次の日の朝も、同じように迷惑なものがやってきた。

いい加減、さっさと帰ってほしいものだ。お前の領域じゃないだろと心の中で悪戯とつく快斗とキッド。

昨日のあれでも二人は怒っていたのだが、二日連続となると、表情に出てくるぐらい怒りが抑えきれなくなってくる。

今この時間を潰されるのはうれしくないのだ。

今日は快斗が外に出ようとしたが、

 


ドスッ、ドゴッ、バタン・・・・・・・・・・・・

 


と、なんだか鈍い音がして倒れた音がした。その後は沈黙を守っているのだが・・・。

何事かとそっと扉を開けると、かなり殺気立っている志保の姿があった。快斗君もびっくりなお怒りの様子。

「あ、おはよう。志保・・・ちゃん・・・?」

なんだか話しかけにくい殺気を放つ志保に少々びくびくとしながら挨拶だけはする快斗。しないと、それはそれであとで大変な事になるからである。(過去に経験済み)

「おはよう、黒羽君。まったく、朝から何を考えているのかしらね?」

そういって、倒れている物体の首もとをつかんだ。かなり乱暴なのだが、そのさまを見ても快斗は邪魔な騒音の元であるために哀れみも同情もしない。

「昨日、あれだけやってやったのに、懲りる事を知らないみたいね。」

今度は手加減なしよといっていることから、かなりご立腹のようだ。

少しは学んで生かすことは出来ないのかと思う。

「じゃぁ、これはもって帰るわ。貴方達もそろそろ起きたらどうかしら?もうすぐ紅子がくるはずよ?」

それだけいって物体、服部を引きづりながら、隣へ消えた志保の言葉ではっと我に返った。

「大変だ。」

快斗は急いで扉を閉めて寝室へと向かった。

「大変、起きろ。」

「んー、まだ、ねるぅー。」

「ねるぅーなんて可愛いこといってないでさ、お願いだから起きて。」

「どうしたんです。快斗が慌てるなんて珍しい。」

すでに着替え終わって清々しく立っているキッドをにらみ上げて、紅子がくることを伝えるとキッドも慌てだした。

志保だけではなく、紅子にも弱い二人。

そして何より、寝起きの新一を見せたくないということがあった。

何せ、あの魔女は新一のことを気に入ったといって、自分達より先に虜にするなどといっているのだから、見せたくなかったのだ。

「そういえば、あの騒音はどうしたんですか?」

「あ、志保ちゃんが連れて帰った。かなりご立腹でさ、本気だったよ。俺が手を下す前にもっていったし〜。」

「懲りることを知らない人にはちょうどよいかもしれませんね。」

そんな会話をしながら、まだ半分夢の中にいる新一の服を着替えさせる二人の姿があった。

よしこれで終わりと新一を着替えさせたあと、ちょうど何者かの気配を感じ取った。

「うわ?!紅子?!」

その気配は知ったもの。振り返れば案の定、紅子が立っていた。

もちろん、玄関の扉はしっかりと鍵が閉まっている事は、快斗が確認している。

「おい、不法侵入だぞ?」

「あら?どこかのコソ泥さんのことはいいのかしら?」

「う・・・。」

「とにかく、彼を起こしたらどうなのかしら?また寝てるわよ?」

指差された先には、再び布団の上で丸くなって夢の世界へと戻っている新一の姿があった。

 

 

やっと起きてくれた新一にほっとするも、何故か可笑しな集まりで朝食をとることになった。

「・・・どうして、二人がここにいるのかな?」

「女史はアレの始末をしていたのでは?」

「あら?いいじゃない、別に。細かい事は気にしてはいけないわよ。」

「そうよ。細かい事はいいのよ。それに、アレは今実験の反応待ちなのよ。」

何か危険な事をさらりと言っている気がするのは気のせいでしょうかと、背筋がゾクリとするキッド。

あの後、キッドは朝食を急いで作った。しかも、追加の二人分。

それを、目の前で食べている二人。いったい、何しに来たというのだ。まぁ、だいたいは邪魔しに来たと予想できるが、また何かを企んでいたら逃げる事は難しそうだ。

キッドであるにもかかわらず、弱音発言が出るのはしょうがないと思う。

内心ドキドキしながら二人の様子を探る間、四人が目で会話してるなと、新一は少し寂しく思っていたりすることに誰も気付かなかったりする。

 

