第四章 お茶会
そういえばと、疑問になるのが、自分が翼も力もないにもかかわらず、蒼という第一階級に座る事。 「俺が、蒼の息子だからか?」 それが一番誰もが理解できそうな理由。だが、なんとなくこの二人は別の理由でこの場所に置いたような気がする。追っ手という名の奴らから身を守るため以外に。 「蒼はいまだに生まれたかどうか不明で、わからないんだ。」 「私達は新一にその空席を埋めてほしいと思っています。…翼の気配はないですけどね。」 それをいわれると痛い。よそ者だといわれているようで。確かによそ者だが、あまりいわれたくはないのだ。 「わかりやすくいえば、下級の奴らに新一を取られるのが嫌なんだよね。」 「ですから、下級には権力で返せのごとく、権力があれば、ある程度の発言は許されますし、上の命令は絶対ですからね。」 「それに、よそ者が気に入らない奴がいても、対処できるし〜。」 二人とも、いろいろと考えてくれているようだ。 なんだか、うれしく思う、新一だった。 ある程度説明を聞いた後、ドアと通路をつかって、館の中を歩き、ある程度間取りを頭にたたきこんだ。 3日目も、彼等二人と同じベッドで寝て、寝ぼけているところに抱き疲れたりしながらも、無事に一日が始まる。 昨日と同じように朝食をとって、誰もが散り散りに去っていく中、新一は残って、現れた寺井とともに、片づけを始めた。 「あ、そのお皿はこちらに。」 「あ、はい。」 「それはその引き出しに。」 「わかりました。」 そうやって、寺井も力を使わずに手作業で食器を洗って片付ける。 そして、全ての食器を片付けたあと、寺井と新一はテーブルクロスをとって簡単にたたみ、洗濯のために中庭へと向かう。 「新一様は本当に飲み込みが早いですね。」 「ですが、俺のせいで時間がかかってますよね。」 「いいんですよ。久々に楽しい一日になりそうですからね。」 そんな会話をしながら、二人は中庭の隅にある大きなおけにテーブルクロスを要れて、傍の井戸から水を引き上げてごしごしと洗う。 どれだけ時間がたったのだろうか。きっと普段の何十倍も時間がかかったと思う。それでも、何も文句を言わずに一緒にやってくれる寺井のことが、うれしかった。 「あとは干すだけですね・・・。あ、そちらを持ってもらえますか?」 二人は長いテーブルクロスを広げて、長い棒にかける。これでやっと、洗濯の終了だ。 やっと終ったと一息つく新一に、寺井は懐から一枚の白いカードを取り出した。 そのカードにはお茶会の招待状と書かれていた。 「いってみてはどうですか?快斗様も、いつも出席なさっていますよ。キッド様は仕事で出かけられて欠席のことが多いですけど、時間があれば出席なさいますよ。」 時間もあることだし、せっかくのお誘いなので行ってみるのも悪くないなと思う。 「このおいぼれも、お茶を出すのに出席するので、新一様も出席なさるなら、ちょうど時間ですし、いきませんか?」 新一は行きますと答えて、寺井についていった。寺井は新一にあわせて、今日は一度も力を使って移動せずに、ドアから部屋に入っていた。その心遣いに言い表せないぐらいの感謝の気持ちで一杯だった。やはり、中にはまともな話のわかる人もいるんだと、ずれた事を考えていたりもするのだが…。 お茶会の会場として案内されたのは館の屋上にあたる場所。しかも、主催者に認められて招待状あるいは会員カードのようなものを持っていないと参加する事ができないもの。 連絡は毎回前日にされる。カードは持っていても、毎回参加する必要もないし、主催者を怒らせない限り、参加資格剥奪といった事態にはならない。 「さぁ、つきました。志保様、紅子様主催のお茶会です。」 そういって、開かれた扉の先には、喫茶店のような雰囲気を持つ、空間だった。 そこにいるのは、主催者の志保と紅子を含め、蘭、園子、青子、あゆみ、哀、コナン、快斗、真。ほぼ、トップの面々がそろっている。 