暗くて寂しい、人に忘れられた場所 僕はずっとそこにいたんだ ずっと、誰かが僕を必要としてくれるまで 僕を外へ出してくれるまで 只ひたすらに人には聞こえない声で訴え続けた そんなある日、僕は光を見た はじめて、僕の視界を覆っていた箱の蓋をとった その人は名前を闇人と言う 「君の名前は…?」 その闇人という謎の多い真っ黒の男は問いかける 「…と。…夢人…。」 僕は答えた。はじめて、つけてもらった名前を問われて、うれしかったからかもしれない 「夢人ね。」 僕はこの人と契約を交わした 名前という名の呪によって、契約を結んだのだ そして、彼は僕に言ったんだ 「実はね、君に頼みがあったんだ。」 「頼み?」 「そう。頼み。どうしても、手に入れたいものがあるんだ。」 その手に入れてほしいものを僕にとってきてほしいのだといった 僕は、何が正しくて悪いのかなんて知らないから、それが正しい事だと思った 「いいよ。何を持ってくるの?」 「人だよ。私とは違う、人。全てを見透かす蒼い瞳を持つ、気高く美しいお姫様だよ。」 そう、彼は言った だから、僕はその『お姫様』を探しに行こうと思った もってきたらきっと、この人は喜んでくれると思ったから 「これが、連れてきて欲しいお姫様だよ。…私でさえ、愛しいと思ったたった一人の人。」 彼は僕に写真を渡した 少しボロボロになったそれを受け取って、僕は動き出したんだ その写真に写っている『お姫様』をこの人のもとへ連れてくる為に 舞姫の守人 第一幕 黒い闇からの予告状 あの事件から数日が過ぎた。 白鳥と白馬は警察に逮捕され、どうなっているんだと叫びながら、服部平次は忙しく働いていた。 白犬こと、黒兎はまだ足取りをつかめずにいるのだが…。 そんな忙しい警察と比べ、『魔術師』の面々は相変わらずのんびりと休養していた。 あの無茶ばかりするお姫様を休める為には、周りも休まないといけないからだ。 彼は、自分だけ休んで安全を手に入れることをひどく嫌うから。 その間、死んだとされていた両親達は馴染みの友人達といろいろ話合い、今はもう、はるか遠い所にいることだろう。 どうやら、もうしばらくは死んだままにしておいて、有意義に旅行を楽しみたいという事だった。 もちろん、護衛として智明がしっかりとついているので安全面の問題はないだろう。 彼等は確かに突然行動を起こすが、今回はただの旅行ではなく、あの事件で黒兎を追い詰めた何者かを調べる為にこの街を出たこともわかっている。 だが、新一はまだ言うつもりは無い。あれは敵ではないから。 自分やキッドや快斗と同じ、出会うべきして生まれた運命の絆でがっちりと結ばれた者だから。 きっと、誰もあの彼もまた自分達の関係者だとは気付いていないだろうけれど。 最近、よく思うようになった。 今までとは違い、しっかりとあの二人が好きだと認識できた。だが、それは二股といってあまりいいものではない。 だから、伝えようと一度は決意したものの、タイミングを逃し、ついに言えなくなってしまったのだった。 もともと、新一はそういった事に疎い事もあるし、恥ずかしがり屋でプライドが高かったから。 今更言えないという状況なのである。 だが、哀や紅子は気付いているようだ。いつも二人だけや三人でいるときなど、もう言ったの?などと問われる。 もちろん、それに答えることなどできず、真っ赤にしていれば、まだなのねと言われる。 そんな日々。 両親の件ではっきりした後も、新一は相変わらず月華楼で生活していた。 もちろん、あの出会いから快斗も増えていた。 たいていは三人仲良く大人しく寝ているが、たまに襲われてしまう事もある。 それが嫌というわけではないのだが、まだ何も言えずにいる新一には複雑なものである。 「あ〜、数時間ぶりの新一だぁ〜。」 寺井に家の事で呼ばれ、ほんの一時間前に泣く泣く月華楼から出て行っていた快斗。 キッドにしてみれば、もう帰ってきたのかという状態である。