四章 カードの予言 ゆっくりと落ち着いて、少女の話を聞いて。間違いなく彼女だとわかる。 そのペンダントこそ、今回の狙われる原因。ターゲットだという証。 「それ、どんな女の人からもらったか、覚えてますか?」 「記憶が曖昧だけど、とりあえず優しい人だった。」 彼女が幼い頃の事なので、記憶が曖昧なのはわかるが、新一達にとっては、故意に記憶を歪めた可能性があると判断する。 もし、彼が関わっているのなら、間違いなく必要以上に情報が流れないように記憶を消そうとするだろうから。 「決まりね。間違いなく、彼が関わっているわ。そして、その女も、間違いなく彼女。まだ、追いかけっこをしているみたいね。」 こっちを巻き込むのは何度目かしらと文句を言う哀。 「それにしても、話では聞いていたけど、迷惑だね。せっかくの休みを返してって感じだよ。」 はぁっと大げさに溜息を吐くのは黒羽快斗。 少女、久保田美夜灯は何だか個性的な集まりだなぁと、遠巻きに見ていた。 何だか、話の中に入り込めないような独特な雰囲気があって・・・。 そこへ、カランと扉につけられた鈴が鳴った。 「いらっしゃい。」 「呼ばれたから来たよ。」 と、ここにいる面々と面識があるのが不思議なぐらい雰囲気が違う人が現れた。 だが、呼ばれたという事から、ここの誰かが呼んだのだろう。 「それにしても、はやいね、仕事が回ってくるの。」 「しょうがないでしょう。ここにはすぐに事件に巻き込まれる方がいますから。」 「それ、俺の事か?」 不満がありますと明らかに見せる顔に、そうですと答えるにも苦笑する。 「まぁまぁ。今はそれよりも事件でしょ?」 先手を打つために、さぁ、やろうとかなりやる気。 と、どこからか一束のカードを取り出した。 「それ、タロットですか?」 「うーん。タロットもどき?」 聞かれて答えが疑問系って、結局どっちなのさと快斗は思ったが、口に出しておかしな方向へ行って時間をつぶすわけにはいかない。 「そう言えば、貴方は占い師としても、名を知られていましたね。」 「もう、敬語はいらないっていってるのに。やっと、竜って呼んでくれるようにはなったのに。」 まだまだ道は遠いねぇと、溜息をつかれた。 実は、ずっと天野と呼んでいたが、ドラゴンである竜と呼んでと、ANGELが出来た際に強制的に約束されたのだ。 まぁ、ドラゴンである彼にかかわっていくには、ドラゴンに近い名前の方がいろいろと都合が良い事もあるので、そう呼ぶ事にしたのであった。 だが、たまに天野と呼ぶ事もあるが、そのたびに指摘されるのであった。 「さて、はじめましょうか。」 この事件の未来を。そして、関わる者達の運命を。 カードをタロットと同じように、シャッフルして手元に戻した。 その束に、美夜灯の手を乗せさせ、強くその女の人の事と、この事件の未来を知りたいと願ってといい、彼女は女の人に関しては知りたい強く願った。 やっぱり、いつも助けになっているこれのお礼をいいたいから。 その為に必要なのならと、事件の事も教えて欲しいとカードに思いを込めた。 そして、カットして三つの山にカードを分け、過去・現在・未来を一つにまとめるという意味で、三つに分けた山を一つに戻し、カードを並べる。 「さて。何の形が一番いいかなぁ。」 とりあえず、ヘキサグラム・スプレットがいいかなぁと、カードを並べる。 ヘキサグラムという名の通り、六芒星のようにカードを並べて占う方法である。 「まずは一枚目。」 一番上のカードを開く。竜のリーディングする声だけがその場に響く。 「・・・導く者ね・・・。」 何かを導く者。現在や未来に影響する何かを与える事があった。他にもいろいろあるが、過去であり、今の状況を思えばこれで充分かもしれない。 「美夜灯さんの場合は、彼女に会った事。そして、そのペンダントを受け取った事だろうね。」 追う者と追われる者。長い間続いてきた追いかけっこの間に偶然混じってしまった。その時に受け取ったそれに何かヒントがあるのかもしれない。 「さて、とりあえず次にいってみようか。」 三角を描くように、右斜め下のカードを開く。現在の位置にあたるカードは魔人だった。 「・・・確かに、光の魔人はいるよねぇ・・・。」 だけど、これはそんな意味じゃない。 「何か強い力を持つ者が近づいてきている。ペンダントを望む、彼女を追いかける者だね。だけど、新一。君もその中に入っている。力の持つ者が集まった。・・・俺たちを含めてね。つまり、現在舞台の役者はそろったって事かな。」 多くの魔人がそろった。未来がどうなるかまだ開いていないからなんともいえないが、その未来へ過去から導かれたものによって現在が出来上がり、全ては出揃った。 「さて。次は未来。」 ちょうど正反対の場所に置かれたカードを開く。