二 自己紹介をしなおしましょう

 

 

 

それぞれ別々に扉を選んで別れた。

「・・・で、招待主は何者で、何が目的なのかしら?」

「・・・ゲームを楽しむ目的じゃねーの?」

そうとしか答えない新一にふうとため息を零す。まったくもって、この探偵はいろいろな厄介な人から好かれているようだ。

「なら。どうしてあそこにいるのが闇を渡り歩く住人達なのかしら?」

「・・・やっぱり、気付いてたか。」

だからこそ、自己紹介をさせてあえて本来の名前も、通り名でさえも呼ばなかったのだが。

「気付くにきまってるでしょ。あれだけ胡散臭いものを漂わせていたらね。」

「・・・確かに、胡散臭いよな。あいつ等。ま、あの男が一番俺としては胡散臭いけどな。」

「あら。あの男って?」

「・・・親父。」

「・・・そんな事をいうのは貴方ぐらいじゃなくて?」

「いや。招待主もきっとそう思ってるはずだ。」

それを聞いてなんとなくわかってくる。

「奴は親父の知り合いだからな。」

答えははっきりと返され、何故か納得できてしまった。

今回が危険ではないという事での違和感と、ここの所有者の事。

「でも。私としては彼等の正体を知っているみたいだから、聞いておきたいのだけど?」

「・・・・・・。」

「貴方に害がないかどうか見極めないといけないもの。」

「・・・・・・。」

「私は貴方の主治医として、いろいろカバーしないといけない事もあるからね。」

「・・・・・・。」

「いつまでも黙ってないで答えてくれないかしら?」

厳しい目で見られ、さすがにうっとなる新一。何気に、志保には弱かった。

幼馴染にも確かに弱い。だけど、それと同じぐらいに志保にも弱かった。そして何より、幼馴染以上に何を企んで何をしでかすかわからない志保が怖かったりもする。

油断をすると、本気で危険な事を実行してしまうからである。

まぁ、志保は新一の幸せを願う者なので、新一への害はない。だからこそ、深くは気にしていないが、黙り続ける事や嘘をつく事に対してはかなり弱い新一だった。

「・・・全員・・・か・・・?」

「ええ。あの探偵さん達を除いた六人ね。」

つまり、闇の住人を全員紹介しろと言っているのである。

「その前にさ・・・。」

「そうね。」

二人とも気付いていた。この屋敷がおかしい事。まぁ、はじめからわかっていた事なのだが。

「確かに、こんな屋敷じゃ窓を突き破るのが一番の脱出だわ。」

「まずは最初のからくり・・・だな。」

「これを突破してから話してもらうわ。」

目の前に続く何の変哲もない廊下。だが、そこにはたくさんの仕掛けが施されていた。

目には見えない『光の線』や仕掛けのボタンなど、それにひっかかってしまったり、押してしまえば明らかに何か起こりますという雰囲気。

だが、新一も志保も只者ではないので、なんだかんだ言いながらも簡単に突破する。

いくつかひっかかったり押したりして作動した仕掛けもあるが、それは何なく交わす。

廊下が少々破壊されているが、気にしない。何せ、ここは自分の家ではないからだ。

親父も、今回の事を承知しているのなら、少々壊れても文句は言わないだろう。








「で、話の続き。戻してもいいわよね?」

「ああ。・・・まずは招待主だな。」

そういって、一枚の写真を見せた。そこには新一の父親と見たことない一人の男の姿が写っている。

「こいつが招待主。親父の知り合いで、一応何でも屋らしい。」

「らしいって、どういう事かしら?」

「こいつ、盗みも殺しも何でもやる。」

「ちょっとそれって・・・。」

「まだ殺しはやっていないらしい。で、問題はこっちだな。FBIだかICPOだかに協力したりもしている。」

それを聞いて、いったい何なのと思う志保。

「なんでそんなわけのわからない男の力を借りているのかしらね。弱くなったんじゃないの?」

「さぁ?でも、しょーがねーんじゃねーか?第一に、あいつは依頼が気になれば、なんでもする奴だからな。」

確かにしょうがない。

警察関係者として優秀な奴は確かにいる。だが、それ以上に優秀な奴が俗に言う闇の住人への門をくぐり、裏へと足を踏み入れるのだから、手に負えなくて当たり前という奴だ。

それも、中には強い意志の中で目的のために動くもの、ただ楽しいからと言う理由で欺く続けるもの、意味もなくただ何かわからないものを探して動くものなど、闇でもいろいろと事情が複雑である。