もう少し、二人だけでゆっくりと過ごしたかったというのが本音。 「ちょっと、うざいからどっかにいっていてくれないかしら?」 「うわぁ、哀ちゃん?!」 「まったく、相変わらず迷惑な人ね。」 「げ、紅子。」 その態度がむかつくわと二人に攻め立てられながらも、なんとか持ちこたえる快斗。 さすがの快斗もこの二人がくっつけば適わない。 別の意味で、新一にも叶わないのだが。 だが、新一にとってはこの目の前にいる大切な人達には適わないと思っている。 どんなに言っても、結局は自分のことを心配してくれているのだから、大きくは言えない。 でも、決めたことに関しては、付き合ってくれるから、それがたまに申し訳なく思う事もあるのだけど。 「快斗。それに哀も紅子も。今日は遊びで呼んだわけじゃないんですよ?」 いつまでも続くそれに終止符を打つのはやはりキッド。 哀と紅子にとっては、別に遊んでいるわけではないのだが、この毎日が楽しいから、新一に構いたくなるのである。 まぁ、キッドや快斗に普段とられているので、たまにはいいだろう。 「そう言えば、新しい仕事だったよな?」 「そうです。話をしますから、上に来て下さい。」 ここは、店というより部屋がある場所だが、ここでは絶対に仕事の事は口に出さない。 どこで、情報が洩れるか分からないという事と、新一を守る為である。 「まだ、あの件で分からないことが片付いていないのに、もう次の仕事に入るのね。」 「しょうがありませんよ。闇というものは、いつでも付きまとうものなんですよ。」 「わかっているわよ、それぐらい。」 「そうだよね。まだわかってないからねぇ。あの暗殺者の女の件と、黒兎を追い詰めた、こちら側の事情を知っているであろう者の事。」 前回の事件で、一番の黒幕はベルモットという、哀がもともといた組織の暗殺者によって殺された。 その後、逃げたはずの黒兎が何ものかに襲われ、彼の血によって文字が残されていたという事件があった。 警察では手に追えず、すでに迷宮入りになりかけている事件。 確かに、あの言葉は特定の人物に向けられたもので、意味を知らないものにとっては何にもわからないただの言葉にしかすぎない。 「一つ入ってきた情報によると、奴は凄腕の姿を誰もはっきりと見た事がないと言われる仕事人らしい。暗殺も盗みもなんでもやってのけるみたいで、単独犯らしい。」 「そうですね。他にもちらほらとある情報ですと、はっきりと姿を見たものは、全て消されたみたいですからね。辛うじて噂で流れるのは体格のいい背の高い男というところですね。」 警察でさえ手に入れられないあの男の情報を、はやくも手に入れている二人に感心する反面、この二人ですら苦戦するほどの仕事人なんだなぁとあの男を思い出して感心していた。 やはり、あの男はただものではない。 だけど、自分やこの二人と戻る場所は同じというもの。 いつか話せればいいのだけど、相手の意思もあるのだから、まだ話せずにいる。 だけど、もっと早く話しておくべきだったと気付くのは、事が起きてからだった。 まさか、今回でこんなことになるとは思わなかったからだ。 しっかりと部屋の鍵を閉め、寺井に頼んでおいた資料をもらい、それぞれに配って話を始める。 今回の関わる事件の内容と、今後の行動の予定を。 「今度の事件は、少し前回に続いている。」 「へぇ、そうなの。だから、動こうと思ったわけね。」 納得が言ったわと、なにやら笑みを浮かべて資料を見る哀。 外見だけしか知らない者にとっては、それはもう素敵な笑みであっただろう。 だが、内面をしる者達、とくに二人の最強とも言える怪盗にとっては、悪魔の笑みであった。 「…資料の一枚目に書いてあるとおり、黒兎の血で綴られた字によって、知る者たちが動き始めた。」 「そうね。あれだけ宣伝のようにされては。」 その言葉に、少しびくりと反応を見せるが、どうやら気付かれていなかったようだ。 