五章 なくした物を探す者 <前編>

 

 

 

顔を見た瞬間、攻撃をしてしまうのは、過去の経験からの無意識のもので、しょうがないので諦めてほしい。

「危ない・・・。」

過去にもどうやらあったらしくていろいろ対策を練っているらしい。ちっと舌打ちする新一と哀の姿がある。

「相当、嫌われているみたいだね?」

「やっぱり、時限爆弾は駄目だった?」

「危険だろうが!解体したけど!」

「出来たならいいだろ。新一君なら出来ると思っていたし。」

のんきと言うか何というか。無性に腹が立つ。あの気障なこそ泥よりも腹が立つかもしれない。

彼を知らない者の感想はそんなところ。

「えっと、どちら様ですか?」

「探している人の恋人候補ですよ。」

「え、ええ?!こ、恋人?!」

「候補です。」

候補を強調して言う新一に、あ、っとまだ恋人ではないと認識される。

「ひどいな、新一君。恋人候補じゃなくて、恋人なんだってば。」

「いまだに捕まえる事の出来ない追いかけっこを続けていてよく言えますね。」

話をまとめればこういうことだ。

自分に追いついて、捕まえればゲームは終わり。そうしたら、晴れて恋人同士だという、周りを巻き込むはた迷惑なものだった。

「そっちだけで勝手にやってくれるのはいいのよ。どうして、毎回ことあるごとに巻き込もうとするのかしら?」

いらつきを抑えながらも、怪盗も恐れるお隣の少女のきつい口調でも、動じることなくへらっとしている。

「だって、新一君たちは面白いし。」

「・・・人を巻き込んで面白いって何なんだよ、お前は!」

流石の新一も大人しくしていられない。

「まぁまぁ。でも、結局巻き込む事になるのはしょうがないじゃない?最終的に新一君と彼女の元へ行くように仕向けられていたんだからさ。」

なら、最後だけ巻き込めと思う新一。まぁ、今まで散々巻き込まれてきたので、さすがになれたたが。

「でも、物騒だね。時限爆弾だなんて。」

「あれはね、なんだか面白そうだから作ってみた。」

竜の言葉におもちゃを作るような感覚で作ったといわれて、やっぱりこの男には何を言っても通じないと再認識する新一だった。

「それで、最終的に俺や彼女の元へ来て。どうしろっていうんだよ?リオンから聞いてないのか、クラウド。」

「さぁ。それはリオンじゃないからわかんないや。俺はただ、追いかけるだけだから。」

男クラウドは新一の問いに、追いかける相手であるリオンの真意はわからないと答える。

実際、何を考えているのかわからないような連中の集まりだし、リオンだけが例外でもないので今更だ。

「ただ、鍵は新一君の記憶と、彼女の持つペンダント。」

「どういうことですか?」

「貴方に渡したそのペンダントが、渡した相手・・・リオンの居場所へと繋がる鍵となる。そういうことよ。」

座っていた椅子から降りて、面倒くさそうに説明する哀。

「全てがそろったから、彼女に会いに行く。そういう話になっているのよ。」

時間の無駄だから、行きましょうという哀。やっと会えるんだと、どきどきしながら追いかける美矢灯。

「店番があるから、残るよ。だから、ドラゴン君は頑張ってね。」

蓮が手を振って、見送る。紅子は今日別の仕事でいない雅魅の代わりに手伝いをすると、エプロンをつける。

「じゃーな。また戻ってくるから、それまで蓮見張っててな、紅子。」

「わかっているわ。」

何について見張っていろと言っているのかわかっている紅子は、新一達を見送って、ちらりと蓮を見た。

「あはは・・・やだなぁ。そんな目で見られると・・・。」

「あら。見られて嫌なら、バレテイルんだから、やめたらどうかしら?」

「でもねぇ。逆らえないし。」

蓮が手にしているカメラが、新一が紅子に頼んだ原因だった。

「まぁ、綺麗だったから、残しておきたいのはわかるけれど。」

「僕が自分のものにするわけじゃないんだしさ。見逃してよ。」

そのカメラには、先ほど新一が女装していた時の姿が納められていた。

「ま、いいわ。裏で捌かないのなら。」

「捌くわけないでしょ。あの人達ならどうなるかわからないけどね。」

実は、蓮は今回の仕事にあたり、変装してキッドの招待状を受けに行く予定だった新一の姿を撮るようにと、彼の両親から言われていたのだ。

まぁ、新一が街中を歩けば目立つので変装しろとキッドは言ったが、女装しろとは言っていないのだが・・・。

かえって目立つということを、あの探偵は気付いていなかったりもする。

「なら、今度は私と彼と一緒の写真を撮って頂戴。」

「そうだね。機会があったらね。」

心の内ではどう思っているのかわからないというか、わかってしまってかえって怖いというか。笑顔でにらみ合うような状態だった。

そんな、なんだか妖しい雰囲気が漂う中、一人の客が現れた。

「いらっしゃいませ。」

紅子の妖艶な笑みを見て、惚れ惚れとすると同時に、何だか寒気というか恐怖を覚える客。

その客が感じたとおりだろう。

哀れな生贄は、しばらく恐怖を味わいながら、午後の時間を過ごすのだった。

 

 

 

