忌々しい刻印が、疼く まるで、これから起こる事を予言するかのように この身体に刻まれた刻印は時に破滅を齎す だから、嫌いだ だけど、この道を選んだ時には断る事は出来ずに授かってしまったもの 消える事のないこれ 力を全快に出した時 現れる模様 まだ、気付かれていない だけど、気付かれるのは時間の問題だ きっと、近いうちにばれる この殺人予告は何かもっと別の、悪い予感がする もう、何も失いたくはないのに、もしかしたら失ってしまうのかもしれないような そんな悪い予感
第三幕 操り人形と迫り来る闇の陰
どうやら、朝が来たようだ。 もぞもぞと動き、暖かいものへとくっつく。 「ずるい、キッドの方に〜。」 「新一はわかっているのですよ。いつもですから。」 「むかつく奴だな!」 「・・・る・・・さい・・・。」 そう言って、目を開けて、びっくりだ。 自分は時矢の腕の中で寝ていたと思っていた。だが、起きてみればどうだ。 目の前にいるのはキッド。そして背後にいるのは快斗。 「キッド・・・?っ、と、時矢は?!」 がばりと起き上がり、部屋の戸を開ける。 そんなに慌てなくてもと、少しご機嫌斜めになるキッド。 だが、そんな事を気にしている余裕はなかった。 昨日は、結構あぶなかった時矢。本当に大丈夫かどうか、確認しないと落ち着いていられなかったのだ。 だが、慌てる必要はなかったかもしれない。 戸をあけた先には、起き上がってのんびりとお茶を飲んでいる時矢の姿があったからだ。 「良かった〜。」 「心配してくれるとは、優しいね、新一。」 近くにいた新一を抱き寄せて、頭をよしよしとなでる。それに、大人しくしている新一。 まったくもって、不愉快なキッドと快斗。だが、過去を知らない自分と過去を知っている彼とでは、やはり違うものというものがある。 最初が最初なだけに、少しキッドも思うところがあるのだが・・・。 「いつまで寝て・・・。・・・何だか、珍しいお客がいるみたいね。」 「哀・・・。」 「大分、魔術師の顔ぶれが揃ってきたみたいだね。」 いつものように冗談交じりに脅そうかしらと思い、現れた哀は、そこにいた見知らぬ男が新一を腕の中に抱いている事で、驚きと警戒心を持っていた。 そして何より、『魔術師』という言葉で、一層睨みつける。 「とにかく、朝食の用意が出来たから・・・。紅子は先にいるわ。報告もかねるけど・・・。そっちの人も来ても問題がないのなら、連れてきたらいいわ。一人分、用意させるから。」 「すまないね、お嬢ちゃん。」 「お嬢ちゃんじゃないわ。灰原哀よ。」 「知ってるよ。本当の名前とかもね・・・。」 さらに、目が細くなり、相手を見定めする。 それに、別に問題はないのか、ひょうひょうとしている時矢。 これ以上睨んでいても相手の態度は変わりそうにないので、哀は黙って歩いて行った。 その間、新一はかなりどきどきしっぱなしだった。哀が、かなり機嫌が悪かった事もあるし、時矢が何かやらかしてしまうのではないかと、心配する面もあったからだ。 「とにかく、行きましょうか。」 「そうですね。」 「時矢も来るだろ?」 「そうだな。せっかくだし、魔女殿の怪我の様態がどうかを、確認しようかな。」 きっと、黒兎の件での怪我だろう。 時矢は知っている。あの事件に裏で関わっていたのだから。 今の状態すらかなり気に入らないキッドと快斗は、彼が関わっていたことなど知らない。 新一を取られてしまうのではないかという不安と、絶対に渡さないという嫉妬心と独占欲で、心はかなりあれていた。 それに気付くのは、時矢だけだけど。新一はまったく気付いていなかったが・・・。
