名前を呼ぶ許可を貰って 素顔のままで会って ただ、たわいもない話をしながら 食事を疎かにする彼のために作って一緒に食べたりして 自然と一緒にいる時間が増える中 月日は流れた 今も、変わりない日々 怪盗が落ちてきた日+++君の手 「新一?」 自然と出会ってすぐであったが、友達のように親しくなった。今日も快斗は新一の家にやってきた。だが、チャイムを鳴らしても反応はなく、勝手に上がってていいぞと渡されている合鍵で中へと入った。 別にこれぐらいの鍵なら開けて入れるが、そんなことはしたくないので外で待っていたら、馬鹿だろと、その日に受け取った鍵。中に入ってもいいと許されて、少しうれしかった。 幼馴染とは違う意味で大切な存在になった新一。その気持ちがなんなのかはまだわからないが、一緒にいて、話をして、食事をして、そんな日々が愛しく、大切に思えた。 だんだんと、退屈しなくなった。それだけ、新一との会話は楽しかった。今まで新一程自分のレベルで話せる相手がいなかったのも事実だが。 中に入ってみると、ソファで眠っている新一の姿があった。何も着ていないので、風邪ひくぞと思いながら近づく。 「よく寝てるねぇ。」 最初は自分が入ってきたら寝ていても気付いた彼。やはり、誰かがいるということが落ちつかないのだろう。だが、一緒にいるようになって、次第に起きることはなくなった。それだけ、自分のことは許してもらえているのだろう。 もう、どこに何があるのかだいたいわかっている快斗は、ブランケットを取りに行って新一にかけてやった。 そして、許してもらえているので勝手に珈琲を入れる。もちろん、彼の分も。 冷めて無駄になるかもしれないが、用意しておく。それが、最近いつもすること。彼に喜んで飲んでもらえているので、また喜んでもらえるようにといつもいれる珈琲。相変わらず表情はあまり変わらないが、徐々に見せてくれる本当の笑顔。それは本当に一瞬で、見逃してしまいそうになるほど。 「あら。また来ていたのね。」 顔を見せたのはお隣の少女、哀だった。見た目を裏切るような目と知識。確かに、調べると彼女の見た目が実年齢ではないということは知っている。今ではあまり違和感がないが、油断ならない相手であるには変わらない。 だって、最初に顔を合わせた瞬間、こそ泥と呼んだのだ、彼女は。一発でばれたことで、まさに目が点になった。そのさまを見て、ポーカーフェイスは落としてきたのかしらと言われた。 それを聞いてさらに驚いたが、すぐに自分を取り戻した。その際、そばで見ていた新一は結構楽しそうに二人を見ていたので、二人も自然と笑みが零れたのだが。 「うん。あ、哀ちゃんも飲む?」 すでに今はキッドではないから普段の口調のまま。彼女もこの格好でキッドの口調でしゃべられても気色悪いと言われたのでやめたのだ。まさに撃沈だね。彼女には形無しだ。 「ええ。いただくわ。それにしても、貴方が来ても起きなくなったわね。」 「うーん、進歩?」 今では新一を一番と考える哀も快斗のことを認めている。互いに、彼を守りたいと思う気持ちがあるからかもしれない。 そして何より、最近気付いたのだが、はじめからどうも気になっていた新一のこと。その答えはとっても簡単で、恋って奴のようだ。 ちなみに、それを指摘したのも哀だったりする。なので、快斗は彼女に勝てなかったりするのだ。 「無防備に寝られると、最近はちょっとばかり困るんだけどね。」 「いいじゃない。普段安心して寝れない人なんだから。」 自分達が側にいる時は気にすることなく熟睡していく新一。 「正直、最初は嫌だったわ。貴方みたいなのが彼に近づく事がね。」 「あはは。」 「でも、貴方は彼やあの男とは違うとわかったからね。それに、工藤君が気を許していたんだもの。」 まぁ、結構前から謎の塊であるこの泥棒に興味を持っていたのは事実だし、今では暗号作ってもらえて、結構楽しく過ごしているらしいし、何より最近よく笑顔を見られるようになったのだ。 なら、もうこの存在を認めるしかないじゃないか。何より、自分で好きだという気持ちに気付いていない大馬鹿者のようだしとつけたすが、そんなこと快斗は知るはずもない。 作って持ってきたお菓子を哀とつまみながら、ちょっとした話をしていた時。時間は快斗が来て一時間は経っていた。 「・・・ん・・・ぃと・・・来てたのか。灰原も。」 「あ、起きたの。」 「まだ眠いのなら寝ていても構わないわよ。」 「いや、いい。」 起きると、眠い目をこする新一。ふと、自分が着ているものに気付き、快斗にお礼を言う。 「快斗だろ。ありがと。」 「どういたしまして。大事な新一の身体が壊れたら困るからね。」 「そうね。本人がもっと自覚してくれると助かるのだけどね。」 二人に言われて苦笑する新一。どうしても、自分のことを気にすることはできないからだ。それは、面倒くさがりな彼だから。それに、しなくても最近は快斗が側にいてしっかりしてくれるとわかっていたから。無意識に快斗が来るのをいつも楽しみにしている自分に気付く新一。 「あ、ありがと。」 「どういたしまして。」 起きたとわかれば、快斗がすぐにすでに冷めた珈琲を温かい珈琲に入れ替えてくれた。 三人でゆったりとした時間を過ごす。そのはずだった。 ぴんぽん 家のチャイムが鳴った。