第一章二人の館主への届け物

 

 


彼等が消えて、部屋の扉をノックするものがいた。ここへきて、初めてだなと思う。

「こんにちは、すみません、昨日は家を空けていまして・・・。」

現れたのは片眼鏡をかけた真面目そうで真っ白のスーツを着た、同い年ぐらいの男。そして、後に続いて現れたのは、笑顔でいかにもやんちゃな感じの同い年ぐらいの、先に入ってきた男とは正反対に真っ黒の服を着ている男。

「わぁ、素敵なお客様だね。今までに見たことがないぐらい美人さん〜。」

見た通り、いかにも軽そうだ。それが第一印象だった。

「こら、快斗。客の前でいけませんよ。」

「そんなことをいいながらもさ、キッドもまんざらじゃないんじゃない?」

「確かにそうですけど…、今はそんな話をするためにここへきたわけじゃないでしょう?」

一度頭をこずいて、彼等もまたどこからか椅子をだして腰をかけ、用件は何かと、先ほどまでとは違い、真剣な目で新一を見た。その代わりように少々戸惑ったが、やっと一つ目の用件が終る事を思い、肩の荷が少し下りると思いながら、近くにおいてあった自分の唯一の持ち物であるかばんから、カセットをセットした小型の機械と真っ白の封筒を取り出して、それぞれ二人に手渡した。

「これは?」

「実はあの人・・・現、館主であるあなた方のお父さん、・・・えっと、盗一さんがあなた方二人に残したものです。」

盗一という言葉に、少しばかり顔の表情を変えた二人だったが、すぐに元に戻し、白い服の男がスイッチを押した。すると、中のカセットテープは動き出し、やがて懐かしい父親の声が聞こえてきた。

 

『これを、お前達が聴いているということは、大切な友人がお前達に接触したのだろう。

 友人は私の代に蒼と紫を名乗っていたものだ。覚えているだろう?

 さて、このテープを聴いていることを前提に、話を進める。

 そこには、友人の息子はいるだろうか?いないことを祈りたい。

本来ならば、友人も巻き込みたくはなかったからね。

もし、彼等の息子がこれを届けに来たときは、彼を助けてやってほしい。

きっと、私の死と同時に、友人達も死に近づき、命を狙われているだろうから。

実は、彼等の息子・・・名前は新一君なのだが、特殊なもので、人の世界では一人で生きていくことは困難だと思われる。だから、手を貸してやってほしい。

もし、これが友人達だったのなら、友人達とその息子を守ってほしい。

私の後を告ぐ事で自由をなくしてしまっただろうが、私の最後のわがままを聞いてほしい。

 

さぁ、ここからが本題だ。

私が死んでから、このテープはお前達に渡るようになっている。

つまりそれは、私一人では奴らを全て消す事が不可能だったときだ。

ここで、少し話を戻すが、実は新一君は奴らが昔から狙っていたものを持っているのだ。

だから、守ってほしい。絶対に奴らにとられることは避けねばならない。

奴らにとって、新一君こそが、私達有翼人を消滅させる力をもつあるものを持っているからだ。

 

気付いたのが遅すぎた。

お前たちには迷惑をかけるだろうが、頼みをきいてほしい。

 

キッド、快斗、お前達が幸せになれる事を祈っているよ。』

 




これが、テープの内容だった。しかも、特殊な細工がしてあるらしく、テープは二度と同じ言葉を語ることはなかった。

新一はどうしようかと考える。目の前の二人は固まったまま、何も言わないのだ。やっと動いたかと思ったら、またどこからかだしたナイフで手紙の封を切り、中身を見た。

新一は読んでいないから知らないが、間違いなく、彼等の母親からのものだと思われる。

あの人がなくなる前に、彼女もまた、命を落としたのだ。確か、紅の階級にたった、白と黒の両方を持つこの館の先代の妻だったとか。

しばらく黙ったまま手紙を読んでいた二人は、すっと封筒に便箋をしまい、新一に再び目を向けた。

「で、あなたがこれを持ってきたということは、先ほどのテープの内容通り、父は死んだと考えて間違いないのですよね?」

「ああ。器が粉々になったからな・・・。俺と、・・・あの二人の前で・・・。」

新一も、あの光景は忘れられない。もしあのとき、少しでもあの時と違っていたら。

あの人、・・・盗一は命を落とすことはなかった。

目の前の二人もきっと、知らないところで勝手にいなくなったという怒りと、何も出来なかったという自分の無力、そして、大切な人をなくした悲しみを持っている。自分同様に感情を覆い隠しているが、新一にはつらそうに見えたのだ。自分もまた、あれはつらかったから。本当の子供ではなくても、本当に大切な、家族と同じ関係を持つ人だったから。

「で、あんたは父さんの友人だっていう蒼の優作さんと紫の有希子さんの息子だというわけなんだよね?」

「ああ、俺はあの二人の息子だよ。」

ならば、と二人は何かを覚悟するような真剣な顔で新一を見た。

「じゃぁさ、もしかして。新一は現在空席の現れない蒼の位を埋める、俺たちの仲間じゃないの?先代が父親なんだろう?」

「私もそう思いました。しかし、あなたには翼が持つあの力の気配がない。」

「・・・悪いが、それはわからない。」

二人の答えに答えたいが、自分はわからないのだ。あの崖から落ちる前なら何か知っていたのかもしれないが、今の自分は本当にここ最近の記憶、・・・正確には、父と母、そして盗一とこの館のことに関して、記憶が綺麗さっぱり消えてしまっているのだ。

