快斗達が到着した時すでに、何人かの同じ招待されたであろう人物がいた。 「なんだかすごいね。」 「何人ぐらい来るのでしょうね。」 その快斗の言葉を白馬は正確に理解できていない事だろう。 快斗がいいたいのは、皆只者ではないという事だ。 そう、快斗と同じような闇の住人と同じような独特な気配。いくら消しても、同類にはわかるその気配。何者かまではわからないので、あまり動くに動けないが・・・。 「いったい、これだけ集めて何をしようっていうのかしらね。」 招待状にはゲームをしようと書かれているだけ。つまり、どんな内容のゲームかなんて書かれていない。 自分達の後から、かなり賑やかな声が聞こえてきた。 「えらい不気味な屋敷やないか。和葉は来んで正解やで。」 快斗はその聞き覚えのある声と関西弁に振り返る。 するとそこには間違いなく彼がいる。今自分が隣に立っている探偵と同じ、高校生探偵として多少なりとは知られている服部平次。 一斉に注目の的となった彼だが、あまり気にしていないようだ。他の誰かもよくわからない相手達もすぐに視線を別の場所へとやったのだから。 服部がちょうど入り口の門を通ったあと、自動的に門は閉じられた。 そして、鐘がなる。そう、ゲーム開始の1時を知らせる鐘の音が。 それと同時に聞こえてくる窓が割れる音。 ガッシャーンッと中から何かが飛び出したのであろう。外へ向けて飛び出してきた。 もちろん、快斗を含め、いかにも妖しい人達も反応を見せる。 はらはらと宝石が散りばめられるかのように舞い散る硝子の破片。 そして飛び出して自分達の前に現れたのは誰もが知る名探偵と呼ばれる人。 破片で切るようなヘマはしていないようだ。 「…いってーっ。」 だが、着地で失敗して少し頭をぶつけたようだ。 それにしても、普通なら二階から窓を破って外に飛び出すような事はしないだろう。 探偵が犯人を追いかけるにあたってたまに行うとしても、そうそうそんな思い切った事をする人はいない。 この名探偵は少しずれたところがあるので、脱出方法としてこれを考える事もあるだろう。そして、実際実行する事も考えられる。 快斗はその無謀な事にめまいがする。何てことだと言う感じ。 「…ったく、あの野郎。」 しかも、今は猫をかぶっていないのでかなり地というものが出ている。 まわりにいた彼等全員、どうするべきか少し悩む。 地で接する事はもちろんある。だが、その無防備な姿はやめてほしい。 そして、出来れば気付いてほしい。自分達の存在に。 その思いが通じたのか、彼はまわりにいた人の気配に顔を上げて首をかしげる。 「…あれ?」 今更気付いたのか、彼はまわりにいた数人の人を視界におさめる。 そして、疑問に思ったことをぽろりと言う。 「お前等、こんな所で何してんだ?」 だが、その問いに答えるものはいない。何より、貴方こそここでなにをしているのですかと彼等は問いたいだろう。 確かに、数名を除いてほとんどがここに彼が来ていることは予想済みである。 だが、まさかすでに中にいて二階の窓から突き破って出てくるなんて思ってもみなかったのである。 1時になっても現れないので、ほぼ今回は会えないだろうなと思っていた矢先、現れた彼。しっかりと1時に。 「げっ、門がしまってやがる。」 今は相手にしてられないと、出口である門を見ればしっかりと閉まっている。 「くっそー!あの野郎。第一あいつのせいだな。帰ったら文句を言ってやる!」 なにやらご立腹の彼。 何に対して怒っているのか、いまいちよくわからない。 だが、彼を不機嫌にする要素が何かあったのだろう。だが、理由はいきなりではわからない。 「で、本当に何でこんなメンバーが集まってるんだ?」 再度集まった面々に問いかける。もちろん、新一は集まった者達の正体を知っているからこその問いかけである。 すると、快斗を含め妖しい人達が口をそろえて言う。 「名探偵こそ、どうして窓から?」 