第六章   戻ってきた守護神

 

 

新一が寝ているうちに進めてしまおうと思い、会議を開いた。

報告も戻ってきたのでちょうどいい。

最後に消息が分かっている家からここへ来る経緯を千葉と白鳥が報告する。

「最後に確認された場所を発見しまして、その周辺で前当主夫妻の死を確認。こちら方面に向けて約10km地点にて工藤夫妻の死を確認。」

「どうやら、どちらも奴等に見つかり、やられたものと見られます。ご子息を狙っての事かと。」

やはり、新一は奴等が血眼になってでも探さなければいけないような、何かを持っているのだと考えていい。

「調べて、新しい事実を見つけました。どうやら、ご子息に何らかの封印を施したようです。」

その封印が何の為に何を隠すために施したのかはわからないと答える。

だが、これによってかなりの確率で彼がいまだに不在となっている蒼の位置をしめる者だとわかった。

「・・・追加報告だけど、どうやら奴等。動くみたいだよ。」

「まさか?」

ここは知られていないはず。知られていても、結界が拒んで入れないはずだ。

「それが、何らかの事が起こって、入り口を見つけてしまったみたい。だから、やばいよ。今日の昼には来るつもりらしいから。」

その報告を受け、対策をすぐに立てなければと考えるキッドだが、ふと、快斗達も気付いた。

「・・・どうやら、客はすでに来ているようですね。」

「厄介な事に、新一が部屋を出ているよ〜。」

キッドは日の光のある場所、快斗は陰で闇になる場所の状況を探る事が出来る。

だから、今回闇に潜むやつらの情報をもってこれたのだ。

白は光、黒は闇。蒼は水、紅は火、黄は土、翠は風、紫は心。全て、自然界にあるものを力として利用する。心は白と黒と同じで特殊で、命あるもの全てに対して心というものがあり、その心を読める力を持っている。魔女といった予言者もこの部類。

「蒼き輝きを秘めた光の魔人・・・。危ないわよ。見つかるわ。」

紅子は違っていても、紫と同等、もしくはそれ以上の予言能力を持つ、特殊な人種だが・・・。

侵入経路を押さえましょうと、それぞれに指示を出して動く。

 

 

眼が覚めて、起き上がる。いつ寝たかという記憶はないが、あの夢は彼等が残していったものだとわかるので、ただの夢だとは思っていない。

それに、今は記憶が戻った。消えていた分と知っている必要のあった事も全て。

どうして、自分の力が狙われるかも。

「あいつら・・・。いない・・・。」

昨日は一緒にいたはずのあの二人はいなかった。どうしたんだろうと、用意されている服に着替えて、部屋の扉を開けて廊下に出る。

いつもと違う、何かを感じる。やはり、感覚がするどくなっているようだ。

でも、覚えているような力を使う事は出来ない。まだ、完全に封印が解けたわけではないようだ。

一人でここにいるのは少し心細く、探す事にする。

きっと、顔見知りが一人ぐらいならいるだろうし、会えると思ったから。

だが、これが大きな間違いだった。でも、これがあったからこそ、事態が動いたのかもしれない。

新一は、どこまでも続くような廊下を歩いていた。

そこでふと、見知った気配を感じた。見知ったといっても、気を許せるようなものじゃない。

ここへ来てから、一度も感じることのなかったあの気配。

「まさかっ?!」

はっと、気付いて気配の方向を向くが、遅い。

寸でのところで避けたといっても、鋭い何かに傷を入れられる。

そう。これは両親や前当主夫妻を死に追いやった者達だ。自分のあれを狙っての、もの。

とうとう、来てしまったのだ。

自分のせいで、彼等を巻き込んでしまったという思いでいっぱいだった。

「俺は、助けになりたいのに・・・。」

今は力を封じられているので、タダの足手まといでしかない。

「盗一さんや薫さんみたいに、死なせたくないのに・・・。」

きっと、ここにこいつらがいるということは、自然と彼等と闘うことになるのは間違いはない。

自分が、その引き金を引いてしまったのだ。

きっとあの時に招き入れてしまったのだ。自分がここへ落ちたときに。追いかけてきた奴の一人が見つけてしまったのだ。

ここは、簡単に奴等を通す事などないのだから。

思い出した今ならわかる。

このまま、大人しく殺されるのも連れて行かれるのも嫌だ。自分はまだ、何もしていないのだから。

「どうした?抵抗も何もしないのか?」

そいつは話す。

「面白みがないな・・・。まだ、お前の両親や白と黒のが面白かったぞ。」

お前を守る為に必死になって命を投げ出した四人。自分が殺したのだというそれ。

頭が真っ白になる。

こいつが、大切な人達を殺した。自分から奪った。

そしてまた、この館に来て彼等にまで手を出す。

やっぱり、自分は足手まといだ。自分を守ろうとして皆がいなくなっていく。

自分は守られているだけではなく、守りたいと思うのに・・・。

相手の声が遠のいていく。これ以上聞きたくはなかったからいいのかもしれないが、動けないのだから、意味がない。

このまま、殺されるのかなと、どこか冷静に考えている部分もあったが・・・。

そして、奴は自分を殺そうと向かってくる。

だけど、動けない。さっきは避けられたけど、今度は動けない。

両親や前当主夫妻を殺したにくい奴だが。それでも、恨みからは恨みしか生まれないから、絶対に敵を取るといったことはやめろと言われていた。それを思い出せば、余計に動けなかった。

