あの日が俺にとっての始まりともいう日 あの出会いがなければ、俺は今頃ここにいなかったのだろうか。 それに もし、あいつと出会っていなかったら 自分の弱いこの心はいったいどうなっていたのだろうか
第四幕 大切な人
まだ誰も、KIDが二人いや、三人とは気付いていない。一人だと思っている。 だから、キッドと名乗る遊郭の支配者が一時期候補として上げられたが、現れたKIDによって、無実を証明されて、今でも悠々と過ごしていられるわけだ。 同時刻に快斗も見張られていたが、KIDが現れたのだ。それが決定的だった。 だからこそ、誰も気付かない。 そもそも、その件でKIDと思われる二人を見張っていたにもかかわらず、予告に従って参上したKIDはもう一人の協力者がやったのだった。 まだ、キッドと出会う前。そう、まだ両親が側にいて家に縛られつつも幸せだったあの頃。幼馴染の哀がKIDの危機を相談しに来たので、新一が代わりに実行したのだった。 哀の頼みを断る術を新一は持ち合わせていなかったし、何より滅多に頼みごとをしない哀が頼んできたから断らなかった。 そして、新一は泥棒の仕事はする事に抵抗を覚えつつも、哀のためにしょうがなくだったが、仕事をやったのだった。 それ後もたまに、新一は哀を通じてキッドの仕事を手伝うようになった。新一はキッドと同じように能力は高かったので、仕事を覚えるのも動くのも速かった。 そんな新一はキッドといちようながら面識はあったが、なんだか只ならぬ気配を感じて避けていた。 キッドは出会ったときに新一に一目ぼれというものをしてしまったのだった。なので、たまの仕事で新一と会えることを楽しみにしていた。 そんなある日、新一の両親が荒らされたと思われるほど散乱した家と壁中に飛び散った大量の血痕を残して姿を消したのだった。 新一の動揺は隠せなかった。何せ、新一から見てあの二人も只者ではなかったのだ。キッドと同じように、強い信念を持つ相手だった。何より、絶対大丈夫だという思いがあったからだ。 それが、荒れた家と大量の血痕のみをのこして消えたのだ。その事により、新一は不安定になって、そして一人という事で孤独感を感じ、しばらくその場から動けなくなった。 その後、これは事件になり、警察が捜査に家に入っる事となる。だが、その頃には新一の姿はなかった。 どうしたらいいのかわからなくなった新一は警察に連絡を入れた後、すぐに哀のもとへ行ったのだった。 そして、キッドが新一を迎え入れ、宿代として、抱いたのだ。念願を叶える為、本来ならただでも良かったのだが、何かしないと気がすまない新一に条件を出したのだった。 何より、当時の新一はかなり不安定で一人でいる事に恐怖というものを感じていたので、その心の隙をついたのだった。 毎日一緒に側にいて、毎晩一緒に寝れば、一人ではないだろうと言い聞かせて。 その声は確かに優しかった。新一は受け入れてくれて気付いてくれたキッドに、親愛といったものが芽生え始めていたが、その時のキッドの目は声とは正反対で、飢えた獣のようにぎらぎらとしていて、すごく怖かった。 それしか覚えていない。それが、押さなかった自分の中に刻まれた恐怖。 だが、すぐによくわからずに自分のものとは思えない声をあげ、意識がもっていかれたのだから、あの日はいったい何だったのかよく覚えていない。 ただわかるのは、二度とこの腕から逃れる事は出来ないであろう事。
「・・・坊ちゃま達に何かされたまま、ということですか?」 恥ずかしながらも、彼には隠せないと判断した新一は小さくうなずいた。 どうやら、この老人には何も隠す事は出来ないようだ。 「まったく、坊ちゃま達もよくやりますね。」 「…。」 困ったものですと、新一は快斗の部屋のベッドに腰掛けさせ、側にある台の上に夕食のお盆をおいた。 新一はわかっていながらも自分に合わせて付き合ってくれる寺井に申し訳ない反面、恥ずかしかった。 「では、食べれるだけ食べて下さい。おなかは減っているのでしょう?」 真実なので頷いて答える。今、声は出にくい為、この方が伝わりやすいだろう。 「私の権限で、新一様の苦しみを取り除いて差し上げるのは出来ませんからね。