The second grade 彼等の魔法によって、火傷の跡も一切ない二人。 そこにいる二人は、ただ眠っているだけのように、綺麗だった。 だけど、もう二度と目を覚まさないことを知っているから、悲しくて、悔しくてしょうがない。 なのに、出てこない涙。悲しいのに。 そんな時、背後から包む温かいぬくもりに、二人のぬくもりを思い出し、やっと出てきた涙。 零れたそれは、ぽたりと足元に落ちて、しみこんで消えた。 泣いてどうなるということでもないけれど、本当に、これでもうお別れなんだという現実を突きつけられた気がした。 「戻る?」 首を横に振って、嫌だと示すと、もうしばらく、ここにいようかと言ってくれた。 「明日には、葬儀をしなければいけませんね。」 もう、お別れなんて嫌だけど、二度と話しかけても、抱きしめてもくれないなんて嫌だけど、堪えて頷く新一。 しばらくして、新一は快斗の服を攫んでくいっと引っ張る。 「戻る?」 もう一度聞く快斗の言葉に、今度は頷いた。 すると、ふわりと抱き上げられて、高かった快斗の顔が近づいた。 親がいなくなった今の新一には、ここへ連れてきた、自分に害がないと判断した快斗しかいない。 追い出されたら、どうやって帰るかもわからない。 帰れたとしても、またあの男達がいたらと思うと帰れない。 それに、ぬくもりがなくなったら、寂しくなってしまうから、出来るなら手放したくないと思ってしまう快斗にぎゅっと手でしっかりと攫む。 力を込めると、気づいたらしい快斗が、もう片方の手を頭にのせて、撫でてくれた。 その手は、父程ではないけれど、似ていた。あたたかくて、大きくて、優しい手。 だけど、その手はもうないのだと思い知らされ、悲しくてしょうがなかった。 部屋に戻った後、すぐに寝てしまった新一。 まだ部屋を決めていないので、自分の部屋につれてきて、紅子を呼ぶ。 「わかったか?」 「ええ。あのお馬鹿サン達、とんでもないことをしたみたいよ。」 新一が、工藤家の長男だという事を聞き、眉をひそめる。 工藤家とは、かなり高度な魔術師の家系。だが、子孫が減ったことで、あとがないとも言われていた。 しかし、魔法教会は手放そうとしなかった。理由は簡単。強い力を秘めていたから。 この、黒羽家同様に。 そして、この家が唯一契約を結んだ家。 その当主夫妻を巻き込んで殺したという事実を知れば、あちらはどれだけの多大な力や財力を失ったか気づき、今頃困っているだろう。 そして、新一のことも。 「でも、あの事故がなければ、私とは出会いませんでしたし、きっと出会っても敵だったのでしょうね。」 手放すには惜しい、綺麗な子供。寝顔を見ながら、頭をなでていると、もぞりと動く。そして、少しだけ寝顔が穏やかになったように見える。 「貴方が子守?似合わないわ。」 「ほっといて。」 「でも、貴方が他人に興味を持つなんてね。いいことじゃない。」 冷酷な魔王とも呼ばれる魔術師さんと、嫌味な笑みを浮かべて部屋から立ち去った紅子。 「絶対楽しんでやがる。」 しばらく、からかわれるのだろうなと思って肩を落とす反面、この出会いは自分にとってよいものだと思っている。 巻き込んでしまった、悲劇の中でだけど。 置いていかないで 僕はここにいるよ? ねぇ、一人にしないで、 お父さんお母さんっ! 手を伸ばしても、二人はどんどん遠ざかっていく その手が届く事はない そしてとうとう、視界から二人の姿は消えた 嫌だ いつも一人でお留守番はしていたけれど、 必ず二人が帰ってくるから待っていたのだ なのに、もう待っていても二人は帰ってこない 独りぼっち 使用人というものは、あまり好きじゃない 同じなのに、上下をつけたくないから そんな彼等はどうしているだろうか 今頃、別の仕事に移っただろうか 寂しい どうしたらいいんだろう その場にうずくまっていると、温かくて優しい何かが頭を撫でる それは父さんと母さんのものと似ている だけど、違うとわかっている でも、二人のものだと思ってこのまま・・・ 朝の日差しが部屋に差し込む。 「・・・さ・・・ここ・・・。」 身体を起こして、ここが自分の部屋じゃないことに気づき、どこだろうと考える。 だが、その答えはすぐに出た。 「あ、起きた?おはよう。新一。」 よく眠れた?と快斗が聞いてくる。そして、昨日の事を思い出し、自分の手がずっと快斗とつながれていることに気づいた。 「おはよう・・・ございます。」 「おはようだけでいいのに。あ、朝食食べる?」 少し戸惑いながらも、おなかが減ったのも事実で、うなずいた。 すると、昨日と同じように、布団をめくり、新一をふわりと抱き上げた。 「着替えはあとでもいいでしょう。」 ゆっくりお風呂に入ってもらわないといけないからねと、言って、その部屋から連れ出された。 どうやら、すぐに追い出されるようなことはないようだ。でも、今日が終わったらどうなるかわからない。 だから、新一は快斗に弱みをこれ以上みせるものかと決意し、ぎゅっとしがみついた。 快斗の顔を見ていると、わからなくなるから。 新一は今まで、悪意を持ったものとないものを見定めることぐらいは、家の関係でできるようになっていた。 快斗は、悪意がまったくない。反対に、一緒にいて心地よい。 だからこそ怖いのだ。 また、独りになったという現実を見たときに。 |