かつて、人の世に一人の天使と悪魔が降り立った

彼等はそれぞれ笛と剣を持ち、それを地上に残して飛び去った

 

笛はどんなものにも負けない、美しく優しい旋律を奏で、生命を癒す力を持っていた

剣はどんなものにも負けず、折れる事がない強さでモノを切り、赤い水を好んだ

 

いつしか人の手に渡り、現在ではそれぞれは古い旧家の奥へと隠された

笛は祝宴の場で姿を見せ、人々を楽しませたが、剣は人の命を喰らうために厳重に保管され続けた

 

そして、今

長い年月の間交わる事がなかった二つが認めし主とともに巡り合う

 

 

 

 序章 時が流れ出した

 

 

 

もう、ここには置いておく事は出来ない。

屋敷の主は決意し、己の息子を呼び、全ての原因である剣を封じる間へと向かった。

無言で歩く父の後姿を見て、もしかしたらと思いながらも、違っていて欲しいと少年は思った。

だが、その部屋に入り、封印の札を剥がし、中に収められていた、布に包まれているそれを眼にした瞬間、それ以上は知りたくなかった。

「外にこれの事が洩れてしまった。このままではいけない。」

すでに厳重に力を抑える為にそれに取り付けられていた札や縄は床に散乱している。

そう、それはこの屋敷に伝えられた、魔の力を秘めた『悪魔の剣』。

少年は渡されて、最初は渋ったが、それを受け取った。

「今に、たくさんの者達がここへ攻めて来るだろう。だから、それまでに・・・今夜中にも屋敷を出なさい。」

これを持って、決して気付かれずに逃げ延びなさい。

今なら私が、私達が攻めてこれを求める愚か者の相手をして足止めをしているから。

それは闇に葬り去る事は出来ない。

それを地上に残して去っていった悪魔の帰りを待っている。

だから、何度も処分をしようとも燃やしても壊そうとしても、決してその姿を変える事はなかった。

「だから、それを持って逃げなさい。それには悪魔の力が宿っている。人が持つことはいけない。」

きっと、それが出回れば、多くの者の命が奪われ、その剣が吸う。

何度も父親は少年に言い聞かせた。

だから、少年もわかっていた。だけど、いざその時になってみれば、皆を残してここを立ち去る事は出来なかった。

でも、真剣に頼んでくる父親の目を見て、これ以上困らせることは出来ないと、賢い少年はわかっていた。

「外に出たと知れれば、お前を追うだろう。だが、必ずそれはお前を認めるだろう。」

彼は少年に言っていない事が一つある。

だが、それは少年の心を惑わせてしまう。だから、言わなかった。

「それが必ずお前を守ってくれる。だから、行くんだ。・・・外で生き延びるんだ。新一。」

それが、父親の最期の言葉だった。








   あとがき

 ある場所の再録です。この先はあの場所で連載するかは未定。
 旅を〜同様にのんびりと連載していく予定です。
 気長にお付き合いいただけるとうれしいです。




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