四人が絶対にどんな事があっても死なせてはいい命はないからと教えてきたから。

こんな奴でも生きている限り、干渉する事は駄目なのだと、頭が判断したのかも知れない。

それか、足手まといな自分が嫌になったから、そして、会いたくなったからか。

とにかく、足が固まって動けない。

その間にも、奴は向かってくる。もう、目の前だった。

「お前の動きを完全に奪ってから、その力はもらうよ。」

相手は笑っている。殺すのがそんなに楽しいのか。そんなに・・・。

「・・・っ、新一―!」

ふっと、視界に快斗の姿が見えた。切羽詰ったような顔で、自分の前に出てくる。

「っ、か、快斗っ!」

急に動く事が出来た体。だけど、間に合わない。

本来自分が受けるはずの怪我を、彼は負ってしまったのだった。

「快・・・斗・・・、快斗っ!」

大丈夫かと、腕を攫めば、大丈夫だよと言う。だが、無理しているのはわかっている。

その笑顔の奥に、痛みを抑えているという苦痛が見えるから。

「おや。前当主夫妻の息子ですか・・・。ちょうどいい。」

邪魔だから、消してやる。そいつは、再び向かってくる。

快斗は闇の気配を知る力を持っているから、こいつの持っている闇を探してここまで来たのだろう。

だからといっても、怪我を負いながら、自分を庇って避けるなんてことには無理がある。

また、自分のせいで大切な人を失うのだろうか。

せっかく思い出したのに。過去に会った彼等との事も。全部、思い出したのに。まだ、何も言っていないのに。

「快斗、離せ。お前、怪我!」

失いたくはない。自分は、彼等の助けとなる為にここへ来たのに、足手まといのままだなんて嫌だ。

「大丈夫だって。新一に怪我がなかっただけ良かったし。何より、その怪我があいつのせいなら、許せないしね。」

泣かないでよと、知らず知らずのうちに流していた涙を指で拭う。

優しい快斗。盗一や薫と同じ。そして、キッドとも同じ。

もうすぐ、キッドも来るだろう。快斗の気配を追いかけて。

だけど、それでは間に合わない。

いつのまにか、奴の仲間がここに集まっていた。

「でも、ちょっとばかし、きついねぇ・・・。」

これだけ多勢なのは、きつい。自分はともかく、新一に怪我をさせないようにするためには。

そんなこと、しなくてもいいのに。守られるだけは嫌だと、何度も思ったのに。

「そろそろ、遊びは終わりにしましょう。時間が押していますから。」

一斉に掛かってくるつもりらしい。ワンパターンな攻撃だが、今なら十分有効な手だろう。

スローモーションのように、動いてこちらへと向かってくるのを、見ている新一。

本当はそんなにゆっくりではないのだろうが、自分にはそう見えた。

そして、体がとても熱い。背中が張り裂ける程痛い。

何かが破って外に出ようとしている。それが、何なのか。予想はつくが、痛い。

突然苦しみだした新一を見て、敵よりも新一の容態に焦りを見せる快斗。

敵はもう目の前だ。

 

 

 

「っ、くっ・・・。う、うわぁぁぁあああ!」

 

 

 

新一の叫び声が響く。

声にも力があるのか、ほとんどの敵を消滅させた。

所詮はあれは影。本当はただ一人の敵。残りは館の住人達を倒す為に別の場所にいる。

影は全て消滅し、さすがに少し慌てる敵。

快斗には、どうなったのかなんてわからない。

今まで抱きかかえていた新一は腕の中にはいず、自分の前に立っている。

それも、蒼い六枚の翼を広げて。

そう。封じられていた翼を取り戻したのだ。

今まで空席だった蒼は、やっと戻ってきた。

新一は、力を使って快斗の怪我を癒した。蒼や翠は癒す治癒能力を持っている事もあるから、出来る芸当だ。

怪我が治ったことを確認して、敵を睨みつける。

「・・・許さない。お前は絶対に・・・。」

先ほどまで動けなかった自分はもういない。失うという恐れで逃げる臆病な自分は消えた。

「貴方も一つの命だとしても、一度、消させてもらう。そして、浄化されて新たな命として戻ってくるがいい。」

指先で何か模様を描けば、発動する魔法。同時に、薄れていく蒼い翼。

光で出来た、透明の翼。それは、いままで姿を見せなかった、この館・・・翼ある者達全員の守護神。

蒼であり、彼は守護神でもあったのだ。

やっと、本当の意味でこの館に戻ってきた。

「お、おのれぇぇ・・・っ!!」

最後の一撃とばかりに向かってくる。しかし、そんなものは今の新一には軽いもの。

すっと手を動かせば、そいつは呆気なく浄化され、消えた。跡形もなく、本当の意味で消えた。

守護神は、全ての自然の力を操る事が出来る。それと同時に、破壊と創造も可能という恐ろしい程兄弟な力もある。

そんな守護神はかつてこの館を創った創造主。そして、翼ある者達の主だったもの。それがいつしか守る神となり、気付けばいなくなっていた。

その神が戻ってきた事により、蒼の空席も埋まり、そして館を取り囲んでいた暗闇が晴れた。

他を片付けて来たのであろう、キッド達が到着する。

そして、見たものは・・・・・・・・・透き通る翼が蒼い色を持ち、女神のような容貌でにっこりと微笑みながら振り返る、新一の姿があった。

すぐに皆が理解した。

蒼と同時に、神も帰ってきたのだと。

 

これが、奴等がほしがるもので、四人が守ろうとしたもの。

そして、我等の守護神で、愛しい女神様。

 

差し込む日の光が一層、彼を美しく見せた。





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