新一が出ようと思ったが、快斗が飲んでてと変わりにインターフォンへと行ってくれた。 だが、しばらくして快斗は戻ってきた。どうしたのかと思えば、大丈夫というので、気にしないでおこうと思った矢先だった。 ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん・・・ 「・・・あの男ね。」 「ご名答。」 連続でならされるチャイム。迷惑を考えていないのか、止まることはない。だが、しばらくして少し止まった。 そして、新一の身体が少し強張るのを感じる。 「大丈夫だよ。」 「快斗。」 よしよしと頭を撫でるあたたかい最近新一が好きな彼の手。少し、落ち着いたかもしれない。やっぱり、快斗は魔法使いなのかもしれない。そんな事を思っていると、再び鳴り始めるチャイム。 「何の用なのかしら?迷惑よ。」 哀が出て、外に言う。どうやら少しひるんだらしいが、諦める様子はないらしい。 「どうする?」 哀の言葉にふるふると首を横に振る。出来れば、会いたくない。 「わかったわ。」 それだけ答え、哀は玄関へと向かった。そのまま、彼女はお隣へ連れて行くようだったが、相手は無理やり中へと押し入ってきた。 「工藤っ!」 リビングを勢いよく開けて入ってきた男。びくっと肩が震える。 「工藤・・・お前、誰や。」 新一の事で頭がいっぱいだったらしい相手は、入ってきて近づいてきた際に快斗が前に出てやっと気付いた。 「誰って失礼だね、服部平次君。新一は会いたくないみたいだから、帰ってくれない?」 「わいは工藤に話があるんや。」 「新一は君に話はないみたいだから。・・・本当に帰ってくれない・・・?」 いくら手を出される前、押し倒されたところで哀に助けられたかといっても、好きと自覚した今の快斗は、新一に手を出した挙句、怖がらせて心を壊した原因を許せるはずもない。 ふっと、見せる闇を知る者のあの冷たい空気と目。光の中で生きてきた彼にはそれだけで金縛りとなる。恐怖から、身体が拒むのだ。意思とは反対に。 「黒羽君。悪いけど、その人を隣まで連れて行ってくれないかしら?」 「了解。」 だから、おやすみと快斗はどすっと鳩尾に綺麗に一発食らわせた。 どさっと倒れた服部を荷物のように担ぎ上げて、渡された鍵を持って出て行った。 「大丈夫、工藤君。」 「あ、ああ。悪いな。心配かけて。」 「心配ならいくらでもかけてちょうだい。抱え込まれるよりいいわ。」 震える新一の手をぎゅっと握り締める哀。 「あの男にはしっかりと言い訳を聞いて始末しておいてあげるから。」 「灰原・・・。」 始末って駄目だろと少し苦笑しながら言う新一に、それぐらいでも腹の虫が収まらないから勘弁して頂戴と言われた。 ちょうどタイミングよく、快斗が運んできたよと帰ってきた。 「ありがとう。そうね。夕食の買出しにでも行ってきなさい。その間にあれはどうにかしておくから。」 「そうだね。たまには外にでないといけないし。・・・大丈夫?」 「大丈夫だよ。心配性だな、お前等。」 よっと立ち上がる新一。しっかりとそれなりに温かくして、新一を連れて快斗は家を出た。 「彼のおかげね・・・。」 自分もこんなに笑顔になれるのは。そして彼の心を癒したのは。 「さて。あの大馬鹿者をどうするか考えないとね。」 黒い笑みに変わった哀が、戸締りをして家に帰る。そんな彼女と対面した服部は、声にならない悲鳴をあげたらしいが、実際知る者は生憎いない。 人がたくさんいて、時々戸惑うような新一を見て、彼の右手を攫んだ。 少し驚いたらしいが、にっこりと笑って、大丈夫だよと言う。 「誰も、新一に手を出さないし、出させないよ。ほら、こうしたら迷子にもならないから、一人置いていくこともないしね。」 繋がれた手。少し恥ずかしいのか、顔をほんのり紅く染める。その反応を見て、うれしくなる快斗。 「・・・そうだな。こうして繋いでたら、闇の中で迷子にもならないな。」 「新一。・・・・・・ありがと。」 何気にキッドの事も心配してくれていて、うれしくなった。だが、そのうれしさもすぐに終わりを告げる。 「手を繋ぐとね、迷子にならないだけじゃなくて・・・その・・・ね・・・・・・。」 「どうかしたのか?」 先ほどまでの甘い空気が突如どよどよとした空気が混じる。ちなみに、それは快斗からである。 突然のことで、快斗の様子を伺っていた新一。 「こうしてるとね、お、俺が走っても新一とはぐれないからーーーー!」 最後まで言わない間に突如走り出した快斗。慌てて新一は引っ張られる腕のままに走った。 そして、少し遠くなったある店から聞こえる言葉。どうやら、タイムサービス中で名前を連呼している。 「・・・魚屋?」 「ぎゃっ・・・や、やめて、新一。その名前だけはっ!」 うえーんと本気で嫌らしい快斗が必死に新一を引っ張って走る。久しぶりに走ったなとのん気に思うと同時に、快斗はアレが嫌いなのかと少し新たな発見で楽しく思う新一がいた。 その後、夕食はしっかりアレ以外のもので、嫌いなのかと聞けば、名前も駄目だということを知り、少し言葉で遊んでいたが、あまりにも本気で嫌がって泣くので、ちょっとかわいそうに思えた新一はこの名前は快斗の前では出さないようにしようと決めたらしい。 すっかりあの男のことなど忘れて、哀も誘って楽しい夕食の一時を過ごすのだった。 |