ニ章 知らせ

 


 

少女は陸上をしていた事もあり、走って5分もしないうちに時計台へとついた。

きっと、あと数十分のうちにバスは指定された港へ着くだろう。

だが、今は彼女との約束をまず果たすのが先決である。何だか、どうにかなるような気がするのは何故か分からないが、彼女なら大丈夫な気がしたのだ。

「待ち人さん!伝言です!!」

周りの注目を浴びても綺麗さっぱり無視して叫び続ける。

「『事件で行けない』って、伝言をもらってきましたー!」

大きな声で叫ぶ少女を見て、通行人たちは驚きながらもいったいなんだとざわざわ騒ぎ出す。

気を張り詰めていた少女は、走ってきた事と叫んだ事によって呼吸が乱れ、安定させるように自分に言い聞かせる。

お守りでもあるこの首からかけられたネックレスの飾りを握って。

反応が無い事で、もう一度叫ぼう息を吸った。

すると、もう叫ばなくてもいいと言わんばかりに、止めるようにどこからか声が聞こえてきた。

『わかりました。では、私は追いかけましょうか。愛しい姫を。伝言を、どうもありがとうございます、美しいお嬢さん。』

えっと、声の先を探すがそれはありえないと思うもの。

自分の前に一羽の白い鳩がいる。

その鳩から、その声が聞こえてきたのだ。つまり、鳩がしゃべった事になる。

『ああ、すみませんね、お嬢さん。声はその鳩を通しているだけなんですよ。』

そういわれてはじめて気付いた。鳩の足に取り付けられている何かを。

そして、友人に誘われて以前行った場所での事を思い出す。

「では、私は行きますね。」

今度は鳩ごしからではない声が聞こえた。えっと聞こえた方を見れば、時計台に立つ白い人影。

突如現れたそれに通行人たちは目を疑い、指を指す。少女も例外ではなく、驚いて声も出ない。

ばさばさと鳩はご主人であるその男のもとへと飛んで行く。

そう、そこには確保不能の神出鬼没な華麗なマジックを披露する泥棒。怪盗KIDがいたのだった。

「皆様、お騒がせして申し訳ございません。」

そう一礼して、KIDはその場から姿を消した。

誰かが通報したのか、警察が到着したのちにいろいろ調べたりされたのだが、いたという痕跡も手がかりになる証拠も何一つ残されてはいなかった。

まるで、誰もが夢を見ていたかのように、綺麗さっぱり消えたのだった。

 

 


少女は目の前で見たそれが少し信じられず、しばらく呆然とそこに立っていた。

だがすぐに、もう一つの場所で同じように言葉を言わなくてはいけないことを思い出し、慌ててその『シーラ』という店を探して走り出した。

看板がなかったので、なかなか見つからなかったが、やっと見つけたシーラという小さな喫茶店。

少女はばんっと勢いを殺す事なく扉を開き、中にいた店主と思わしき人物とちょうどそこにいた客の一人に注目された。

「あ、あの、伝言をあずかって…。」

さすがに疲れだした彼女はその場に少し座り込みながら、伝えた。

「じ、事件で、行けない…と。一人、人質となって残った女の人から…。」

その言葉に、そこにいた二人がそれぞれ反応を見せる。やはり、あの女の人からの伝言の相手はこの二人なんだとわかった。

これで、自分に頼まれた伝言を伝えるという任務は終わった。

ふうっと息をついて、その場に座り込んでしまった。

張り詰めていた気が、ここに来て完全に切れてしまったようだ。

そんな少女に手を差し出す者がいた。そう、伝言を聞いた客だった。

だが、その客はとても小さな女の子で、とても違和感の感じる瞳を持つ女の子だった。

「それ、本当なのね・・・?」

「あ、はい。あ、じゃぁ、貴方が?」

待ち人がどんな人かは知らない。先ほどは怪盗KIDだった。だから、今度も何かしら知っている驚くような人なのかと思った。

だが、ここにいるのは何処にでもいるような小学生で、違和感を感じても小学生に違いはないはず。

「・・・女の人ということから、彼は変装しているのかしら・・・?」

突如少女が言い放つ言葉が理解できずにいた。

とくに、伝言を伝える事でいっぱいで、それも全力で走ってきた彼女の頭は上手く働いていないから予期に理解できずにいた。

そんな少女の様子を見て、クスリを笑みを見せる。

「え?」

「そういえば、貴方が気付くほど演技が下手なわけなかったわね。」

ますますわけがわからない。だが、この女の子は事の次第をだいたい理解しているようだった。

これでは、わざわざ伝えに来た意味はあるのだろうか。

「まぁ、いいわ。彼なら犯人ごときにやられることはないでしょうから。でもま、それそうおうのものは受け取っていただくけどね・・・。偶然といえども、彼に手を出したのだからね・・・。」

