第四話 ナイトバロンの企み
「もうそろそろ、ゲームも終わりかな?」 秘密を共有し、一つの組織として行動する同士達が集まるのは。 来るのはどうせ皆同じ。だから、飲み物でも用意しておこうか。 今日から結成する組織の祝いとして。 二人の叫び声がモニターから聞こえてくるが、気にせず背後に佇む相手に飲み物の用意を頼んだ。 ゲームの終幕はもう少し。
大方、迷路を進んだ頃。 「・・・何者かの気配。」 「複数、いるみたいね。」 「・・・最初にいたあいつらか?」 そういう割には、しっかりと物騒なものを構えて進む人達。 「・・・工藤君。」 「あいつ等にはあれが日常なんだ。だから、しょうがないんだろうな。」 「・・・。」 犯罪は許さないはずの探偵から、思いもしない言葉を聞いた気がした。 「あいつ等はな、今それぞれの目的の為に生きて、目的の為に道を選んだんだ。」 「・・・。」 「お前も組織にいた時だって、姉の安全を目的に生きてきた。姉もまた、お前の自由と幸せの為に生きてきた。それと同じことだ。」 それ以上、志保は言おうとは思わなかった。 自分だって、消えない罪と言うものがある。その罪を抱えながら、今この場所にいて幸せに過ごせるのは本当にまれだと思う。 さて、向こうから来るのは誰だと志保が視線を新一から前に戻した時、現れたのはやはり予想通りの人達だった。 「危ないなぁ。駄目だよ、そんな物騒なもの持ち出してさ。」 そう言いながらも、本人もそうとう物騒なものを持っているのだが・・・。 「人の事、言えないぞ、天野。」 「竜でいいって言ってるのにさ。いつになったら名前で呼んでくれるんだか。」 「さぁ、いつだろうな。」 そういい、新一は竜がくっつこうとした腕をぺいっとはじいて、目の前でいかにもこれから殺し合いをしますといった雰囲気で、持っているそれで攻撃を受け止めながらにらみ合っている二人の側へと行く。 「いい加減にしろ!ったく、お前等は本当仲が悪いよな。」 ターゲット同士だからかと言いながら、しっかりとその物騒な物を取り上げる。 少し不満そうだが、和也も麻都もそれ以上する気はないようだ。 「・・・いつも、そんな感じなの?」 「いや。家に来る時、全員どういうわけか、被らないんだ。」 「・・・へぇ、そうなの。」 気が聞くというのか、なんというか。 「そういえば、あの二人は?」 聞かれて、はてと、竜が背後にいたはずの二人がいない事に気付く。 「途中まではいたと思うけどねぇ?」 「どっかに置いてきたのか?」 「何かに引っかかったんだろうね。」 まぁ、この先にいる相手が待っているのはこの面々だろうから、あの二人はおまけでどちらでもよいようだから気にせずに進もうかと判断する新一。 志保も哀れみは何もないので、無視する。 最初からわかっていたはずなのだ。この場所の危険性を。 それをわかっていながら来て、それで迷ったのだからそれは自己責任だ。 「もうすぐだなぁ。」 迷路のゴールへと近づいてきている。この場所から出る為の、そして招待主に会う為に続く扉が見えてきた。 「やっと、拝めるのね。そもそもの原因が。」 全員、目の前の敵よりも、招待主という敵に目がいった。ある意味単純思考なのだろうかと考える新一。 「さっさと進むか。」 「いい加減、お遊びに付き合うのも疲れましたし。」 「貴方はいつも遊んでいるじゃないの、キッド。」 「確かにね。子供の遊戯でしょう?情報によると。」 仲がいいのか悪いのか。やっぱり判断に困る面々だった。 その頃、はぐれた事で必死になって歩き回っている二人の探偵がいたが、皆はすっかり頭の中から忘れていたのだった。
やっとたどり着いたのは、重くて古そうで、とっても頑丈そうな扉。 扉には文字を入力する画面があり、さてどうしたものかと皆が思ったが、新一は迷わず文字を打ち込んだ。 「・・・ナイトバロン?」 「ああ、あいつか。」 どうやら、招待主が誰なのかわかったようだ。 そりゃそうだろう。裏で生きるに当たり、多少の情報は必要だ。 その中で、『ナイトバロン』も結構必要な情報である。 扉が開き、そこにある部屋に入る。 すると、さらに奥に一つの扉があり、そこが最終地点。 「ナイトバロンの顔が拝めるわけですね。」 開いた先では、まさに晩餐会と言わんばかりに食器類がそろえられ、一番奥に一人の男が座っていた。そして、男に仕えるように側に立つ一人の男。 「ようこそ。待っていたよ皆さん。」 まずは席について下さいと言われ、あまり食事をしたいとは思わないが、言われた通りにする。 「さて、ゲームはこれで終わり。そして、クリアした方々に今回のゲームの真相をお話しましょう。」 にっこりと微笑むその顔は、まるで警察相手に余裕で遊びを仕掛けるキッドと似ていると新一は思った。たぶん、間違いはないと思う。 本人達が聞けば即座に違うと即答するだろうが、生憎彼の心を読むものはいない。 「まずは自己紹介をしましょうか。私はナイトバロンと名乗る一介の何でも屋です。普段は萩野蓮と名乗っています。」 扉の入力で分かるとおりと、答えるところがまた嫌味に聞こえてくる。 「何でも屋の延長のようなもので、今回集団で活動する組織を作りたいと考えました。」 