ここにいる皆は頭の回転がはやいので、あの文字は誰かに向けての、それも知る者へのメッセージだとわかっていた。 それが俺なのだが、そこを知る者たち全てだと勘違いをしているようだった。 やはり、すぐに話して誤解を解くべきだろうか…。 「それで、どうやらいくつかの組織や欲に駆られた金の亡者が動き始めたのですよ。」 「なるほどね。それでこの事件というわけね。」 「そうです。」 資料の最初に書かれているのは、昨日の新聞の内容であった。 今朝、何ものか宛の血文字で綴られた土の横に、この街では珍しい蒼い薔薇を添えて、女性の遺体が発見された。 すでに、三人目の犠牲者。 内容は最初から続いている模様で、警察はすぐにその文字で綴られて、犯人が探している誰かの特定を急いでいる。 そう、書かれていた。 そして、その文字の隣には写真が添えられている。 これが、被害に会った人の最後。 あまり見ていいものではないが、仕事の際はしょうがない。 「添えられた言葉は、一件目から『どこにいるのか?私の愛しいお姫様。』、『もう一度貴方のその蒼い瞳と出会いたい。』、『貴方は気付いてくれた?これは貴方へ捧げる、貴方のための華』と、犠牲となった三人の共通点でもある蒼い瞳の長い黒髪の若い女の誰かへのメッセージのようです。」 「なんか、嫌だな。本人が気付いてもうれしくないじゃん。」 「そうですね。それで問題がひとつあるのですよ。」 「そう言えばそうね。」 全員が同時に見る方向。その先にいるのはもちろん新一。 性別上では男だが、共通点にもある蒼い瞳を持ち、よく女装と言う形で、地毛に合わせた長い黒髪を使用する事があるからだ。 「彼、今回ははずした方がいいんじゃないかしら?」 「私もそう思うのですよ。」 「な、冗談じゃない!」 勝手に自分をはずす事を前提にして、話を進めようとするのを止める。 自分も同じ『魔術師』の一員であるのだから、いくら被害の犠牲者と共通点があったとしても、そんな事で抜けるつもりはないし、まかせっきりにするはずもない。 「…だよなぁ。新一が大人しくしているはずがないし。」 「とにかく、話を進めましょう。新一の件は後回しです。」 「おいっ!」 本当に後回しだとわかる。あの二人が、珍しく自分の眼を見ずに資料を見ているのだから。 いつもは、やめろといっても聞かないぐらい自分を見てくるのだから。 まぁ、見られない方がいいのだが、こうもあからさまに自分をはずす為の策を考えているのだとわかるような行動を見せられると、なんだか複雑なものだ。 心配されているのはわかっていても、自分だって心配するのだから。 「それと。三件とも報告がありまして、最初に封筒が届くようなんです。」 「封筒?もしかしてこれかしら?死の宣告のしらせ。」 「そう。それを三人とも受け取っていたんだ。それも同じ日に。」 そしてと、キッドが一枚の封筒を取り出した。 彼が出す白い封筒と同じようなもの。 この話から、だいたいは想像がつく。 「もしかして…。」 「そう。そのまさかで、届いたのですよ。昨日にね。それも、配達ではなく届けられたのです。」 消印が押されていない、配達されることがなかった手紙。 もちろん、誰宛かなんてわかりきっている。 しっかりと封筒に書いてあるが、この名前が問題だからだ。 そして、その人物もターゲットとなるキーワードを持っているのだから。 「『新納様』宛のもの。この月華楼だけではなく、遊郭全てにおいて、この名前に該当する、黒髪で蒼い眼の女はいない。そして、いるのは新一、ただ一人。」 「そういえばそうよね。貴方は女装をする事もあるから、女と間違えられてもおかしくはないわ。」 あまりうれしくないのだが、こればっかりは困ったと思う。 もし、あれをキッドよりも先に手に入れていれば、自分だけが黙っていればよかったのだから。 そうすれば、今回の仕事でここまで反対される事もなかっただろうから。 「わかるよね、新一。相手は新一の『前世』という名の過去を知っている。」 