その少女の笑みはとても冷たいものだった。

その時はじめて、少女は目の前にいる少女が見た年齢とは全然違うのだと悟る。

それがきっと、最初に感じた違和感だろう。

小学生とは思えないような冷たい目。まるで犯人を憎み、復讐に駆られた殺人者のようだと、少女は思った。

もしかしたら、この前読んだ推理小説のせいかもしれないが、間違いはないと思う。

このペンダントをくれた人と同じぐらい、違和感の感じる人。

やはり、怪盗KID同様に只者ではないようだ。

なんだかそれをきいて、あの女の人も何者なのか気になった。

自分も見惚れてしまう程の綺麗な人。だが、待ち人は三人・・・ここのマスターはどうだかわからないが、只者ではない。つまり、あの人自身も只者ではないと言う証拠。

しかも、演技だとか『彼』だとかこの少女は言う。つまり、『彼女』だと思っていたあの人は『彼』だというのだ。

こういうときにだんだんと冷静になって頭が働いても、あまりうれしくはないと思う。

「じゃぁ、行ってくるわ。また戻ってくるから、お金はその時にだすわ。」

「はいはい。お気をつけて。」

さっさと店を出て行った少女。なんなんだろうと思っている少女に声をかけるここのマスター。

「お嬢さん。伝言のお礼に、紅茶でも一杯如何ですか?」

すでに用意されたそれを断るのもあれなので、その好意にありがたく手を伸ばす。

ちょうど、何か飲むものがほしかったところだったので本当にありがたかった。

「あ、ありがとうございます。」

乾いた喉に潤いを与える。やっと、一息つけた感じだ。

自分好みの甘さで、とても美味しかった。

「おいしい・・・。」

「ありがとうございます。貴方には特別です。」

きっと、この人もその女の人を大切に思っているのだとわかった。

目が、とても優しかったから。

「さ、休んで下さい。きっと、もうすぐ彼等は戻ってきますから。」

マスターである男は名前を萩野蓮と名乗り、少女に席を勧めてもう一杯の紅茶とクッキーを用意してくれた。

 

 


その頃も、バスはまだ走っていた。もうすぐ目的地に着くといったところ。

そろそろ、警察も動き始めている頃だろう。だが、それではきっと遅い。ここにいる女、・・・変装している彼は状況をまとめ、解決策を考えていた。

「よし。今のところ問題はないな・・・。」

そう言っていた犯人の二人組みはふと、音に気付いた。ちくたくと時計の秒針のような音。

「ったく、何処からだ?」

今まで聞こえなかったそれに、男達は何処だと探し出す。

「あ、ありました。これじゃないでしょうか?」

そういえばこんなものがあったなと思う。ただの乗客の荷物だと思って深く気にしなかったものだ。

通常、荷物が置けるようにある上のネットにあればそう思うし、バスジャックという事件がおきたのだから慌てて置き忘れた可能性だってある。

だが、それが計画をぶち壊すものであった。

「こ、これ!」

「まさか?!」

男達が慌てる。何事かと彼もちらりとその荷物の袋を見る。

そこには小さな時計と黒い塊があった。

「くそっ!」

「おい、今すぐバスを止めろ!」

今はもう、港へ出る一本道である。走ればそこへ向かえる。

何より、こんなものに付き合うつもりはない。

そう、これは爆弾という奴である。

運転手は指示されたとおり、慌ててバスを止める。

この場所は港へ続くと行っても、あまり使われていない港であるために通行人はほとんどいないので、止まっても苦情が来る事はまずない。

止まったバスから慌てて外へ出て行く男達。だが、彼はそれを許さない。

「・・・悪いけど、警察までデートしましょ?」

優美な女・・・まだ女と疑っていない彼等は、そんな彼の笑みに一瞬気を取られたのが命取りとなる。

彼がすぐさま手前にいた男に蹴りを入れた。それも、かなり鈍い音がしてどこか損傷しても可笑しくない威力である。

さすがに驚いて、状況を理解せずに襲い掛かろうとするもう一人にも、しっかりと彼は蹴りをおみまいする。

どさっと倒れる二つの動かなくなったもの。

その場に立つ勝者の女の姿にあいた口がふさがらない運転手。まぁ、たいていはそうだろう。

だが、すぐにバスの中へ戻って爆弾と思わしきそれに取り掛かる。

いつも持っているそれが役に立つとは思わなかったのだが…。

今の状況はいろいろとやばいので、いろいろ護身用として持っているものや、何かの役に立つだろうと持っている警察も驚きの品々を隠し持っていた。

「・・・これだったらどうにかなりそうだな・・・。」

どんどん解体をしていく。その様子にはらはらとしながら見守る運転手。

きっと、何年かの寿命が今回の事で縮んだ事だろう。まさか、可憐な美少女が犯人である大きな男二人を倒しただけではなく、自分が見ても爆弾だと思えるそれを自ら解体しようとしているのだから。

「さて、終わり。」

うれしそうな女の声。どうやら、爆弾は止まったらしい。

ほっと息をつく事が出来た運転手。どうやら、今日は家に帰れるようだ。

「・・・ん?」

ふと、そんなほっとしている運転手をよそに気付いた女・・・彼はそこに添えられているメッセージを見て驚いていた。

「・・・まさか・・・?!」




それは知らせだった。これから始まる魔王の宴への。

 






     コメント

 あっさり決着?というか、マスターって柄じゃないよ、蓮さん・・・。
 それにしても、どこいったんだ?バイトの猫さん・・・。




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