その点、金がかかったとしても確実ならばそちらに動くだろう。

「何やら話ではさ、何か自分で組織つくるらしい。」

「それって・・・?!」

思いつくのはかつて自分がいたような犯罪組織の事。だが、新一は違うと表情が強張った志保に言って首を振る。

「お前の心配するような事じゃない。何でも、今やっている何でも屋の延長で、仲間集めて作るらしい。それも、本当に何でもやる奴をな。あ、もちろん俺は犯罪には手を貸さねーって言ってるし。」

「当たり前よ。」

だが、問題はそこではないような気がする。だが、この探偵にはいろんな意味で一般常識というものが通じないのである。

「で、まだ言ってなかったけど、招待主は荻野蓮って言う奴だ。そーだなぁ。ナイトバロンの方がわかるかもな。」

「え、ちょっとそれって・・・。」

「そう。親父の小説に出てくるのと同じ名前。組織にいたときも聞いた事あるだろう?」

「ええ。工藤優作の小説から抜け出したのか、ナイトバロンと名乗る正体不明の相手が現れ、いろいろ邪魔して来たってね。きっと工藤優作の差し金なんじゃって噂が・・・。」

「まさにその通りって奴だな。第一に、あいつは客を選ぶから、まともに何でも頼みを聞く相手は親父と母さんぐらいだろうな。あとは気に入った場合と仕事内容で判断だろうな。」

なんだか聞いているだけで頭がいたい。それは、きっと他のものも同じだろう。

まずはじめに、この探偵は事の重大さがよくわかっていないらしい。

何でも屋でFBIICPOに手を貸していたとしても、結局は法からはずれた犯罪者。それをみすみす見逃すばかりか、正体まで知っていても他人事のように話している。

「なんだか、貴方の認識を改めないといけない気がしてきたわ。」

「何でだよ。」

「・・・で、他の人達は?」

もうこの話は終わりだと言わんばかりに流し、次へと進める。これ以上その話をしていてる必要はなさそうだからだ。

ちなみに、この長い話の間に屋敷の仕掛けは作動し、二人を襲っている。

だが、それをことごとく持ち前の運動神経と感のよさで突破している探偵。

なので、気にせず話を続けている。まるで、何事もなかったかのようにだ。

「富田雅秀の通り名は闇猫と呼ばれる絵画泥棒。たまに、別のものも盗むがな。一応知ってると思うが、あれは女だな。ま、ばれるようなヘマはしてねーみたいだけどな。」

「なんだか、知る必要のない情報までもらった気がするわね。」

志保は組織にいた際、闇猫の存在は知っていたが、女だという情報は何処にもなかった。

しかし、目の前の探偵は知っていると思うがと、いとも簡単にしゃべってくれた。

ばれるようなヘマをしていないのなら、こっちにだって情報は漏れていないような気がするのだが、わかっていないのかもしれない。

もしくは、自分の情報収集能力をかってくれているのか・・・。

「知る必要のない情報?ま、確かに志保はもうこんなのに関わるつもりはないだろうからいらない情報ではあるな。」

「私としては、貴方の身体の状況を考えたいのだけど。どうしてそう危ない事につっかかるのかしら?」

「しょーがねーだろ。堕ちてきたんだから。」

「堕ちてきた?」

「仕事だったんだろーな。あいつもやっぱり警察以外の危ない人に負われているみたいだった。たまたま偶然通りかかった俺が、あいつと出くわした。ちょうど、あいつが盗んだ絵画を落として俺が拾ったときだったな。」

きっと、自分の存在を見られただけではなく、盗んだものを見られた事にも驚いただろう。

だが、反対に追ってくる物騒な人達と倒して絵画を渡すなんて、普通はしないだろう。

だが、この探偵ならありえるだだろう。

というか、相手が闇猫だと気付かずに助けたという事が正しいような気もする。

これ以上はあまり知りたくないような気がしたが、とりあえず他の相手の事も聞く。

「烏丸和也はあの年である組織の長に君臨した闇の王。名はCROW。知ってるだろ?情報として、魔王といわれるような若い男がCROWの長になったってな。」

「そういえば、いたわね。普段と仕事とのギャップが激しい男。仕事では獲物を狙う獣のような目を持ち、心を許した相手以外にも一線を引いている危ない獣。」

そんなものがこんな所にいるとは思っても見なかった。しかも、こんな招待状を受け取ってそれに応じるとも思わない。

そんな事を考えているとは思っていないだろう探偵は次々と話していく。

「蘇芳麻都は浮浪の雇われれば引き受ける少々危険度が高い殺し屋。ただの一介の殺し屋だと本人は言うが、俺としては同じだと思うんだがな。片目・・・今はカラコンか何かで目の色を変えてるけど、紅いんだ。だから、紅い目の男って言われてるな。ま、そのままだけど。」

