第三章 自己紹介と階級説明

 

 


長い廊下を二人は迷うことなく歩き、やっと目的地、彼等二人の部屋の前についたようだ。

「いい加減下ろせよ・・・。」

これだけ長時間人一人、しかも子供ではない自分を抱えて歩くのは負担があると思う。だが、キッドは涼しげな顔で、まるで重さを感じなかったという感じで大丈夫ですよといってのける。

よくよく考えれば、こいつらは普通の一般常識の通じない奴だったと再度思い知った新一だった。

部屋の中に入った二人と新一。

まずは部屋の中が先程まで自分がいた部屋より大きい、しかも無駄にでかいといっても間違いはないはず、な部屋を見て言葉を失う。いかにも、無駄な金を使っていると思われる。人の世界で言うなら、税金の無駄遣いというところだろうか。そんな例えを考えて、ここは常識の無いところだから関係がないかと、すぐに頭の隅へ追いやる。

「でもさ、キッドってばずるい!」

何がずるいんだと思えば、自分はまだキッドの腕の中にいたことを思い出した。急に恥ずかしくなって、下ろせと抵抗して、やっと下ろしてもらえた。

「・・・せっかく新一の肌の温もりを堪能していたというのに、ひどいですね。」

「だからずるいんだろ!」

どうしてそんなことでけんかするのかぜんぜん理解していない鈍感な新一。だからこそ、どこぞの人を認めないといいながら、連れてこられたときにその容姿から惹かれてて、側におこうなどと発言をしたぐらい。そんな奴らにそうそう渡すわけがないが。

「で、新一はあそこで今日から寝てもらいますね。」

そういってキッドが指差して場所には大きなベッドが一つあった。

「・・・一つ聞いておくが、お前らは何処で寝るつもりだ?」

その答えに、もちろんと二人は同時に口を開き、新一と一緒と答えるのだ。どうして、そういうときに限って、この双子は意見が一致するのかと、げんなりする新一だった。

何が悲しくて野郎三人で仲良く寝なければいけないのか。

「なんだか、昔を思い出すよね。」

「そうですね。あの日が再びくることを願い、待ち焦がれてましたから。」

なんだかききたくないが、きになる。

「・・・何の話だ?」

「もちろん、新一の事だよん。」

「あなたのいう、記憶が一部消えているという部分に入ってしまったのかと思われますが、実はまだ父がこの館の主だった頃、一度蒼と紫があなたをつれてここへやってきたのですよ。」

「・・・それ、初耳。」

「だから、忘れちゃってるんじゃない?」

そういいながら、二人は再び新一の左右に立って、ベッドに新一を押し倒し、今日はもう、寝ましょうというのだ。

「お前らだけでここで寝ろ!俺はそこらへんで何かだして寝る!」

と、ベッドから起き上がろうとするが、それを二人と二人の背中にある翼がベッドの外の空間を、視界から消した。

キッドに純白の全部で6枚の翼があり、快斗に漆黒の6枚の翼があった。それが、ベッドを、新一を覆うようにそこに現れ、逃げる場所を失った。

「私たちも疲れているので、今日は早い目に休みましょう。」

「そうだね。ね、新一。寝ようよ。」

結局、三人仲良くその場所で寝る羽目になった。だが、不思議と新一は安心できて眠る事が出来たのだった。

 