朝食として、集まった場所は外とは隔離された場所。だが、窓もあって他とは何ら変わりもない部屋。 そこに、新一達魔術師に混ざり、一人の男が同席していた。 なんだか、奇妙な空気が流れているなと思うのは、きっと気のせいではないはず。 かなり重苦しい空気が・・・それもキッドと快斗あたりから漂っている。 はぁと、隠れて溜息をつく。 自分の側にいる妖精も、時矢と一緒にいる妖精も、顔をしかめる程のもの。 そういえば、キッドはかなり嫉妬深い男だったなぁと思い出す。そう考えると快斗も同じなのかもしれないと思う。 だって、彼等は本来同じ魂であり、双子としてこの世に戻ってきただけのものだから。 「いい加減にして頂戴。」 「さっきから重苦しくてうっとうしいのよ。」 ずっとこの調子でいられてはたまらないと、哀も紅子も言うが、まったく耳には聞こえていないようだ。 どうしたものかしらと、ため息を吐く始末。今回は哀や紅子の声も完全に届いていないのだから、対処のしようがない。 あとでどうしてやろうかと考えるが、新一次第でかわるかもしれないけれど。 だって、この男と新一の関係によっては、自分は彼等の見方になるのだから。 「それにしても・・・。新一君。彼はどこの誰なのかしら?是非、何者であるのかを聞きたいのだけど?」 「安全面が確認できない人との食事は、あまり好きではないのよ。」 「確かに・・・そうかもしれない・・・。」 「噂どおり、手厳しいね、お嬢さん方。」 緊張感がないというか、余裕があるというか。時矢という男から感じる闇の気配のせいか。ただならぬものを感じる哀と紅子。 新一が信頼しているとわかっているからこそ、手を出さないだけであり、時矢自身を信頼したわけではない。 もし、新一が警戒の色を見せていたら、即追い出してやるのだが、今回はそれが出来ないから厄介でもある。 「どの範囲まで、こいつのことが知りたいんだ?俺も、あまり会わないし、ほとんど知らないぞ?」 「そうなの・・・。でも、そうじゃないとおかしいものね。だって、私達が今まであった事がないんだもの。」 そう。彼等はあるときからほとんど一緒にいるようになった。 だというのに、一度も会っていない。それはつまり、その間も会う事がなかったということだろう。 「だって、こいつは海外やこの町じゃなくて外にいることが多かったし・・・。ひとつの場所に長い間留まる事が出来ない性分の奴なんだ・・・。」 「あら、そうなの。変わった人なのね・・・。かなり、闇が濃いというのに・・・。」 「流石というべきか、気付いているんだな。」 やはり、闇の一部や自分達の関係を話す必要があるのかもしれない。 新一が話すのを待つメンバー達。隣では、同じようにどう説明するのかと見ている時矢。 はぁと小さくため息をついて、覚悟を決めて話し始める。 「こいつは時矢といって、過去に怪我している時に今回同様に拾ったんだ。それが、出会い。」 それを聴いた瞬間、こんなに濃い闇を背負うのにそんなに間抜けなことをしているのだと、全員がちらりと時矢を見る。 だが、話はまだ終わっていないので、すぐに新一の方を見るが。 「それで、こっちは俺達とは同じであって少し違う仕事人。俺達の前回の件・・・、キッド達には言ったとおり、黒兎をしとめようとして追い詰めた男はこいつだ。」 「・・・っ、まさか。」 「そして、こいつは俺達の事や俺の事も知っている、関係者の一人。まぁ、あの親父はまだ気付いていないみたいだがな。」 簡単に、質問される事だけを答えるぞときめ、あまり必要以上には話さない新一。 少し、思うところがあるのか、それに一つ質問をする哀。 「あの、尻尾を見せなかった人が彼ということなのね?それで、おじさまも知らない関係者って、どういうことなの?」 「・・・確かに、間違いなくあれはこいつがした・・・。あの親父が知らないのはしょうがないんだ。こいつは死んだ人間として、世間は処理されているし。・・・だから、死んだとされた人間が生きているとは誰も思わないだろう。」 