それに描かれたのは時の使者。 「・・・時の流れが変わる。なんだか、この場合はあまりうれしくない未来が現れそうで嫌だけどね。」 あの女と追う者が関わっているから。 「何か、止まっていた流れが再び流れ始める。もしくは流れていた時が止まる。・・・それか新たな時の流れがはじまる。・・・どれも、今の状況じゃ当てはまりそうなんだよね。」 どれにしても、あまり自分達には良い事はなさそうだと竜は言う。 実際、この事件の結果はそうだったので、やはり竜の占いは良く当たるなと再認識する事になる。 「今回の助けになる物は。」 一枚目の位置から真っ直ぐ下へ。一番下にあるカードを開く。 「・・・探求者。間違いなく、今回は新一のことだろうねぇ。」 何かを捜し求め、旅を続ける者。だけど、今回は少し違った意味だと思う。 竜はタロットの声を聞き、いつも占いをする。今回はカードの意味ではなく、人物を指すのだと、カードは言っているから、苦笑しながら話を続ける。 「新一が彼女の助けになる・・・いや、事件の鍵を握っているのかな?」 「どういう事だ?」 はじめて口を挟んだ新一。 「新一のここに、何か隠されているのかもしれない。彼女にはペンダント。新一にはここに。」 ここと、竜は頭を指差す。つまり、記憶の中と言っている。 「どちらにせよ、あちらから接触してくるでしょう。舞台も役者もそろったのだから。今回の重要なペンダントも新一もここにいる事だし。」 さっさと進めちゃいましょうと三枚目に開いたカードの上を開く。 「恋人ねぇ・・・。」 邪魔なものは恋人だってと、ちょっと意地悪気味に快斗に言ってみる。 「何快斗に言ってるんだよ。」 「あれ?告白されて返事待ちでしょ?だから、いちゃつくなって。それが邪魔だって。」 忠告しているのだと言う竜に、なんで知っているのだと顔を紅くする新一。聞いてはいけないのかなぁと、少し顔を紅くしながら下を向く美夜灯。 「嘘嘘。本当はあの二人の事。まったく、いつまでも何やってるんだかってぐらい、両思いなのに一緒になることのない二人。それぞれすれ違った思いが邪魔って事だね。今回は。」 だから、安心してくっついててくれてもかまわないよと言う竜に、うるせぇと少々ご機嫌を損ねた新一。 「ごめんごめん。じゃぁ、次に行くよ。」 二枚目に開いたカードの上にあるカードを開く。これは質問者の願望。つまり、この事件に対する皆の願望だが。優先されるのは美夜灯の願望。 「審判者・・・。」 意味の中にある一つが彼女の願望。それは再会。 「よっぽど、会いたいみたいだね。」 お礼が言いたいと思っていたから、その通りカードにも出たらしい。 事件の結果を強く思っていればよかったのかなぁと心配になったが、まだ、続きはあるようだ。 「復活とか蘇るといった意味を持つカードでもあるんだけど、どうやらその意味で考えると、あの女には何かがあるかもしれない。」 それに必要なのがそのペンダントと新一の記憶の中にある何か。 「時が変わる未来に関係する何かが復活するのかもしれないね。」 先に出たカードが意味するのははっきりとわからないが。 「あくまで、こえれは美夜灯さんの願望。だけど、これは事件についての願望も現れている。」 だから、追う者が近くまで来ているのなら、その者の願望が何か現れても何の不思議もない。 「きっと、すぐに現れるよ。・・・どうやら、時間が押しているみたいだからね。」 何が見えているのかわからない竜を見て、ただ大人しく聞いているだけの皆。 「とりあえず、結論にいってみようか。」 最後に中央にあるカードを開く。 「運命の輪。・・・時の流れ以上に、何かが変わるみたいだよ。この事件の結果。」 良くも悪くも、動き次第で変わる。 「とりあえず、現在は全てが揃っているけど、まだかけている不安定な状態かもね。」 新一が思い出さない今、そして追う者がまだここに現れない今。 「あら。でも未来なんてすぐに来るものよ。」 いつの間にか現れた紅子。いつものように魔術ですうっと姿を見せたのだろう。 だが、美夜灯にはそんな事は知らないので、驚いていた。まぁ、それが普通の反応というものだ。 「私が持つ予言のカードは・・・すぐに現れるわよ。」 何がと、その事を問う者はいない。 ちょうど、扉を誰かが開けて、中に入ってきた。 「なんだか、全て知っている・・・。そんな感じだね。」 現れたのは、誰が見ても得体の知れない男。だが、彼こそ最後の役者であり、女を追う者だ。 「やっと、全てが出揃い集まったという感じかしら?」 にっこりと笑みを見せる紅子。そして、ただ苦笑しながらカードを片付ける竜。 彼等には未来は既に見えているのかもしれない。
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