三 屋敷の中はからくり迷路
依頼主、萩野蓮に近づく為の扉の前にいた。 「たぶん、この扉の先にいるはずなんだが・・・。」 はじめから、わかってはいたらしい。だが、自信がなさそうなのは、あの男がゲームをすると言ったので、そう簡単にはいかないとわかっているからだろう。 志保自信も聞いていて呆れるほど無駄に頭の切れる相手だとわかった。その点はあのおちゃらけたこそ泥といい勝負だろうなと思う。 彼がいてそれを聞けば、酷いとウソ泣きで訴えるだろうが、生憎今の志保は機嫌が悪いので、即座にクスリを盛って黙らせる事だろう。 「まったく、迷惑なものね。ここまでくいると、馬鹿としかいいようがないわ。」 扉の先にあったものは、薄暗い闇の中に存在する巨大迷路だった。 それも、たまに聞こえてくる音からして、時間が経てば壁が動き、方向をわからなくさせ、迷わすものだろう。 ご丁寧にも、入り口同様に上にはいけないようにしてある。 「顔をしっかりと拝みたくなったわね。」 拝むという意味が、彼女にとってどういう意味か。恐ろしくて聞けない新一。 「・・・犯罪にひっかかるようなことだけは、やめておけよ?」 「あら?不法侵入をした誘拐拉致の疑いがある彼はいいのかしら?」 痛いところをついてくれる。油断して自分も悪いのだが・・・。 少し、蓮の生存を祈った。きっと、この科学者は完全犯罪なんてものともせずに行うだろうから。 「さて。とりあえず、これをクリアするか。」 「そうね。原因と会うにしても、この先だものね。」 とりあえず、進む事にした。中身が変わったとしても、向かう方角さえ間違わなければ大丈夫だろう。
二人が進み始めたその頃。 快斗と紅子は何度も同じ廊下をぐるぐると回っていた。 「・・・まったく、嫌な感じね。」 「・・・本当、嫌な奴がいるみたいだな。」 彼等は廊下のトラップに見事嵌まっていた。 このトラップを作った人間はかなりひねくれているのか、むかつくものばかりだった。 この廊下もそうだ。いい加減、壁を破壊して通りぬけようかとも思った。 「・・・別のやつも近くにいるみたいだし。」 最初に顔を見たうちの誰か一人がこの近くにいる気配を感じ取る。それはつまり、相手側にも知られていると思ったらいい。 「ったく。何が何でもこんなことを考え出した奴の顔を見てやる!」 なんだか、目的が変わってきている気がしてならない紅子だった。 その時だった。ばこっっと、歩くのが疲れたのでもたれかかった壁が開いた。 「う、うわっ?!」 なんだと思えば、暗闇の中へ間っ逆さま。怪盗KIDとあろうものが、あまりにも間抜けな声と格好だ。 しょうがないわねと、紅子は快斗を追いかける。 そして、落ちた先で見つけたのは。 さっさと館から抜けて話がしたいと思っていた新一の前だった。 新一の方は、進んでいたら突如天井が開き、何かが落ちてきて驚いたが。 堕ちて来たものは、綺麗に着地して、いきなり腕をとってべらべらと気障な言葉をよくもそんなにしたが回るものだと感心するぐらいしゃべっていた。 後を追う様に一緒に上から降りてきた紅子は、心配して損したといった感じでかなり呆れていた。 「でも、会えて良かったよ〜。本当、得体の知れない人ばっかりだったからさ。見張られているって感じ?」 「・・・。」 べらべらとしゃべり、口を挟む隙が一切ない。隙がないという事にはさすがだと思うが、あのこそ泥が馬鹿みたいにしゃべっていると、不信に思ってしまう。 「ちょっと、いつまで馬鹿いってるのかしら?」 いいかげん離れてちょうだいと、二人の間に入る志保。 まったくもって、いきなり現れてうざい男だ。第一、信用もしていない相手に新一の側にいる事を許すわけがない。 そんな中、さらなる人物が現れた。 どうやら、キッドと同様に同じような仕掛けで下りた来たようだ。 スタッと、綺麗に降り立つのは蘇芳麻都だった。 「・・・何処だ、ここは。」 と見れば、目の前に新一がいる。 「・・・新一・・・?どうしてここにいる?」 どうやら、キッドを見張るように見ていた人物ではないなと判断。 「どうしてといわれても、お前の方こそどうしてここにいるんだよ?」 「さぁな。なんか得体の知れないスイッチが作動したらしく、可笑しな人形が襲ってくるんでな。仕方なく応戦していたら、また何かスイッチを押してしまったらしい。そうしたら、床に穴があいてな。」 何とか避けたが、避けた先も崩れたらしい。そして、行き着いた先がここだったというわけらしい。 彼は、まずは上から順に調べていたらしい。 「・・・どうやったら一番上にいた俺がここまで落ちて来れたんだか。」 確かに謎かもしれない。部屋があるはずだが、そこを通ることなく堕ちて来たのだから。 「とにかく、あいつに会わないと終わりそうにねーな。」 「・・・。」 「そうそう。会って速攻銃器や刃物だして攻撃するのはやめろよ。」 「・・・。」 「そう言えば、そうね。貴方の仕事は殺しだったわね。」 