久しぶりに深く眠りについた。自分の意思で、気持ちよく朝を迎えられると思われた今日。

「・・・ち、新一!起きてよ。」

「起きて下さい、新一。」

あまり朝が強くない新一を起こしにかかるキッドと快斗。だが、あの時と同じで、かわっていないなと思えて、二人には面倒な事とは思えなかった。

「あんまりそんな可愛い寝顔を見せていると、キスしちゃうぞ。」

「・・・う〜。」

なんだか余計な事をいっている気がしたが、新一はまだ完全には覚醒せずに、かすかに目を開けて、自分が今どういう状況か判断しようとする。

そして、気付いて慌てて起き上がる。

「やっと起きた〜。おはよ、新一。」

「おはようございます。」

快斗は挨拶のいきおいで、抱きついてくる始末。だが、まだ半分夢の中の新一は抵抗を見せない。

それに気をよくして、快斗はさらに力をこめてぎゅっと抱きしめた。

キッドはキッドで、いつまでも二人が抱きついているのを見て、機嫌が降下し、まだ半分寝ている新一の頬にキスをおとした。

「・・・え?あ、あれ?!」

急に覚醒する新一。今のは何事ときょろきょろと回りを見ながらどうして自分がこんなところにいるのかも考える。

先程のキッドのキスと今もまだ抱きついている快斗の存在を理解して、顔を赤らめながら、暑苦しいから離れろと怒鳴って快斗を離し、布団をかぶった。

朝が弱いからといって、あんなのを見られた挙句、いいようにされて恥ずかしかった。

布団の中に隠れた新一を見て、二人は可愛いと思っているからしょうがない。もう、新一を愛してしょうがない人達。もう、手放す気はなし。

「ほら、いつまでも隠れていないで出てきてください。」

「朝食に間に合わないよ〜。あ、着替えさせてあげるって言う手もあるねぇ。」

キッドは新一から布団をはがし、快斗は着替えを出して渡してくれた。

「・・・あっちいってろ。」

「いいじゃんか、別に。」

「まぁ、はじめはいろいろあるかもしれませんね。今回は午後の予定に少し手をつけて待っていましょうか。」

そういって、二人は右隣にある扉の前で姿を消した。

どうしてここの館の連中は、ドアを開けないのだろうかと思ってしまう。

この館では、どうやら自分は不便が多いようだ。

とにかく、用意された服・・・何故か蒼い彼等と同じようなつくりの服に袖を通し、今まで来ていた借り物のシャツとズボンをたたんで近くにおいておいた。

そこへ、タイミングよく、背後にキッドが現れた。

「着替え終わったみたいですね。サイズもちょうどいいようで。」

快斗もあらわれて、似合うと何度もいっていた。

本当に落ち着きのない奴だなと思う。そして、本当にここの主なのかと疑いたくなる。

新一だからこそ、地で話して接しているということに気付いていない新一。むくわれないなぁと思いながらめげずに遠まわしに行為を向ける二人だが、まだ時間はあると、長期戦で頑張るつもりらしい。

そんなこと、新一が知る由もないが。

「とにかく、早く行こうよ。志保ちゃんや紅子に怒られるのはごめんだからね。」

「確かにそうですね・・・。」

二人は新一の左右に立って、腕をつかみ、隠していた翼を出し、行きますよという。新一は意味がわからなかったが、すぐに理解できた。何せ、視界が急にぼやけて、部屋が消えたと思った瞬間、別の部屋にいたのだから。しかも、その場所には休憩室であった、志保や紅子達を含めた14人がそれぞれの場所に座っていた。

「遅れてすみません。」

「さ、食べよ。」

と、二人はいすに腰掛ける。だが、真ん中は空ける。

「・・・その間はなんだ?」

「もちろん、新一が座る場所ですよ?」

「決まってるじゃん。新一の隣を他の奴になんて渡すつもりないし。」

そういって、手を引っ張って、席につかせる。全員が座ったことを確認して、朝食が開始される。

だが、居心地はとても悪い。回りのものたちからすれば、自分はよそ者であるし、なにより彼等が認める二人の主の間にいるのだからよけいにだ。

先ほどから、昨日騒いでいた二人の視線が気になる。

新一はそういった感情に鈍いので、よそ者はそんなに嫌われるものなのかなぁと思っていた。

キッドと快斗からいえば、そんなことは違うと断言して、部屋で三人一緒で食事の方がいいと言い出すに違いない。本当はそうしたかったのだが、朝の連絡などもあるし、決まりなので勝手な事は出来ない。