これだけは申し訳ありません。」 と、頭を下げる寺井に、こっちの方がそれに困ると、新一は腕を伸ばして肩を持って頭を上げさせる。 「やめて・・・下さ・・・い・・・。・・・俺なんかに、そこまでしてくれる必要はないですよ。気持ちだけ頂いておきますから。」 「わかりました。しかし、もし体調が悪くなられれば、すぐにお申しつけ下さい、新一様。」 答える寺井は、少し戸惑いながら、聞いていただけますかと了承をとって話し始める。今まで見てきた快斗とキッドの二人の事。 「年寄りの独り言なので、聞き流してくださってもかまいませんから。」 そういって、キッドと快斗のことを話し始めた。新一は少し興味があるのか、目をつむって耳を傾けて寺井の話を聞いていた。 「私が伝えていた旦那様はとても凄いお方でした。坊ちゃま達も旦那様に似て、しっかりとした方で、幼い頃から、他人に自分の感情を知られないようにしていました。それがひどくなったのは、お二人が遊女屋・・・いえ、遊郭の支配者、この屋敷の若旦那として別れたときですね。お二人が七つの頃、ご両親共に、姿を消しになられたのです。 快斗坊ちゃまはそのまま黒羽の屋敷の若旦那としてそのままいらっしゃり、キッド様は遊郭の総支配をしていた工藤様のもとへと行かれました。 快斗坊ちゃまの方は親戚達もいろいろありまして、大変でしたが、坊ちゃまは頭の良い方で、十の時には仕事を完璧にこなすようになりました。ですから、誰もそれ以上はいわなくなりました。文句を言ったものを、反対に仕返したのです。快斗坊ちゃまに歯向かうものはそれ相応の代価を受け、誰も文句をいわなくなったのです。 キッド様の方は、工藤様のもとでいろいろ学び、同じように十の頃には工藤様が経営していらっしゃった遊女屋の主人となりました。十二の頃には、周辺の遊女屋・・・遊郭を支配するものとなったのです。」 耳を傾けるだけで瞑っていた目を開けば、寺井は思い出を話す穏やかな笑顔が、少し曇った顔が見られた。 それが意味する事は新一にはすぐにわかった。 「そして、お二人には完全に他人に悟られないように感情を隠してしまわれました。旦那様もよく、ポーカーフェイスを忘れずに、相手に流されるなと言われておりましたが、旦那様のように、本当に完璧に隠されてしまいました。ですが、最近になって、キッド様は少し変わりました。そして今日、快斗坊ちゃまも少し変わっていました。きっと、お二人を変える何かがあったのだと思いました。それがきっと、新一様なのでしょうね・・・。」 その後、どうかもしよろしければ、これからもお二人の支えとなって下さいと言われた。 新一はどうしようと困ってしまっていた。 やはりまだ、二人の本当の気持ちに気づく事はなかった。
寺井が夕食の椀を片付けに出て行ったあと、新一は一人で考えていた。 確かに今キッドが主人になっている遊女屋は自分の父、工藤優作の所有物だったものだ。困っているものたちを集めた場所。哀も園子ごたごたで両親を亡くしたところを、優作に拾われてあそこに住んでいる。 キッドも、優作の意思を告ぐかのように、無茶はさせない。 話を聞いていても、自分の価値が何なのかわからない。自分はいつ、あの二人を助けたのだというのだろうか。 答えの出ないまま、新一は布団に横になり、目を閉じた。 考えている間、少し忘れていたが、体の中に埋め込まれているものがあることを思い出したのだ。これを忘れるために、今は寝るしかないと思い、眠ろうとした。 あの二人は今仕事なのだから、もうしばらくは帰ってこないとわかっていたから・・・。