その言葉と同時に、えっと互いを見る相手達。まぁ、彼等はほとんど面識がないのでしょうがないだろう。 「あ、お前までいたのか。いったい、あいつ何考えてるんだろうなぁ。」 途中から屋敷の方を見ながら文句をぶつぶつ言い出す探偵の気を再び自分へと戻し、何があったのか問いだす。 「いったい、昨晩から何があったの。」 「あー、えっと話せば長いんだが。」 どこから話すべきかと少し悩みだす彼に長い話は聞いていられないと、 「簡単にまとめなさい。」 と言えば、答えが返ってきた。 「あいつがいきなりやって来てここに連れてきた。」 確かに簡単だが、それはそれで身の危険と言うものを感じるべきだと、思う。 何せ、自分が話している最中、まわりにいる連中が少し殺気立ちながら見ているのだから。 いや、正確には殺気というよりも嫉妬のような強い思念だ。 「簡単にありがとう。でも、それは不法侵入の挙句、誘拐よ。わかってるの?」 「だからといっても、あいつは人の話を聞かねーからな。」 そこでふと思う。新一がいうあいつとはいったい誰の事か。 「ねぇ、『あいつ』って誰の事かしら?」 「え?あいつはあいつだよ。」 言えないのかしらと言えば、すぐにわかると答えて、それ以上は答えようとしない。 一度言い出したら聞かない彼なので、諦めてため息一つ。 「あ、忘れていたわ。」 「どうした?」 「私、今は志保美と名乗っているから。間違わないでね?」 「…ああ。」 そういえば、変装している事を思い出した。だが、新一にとってはそれは無意味な物。 でも、どうしてなんだろうと気になっていた事は事実なので、先に答えを聞けて満足だ。 きっと、他の連中もそうだろうから。 そして、ふとさらに浮かぶ疑問。 「でもさ、このメンバーだろ?」 「何?問題あるのかしら?確かに胡散臭い連中の集まりだとは思うけど?」 志保が言いたい事はわかっている。だからこそ、あいつの名前を出さなかったのだから。 「いやさ。服部と白馬とえっと…。」 とまった目線の先にいる美女。彼女は小泉よと名乗ると、新一は小泉さんと言って、その三人がいるのが可笑しいと言う。 「あら、そう?別に可笑しくはないと思うわよ。ここに集まるのは、貴方の知り合いばかりでしょ?毛利さんと鈴木さんも呼ばれていたみたいだし。」 知り合いという接点で確かに妖しいのが混じっているが、問題はないだろうと言うが、違うと言う。 「今回、この屋敷の舞台にあがるのは俺が知っている中でも限られた奴だったんだ。」 「そうね。貴方は知り合いが多いものね。」 「だから、違うって…。」 「何が違うといいたいのかしら?」 そんな二人の会話を黙ってみている人達。動く気配はない。 だが、動く奴もいる。 「何やな工藤。つれないやっちゃなぁ。工藤の知り合いゆーたらわいやろ、わい。わい以外で誰やゆうねん。何でわいがいるのが可笑しいねんな。あそこにいる三人こそ、可笑しいんちゃうか?」 近づいてくる服部に睨みつける志保。どうやら志保の変装に気付いていないらしい。まぁ、気付くのはその三人意外だろうけどと思う。 本来持つものが違うから余計にだろう。 「まぁ、来ちまったもんはしょーがねーだろうけどな。」 少し困った新一はふと紅子の方を見た。そこでふと気付いた。 「なるほど。小泉さんはあいつの予言師か。へぇー。」 その言葉に、あいつって今回の招待した相手かしらと問えば違うという。名前は出せないが、招待した相手ではないと否定する。 「ま、まずはお互いに自己紹介が必要かもな。そうでしょう?」 意味ありげに全員へと問いかける新一。理解できるのは探偵二人を除いた者達。 そう、快斗同様に闇を生きる住人達だけ。 「じゃ、わいが先にするで?わいは服部平次や。工藤と同じ探偵仲間で有名なんやで。」 と言えば、反応を見せるのは服部を知る同じ探偵の彼。 「僕も彼や工藤君と同じ探偵の白馬探と言います。」 そこで服部も気付いたようだ。