そんな眼で見るなと、相手を時々にらみつけながら、あまり食の進んでいない新一を心配する。

新一は目の前に自分の分として出された料理を全て食べる事が出来ない。自分にとって明らかに多いし、何よりまだ体調が万全ではないので喉に通らないのだ。

「あれ?もう、食べないんですか?」

「食べないと元気になれないぞ?」

というが、食べられないものはしょうがない。元々小食でもあったので、明らかに多いのだ。

「・・・もう、いい・・・。」

新一は持っていたフォークを置いて、帰っては駄目かと二人に問う。だが、待っててすぐに食べるからと、命令を下される。

そんな新一は、ふと向かいを見ていたら、志保と目が合った。

「顔色がよくなったみたいで、良かったわ。」

志保の隣に座っている紅子とも目が合い、クスリと笑われる。

下手に言葉を発したら、命を落とす危険を感じた。

そんな時、キッドがすっと席を立って、一同を見渡した。

それを合図のように、彼等は全員キッドの方を見た。

「昨日に連絡がいっている通り、彼が蒼と紫の息子で、しばらく私達の館で保護する事となりました。」

快斗も立ち上がり、キッドの話に続ける。

「父の遺言によると、彼は奴らに何かしら狙われている。理由は彼が記憶の一部を失ったために覚えていないというが、彼等にとって有利になる事には間違いない。それは、俺達にとっては危険な事だ。」

これで、全員がかすかに望んでいた希望は絶たれた。そして、気になるのが新一の事。

「ですから、私達で保護することにしました。それに、彼は蒼と紫の形見。私達とて、失いたくはありません。」

「意義ある人いないよね?」

彼等の言葉に意見するものはいない。やはり、持つ権力は強いということがよくわかる。

「じゃぁ、とりあえず、一人ずつ自己紹介を簡単にしてくれないかなぁ?新一、いちようここに顔あわせた人ぐらい覚えておいて損はないし。」

「そうですね。よろしいですか?」

すると、一番はしに座っていた、確か真と言う名の人が席を立ち、二人に向かって一礼して、自己紹介をする。

「私は黄の真。以後お見知りおきを。」

続いて志保、紅子と続く。時間のロスがなく、自己紹介を続けていく。

「翠の佐藤よ。よろしくね、新一君。」

やさしいお姉さんのような感じの人。でも、芯が強そうだと思う。

「朱の蘭です。よろしくね、新一。」

美人だと思うけど、・・・なんだか違和感があるのは気のせいだろうか。

「橙の和葉です。よろしくしてな。」

少々他の人より言葉が独特。でも、人当たりはよさそうだと思う。

「藍の青子だよ。よろしく。あ、快斗のこと、気をつけてね。何かあったら、殴っていいから。」

そんな青子の言葉に、何いってやがると快斗は不機嫌そうに言うのに対し、新一はクスクスと笑いながら、やっぱりお前はやんちゃっこなんだなという。それに、少し顔を赤くしながら、アホ子のあほ!と叫ぶ始末。