「それに、何の証拠も残さずに仕事をしている。それが意味する事と、前回と結びつくのなら、今回は大人しくしていてもらうわよ。主治医としても、貴方に無茶させるわけにはいかないんだから。」 このカードが届いた次の日には、ターゲットとなる者は殺されている。 もし、それが犯人が探している相手なら、殺される事はないのかもしれないが、無事とはいえないだろう。 それに、その相手へと辿り着く前に、新一に矢があたったのだから、ゆっくりしていられない。 「紅子と哀は、悪いが街へ出て、様子を見てきてほしい。」 「わかりました。おおせのままに…。」 「必ずや、望のままに…。」 すぐさま、二人は部屋を出て行く。 そう。街へ行って、情報屋とあって情報を収集してくるようにという命令。 それと同時に、警察や他の組織の動きの監視も兼ねている。 二人が去っていった後、残ったのはケダモノが二匹と可憐な蝶々が一匹。 蝶々が生き残る事はなかなかない。 美味しい状況でもあるし、ぐっすりと寝ていてもらう方がいいという判断もあったのだろう。 「快斗は残るつもりですよね?」 「もちろん。」 「おい。」 「新一も、もちろん私達と一緒ですよね…?」 断る事を絶対に許さないといった風に、飢えた獣のような目を見て、ぎくりと逃げ腰になる。 だが、逃げるのは遅い。 しっかりと、背後に快斗がいて、目の前にはキッドがいる。 逃げ場はないと考えてもいい状態。 「逃がしませんよ。それに、今朝の続き…。今のうちにしておきたいですしね。」 「な、馬鹿野郎っ!」 「馬鹿で結構〜。だって、新一馬鹿だしねぇ。」 しっかりと、暴れようとする新一を抱きかかえて部屋の奥へと進む快斗。 部屋の入り口の戸締りをしっかりして、続いて奥へと進むキッド。 二人は、これから新一を抱くつもりであった。 そうして、しばらく動けないようにして、その間に自分達が仕事をしようと思っていた。 今回ばかりは、その方がありがたいと思っている哀や紅子は、二人を止める事もなく出て行ったのだ。 できる限り、新一を巻き込んで傷付けさせたくはないから。 誰よりも優しく、他人の痛みを自分の痛みとして感じる人だから、きっと今度の事でも心を痛める。 本当は、『魔術師』といった危ない事事態、してほしくないのが全員の本音である。 だが、それを大人しく新一が聞くはずもないし、仕事をする彼の姿もまた彼らしく思えるので、完全に止める事は出来なかった。 だから、二人はまだ時間がはやいが容赦なくいくつもりだ。 昨晩の事もあり、疲れているとわかっていても。 何より、どれだけ抱いても飽きることなく、どんどんとその魅力の罠に掛かっていく。 「貴方はどれだけの闇に好かれるんでしょうね。」 「心配だよ。」 自分や哀、そして紅子や組織の連中と言った、裏とも言うべき場所に足を踏み入れている者達に好かれてしまう巫女。 やはり、誰からも、何ものからも愛される姫巫女だからだろうか。 それとも、うちに持つその輝く光のためだろうか。 全てを見透かし、動きを封じられてしまうような神秘的な蒼い瞳のせいだろうか。 答えはわからない。 だが、全てにおいて新一だからこそということで、自分達がいるのだから、意外と似たり寄ったりなのかもしれない。 新一を押し倒し、着ている着物の帯をはずす。 二人分の力で完全に逃げる事は不可能となり、四つの眼が新一を縛り付ける。 「おい、キッドっ!快斗っ!」 「今から付き合ってよね。」 昨晩付き合って、また今から付き合うのかと思うと、ぞっとする新一。 今は無理だと訴えても、逃げようとしても、聞いてくれないし逃げる事は叶わない。 逃げ場を失った兎状態で、狙う様にこっそりと近づいてくる肉食動物。 自然界の掟に置いて、勝てるはずがない。 「諦めてください。」 「愛してるよ、新一…。」 「な、快っ…んっ…。」
これ以上の話は終わりだと、快斗は新一の唇に自分のを重ね、抵抗力を奪っていく。 少し早い宴がはじまった。 |