お互い、持つ親は警察関係者。互いに名前ぐらいは知っている。 だが、ここにいる連中は顔を見ただけで相手の事はすでにわかっていた。 だが、そんな事をわざわざ言う奴はいない。 なんだか気があうのか、それとも気がわないのか、お互い握手してなにやらいっている二人は放っておいて続ける自己紹介。 「私は小泉紅子よ。」 それに続くのはもちろん快斗。お得意のマジックを忘れない。 「俺は黒羽快斗。マジシャン志望の高校生です」 出した薔薇を新一へと差し出す。そして、にやりと後ろにいる妖しい人達にその笑みを見せる。 そう、彼は気付いていた。新一が登場したときに変わった気配。そして、見る目。 自分と同じ、あるいは似ているその目。 大切な相手を見る優しさを含んだ目。 絶対に渡さないもんねと、目だけで宣戦布告。 その後も、とまることなく続く自己紹介。 「私は富田雅秀です。」 「俺は烏丸和也だ。」 「俺は蘇芳麻都という者だ。」 「私は天野竜といいます。」 妖しい三人はそれぞれ名乗り、快斗はしっかりとチェックを入れる。 最後に志保が名乗り、新一も名乗る。 「さて、俺としては不本意だが、始まったゲームは最後まで行われるだろう。ゲームは招待状を出した相手を捕まえる。もしくは、どこかにあるコントロールルームでロックを解除してあの門から外へ出るかだ。」 もちろん、あの門を飛び越えようなんて事は電流が流してあるので無理だと言っておく事は忘れない。 何せ、ここに集まった連中ときたら、壁越えぐらい簡単にこなしてしまうからである。電流も簡単に排除できそうだが、この場所と所有者が悪い。 「さてと。必要な人間はそろってるみたいだし、始めますか。」 こうなれば最後まで付き合うしかないと諦めたらしい新一の発言。 「白馬と服部はどうする?」 「どうするってどういうことでしょうか?」 「そうや。どういうことやねん。」 その発言から、きっと気付いていないのだろうということはよくわかる。何より、自分の周りに立っている者達が興味の対象外からはずしているだけではなく、面倒で厄介な相手としてそうそうに始末しておくべきかと考えているのが簡単に想像できる。 「だから、ここで待っているか中を探すか。」 「そりゃぁ、探すに決まってるやろ。もちろん、工藤と一緒や。」 「何を言っているのですか。僕も中へ行きます。小泉さん達の事も心配ですしね。」 この二人以外は確実に思っていることだろう。この二人以外は問題はないと。多少いろいろあったとしても、この二人が一番危険だという事がわかりきっていた。 「そうか。なら全員別々に招待主かロック解除を目指す。」 「「え?」」 はもる二人の事は無視して、入り口の扉へと歩いて行ってしまう新一。 それにぞろぞろとついていく集団。 「宮野は俺と一緒な。えっと、小泉さんは黒羽と。」 快斗はえーっと言うが、新一は相手をすることなくすたすたと先へと進む。 しょうがないなと諦めて、隣にいる紅子を見る。はぁ〜っと、気の抜けるようなため息。 他の奴等は全員ばらけて入り口から他へと続く扉の一つを開けて奥へと進んでいった。 まったくもって意味が理解できない彼等はのちのち気付いて腰を抜かす事となる。 それはまだ先の話なのだが…。 やっと役者が屋敷の中へ入った事を入り口に設置された監視カメラで確認した招待主。 「さて、お手並み拝見と行こうか。同士達よ。」 その言葉に新一を含んでいない事は明確。新一は別なのだから。
しばらく傍観者でいるのも悪くない。 何かあれば、彼だけをここへ連れてこれば良いだけのこと。
ここは、持ち主がある対策用にと強力に仕上げたセキュリティと、自分が手を加えたものがあるからくり屋敷である。 そう簡単には目的地へ行くどころか、再び庭に出る事さえ出来ないだろう。
さぁ、ゲームは始まった。 あとは結末へ向かうだけ。 男は所々に仕掛けておいたカメラで様子を見ながら、ワインを楽しんだ。 |