「そもそも。はじまりは何で、いったいどうなってこうなっているのかしら?」

「さぁ?」

新薬飲ませるわよといわれて、あははと言いながら、クラウドは答えた。

「好きだから好きだって言ったら、ゲームに勝ったらっていわれて、追いかけっこが始まったんだよね。」

そう言って、クラウドがポケットから取り出したのは、美矢灯が持つものと同じペンダントが四つ。

「これ。彼女の家族とお揃い。しかもね、一品物だから、同じ物はないから、わかる。」

それを聞いて、ふと疑問が現れた。

「なぁ。リオンって、両親の顔も知らずに教会の前に捨てられていた子供じゃなかったか?」

「そうだね。でも、実際は違ったんだ。」

「どういうことだ?」

これを探していく中で、知らなかった事実を知ってきたのだと、クラウドは言う。

「これは、それぞれ追いかけて行った先で見つけた痕跡。これは、彼女が見つけたものなんだ。」

リオンの両親と兄弟達は、全員殺された。だから、探しても見つかるはずがない。ペンダントという絆があっても。

「なん・・・だと・・・?」

「リオンの両親は殺された。兄弟もまた殺された。」

きっと、リオンの事について、気付いていないだろうからね、新一君はと、少し悲しそうに言うクラウドの次の言葉を待つ。

「リオンはどうして自分が捨てられたのかと知りたがった。そして、答えを探す為に、教会から出た。」

「それは知ってる。」

「そして、彼女は見つけたんだ。ある情報をつかんである建物に侵入した。」

そこにあったものは何だと思う?と聞かれ、答えに困っている新一。

「ヒントを言えば、十二年前。」

その言葉に、誰もが気付いた。十二年前には大きな出来事があった。

「・・・組織・・・。裏組織が管理する建物に侵入したのか?!」

「ちょっと待って。その建物って、あの研究所でしょ?」

「じゃ、じゃぁ・・・。」

「なんだか、最悪な展開だね。」

「・・・。」

四人がそれぞれ言葉を言うと、クラウドは答えた。

「そこには、静かな眠りすら与えられず、意識がないまま人体実験を繰り返され、完全に人の姿をしない人達・・・リオンの本当の両親であり、違う人達がいた。」

「リオンの両親は・・・。」

「その組織にいた人間。そして、リオンを造り出した人。」

「っ!!じゃぁ、あの噂は本当だったのね。」

哀は今も覚えている。ただ実験を繰り返す日々の中で、姉が言っていた。

『数年前に、どこかの組織の人が、人を造り出したんだって。体外受精じゃなくて、一人の子供を。』

体外受精なら、その当時まだ驚かれていたが、哀にとっては組織の中で度々あったので気にしていなかった。

「リオンだけは、あの四人と家族であるが違う存在だった。彼女は彼等に作られた。」

造られたという意味。重い過酷な運命を背負う。

「ある、死んだ子供のクローン。だけど、失敗して、同じにはなれなかった彼女を、造った両親が引き取った。」

そして、内情を知りすぎて、抜けたいと言い出した彼等の命を奪った。安らかに眠る事などさせずに。

「リオンの存在も知っていたから、探したんだろうね。だけど、見つからなかった。そして、リオンもそんな事実を知らずに平和に過ごしていた。」

それが、悔しかったんだ。リオンは、両親の手によって、いらないと記憶を消去した。普通の子供として過ごせるようにと。

その事に、哀は少し自分の過去を思い出した。姉と両親の事。少し似ていると思った。

「そして、彼女は手の付けられない状態になった。見つかっても、騒ぎになることはなかった。」

「・・・まさか・・・っ!」

思い当たる言葉に、新一ははっとなる。

「殺した。報道された通り、そこにいた全員を手に欠けた。」

どうして、彼女がブラッドレディと呼ばれるか。その時の彼女を見たら、誰だってそう言うだろうと、クラウドは言った。

「怪盗君と同じ白を纏っていたんだ。白い、ワンピース。」

返り血を浴びて、紅く染まった、元々白かったワンピース。

少女だった彼女だが、ひどく大人びていて、とても冷血で温かい人間のように思えなくて、目撃した組織の仲間がそう名付けた。怪我を負いながらも、逃げた一人の言葉。

それが今、彼女に通り名がついた原因。

その後、埋葬もかねて燃やした。手を合わせて、育ててくれた両親に感謝しながら。

だけど、やっぱり悲しみから憎しみもあった。

ポケットには、研究所に置かれていたペンダントを入れて、それを手で握った。

結局、誰にも名前は聞かなかったし、ペンダントにもかかれていなかったから、家族の名前は知らないままになった。

「それが、彼女の過去。その後に出会ったんだ。そして、本当に好きだというのなら、捕まえてみたらどう?と挑戦されて、逃げられちゃった。」

おちゃらけて見せるが、話しながらクラウドも辛いのだろうと思う。

作られた笑みを見せているから。

「感情を知らずに育ったけど、きっと覚えているんだよね、リオンは。」

教会で育った時、感情が完全に閉ざされて人形のようだったという事は、聞いたし、新一達も過去に巻き込まれたときに知っている。

「逃げている時はね、姿を見る事はないけれど、少しずつ感情が現れてきているんだと感じる事があるんだ。」

一人になった彼女は、今も目の前で困る子供がいれば、手を貸して自ら紅い血を浴びる。だから余計に現在でもブラッドレディと呼ばれるのだけれど。

「誰かに存在を知ってもらえている時はうれしいみたいだからね。・・・寂しがりやだから。」

両親の変わり果てた姿を見たとき、初めて見せたのは、怒りと涙。

「いつか、笑顔が見られるといいんだけどね。」

いつも冷めた顔をしている。

「ま、頑張れ。」

新一も少し、リオンが笑みを見せる日が来ればいいなと思うのだった。

「さて。話はこれぐらいにして、行こうか。」

「場所はわかってるのか?」

「あたり前。」

さっきから行く当てもなく歩いているのかと思ったが、どうやら行き先は決まっていたようだ。

「県外に行くけどね。すぐに思い出すよ。新一君は知っている場所だから。」

それに、怪盗君もねと、クラウドは言うのだった。

 





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