「どういうことですか?」 「こいつは、三家と関係のない、『外』の生まれであるから。外で生まれたが、俺達の関係者なんだ。だから、親父達は気付かない。何より、お前達がいたから、余計にそうなんだろう。お前達は過去でいう利人の生まれ変わりだ。そして、こいつは海だ。」 最近知った話。だが、まだまだ知らない事があったのだと知らされた時。横では苦笑する時矢がいる。まぁ、しょうがないかもしれない。 かなり驚いてポーカーフェイスがなっていない面々を見れば、自然とそうなるかもしれない。 ポーカーフェイスで顔を隠し、人を欺く魔術師達の素顔を見たようなものなのだから。 「だから、こいつは知っていてもおかしくはないんだ。お前達誰一人として気付かなかったとしても。たぶん、俺だから気付いたんだろうな。・・・二股かけた巫女だし・・・。」 最後はかなり嫌そうに言う。確かにそうだろう。自分に身に覚えがないことだが、確かにそうであるのだから。 そして現在、間違いなく二股かけているのだから。たとえ、もとは一人出会ったとしても。 交わる事など、絶対に考えなかった巫女が愛した二人の男。もとは双子だと言われている、男。 それが、現在では片方はさらに双子となり、片方は知られる事なく生まれ、そして現れた。 全ては、大切な人を守りきれず失ったという思いから。 「ちなみに、こいつとは何もないからな。」 「あったら、許してませんよ。」 かなり疑うような目で見られて、先に言うと、あたり前だと返すキッド。 最初に抱いた時に気付いているし、あれだけ抱いて、自分の色に染めたのだからわかるのである。 新一が他の誰にも抱かれていないという事が。 そもそも、最初に抱いた時に誰かに抱かれた形跡があるようなら、手を尽くして調べて、手を出した不届き物を始末しているところだ。 そんなキッドの考えはお見通しだというのか、相変わらず無駄に元気と言うか、口が多い時矢がキッドいに言う。 半分挑発しているような、挑戦的な笑みで。 「だから、俺は失恋なんだよねぇ。だから、いじめないでよ?」 「・・・何が失恋ですか。」 「いじめるも何も、何もしてないじゃないか。」 なにやら、いろんな意味で目で何かが飛び交っているような気がする・・・。 隣では主を心配している妖精の健気な姿があった。 彼を選んでしまった妖精が少し可愛そうだなと思いながら、話から逃げるようにお茶を飲む。 だが、一向に終わらないので、やっぱり止める必要はあるようで、と眼に入ることになる。 こいつらは、子供かと突っ込んでしまうぐらいの低レベルさだから、溜息がでる。 「ほら。お前等もやめとけ。ちゃんと話しただろ。それより、昨日俺に黙ってやってたこと、結果はどうだったんだよ。」 「あ・・・。」 「確かに、報告すべき事はあるわね。」 話を打ち切り、仕事の話へと変える。 今は時矢の問題よりも、新一の問題の方が最優先である。 「一人、目撃者がいたようなの。その人はもう、命はないけれどね。」 「目撃者?」 「なんとかに逃げたその女が、警察へと伝えたらしいの。」 「・・・狙われた、手紙を受け取った女か。」 「そう。それで、彼女はこう言ったらしいわ。『蒼い瞳の女を、あれが探しているっ!』とね。」 「蒼い瞳・・・。」 女は、伝えた後に助けようと医者を呼んだが、その突如苦しみだし、原因不明のまま命を落としたのだと、報告した。 そして、あれと呼ばれる手紙を送る相手が、蒼い瞳の誰かを探しているということも。 「・・・そいつの最終の獲物は新一だ。」 「・・・何?」 話の報告を聞いている最中に口を挟む時矢。 その顔は、先ほどまでの笑顔すらなく、感情を失った能面のような顔。 ぞくりと何かを感じる、闇そのもの。 「どういうことですか?」 「わかってないなぁ?俺は目撃者だと報告受けているとおもうけどな、あの爺さんから。」 