「実は、あそこから落ちて死ぬ事を覚悟したあと、目を覚ましたわけだが、何故かそのことに関して何も思い出せない。どうして、自分が追っ手に追われているかという理由さえ、わからない。逃げていたあの時点ではきっと、自分が奴らにとってどういう立場なのかわかっていたはずだが、そのことに関して何も思い出せない。」

新一はすまなそうにしながら、今まで志保達に告げるのをすっかり忘れていた事も一緒に、二人に告げる。そのことには、志保から連絡をもらっていないので、少々驚いたが、当初の用件は終ったし、何より彼に二人とも興味があったのだ。

自分の知らない父親を知っている事もだが、あの父親が気を許した友人達の息子ということで興味がわいたのだ。

何より、その蒼い瞳が二人は気に入っていた。先代の蒼よりも神秘的で綺麗で全てを見ているようだけど、どこかガラスのようにもろく壊れそうなその瞳が二人をひきつけた。

「まぁ、今は翼うんぬんのことは置いておきましょう。」

「そうだね。今は新一といろいろ話がしたいね。」

「・・・お前ら忙しいんじゃねーのかよ。」

急に張り詰めた空気は和み、相手のペースに乗せられかける。

「何より、父の遺言・・・というべきでしょうか、それにあなたを守るようにいっているではないですか?」

「そうだよ、外はきっと危ないんだよ。」

「それぐらいわかってら。だから、あそこから落ちたんだから。」

本当に偉い奴なのかよくわからない。何より、その似ている、さすが双子という容姿を声で紛らわしい。区別は服の色と口調ぐらいだ。

「奴らにとって有利ななるなにかを新一は持っているのでしょう?それは私たちにとっては不利になるということ。しばらくここにいて下さいますよね?外にでられると、私達でも、すぐには動けませんから。」

「そうだな。じゃぁさ、俺達の部屋でどう?」

とりあえず、ここにしばらく世話になる事は決定事項らしい。だが、どうしてそれで得体のしれないこいつらと同じ部屋で寝なければならないんだ。

「だが、俺は人でお前たちとは違うらしい。それに、歓迎されているわけでもない。だから、ある程度したら俺は出て行くつもりだが。」

出来れば、この二人のそばにはいたくなかった。覚えている中で、あの人がいつもこの二人の事を心配していて、巻き込まないようにと二人の前では父親の仮面をかぶっていたときもあったぐらい。

それぐらい、守りたかったのだから。愛した妻や友人、そして息子達。それを、新一は自分が追われているから、あの人の言葉だからといって巻き込むのはよくないと思ってしまうのだ。

それは、新一だけではなく、彼等も同じ気持ちだった。

新一は一部の記憶をなくしたことによって、今は覚えていないが、彼等には過去に一度会っていた。

その時はその気持ちを理解できずにいたが、今ならわかる。再会して、やはりそうなのだと、思い知らされたのだから。

「とにかく、このままこの部屋においておくのもいけません。」

「ここは休憩室の一つだから、誰が来るかわからないからねぇ〜。」

二人は声に出して言わなかったが、先程のこと全て知っているのだ。

「わかっていないようですが、私達は嫌いな相手には部屋へ招待などしませんよ。」

「そうそう。俺達のお気に入りだから招待するんだぞ!館主様から直々に招待されるのって、名誉な事なんだぞ。」

そういって、二人はそれぞれ新一の手をとって、ベッドから引きずり出した。

急なことで、状況を見ていなかった新一は、いつの間にか左右に二人がそれぞれいて、どうなっているのだと交互に見比べて、部屋に連れて行かれるという答えにいき、行きたくないと抵抗する。

だが、二人にはそんなものは通用しない。

「しょうがないですね・・・。」

キッドはすばやい動きで新一を抱きかかえ、足を床から離した。今の状況はいわゆるお姫様だっこといって、新一にとって恥ずかしい格好だった。

「な、何するんだよ、離せ!このバカ!」

ここで一番偉いキッドにバカといえるのは彼ぐらいだろう。もし、新一以外の誰かが言えば、即座に始末しているだろう。

何より、新一のことを本当に気に入っていて・・・あの日であったときから一目ぼれで、一緒にいたいと願った相手が目の前にいながらみすみす逃す二人ではない。

二人にとって、父がこの館を出て行っても、いつかここに再び来るという新一との約束があったから、待っていたのだ。でなければ、たとえ継ぐものが自分達だけだったとしても、面倒なことはしない。

「とにかく、部屋に来る事。そこでしばらく一緒にいること。館主からの命令。絶対だから破るなよ。」

そう言って、二人は何事もないかのように部屋をあとにする。もちろん、新一はキッドの腕の中だ。

抵抗しても無駄だということを理解していたし、また迷子になって迷子といわれるのもごめんだったので、新一はおとなしくしていた。

それを見て、キッドは表情には出さなかったがうれしそうだった。それを見て、快斗は少し不機嫌になった。

 





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