The first stage 屋敷の入り口から入らず、そのまま自室のテラスへと降りた魔術師。 「・・・着きましたよ・・・って、眠られていましたか。」 ぎゅうっとしっかりと魔術師の服を攫んで離さない小さな手を見て苦笑しながらも、しっかりと抱きしめて窓の鍵を開け、中へと入った。 「お帰りなさい、キッド。・・・窓からは入ってきてほしくないけれど。」 「すみませんね。どうしても、玄関からなんて、面倒なことをしている暇がなかったもので。」 そう言うキッドに、まったくと言いながら、相手もキッドの腕の中にいる子供に気がついた。 マントで包んでいたので、最初は何かわからなかったが、近づいて聞こえてくる寝息と、見えた顔でわかった。 「どこから連れてきたの?」 とうとう、誘拐まで引き受けてきたの?と聞いてくる相手に、違いますよと真っ向から否定する。 「彼は、被害者ですよ。・・・私を追いかけてきた魔法教会の使いの者達が起こした事故に巻き込まれた生き残りです。」 「そうなの。」 たいていは、目撃者はいないように魔法で処理するので、逃げようにもなかなか逃げれない。 なら、彼が生きていたのは奇跡ともいえる状況。 「どうやら、彼の両親が魔法を使えるようでしてね。優先して彼を車外へ出し、草木の茂みの中へ放り出したようです。」 その説明で、その後がどうなったかは彼女も理解したことだろう。 「しばらく、彼はここで預かろうと思っています。問題、ありませんよね、紅子。」 「別に、大丈夫よ。ただ、泣き叫ばれたりされると鬱陶しいけれど。」 とりあえず、部屋をどこにするか決めておかないといけませんねと、キッドは全然紅子の話を聞いていなかった。 「あ、あとで志保を呼んでいただけますか?」 「怪我があったりしたら、大変だものね。」 「お願いします。」 頭を下げた紅子の前を通り過ぎ、自室へと戻るキッド。 「まったく。どういった風の吹き回しなのかしらね。」 何に対しても興味を持たない男が、連れてきた子供。たとえ子供でも大人でも、男でも女でも、彼にとってはどうでもいいものであったはず。 なので、面白くなりそうねと思いながら、志保を呼びに地下室へと向かうのだった。 部屋は好きな場所を選ばし、中も好きなようにさせようと珍しく相手を優先させるということをしようとする自分に苦笑しながら、己のベッドの上に幼い彼を寝かせる。 離れようとすると、まだしっかりと自分の服を攫んでいる小さな手に気付き、まだ、一人にさせるのはよくないのかもしれないと、彼のベッドの端に腰をかけて、子供の寝顔を堪能する。 「そう言えば、名前をまだ聞いていませんでしたね。」 声をかけて、振り向いた時に見せたあの蒼い瞳に不覚にも惹かれてしまった。 そして、悲しそうな顔を見るのがとても辛かったので、いてもたってもいられずにどうにかしようと思って連れて来てしまったが。 よくよく考えると、お互い自己紹介なんてせずに話を進めてしまった。 彼に関しては、自分があそこまで逃げなければ巻き込まれずに済んだ。まぁ、巻き込まれたからこそ、出会えたといっても過言ではないけれど、悲しませるようなことにはならなかっただろう。 「志保か?」 「気付いているのなら、早く扉を開けてほしかったわ。」 「あけなくても、勝手に入ってくるでしょう?」 「それもそうね。」 で、誰を診察すればいいの?と聞いてくる志保に、彼だと、ベッドの上で寝かせている子供を示した。 「彼?」 「そうだよ。」 白い衣装を脱ぎ、黒い服に一瞬で変えたキッドは、口調が砕ける。だが、志保は気にせず対応をする。 「紅子から聞き忘れたけれど、どういった状況だったのかしら?」 「相変わらず、しつこいおじさん達がいてさ。しょうがないから、目くらましして・・・。」 「だいたい、状況はわかったわ。」 きっと、ちょうど通りかかった彼等もそれに巻き込まれ、事故を起こしたのだと理解した志保。 そして、彼だけが追ってから見つからずに助かった被害者。 「それで。彼の両親も魔法使いだったのかしら?」 「そうみたいなんだ。」 助けた後に、奴等の『魔法』によって消された彼等。その直前に『魔法』によって己の子供を守った親。 「約束をしたし、ちょっと回収に行って来るよ。」 「気をつけて頂戴よ。」 「わかってるよ。」 そう言って、子供を志保に頼み、彼の姿はその部屋から消えた。 「それにしても、不思議な事もあるのね。」 昔の彼に似ている子供。欲が薄い彼が興味を持って連れ帰ってきたということ。 「よいように、変わればいいのだけど。」 志保の呟きは、誰にも聞かれる事は無かった。 行かないで。一人にしないで。 手を伸ばしても、目の前に現れる炎の壁が、自分と両親との距離を作る。 「嫌、嫌―――!!」 がばっと起き上がる。 はぁはぁと、息は荒い。そして、汗をかいているのがわかる。 そして、あれが夢であったということに気付き、両親はもう、この世にいないということも知らされた。 「・・・っ・・・父さんっ・・・母・・・さん・・・。」 何も出来ない自分が悔しい。どうして、あの二人と違って、魔法の力がないのだろう。 必死に涙を堪える。そして、今どこにいて、どうしてこの部屋にいるのかを考える。 もし、ここが二人を殺したあの男達のいる場所ならと思うとぐちゃぐちゃになった心を言うことを聞いてくれない。 布団を捲り上げて、自分が寝ていたベッドから降りると、ちょうど目の前にある扉が開いた。 「あ、起きた?」 「誰?」 「わからない?あ、白くないから?」 ぶつぶつ言いながら、黒い服の男が近づいてきた。 最初はわからなかったが、誰なのかわかった。彼が、あの場所で会った男。 どんどんと、思い出すこと。あの場所から自分を連れ出して、ある意味両親の願いどおりに助けてくれた人物。 だけど、両親は戻らない。 「あ、約束したからね、一応君のご両親のご遺体は回収してきた。奴等に連れて行かれるとどうなるかわからなかったからさ。」 ちゃんと、姿は見ても大丈夫なようにしてあるけど、会える?と聞く男に、うなずく。 「でね、会わしてあげるけど、その前に聞きたい事があるんだ。」 「・・・?何?」 「俺はね、キッド・・・違うな。・・・この屋敷の主、黒羽快斗って言うんだ。で、君の名前は?」 「・・・新一。」 新一だねと快斗は名前を知れてうれしくてにっこり笑みを見せる。 それから会うと決めた新一の望み通り、先ほど回収してきた遺体のある場所へと向かう。 新一のまだふらつく怪我をした足では危ないと、快斗は抱き上げる。 いくら助けられても、新一も無傷ではなかったのだ。 まだ、小さくて幼い彼の体温を感じながら、辛い現実を突きつけるのが果たしてよいのだろうかと少し迷いながら、快斗は会わせるために目的地へと向かうのだった。 |