「そういえば、そうしでしたね。しかし、それでどうして・・・。」 「写真だよ。あれが持っていた写真。」 「あれ、ですか?今回の一連の出来事を起こした?」 「そう。殺人人形だよ。忠実に命令を守る操り人形。あいつが持っていたんだよ。幼い頃の新一の写真をな。」 ほら、これだと、持っていたぼろぼろの古い写真を一枚出した。 それには一人の少年が写っていた。幼い頃の、新一の姿。 どうしてそれをあいつが持っているのか。そして、どうして新一をあいつが狙っているのかはわからないがと、時矢は言う。 「その写真は間違いなくあいつのだ。常人には見えないが、背後には俺が今連れている妖精が写っている。何より、その年に俺は新一と会っているからな。」 「・・・。」 情報を得られた事は良かったのかもしれないが、この時の新一を知っているという事と、その妖精が見えない事が悔しかった。 彼等の目には、新一が配慮したり妖精自身が呼びかけない限り、見えることはないのだから。 「お前等が俺をここに置いておくか追い出すかは。任せる。それに合わせてやる。だが、どちらにしてもよく心に刻んでおけ。」 「時矢っ・・・。」 「あいつは必ず新一の前に姿を見せる。はやければ今夜にも。一番気をつけるべきは事は、お前達全員がしっかりと意思を持つことだ。」 そうしなければ、あれに意思を持って行かれてしまう。そうすれば、簡単に敗北し、命はない。 仕事人となる事を選んだ時に、波ならぬ決断をし、強い意志を持ち貫いてきたが、今回はそれではいけない。 新一を守りたいのなら、全力で新一を守ろうとしなければいけない。 しかし、そうすれば新一は悲しむのは事実。だ が、そうする事によって新一の力が解放される事も事実。 「新一の側で困っている『妖精』の様子から、何か心当たりがあ・・・。・・・来たのか・・・?」 「っ?!」 話をしている最中に止まる時矢。闇をまとった、とてつもなく暗い何かの気配を感じ取って身構えるキッド達。 「来たか・・・。」 「そのようですね。・・・悪いですが、話が終わっていないので、置いておくにしても追い出すにしても、今は保留にしておきます。」 「ありがたいね。」
バンッ
明け放たれた障子。 中へと吹き荒れるように流れ込む湿った風。 そして、姿を見せたのは、幼い子供の影。 「お出ましだな。夢人。」 「お兄さん・・・。まだ生きていたんだ。」 邪魔をする者は始末しないといけないのに、困ったなという子供。 自分の意思はないのか、忠実に言われた事を守る人形のような子供。 「やっと見つけた・・・。」 「・・・そうか。お前には、『妖精』は見えるのか。」 「どういうことですか?」 「つまり、見える事により、写真に写っていた人物が新一だと認識したってことだ。」 「それじゃぁ!」 「わかりきっているだろう?連れてくるように命令されているのなら、何がなんでも連れ出すだろう。」 邪魔なものを排除しようとした時のように。 何をしかけても死ぬ事のない人形相手には、こちらが不利である。 「何より、黒幕もどっかで観察中みたいだしな。」 「っ?!」 「お前は気付かないだろうが、今ここは闇で覆われている。」 「とにかく、わかるなら貴方に今はまかせるわ。」 「そして、私はあれの遊び相手になっているから。」 新一を守るようにと遠まわしに頼む哀と紅子。 今回、知っているものと知らないものとでは差がありすぎる。 何より、力の差も歴然だ。 「ぐずぐずしないで。」 「行きなさい。」 「でもっ!」 新一には二人を置いて逃げることなんて出来ない。 だが、時矢は容赦なく力で催眠をかけ、新一を眠らせる。 そして、キッドと快斗に来いといい、窓から外へと飛び出す。 出て行く新一を追おうと夢人はするが、立ちはだかる二人の姿に、敵と判断する。 「・・・邪魔するものは壊す。」 「あら。私は簡単に壊れないわよ。」 「反対に、貴方が壊れるんじゃないかしら?」