朝食もすみ、快斗がいつも通り食器を片付けていると、チャイムが鳴った。

快斗とキッド、志保や紅子という最強な四人に散々言われていた為、最近ではインターホンで対応する癖をつけた新一。

出てくるカメラからの映像で、思いもよらなかった相手の訪問に驚いた。

「あれ?どうしたの?」

「どちら様ですか?」

「…蘭が来た。」

「え?蘭ちゃんが?」

すぐに気を取り直して玄関へと向かう新一。

キッドと快斗も追いかけようとしたが、背後でなにやら笑みを浮かべていると明らかにわかる気配から、動きを止める。

玄関では、扉を開けて間違いなく蘭だと確認をした。どうしてそんなにするのかと言われたら、最近おかしな奴が来るからと答えたら、気をつけなさいよと心配された。

普通は、立場が逆なのでは…?

「だって、私は新一より空手の面では強いと思うし。」

「確かに、蘭は強いよな。あの蹴りは出来れば遠慮したいもんな。」

「何それ。」

「だってさ。この前だって犯人を蹴り倒したんだろ?」

「それはね・・・。」

とりあえず、用事があるのなら中へ入れようかと思ったのだが、別にいらないと答える蘭。

「今日はね、伝言頼まれて来たんだ。」

「伝言?」

「なんかね。新一のお父さんとお母さん。二人が今日来るんだって。」

今、なんとおっしゃいましたか?

新一は目が点状態で、一瞬頭が正確に判断できずにいた。

「ちょっと、大丈夫?新一〜。」

「あ、ああ。大丈夫。それで、いつくるって。」

「なんかね、電話を切ってから1時間後に伝えてほしいって言われて。」

今はさて何時だっただろうか。近くにある時計をを確認してみれば、11時過ぎだ。

「あの野郎・・・。」

「じゃ、伝えたからね。たまには親孝行でもしてあげなさい。」

そういって、玄関から離れていく幼馴染。何の前触れもなく、嬉しくない伝言を伝えてくれた、かつて好きだった人。

今では家族愛だとはっきりしているのだが。それでも、今までと同じ関係のままでいられたのはうれしいものだ。

そこでふと、蘭の着ている服で気付いた。

「そういや、蘭はどこか出かけるのか?」

「お父さんとお母さんと食事よ。」

「そっか。楽しんでこいよ。」

「うん。」

とびきりの笑顔とは今の彼女の笑顔だろう。

そんな幼馴染の笑顔が見れて満足な反面、これから、それもすぐにやってくるであろう騒々しいやからの存在でかなりの不機嫌。

玄関をしっかりしめて、戻ればなにやらソファに座って大人しくしている二人の姿があった。

「何かあったのか?」

「いえ。何もないのよ。心配しないで、工藤君。」

「それで。蘭さんはどうしたの?」

「帰ったよ。」

「あら?」

「蘭はこれから両親と食事。伝言を伝えてくれただけだから。」

蘭の事を思い出していたので機嫌がよさそうに笑顔を見せていた新一だが、伝言と言った時点で、かなり差が激しいほど不機嫌となっていた。下手すれば、背後では何かうれしくないものが渦巻いているような感じ。