「・・・工藤君・・・。朝から診察が必要かもね・・・。」 部屋の窓から丸い月を見て思う。 哀は新一の幼馴染だったが、今は主治医として、側にいることをキッドにも許されている。それに、仕事仲間でもあるので、ガードとしての役も受けている。 快斗が新一に対する思いを感じ取った哀は、今晩はキッドだけではなく快斗の相手もするのだろうと予想できた。 「・・・壊されていなければよいのだけど・・・。」 今晩は仕事はない。だから、ゆっくりと夜を過ごす事が出来る。 ふと、視界に白い鳥が飛んでいるのが入った。 かなり有名な神出鬼没な怪盗紳士。いろいろな意名を手に入れて、最後には何を手に入れるつもりなのかしらと冷たく見やる。 本人達がいれば、新一を手に入れる事が、最後のモノで、この先手放すつもりはないモノだと答える事だろう。 「・・・仕事は上手くいったみたいね・・・。」 今自分の視界に入る場所を飛んでいるという事は、仕事が成功したという事。これからは、自分の仕事。 哀は自分の傍に置いてあるコンピューターの電源を入れて、仕事を始めた。 「クスッ・・・動き出したみたいよ。盗聴器が上手くいったみたいね・・・。」 さて、これからどうするかな?と敵に回したくないような冷ややかな笑みをする哀。 機械から、聞きたくない男達の声が聞こえてくる。 仕事前にキッドが三人の内、二人に取り付けた盗聴器が上手く作動している。 『・・・っ・・・次はあの女です。・・・・あの女で命運がわかれるでしょうね・・・。』 『しかし、どうして白犬は出かけてしまったのでしょうね?大切な用意が必要だと言うのに。』 計画がもれていることも知らずに話し合う二人の男。愚かなものだと思う。 何よりその中の一人は、自分を力で押さえつけ、大事な新一に手を出した下衆。手加減などはしない。 「まずは、キッドと黒羽君が動くのかしらね・・・。たぶん、容赦ないわね。黒羽君、白い犬の事、気に入らなかったみたいだしね・・・。」 ふと、キーを打つ手を止めた。 背後に誰かの気配がしたのだ。しかし、それは知った気配。 自分が背後を許すモノの気配だった。 「・・・紅子・・・ね・・・。貴方も、動くつもり?」 「ええ、彼等はやりすぎたのよ。白き罪人だけではなく黒い鳥までも怒らし、そして、貴方や私までも怒らせたのだから・・・。」 哀は二件目の被害者を思い出した。あれは紅子の所の子。 つまり、白の騎士は今回の件で、魔術師側への領域荒しをやりすぎた。ただで済むつもりもないので、簡単には終わらないだろう。 「そういえば、彼女、貴方の手伝いをしてくれていた子だったわね。」 「そう、入ってはいけない領域に彼等は入ったのよ。そう、白き罪人と黒い鳥以上に恐ろしい、魔女を怒らせたのよ?まぁ、彼に手を出した時点で手加減をするつもりなんてなくなったけどね。」 魔女もまた、昔に新一と出会い、哀と同じように救われた。新一からすれば、二人に救われているからおあいこなのだが、哀と紅子にとっては、それ以上の救いだったのだ。 キッドや快斗の二人を虜にするのだと、側に現れては可笑しな予言を残す魔女。その半面で、同じように自分になびかない光の魔人にも興味があったのだ。 自分を助けただけではなく、救った相手。二人を落とすのと同じように難しい相手。 「それに、情報では、あの馬鹿どもが彼の哀しみの原因を作ったようだしね・・・。」 「私もそれをさっき知って、むしゃくしゃしていたのよ・・・。」 「・・・何をしかけてやりましょうね?」 「なんだかんだいっても、あの二人は手加減をするからね・・・。」 最後の最後で新一に捕まって後始末が出来なくなるのだ。キッドはいつもそうだった。つまり、快斗も同じだろう。 味あわせよう。敵に回したものの大きさを。回す敵の力量を知らない愚か者へ制裁を。
なんだか暖かい。しかも、誰かが呼んでる。 「・・・ち・・・いち。・・・しんいち。」 肩をゆすって起こす相手。ぼやける視界の中、見えてきたのは白。 そう、白い服を身にまとった二つの人。 「・・・れ・・・?」 「もう、ぼやけてる?起きてよ。このままだと、辛いままだよ?辛いのは新一だけだけど。」 「しょうがない人ですね。私達も辛いですからね。どうしようしょうか。」 苦笑する二人。意識がぼんやりとしている新一は何がどうなのかわかっていない。 「お疲れなのはわかりますが、このままではいけませんので・・・。それに、私はまだなのでつきあっていただきたいですしね。」 「俺もまだ付き合ってほしいもん。」 二人は側にあった椀の中に残っている水を口に含み、新一の口の中に流し込んだ。 急に喉に何かが流れてきて、驚いた新一は覚醒する。まだ半分意識は戻ってこないが、起きなければまずいていう指令で目をかすかに開ける新一。 「んっ・・・っど・・・。」 「駄目だよ。そんな顔しちゃ。もったいない。」 やっと理解できた。自分の目の前にいるのはキッドで何かを飲まされていると。 やっと解放されたときには、また、くたくたになっていた。 「ただいま、新一。」 「ただいまー。」 同じような格好で、キッドだけではなく快斗も一緒にいた。 こうしてみると、本当に双子だと思った。 だが、すぐにそんな暢気な考えをしている場合ではなくなった。 先ほどの続きを再会する事になったのだから。 何度もなかされていかされて。中から鈴はもちろん、取り出してもらった。