静かに最初の戦いの火蓋が落とされた。
闇を切り抜け、進んでいく時矢について行く二人。 多少、新一を抱きかかえているということは気にいらないが、今は新一の安全が第一である。 「そろそろ。お前等も知っておくべきかもしれない。」 「何がですか。」 突然話を真剣に話をはじめようとする時矢に、何があったのかと言えば、移動のままで悪いが、大人しく話を聞けと圧力をかけられる。 「いろいろなものが動き出した今、知らないのは命取りだ。情報の正確さや量でかわることがあることぐらい、裏で生きるお前達ならわかっているだろう?」 「ええ。」 「あたりまえだろ。」 情報不足が、両親の死や新一でのことでいろいろとあったのだから。 まだまだ未熟だってことぐらいも自覚している。 「さっきも言ったように、本当に守りたいのなら、全力で守れ。自分自身を疎かにしてもいけない。」 ぎゅっと時矢の服を攫む力が強くなる新一。 時矢が話す内容に耳を傾けはじめる二人。 「闇さえ引き寄せ味方にする光を持つ巫女。世界を見れば、そんな肩書きや力を持つものはいくらでもいる。」 「なら、どうして新一が!」 「違いがあるからだ。」 すっと、突然足を止めた時矢が振り返って、同じように止まった二人を見る。 「人は皆、左右対称のようで、少し歪んでいる。だが、新一は違う。魔物や妖精が好む左右対称。黄金律ともいうべきそれを持つ。」 「・・・それがどういう関係が・・・。」 「持つ者は少ない。それと同時に、持つ者は大きな力を得たも、器が耐えられるし、器はそのままで、力を上手く圧縮させることができ、余裕が出来る。そうすれば、さらに力を手に入れられる。」 新一は今、多量の力を持っている。 力の源でもある新一を食らえば、どんな魔物だって魔王のように強いものになれる。 だからこそ、新一は狙われる。 「分かりやすく言えば・・・そうだな。 「・・・過去の新納という巫女もそうだったのですか?」 「そうだな。新一と同じように、刻印を持っていたが、新一には適わないだろうな。」 力の源なら、同じように持つ者だっているだろう。 それなのに、どうして新一ばかりが狙われるのか。 「それじゃぁ新一はっ・・・!」 「そうだ。今回は多少違うだろうが、これから多くなるだろう。」 「くそっ。なんで新一ばっかり!」 「だが、それが今の新一が背負う定めだ。背に刻まれた刻印を持つときからな。」 「刻印・・・?なんですか、それは。」 「まだ、新一が話さないから知らないだけだるが、・・・知りたいか?」 「ええ。」 自分達が知らないのは気に入らないし、何より新一を思う気持ちがあるから、守る為に知りたいと思う。 その思いが本物だとわかっているからこそ、時矢も話す。 そして、そんな彼等だからこそ、新一の側にいる事を認めたのだ。 「新一は生まれたときから、背に刻印を持っていた。だが、力のないものにはそれは見えない。」 「どういうことですか?」 「新一は、生まれる前から、お腹の中にいるときから、様々な精霊や魔物と契約を交わした。生まれたときには、すでにほとんどの神や自然界に住む聖霊などと契約を交わしていた。」 「・・・新一に惹かれ、言葉を交わす事もなく認めたということですか?」 「ああ、そうなるな。人ではないものには、相手の強さがわかるし、自分が適わないと思ったら、契約を交えて下につく。」 意識のない新一の顔を見て、そっと髪に触れながら。 まるで、踏み込んではいけない場所のように錯覚する。 それだけ、新一とこの男と自分達には差があり壁があるかのように思えた。 「新一が怒り狂えば、力が増える。だが、涙を流せば、力は衰える。それでも力を使える理由はわかるか?」 「・・・。」 「新一自身の命を、寿命が燃え、その力を使っているからつけるのだ。