どうやら、自分以外にも彼に対して発言する人もいるらしい。あとでわかったことだが、昔仲がよかったらしい。

「えっと、途中で止まりましたけど、哀さんからお願いします。」

キッドの言葉にすばやく哀は席を立って自己紹介を始める。

「私は藤の哀よ。よろしくね、迷子さん。」

それをいわれると恥ずかしい。迷子では間違いないができれば言わないでほしいものだ。

「あ、えっと、碧の高木っていいます。よ、よろしくお願いします、新一君。」

なんだかおどおどとしている人。人がよさそうという感じか・・・。

「赤の園子っていうの。まー、縁があったらよろしく。」

なんだか軽そうな女という印象。他の女は何かと裏がありそうだが、彼女はわかりやすそうに見えた。

「桃のあゆみです。よろしくお願いします、新一さん。」

確か、彼女も昨日会ったなと思い出す。

「青のコナン。ここにいる間はよろしく。」

ぶっきらぼうにいう彼だが、受け入れてもらえているのがわかるからうれしい。

そして、残ったのはあの騒いでいた二人。

「じゃぁ、ここで終わりにして、すばやくいつもの常務に戻ってねー。」

と、笑顔でいう。どうやら、あの二人は却下されたらしい。

「ちょ、ちょお待ってーな。」

「そうですよ。どうして私達は飛ばされるのですか?」

講義するが、主には適わない。

「だって、朝食終ったし。」

確かに間違いはないが、朝食は自己紹介の前半ぐらいですでに終っていたのだ。

「それに、早く戻って、新一にこの館のこと、説明しておかないといけないし。」

確かにそうねと志保も同意する。

「あ、そうそう。新一はこの館にいる間、空席の蒼についてもらうことにしたから。」

「翼も力もなくても、彼は奴らの最終目的なのですから、名前を隠すにはちょうどよいでしょう?」

それは、トップの6人で守りをするのにちょうどいいからなのだが、わざわざ言わない。それに、言わなくても彼らにはわかるはずだからだ。

「せやかて・・・。」

「文句があるなら、あとで聞いてやる。じゃぁな。」

「帰りましょう、新一。」

新一はキッドと快斗に手を握られて、来たときと同じようにここで消える。三人一緒に。

三人が消えた後、食堂に残っていたのは志保達4人の第一階級のものたちだけ。あの平次と探は諦めて、今日もあるたくさんの常務をこなすために出て行ったのだ。

「まったく、あの二人には困ったものね。」

志保の言葉に同意する3人。

「でも、さすがのあの二人も理性を押しとどめているみたいね。」

「でないと、新一君、動けなくなっているでしょうね。」

佐藤は新一の体の事を思って願う。真も口には出さないが、心配している。

「でも、やっと戻ってきた・・・というか会えたのだから、手放す気はないみたいね。」

「部屋に迎え入れちゃうぐらいなんでしょう?」

「だったら、ここはまず、あの二人のことをどうにかしないといけないですね。どうします、志保に紅子。」

「何か案はないかしら?」

「とりあえず、私が片方は見張っておく。」

「私も片方は見張っておくわ。命令下して忙しくしてやろうかしら。」

「じゃぁ、私達は診察をかねて、彼を一人にしないようにしておこうかしら。」

「志保、私は診察できる眷属じゃないから、侵入者でも防いでおくわ。」

「そうしてくれると助かるわね。」

そういって話がまとまったのか、4人はすっとその場所から姿を消した。

それを待っていたかのように、一人の老人が食堂へと入ってきた。

「さて、片付けますか。」

老人は手馴れた手つきというよりも、魔法という力をつかって、スムーズに手順よく、食器をきれいにして棚にしまっていく。そして、テーブルクロスをもって、部屋をあとにした。

その場所にはもう、誰もいなかった。そして、テーブルといす以外は何も残っていなかった。

「私も、坊ちゃま達のために、力をおかししましょうかね・・・。」

その声が、部屋に響いただけだった。

 

 


部屋に戻った三人はベッドにこしかけて、館のことについて説明していた。

まず、この館は代々の主達とトップの15人の手によって作られたもので、力をもってしまい、認められなかったり嫌われると、通してくれない場所があったり、邪魔されたりする事。そして、権力の強いものが力を使うと、下級のものが通りたかったり誰かに会いたかったりしても会えないこと。それと、結界にも、一定の人物は入る事を許可してつくっておくと、入る事が出来る。だが、そのときは一時的に結界には隙間が出来るから、昨日のように侵入者が現れると。

「あとは、間取りを覚えたら、大丈夫かな。」

「新一でしたら、館に嫌われることはありませんよ。私達にとっては気に入れらて、あわせてもらえないかもしれなくて困りますけどね。」

そんなことがあるのだろうかと思うが、ここはすでに人の世ではないと思うので、いいのだろうと判断する。あまり、深く詮索しても、頭がこんがらがるだけだ。

「あ、そうそう。階級の話をしておかないとね。新一には空席の蒼の位置にいてもらうから。」

そういって、説明をしてくれた。

まずは、翼の色と枚数で階級が決まる。キッドや快斗の白と黒は特別で配下は同じ6枚の翼を持つ志保達になるのだという。

基本の色は『あお、あか、みどり、き、むらさき』があり、『あお』には蒼と藍と青があり、キッドと快斗が最上級だとすると、蒼が第一階級で、藍が第二階級で、青が第三階級とされている。

同様に、『あか』には紅と朱と赤があり、『みどり』には翠と碧と緑があり、『き』には黄と橙と茶があり、『むらさき』には紫と藤と桃があり、紅と翠と黄と紫が第一階級で、朱と碧と橙と藤が第二階級で、赤と緑と茶と桃が第三階級とされる。

最上級と第一階級には合計6枚の翼があり、第二階級には合計4枚の翼があり、第三階級では合計2枚の翼がある。

この色を名乗る数に合わせてその色の数の翼を持ったものが生まれる。だが、今は蒼が先代が館から出て、亡くなったにもかかわらず、まだ生まれた事を知らされていない。

二人は新一がそうだと思っているが、力の気配はまるでない。だから、違うのだと思う。

キッドと快斗は新一に説明していった。そして、どうにか理解できたらしい新一は先ほど自己紹介してくれた彼等と階級を当てはめて、偉いものが順に二人に近い席に座っていることに気付いた。