「…伝言。」

「そう。あの二人が来るって。」

「そうなの。なら、用意しないといけないわね。黒羽君。お茶の用意の為にお湯を沸かしてちょうだい。」

「今から?」

どうして今から沸かす必要があるんだよと思っている快斗へ、もうすぐここへ来るぞといえば、急がないとと、動く。

相変わらず、無駄な動きがなくスムーズに事を運んでいる。

ちょうどお湯が沸いた頃。

「新ちゃ〜ん」

大きな高めの声で名前を呼ぶと共に、リビングの扉を開けて飛びついてきた母。

「うがっ?!」

なんとも間抜けなうめき声をあげたが、それ以上に強烈な人間の一言で聞こえなかったと思う。

「伝言はもらったようだね。先程見かけたよ。」

「どうした?お茶を出してくれるのじゃないのかい?」

登場するのは工藤夫妻だけではなく、同じく海外にいたはずの黒羽夫妻もいた。

それも、快斗の分裂に関して驚いている様子もない。

よく考えれば、志保や紅子が連絡をいれていないわけがない。

きっと、許可をえてやったのだろう。相変わらず、そういうところにはしっかりしている。

「それで、いったい何をしに着たんだよ」

べりっと音が聞こえてきそうなぐらい勢いよく母親をはがして脱出した新一。

すぐさま快斗とキッドに捕獲されてしまって身動きできなくなるのだが…。

「ああ。これといっては用事はない。」

「ならなんで来たんだよ。」

「自分の家に帰ってきてはいけないかい?」

「ほとんどいねーくせに何言ってやがる。」

「まったく、つれないね、息子よ。」

そういいながら、やれやれと態度と声で見せる父親にむかりとくる。

「それで、実際、用件はなんだ。」

この男が用件がない限り、夫婦喧嘩をしない限り、この家にはこないことは今まででわかりきっているために、もう一度問う。

「いやぁ、面白事になっているみたいだから。」

「見に来たというわけだよ、息子達よ。」

つまり。この四人は快斗の分裂具合を見に来たというわけだ。

「しっかしまぁ、よくも見事に二人になったもんねぇ。お母さん感心しちゃうわ。」

「感心するところなのでしょうか?」

「楽しいけど、感心するところじゃねーぞ、母さん。」

「そう?息子が増えたみたいでいいじゃない。女の子の方がほしかったけど。」

「冗談じゃねー。女にはならない!」

「そうですよ。」

「でも。可愛いくて綺麗なお嫁さんが来るなら・・・。」

がばりと母親の口をふさぐ快斗。新一の耳を塞ぐキッド。

何事だろうかと思いつつ、ふさがれたままキッドの腕の中で大人しくしている新一。

「あら?もしかしてまだ何も言ってないの?」

「・・・。」

「いやぁねぇ。さっさとしなさいよ。」

「新ちゃんの花嫁姿みたいわ。」

「・・・あまり見たくない。」

「私は見たいがなぁ。優作は一緒に結婚式では歩くかい?」

「黙れ、盗一。」

はっはっはと機嫌のいい盗一と、少し不機嫌な優作。

不甲斐無い息子だと呆れる薫(勝手に命名)とかなり楽しそうにしている有希子。

「さっさとものにしちゃいなさい!」

「しかし・・・。」

「もう、それでも盗一さんの息子なの?!」

何故か怒られる。耳をふさがれたあげく、まったく状況がわかっていない新一は理解不能。

とりあえず、快斗とキッドが母親に怒られているということだけはわかる。

そんな彼等の様子を見ながら笑っている女が二人。

「彼が相手じゃ、あの二人も簡単には動けないでしょうね。」

「そうよね。工藤君に理解させようっていう方が仕事より難しくて危険だもの。」

その後、しばらく母親にしつこく言われてげんなりとする二人の姿があった。

 

分裂した快斗を見れて、久しぶりに新一の顔をみて、満足した四人はホテルに泊まるからと帰っていった。

まったくもって、迷惑で何しに来たのかよくわからない人達だった。

 

 

 

「はぁ〜。どうする?」

「どうするもなにも。」

「確かにね、欲望がないことはないんだけど。」

「新一ですからねぇ。」

一番の壁は、新一は自分に無頓着で、自分達の告白を嫌がらせとしか認識がない事である。

「強行突破でいく?」

「・・・地獄に堕とされますよ。」

「・・・だな。」

あの二人以外に、新一本人からやられるのは間違いない。

大人しくやられるような人ではないのだから。

「まずは、しっかりと私達の気持ちを理解していただかないといけませんね。」

「そうだなぁ。でも、それが難しいんだよねぇ。」

はぁと二人そろって盛大なため息をついた。

 

 

 

そんな彼等の秘密を探る男がいた。

「必ず、突き止めて見せますよ。そして、あなたの正体も・・・。」

さぁ、明日に向けて準備をしますよと、盛大に張り切る男。

それに(いやいや)従い、研究の全てを結果へ向けて動く者達。

明日は怪盗KIDの予告日。

これできっと、怪盗の正体が彼であるとはっきりする事でしょう。

そんな男について研究を進める者達は見なかったふりをしていたりする。

 

その様子をしっかりと見ている紅子は、何をしかけてやろうかしらと企む。

明日はきっと、無事に過ごせる平和な日ではない事は確かである。

 

 





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