「・・・確かに目はそのままでわかりやすいけど。わかってるの?危ない殺し屋よ?」

「でも、あいつは変わった奴だぞ。ま、どいつもかわってるけどな。」

一番変わっているのはあなたよといいたい志保。

聞いていれば、何かでミスして落ちていた殺し屋を拾ったのだとか。

普通は、そんなに簡単に殺し屋が落ちている事もないし、拾う確率だって少ない。

さらに聞けば、殺し屋が狙っていたのはCROWで、CROWの裏取引というものを目撃していながら、素通りしただとか。

確かにその日は彼が待ち望んでいた新刊があってうかれていたのはわかる。

でも、もっと気をつけてほしいと思う。

何より、もっと自分の魅力というものに気付いてほしいと思う。まったくもって、この鈍感な探偵は、拾った殺し屋と、臆せず普通に話しかけて去っていくのを呆然と見ているCROWに興味をもたれてしまったのだ。

「で、天野竜って奴は情報屋。『ヘヴン』という名前で仕事しているな。たまに仲介者として仕事を持ってきて仕事を与えるって事もしているらしい。」

そこでさらに知ったことだが、取引の情報を受けたものが殺し屋に依頼したという事。

なんだか聞けば聞くほど頭がいたい事実。

今までどういった生活をしてきたのか、詳しく聞きたいが、聞けば聞くほど頭が痛くなりそうだわと呆れ果てる。

「よくもまぁ、生きてこられたわね・・・。」

「まぁ、悪運は強いらしいからな。」

そんなことではないというのに。

だが、こんな彼だからこそ、皆引かれたのかもしれない。

「そういえば、あの子は誰なのかしら?」

「あれ?志保は気づかなかったのか?」

「最初はもしかしてと思ったけど・・・。」

「その通りだぜ。」

「・・・嘘でしょ?」

なんだか知らないままの方が良かったのかもしれないわと、頭をかかえる。

誰も、まさか彼があの有名な彼だとはわからないだろう。

「似てなさ過ぎるわ・・・。」

「どうやら、あれが地らしい。」

「・・・馬鹿馬鹿しくなってきたわね。」

「俺も最初はそうだった。」

それで、出会いはどうだったのかと聞けば、これも堕ちて来たと答えた。

それも、怪盗ごと落ちてきたのだと答えた。

「堕ちて来たって・・・。なんとも間抜けな話ね。」

「ああ。俺も見間違いで見なかった振りして窓閉めようと思った。」

だが、動かないそれをみて、さすがに人の家の庭で死体はまずいなと、外に出て生きているかどうか声をかけた。

そうすれば、元気な返事が返ってきたとも。

どうやら、厄介な人達のご登場〜ということだが、逃げられると思っていたのだがさらに物騒な人が表れて打ち落とされたらしい。

おかげでハンググライダーは折れたんだと言っていた。

とりあえず、元気そうなのでそこに放置しておく事に決めたのだが、何故かすでに中にいた白い奴。

「貴方の家に、不法侵入したってわけね・・・。」

「ああ。それも奴だけじゃねー。あいつらもだ。」

「・・・。防犯設備変えましょうか。」

「俺もそう思った。」

それとも、新しい薬品の実験もかねて仕掛けておこうかしらと物騒なことを考えたが、口に出していたのか考えがわかったのか、新一は薬品実験は駄目だぞと釘をさした。

人の家で犯罪を起こされては困ると言うが、充分犯罪者を家に入れている時点で犯罪だろうとは、口が裂けても言えなかった。

「あ、あの小泉さんはKIDの補佐だ。だから害はない。彼女はKIDを持ち帰ってくれてるから俺としては感謝している。」

「それはいいわね。でも、名前と姿知らないようだったけど?」

「・・・魔女らしい。それで、いつも声だけでKIDを消して連れて帰ってくれてる。」

「あら。そうなの。それは便利ね。」

ならその魔女に不法侵入者対策を頼めばどうかしらと言おうとしたが、今はそれ以上に厄介な問題をクリアしないといけないようだ。

目の前には下へと続く階段。つまり、地下への階段である。

「・・・たぶん、この下に奴はいるはずだ。」

「なら急ぎましょう。」

正体がわかったなら、あとはそれをクリアしていくだけ。

何より、今しばらく害はなさそうなので放っておく事にした志保。

これだけのことがありながら、今まで無事ならばそれが証拠。

もし、何かしら害になるような事になれば、即座に容赦なく持ってきたこの薬品を使う事だろう。

まぁ、そんな事をすれば新一に怒られるので、よっぽどの事がない限りはしないが・・・。

うふふと笑みをもらす志保の顔を見て、また何か企んでると思いながら、害がないので放っておく新一であった。

 

 





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