に負けて、結局おいしく頂くことにした。 新一の体調を考えて、一度だけ。ゆっくりと事を進めて、一つとなる。 「大丈夫?」 「だぃ・・・じょぶ・・・ぃと、もう、だめぇ。」 新一の甘い声を聞きながら、それに酔って傷つけないように細心の注意を払って、一緒に熱を開放しあった。 その後、しばらく繋がったまま、新一の呼吸が整うのを待った。 「・・・ありがと。」 「・・・お前だけじゃねーんだぞ。」 新一だって、快斗がほしくてしょうがないほど、怖いのを忘れてしまうほど好きになってしまっているのだ。 その後、二人は一緒にお風呂に入って、本当は別の部屋で寝ようとした快斗だが、新一が寂しそうにするので、結局一緒に朝まで寝る事に。 同じベッドの上で、同じ布団を着て、落ちないようにくっついて、幸せそうな寝顔を月に見せるように眠る二人。 幸せの絶好の中にいて、夢でも幸せなのか、新一をいっそう抱きしめて、快斗にいっそう近づいて、穏やかな寝顔を見せる二人。 朝、哀が起こしに来て、呆れられるほど、幸せっぷりだった。 怪盗が落ちてきてもうすぐ一年 互いの心の壁が崩れ去って半年と少し あの日、怪盗が落ちてきたことを あの日、怪盗が怪我だけですんだことを 信じなかった神に感謝しよう そして、彼を守って、自分の元へ返してくれた月に感謝しよう ・・・月に、怪盗のことも好きだったと言い、快斗を好きでい続けると誓おう かわりやすい月だけど、月が自分をはげましてくれたから 月が家のベランダを照らして闇から浮かばせていたから そんな月に誓おう これからも、彼を愛すると |