話を聞くところによると、トップで平次と探以外のメンバーはだいたいこの会の参加資格を持っている。 あと、今回は欠席しているが、緑と茶の次期候補だといわれている光彦と元太の二人と、特別区の彼等がメンバーらしい。 全員参加はめったにないが、ただお茶を飲んでお菓子を食べて、たわいもない話をする息抜きの時間なので、忙しいときに無理に来る必要もないし、強制するわけでもないから、時間があるものだけここに集まる。 「新一〜、やっと会えた〜。」 と、快斗は新一が来たのを見つけたとたん、抱きついてきた。 ここにいる彼等は別に気にしていないようだが、恥ずかしい。 「は、離れろ、馬鹿!」 そんなこといっても、離れるわけはない。 「その馬鹿はしばらくそのままみたいだろうから、悪いけど、それの相手はまかせるわ。席はあそこよ。」 と、流される。これはここでは普通なのだろうかと悩んでしまうが、他の誰もしていないのだから、やはり普通ではないのだと、必死にはがそうとするが、びくともしない。こんなとき、力の差を感じて、むかつくのだった。 なんとか、快斗を引き離して、隣の席に座らせた。 やっと、お茶会の始まりだ。 あゆみ、哀、コナンの三人がお茶とお菓子を出してきて、それぞれ相手に渡した。 「わぁ・・・おいしい。」 素直に感想を述べる。本当に、おいしいと思ったから。 「でしょ?ここではこれが出るの。他にもあるけど、今日はこれ。」 「そうね・・・。新一君が参加したはじめてのお茶会だもの。特別にしないとね。」 「祝い事のときに飲むものと食べるもの。だけど、俺達は新一を歓迎しているから気にしないでくれ。」 そう、三人はいってくれた。 「ありがとう。」 笑顔付でかえして、お茶のおかわりを頼んだ。あゆみが席をはずしている間、ずるいという快斗の姿があった。無闇に人に笑顔を見せたら駄目と。 新一は意識していないので、そんなことを言われても、困るだけだった。 楽しいお茶会も、夕方になれば終わりになる。 「そろそろ、片付けないといけないわね。」 「そうですね。時間ですね。」 そんな二人の会話を聞いて、そうなのかと、隣でにこにこ自分を見ている快斗に聞けば、そう言えばそうだねと、返事が返ってくる。 「それに、そろそろ片付けないと、あの馬鹿達が仕事を終わらせて戻ってくるわ。」 その馬鹿というのが誰なのか新一はわかっていないが、快斗はそれはまずいなと言い、片付ける用意に参加しだした。 いったいなんなんだと思う。いったいその誰が戻ってくると困るのか。これだけの権力者の集まりなのだから、それだけ力のある奴なのだろうかと思うが、馬鹿という事で、下級なのかと、頭を捻る。 「そうそう、新一君。馬鹿達…あの二人には絶対に近づかないでね。食べられるわよ。」 それを聞いて、あの二人なのだと理解は出来たが、食べられるとはどういうことか。 「まぁ、近場にもっと危険な狼がいるのだけどね。」 「志保ちゃんひどいわ。」 さらにわけがわからない。いったい誰が自分を食べるというのだ。第一に、人間は食べておいしいものだっただろうか?確か、まずいものだったと思う。他の動物と違い、食べれる物ではないと。 なので、首をかしげている新一。 やはり意味がわかっていないのねと、呆れる紅子。ここまでくると立派なのかもしれないわと思う。 こうもあからさまな態度で接している二人の感情に気付かないなんて。 「あら。戻ってきたみたいよ。」 「なら、今すぐ部屋に戻りなさい。後始末ぐらいはしておくから。」 「そう?サンキュ。」 そういって、快斗は隣でまだ紅茶を堪能している新一に帰ろうとカップを取り上げ、椅子から立たせた。 帰る準備はばっちり。 「じゃぁ、お先に〜。」 「あ、今日はありがとうございました。」 新一はしっかりとお礼を言って、その場から姿を消した。 「さぁ、急いで片付けて、邪魔されないように追い出すわよ。」 「了解。」 今日もしっかり守る為に動く。 |