疲れて意識を失ってしまった新一をみて、苦笑する二人は、それぞれ鈴を持って、新一が大事にしている扇の飾りに結びつけた。 新一が持つ、両親から譲り受けたものの一つ。形見ともいうべきもの。 「新一とお揃い〜。」 「母は気付いていたのでしょうか?」 「何に?」 「私達と新一の事ですよ。」 滅多に見れない優しい顔のキッド。その横顔をちらりと見て、すぐに新一の顔へ視線を戻す。 快斗にとっては、キッドの顔よりも新一。それはキッドにも言えることで、彼も新一の方へと視線を戻す。 「私達にこの鈴を私、二つのうち片方を伴侶となるべきものへと。それが同じ相手だと。」 「さぁ?でも、母さんならありえない?あの人そういうところ鋭いし。」 「そうですね・・・。」 月は傾いていき、日と交代していく。夜は明けていき、部屋を光が照らした。 露になっている肌に光が射し、触れる事が罪のように思える何度抱いても綺麗なままの新一。 「朝、迎えちゃったねぇ。」 「・・・女史のところへ連れて行かなければいけませんね。」 「・・・もしかして、怒られる?」 「・・・。」 キッドは答えられなかった。 哀が新一のことを大事にしている事を知っていたのだ、しょうしょうやりすぎてしまったこれを見せるのはどうかと思ってしまう。 「・・・下手すると、魔女殿も敵に回すかもしれませんね・・・。」 「おい、それなんでだよ。どうしてそこで紅子が出て来るんだよ?」 「あれ?知らなかったのですか?魔女殿は新一に恩を受け、女史同様に大事にしていらっしゃるのですよ。ですから、仕事の最中、離れていても安心していたのですがね・・・。」 こういった事情の場合は例外かもしれませんね。とくに自分達にはと、恐ろしいことを考えてしまう。 今までも結構いろいろやられて来たのだ。今回もただではすまないかもしれない。 「とにかくだな、戻るか?」 「そうですねぇ。寺井にも迷惑をかけてしまいましたし。」 すると、ちょうどタイミングよく、寺井が朝食を運んできた。
月華楼の最上階、キッドの私室にて、哀は新一の診察をし、その後一時間程延々と二人に怒鳴り散らした。 「まったく、工藤君は貴方達に付き合うほど体力はないのよ?わかってるの?」 「・・・。」 縮こまる二人。あれだけ冷血で上に立つにふさわしく、人々を従わせる風格を持つ男二人に怒鳴り散らす事が出来るのは、この哀と紅子ぐらいだろう。あと、動かす事が出来るのは新一ぐらい。 「哀、今はそれよりこの人達より、もっとたちの悪い人達のことよ。」 「そうだったわね。この二人のことはあとにするわ・・・。」 そういって、哀は仕事の顔に戻り、コンピューターを取り出した。 昨日の盗聴器の内容をまとめたファイルを開く。 「これ、キッドが仕掛けたものから盗聴したもので、次のターゲットがわかったわよ。」 哀はわかりやすく説明するために、名前と写真を引っ張りだして見せた。 彼女のこのパソコンには、この町だけではなく、全国や異国の地での有名な人や多くの情報を詰め込んだもの。もちろん、製作者は哀だけではなく、快斗やキッドも関わっていたからこそできた代物。 「・・・絶対に何とかなさい。彼女だけは駄目よ。」 「わかっています・・・。」 「だよね・・・。彼女にだけは手を出されると困るよね。」 四人が見ている相手は新一も知っている相手。そして新一とは違う、天使と言うに相応しい相手。 「工藤君の、もう一人の幼馴染。毛利家の娘さん、蘭さん。あの馬鹿はことごとく、工藤君の大切な人を奪うつもりよ。」 「まったく、何を考えているんだか。」 