そして集め、皆さんの力量を測り、メンバーに迎え入れようと考えましたと答える。 つまり、あれは遊戯という名の試験だったのだ。 確かにこれだけのからくり。そうそう、突破できるものではない。ここまでたどり着くのも、運が良い場合と、それなりの能力が必要である。 「まぁ、仲間になるならないは皆さんの自由という事ですが、実はもう一つ理由があるのですよ。」 いったい、何がいいたいんだと相手を睨みながら見ている面々に相変わらず笑顔で言い続ける。 ある意味、凄いような気もする。 「いつもいつも、とある探偵さんは無茶ばかりしまして、ご両親が心配でしょうがないという事。なので、私というよりも探偵さんを補佐できる、メンバーが必要なんですよ。」 「なっ!お前何言い出すんだよ!」 やっぱり、胡散臭い奴だと、つかみかかるが、すいっと交わされる。 「やはり、探偵さんにつりあうぐらいの能力がありませんと、補佐するのも守るのも後のカバーをするのも大変でしてね。あの探偵さんや幼馴染や友人方も、ここまで来れるのなら話そうと思いましたし。やはり、近い周りから集めるのが一番だと思いません?」 確かに、食生活は危ないし、睡眠もとろうとはしない。そして、無闇に事件に突っ込む癖と、事件を呼び寄せるような体質。 心配するなと言われても、心配してしまうような生活を送っている。 探偵を心配する者達にとっては、断る理由はこれといってない。というよりも、お気に入りの側にいる口実が出来て、お得かもしれない。 「確かに、名探偵の生活習慣の悪さは問題ですね。」 「事件にも良く突っ込むしねぇ。知ったときは驚くような事もあったし。」 「どこかの物騒な犯人を取り押さえる際に怪我をした話もあったな。」 「その後、隠されたけど。しっかり治療したからはやく治ったけれど。」 「な、なんなんだよ、お前等〜っ!!」 あげればきりが無いほど、色々出てくる新一のいろいろなところ。 「だいたい、なんでこのメンバーなんだよ!」 「何か、問題でもあったのか?」 新一の文句に一体何がいけないんだと蓮が問えば、可笑しな答えが帰ってきた。 「だいたい、これじゃぁ、動物園じゃねーか!」 全員固まる。いったい、何なんだと思えば。 「猫に烏に白い鳥に紅い鳥に紅い目の獅子に竜に灰色の猫。お前は昔、鷹久って名乗ってただろ。」 確かに、動物ばかりだ。それに、探偵もあるいみ、トリと馬だし。 紅い鳥は白い鳥と一緒にいる事から、裏でそういわれている名で、志保はシェリーと名乗らず、新一が猫みたいだなと言うので、かつて名乗っていた灰原の灰でグレイキャットとメールアドレスを作っていた事があったので、新一はそういうのだ。 では、このずぼらな探偵は動物園の飼育係だろうか。 「そもそも、こんなの必要ないだろ!いらない!」 「いや〜、そういわれてもね。」 「それにしても、凄い発想よね。気付かなかったわ。意外とメルヘンなところもあるじゃない。」 「し、志保〜。」 自ら補欠を掘ったというか・・・。 とにかく、新一以外の意見はまとまり、彼等は今日から協力者となるのだった。
「さて。それで組織名どうしようか。」 「組織、って言うのはやめていただけないかしら?」 「そうでしたね、宮野さん。」 本気で動物園にでもしますかと言われ、すかさず新一は却下する。その名前にするようだったら、これを絶対認めないというのだ。 我侭だなぁといいながらも、機嫌をこれ以上損ねられるのも困るので、ちょっかいをかけるのはその辺にしておく。 「困りましたねぇ。」 本当に困っているのかは謎だ。 「では、ANGELにしましょうか。」 ある女の言葉を思い出して少し嫌そうにする志保。 「全員が、目的の為に生き抜こうとする。そんな者達を神は裁くことはしないでしょう。そんな道しか与えなかった神に、権利は無い。それを一つの試練と考えるのなら、別かもしれませんけどね。」 それがいったいどうしたのだといえば、蓮は話を続けた。 「天使。本来の神へとなる力を持つ天使を守る天使達。そう思いません?どちらかというと、神になるのなら天使というよりも女神様ですけどね。」 他人の為に尽くす天使。その度に心を痛めて悲しむ天使。 支えるのはやはり同じ天使でしょうと言う。 納得できるようで納得できない気もするが・・・。 「だいたい、天使って誰だよ。」 その言っている本人がその天使だというのに・・・。 自覚はなしらしい。同属だけではなく、別のものをも惹きつける天使。 「とりあえず、ANGELでいいでしょう。名前はどうします?」 そのままでよければ、そのまま登録しておきますよと、いつの間にかノートパソコンを取り出した蓮。 「バックには優作氏がつきますから、面々の名前を教えておく義務はあるでしょう?」 やっぱり、関わってくるんだな、あの狸と怒りを込めて心の中でぶつぶついっている新一。 誰が見ても明らかに不機嫌ですというオーラを出しているので、しばらく皆声をかける事は無く、差し支えのない名前をいい、登録していく。 「では、これからよろしくお願いしますね。」 こうして試験も終わり、企みも全て話され、新一を補佐するという組織が立ち上げられたのだった。 |