思い出した志保。さっきの話で誰がどんな裏の仕事をしているのかを聞いている。 「・・・話したのか?」 「知りたがったし、それに、知られてもへるもんじゃねーだろ。第一に、俺の家に来るんだったら、そのうち自然とこいつとは会う。」 そうかと、それ以上言わない麻斗。 「へぇ、彼が殺し屋ですか・・・。」 以前、一度感じた事のある気配。ターゲットは自分ではなく、狙った獲物の持ち主だったようだが。 警戒してもどうにもならなかったので、諦めたのかと思ったが。次の日新聞で殺されていた事を知り、ターゲットが別だったのだわかった。 その気配の主がここにいる。 「・・・名探偵・・・。」 どうして、こんな危険人物とお知り合いなんですかと問えば、麻都が先にお前こそ不信人物だろうと言い返された。 確かに、怪盗なんてものを名乗っているのでそういわれても仕方はないのだが、腑に落ちない。 「とにかく、先に進みましょう。ほら、また中身が変わっているみたいだし。」 「そうね。この人達に付き合う必要はないわ。」 二人は新一のサイドをとり、ずんずんと突き進む。 残った男二人も黙って後をついていった。
その頃、何故か出会った二人の探偵は四苦八苦していた。 「ちょっと、服部君。ど、どうにかして下さいっ!」 「そんなんわいに言われたかて、どうしようもないわっ!」 現在、からくりの仕掛けに悪戦苦闘中だった。 「まったく、なんなんですか、ここは!」 まったくもって、常識が通用しないような屋敷で、困り果てる二人。 「邪魔だよっ。そこのお二人さん。」 すっと現れて、からくり全てを破壊した突然現れた人影。 「あ、貴方は。」 「覚えててくれたんだ?へぇ。やっぱり、記憶力は良い方?」 「それより、どうしてここへ?」 「そりゃぁ、順番に回っていたらここにだってたどり着くでしょう?そう思わない?」 「確かにそうやな。しっかし、危ないところ助けてもろてありがとうな。」 「いえいえ。」 そういって、既に次へと進もうとする竜についていく二人。 「ん?どうしたの?」 「なんか、知っとるんですか?」 「何を?」 「この屋敷のことですわ。」 いかにも、自分達以外はこの屋敷の事に対して、あまり驚いていない様子である。 だから聞いてみたのだが、そうしたらにっこりと笑みつきで、そりゃそうでしょと言う。 「だってここ、からくり屋敷だからね。」 そのまんまを答えられても、うれしくはない。 「俺は行くけど、ついてきてもいいけど、気にしてられないからね?」 それでもいいなら、勝手にどうぞと言う男。なんだか、あのマジックで新一に近づいたおちゃらけた男と似ていると服部は思い、こののりは黒羽君に似ていますと考える白馬。二人の考えは同じだった。 「さってと。貴女も混じりますか?」 しっかりと、『貴女』といい、背後にいる気配に話しかける。 「そうね・・・。どうせ、目的は同じだから、ご一緒させて頂こうかしら。」 「そうしましょう。最後にたどり着く場所は同じなんですから。そうでしょう?そこに隠れている貴方も。」 「・・・さすがだな。見抜くとは。」 二人の探偵は驚いた。まさか、知らぬまに背後に二人の人間がいたなんて。まったく、気配を感じなかった。 「それにしても、嫌になるほどの仕掛けでしたね。そう思いませんか、天野さん。」 「僕も、かなり苦労しましたよ。いたるところに仕掛けが施されていて。烏丸さんも苦労しました?」 「ああ。嫌味なぐらいに仕掛けられてうんざりしているところだ。」 なんだか、親しそうで仲が悪そうに見えて聞こえてくるのは気のせいだろうか。 その感は間違いは無い。だが、さすが探偵だなと二人を褒める者は生憎ここにはいない。 「そろそろうざいので、僕は破壊しようかと思うのですが。」 「そうですね。私もそう思っていたところなんです。」 「俺はさっさとこの仕掛け人に合って話をつけたいところだ。」 意見が一致した三人は、かなり二人にとっては企みを含んだ笑みを向け合い、足場にそれぞれ持っていたものを取り出して、破壊した。 そこが、丁度仕掛けの要であり、簡単に床は崩れるのだった。 二人の巻き込まれた探偵は叫びを上げながら穴に吸い込まれていくが、三人は平然として、障害物があれば、それをどんどんと破壊し、一気に下へと降りたのだった。 そして、降り立った場所は、新一達がいるあのからくり迷路の中。 生憎と、キッドや麻都のように新一と合流する事はなかったが・・・。 「さて。黒幕はもうすぐですね。」 「どのツラ下げて出てくるか、楽しみだ。」 「聞くところによると、結構大物らしいですしね。」 なんだか楽しそうな三人に、ついて行けないと思うのは、探偵二人だけではないと思う。 もともと、ここに集まった面々がすでに異常な方々なのだから。 君たちはきっとまともな思考回路と平均運動能力地だ。大丈夫だ、安心するんだ。 そういっても、きっとあの二人は納得しないだろうが。 |