許す価値も手加減も、本当に救いようのない馬鹿だと思う。 「どうしてこう、お偉いさんはこうなんだろうねぇ?」 「そういう貴方こそ近いじゃない?」 「ひどぃ・・・。」 哀に言われると形無しの快斗だった。 そんな作戦会議の最中、知らぬ間に眠っていたはずの新一が立っていた。 「・・・警護に、京極さん、動いてもらえるか?」 「大丈夫よ、新一。」 それを意味する事は、話を聞いていたという事。まったく、こういったことには敏感になる人で困るわと、苦笑する哀。 しかも、的確な対応としてその名を出す時点で、彼の頭の中でいろいろな光景が組み込まれている事だろう。 「わかっているわ。もう、彼には動いてくれるように手配しておいたわ。園子さんにも、蘭さんのところに今晩は泊まるようにいっておいたわ。なるべく人数が多い方が、相手さんも実行するのが大変だろうからね。」 哀はコンピューターの電源を落とし、皆の方に向き直った。 「私と紅子、キッドと京極さん、黒羽君と工藤君。三組それぞれ相手三人を倒しましょうか。」 「そうだねぇ。かたまってるより、ばらけてる方がいいかもな。」 「そうですね。私は構いませんよ。」 「決まりね。どちらから仕掛ける、哀。」 「それはあとよ。・・・キッド、悪いけど、今すぐ毛利のお屋敷へいってくれないかしら?黒羽君も、青子さんのお屋敷の様子を見てきて。馬が何するかわからないからね。」 「わかりました。」 「じゃぁ、ちょっといってくる。」 そういって、今いた場所から二人は姿を消した。相変わらず腕はよく、手際もいいし行動が早い。 ちゃっかりと、京極と連絡をとって毛利の屋敷に向かったようだ。 夜の間に動くとわかっているからだ。早めに動くに越した事はないだろう。 「今夜・・・相手は動くか・・・?それとも・・・。」 「明日が決戦の日か・・・ね。貴方は体調を整えておかないといけないから、寝ておきなさい。」 「でも・・・。」 「いいのよ。私は貴方と違って毎晩寝れないなんてことはほとんどないから。」 それを聞いて、顔を真っ赤にする。まったく、女の自分達ですら見ほれるほどのもの。それと同時に、母性本能をくすぐらせるような、時々見せる幼い仕草。 これを、可愛いといわなくて、何と言うべいいというのだ。 「あら、可愛い反応をするのね。襲いたくなるわ。」 「ちょ、何考えて!」 「何って、貴方のことでしょう?私はいつでも貴方の味方。貴方を傷つけるのなら、誰であろうと許さないわ。」 失った家族の代わりというものではなく、本当の家族のように接してくれたご両親と、仲良くしてくれた新一。 「たとえ、主であろうともね。その時はやり返してやるわよ。」 「・・・ほどほどにしねーと完全犯罪が出来るぞ?」 「大丈夫よ。犯罪とわからないようにしておくから、何も問題はないでしょう?」 「そういう問題か?」 「そういう問題なのよ。貴方はわからなくても大丈夫よ。私や彼等がわかっているから。ほら、はやく寝なさい。」 二人は新一を若いこの屋敷の主専用の寝台の布団を綺麗に整えて、寝るまでここにいると宣言して、寝かしつけた。新一も、哀が側にいることは何も問題もないし、安心が出来るのですんなりと眠りについた。 「クス、お母さんね、哀は。」 「違うわよ。わたしは主治医よ。」 「じゃぁ、私はガードかしら?そして恋人があの二人ということかしら?」 「皮肉だけどそうなるわねぇ・・・。」 紅子は少し馬鹿の様子を見てくるわと部屋を出て行った。 哀は誰かが戻ってくるまで、朝を迎えて新一が目覚めるまで、そこにいた。 途中で眠ったが、手はしっかりと繋がれたままだった。 キッドや快斗がみていればずるいとむくれていただろう。 これが、暖かい姉や母のような家族と認識されている哀の特権。 「彼がこれ以上悲しまないように、することしか出来ないけどね。」 「過ぎ去った事に関しては、どうしようもないものね。いくら予言があって少し未来がわかったとしても、かえられないのが悔しいわ。」 二人は出かけた彼等が戻ってくるまで、新一の側でお茶を飲んでくつろいでいた。 目覚めるまでゆっくりさせてあげようと、穏やかな寝顔をみて微笑みながら。 |