「あーでも、俺としてはそんなことどうでもいいんだよね。新一に会えただけで。」

そういって、朝に引き続き、ぎゅっとだきしめてくる。だが、今の新一は頭の整理で忙しいので放っておくことにした。

「あ、この館の奥に、もう一つこれよりも大きな館があるんですよ。そこに、トップの彼等の配下・・・第三階級と同じ翼を持つ多くのものがいます。」

「あ、ちなみに第三階級って言うのは、トップたちの連絡をその彼等に伝える事と、トップから下された命令に従って、彼等を動かして対処するリーダーっていうもの。第四階級の年長さんって感じかな?」

さほど、偉い対象には見られないようだ。だが、コナンと園子とあゆみの三人は二人が許しているのか、地位として認められている気がする。問題はあの二人だと思う。

「あとね、階級に属さないものがいるんだよね。一人は俺たちの付き人の寺井ちゃん。眷属は仕え人なんだよ。寺井ちゃん!」

一通り説明して名前を呼ぶと、数秒して一人の老人が姿を現した。

「彼が寺井ですよ。」

「お呼びいただき参りました。」

俗に言う執事という奴だろう。背中には白と黒半々の合計4枚の翼を持っている。

「はじめましてですね、新一様。坊ちゃま達に仕える寺井と申します。」

深々と頭を下げる寺井に、新一は困って頭を上げてくれるように頼んだ。何せ、自分は偉いわけでもないし、そこまで頭を下げられるほどのものでもないのだ。

「でも、いつももっとはやいのに、どうしたの、寺井ちゃん。」

彼は普段、今よりもっとはやいらしい。だからこそ、この主の仕え人をやれるのだろうが、すごいなと思う。声を聞き逃さないのだろう。並大抵の事では出来ない芸当だ。

「申し訳ありません。朝食で使用していたテーブルクロスを洗濯して干しておりました。」

「そっかぁ。そういえば、いつもまかせっきりだよね。」

「・・・お前らも手伝えば?」

「う〜ん、新一が言うならやろうかなぁ。」

「そうですねぇ。」

新一の言葉に、寺井は坊ちゃまに雑用はさせるわけにはいきませんといい、挙句、自分の生きがいだといいだす。本人が納得できてやっているのならそれでいいのかもしれない。ここにも、それぞれ仕事というものがあるのだから、仕事を取り上げるのはよくないと思う。

「じゃぁ、居候してるんだから、俺手伝わせて下さい。えっと、寺井さん。」

そう笑顔でいうと、しかしといいながらも、慣れるのには簡単なことでいいからしていったらいいかもしれないと判断し、朝食後の洗濯をご一緒しましょうということになった。

キッドと快斗はというと、新一が他のものに笑顔を向けたのもあまり気に入らないが、一緒に過ごす時間がとられるのはもっとうれしくなかった。

だが、遊んでばかりもいられないので、新一が自分達から離れている最中は館のことに詳しい寺井が一緒なので安心かもしれない。

「じゃぁ、寺井ちゃんに任せたよ。」

「はい。」

そういって、寺井は退出した。もちろん、ドアを使わずに姿を消してだ。

「あ、そういえばさ。寺井さん以外にも仕え人みたいな人いるのか?」

ふと思った疑問。ある主が二人いるのならば、二人いるのかもしれないと。だが、答えはノーだった。

「あとはこの館の入り口の門を守る番人と人の世にいて、俺達の敵である奴らの情報や人の世の動きなどを伝えるために外ですごす連絡人と人の世に出て行くための通行手段として車を動かす足。」

「番人は、黄と緑を半分ずつの合計4枚の翼を持つ中森と目暮の2人。外部連絡人は、緑と青が半分ずつの合計4枚の翼を持つ千葉と白鳥の2人。運び人は、青と紫が半分ずつの合計4枚の翼を持つ小五郎。ちなみに、彼が蘭ちゃんの父親ね。今知っておいたらいいのはこの5人だよ。」

と説明してくれた。彼等がどの階級にも属さない、無階級特別区に入る人達らしい。

これで、この館に姿を見せるものの階級と名前と簡単な説明は終った。

新一は頭の中でやっと整理しおえて、そう思うとやはりこの二人は偉いのだなと実感するのだった。

 




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