だから、絶対涙を流させるな。そんな時に力を使わせるな。いいな。」 さもないと、力を持つ者は早く命を落とすものがおおいから、そんなことで削っていては先がもたないと言う。 「なら、どうして刻印があるからといって、新一が・・・。契約のことはわかりましたが・・・。」 「答えは簡単だ。世界に一人いるかいないかだからだ。」 「っ?!じゃぁ!」 「ああ、そうだ。世界に誰も持たないかもしれない。その刻印を授かった子供だ。俺と同じように、人の子であって、人とは違った道を歩くもの。」 何処の世界でも、何時の世界でも、必ずは生まれる異端児。 何かしら、身体に変化があり、それが異端であることを象徴する。 「新納にも刻印があったんですよね?」 「だが、力の強さは違う。強ければ強いほど、背中に濃く、そしてはっきりと刻まれる模様。今回、たぶんそれをお前達は見るだろう。」 「ならさ、人ではないって、やっぱり力のせいなのか?」 「力だけなら、違う。それに、俺と新一は同じであってまた違う。」 「どういうことですか?」 「俺が人ではない理由は、力と人とは違う時間の長さだ。新一は、同じように時間の長さはあるが、涙を流せば力が失われることにより、その間に使うために命を削る。わかるな。それによって、寿命が縮まる。つまり、そこが違う。だから、本来の人よりはやく寿命がくる。」 先日の事件で、涙を浮かべながら力を使った。 自分を助けるために。 なら、その時に新一の命は削られていたというのか。 守りたいと願うのに、大人しく守られてはくれない愛しいお姫様。 自らの命を削って反対に守られている事実が、深く胸に突き刺さる。 「闇さえも引き寄せ、見方にする。そう、貴方は先ほど言った。」 「ああ、そうだな。努力するよりも新一を手に入れるのが一番楽に力を手に入れる方法であり、それと同時に、誰もが新一には惹かれる。俺やお前達、そしてのあのお嬢さん達のようにな。」 「聞けば聞くほど、いつか、私達の手からすり抜けてしまいそうです。」 「意思を強く持てば大丈夫って、どういうことだ!」 「だから、戦いの中では、意思が弱いものは負けるという事。それぐらい、わかるだろ。」 闇が再び濃くなった。 行くぞという時矢の言葉と共に、再び走る三人。 どんどんと闇は近づいてくる。きっと、逃げる道はないのだろうが、逃げ切れないという可能性がないわけではない。 「貴方は、どこまで知り、どこまで関わるのですか?」 「さぁな。大事なお姫様がピンチの時は手を貸すし、関わりがある以上は、身体が自然と動く。だから、俺にはわからんな。」 もぞっと、どうやら意識が浮上し始めた新一が動く。 だが、今はまだ眠っていてもらわないといけない。 妖精にたのみ、眠りへと誘う。 こうして、再び新一は深い眠りについた。 意識が浮上するのはまだまだ先。 「今はまだ、眠っていろ。」 出来るのなら、知らない間に片付けたいが、きっと無理だろう。 なら、時が来るまで、休ませたい。 きっと、無茶してまでも、どうにかしようとするだろうから。 「ほら、急ぐぞ。」 「わかってます。」 「・・・。」 二人はそれぞれ時矢から知らされたことをしっかりと記憶し、新一の事について考えていた。 どうすれば、新一を守れるのか。 どうすれば、新一を守りきれるのか。 まだ、自分達は知らなさ過ぎて、まだ、無力な子供と同じで。 とても、悔しかった。
「手ごわいわね。」 「そうね。久々かもしれないわ。」 これだけ何をやっても効かない相手。 今までが弱すぎたのか、それとも相手が強すぎるのか。 「まだ、けるけれどね。」 「そうね。」 だが、気になるのは、辺りを包み、全てを見透かしているかのように漂っている闇の存在。 「これ以上は、邪魔させないよ・・・?」 残酷な殺人人形が再び襲い掛かる。 |