『 さぁ、ゲームを始めましょう。 』
男はそう言って、目の前から姿を消した。 文句を言うまでもなくつれてこられ、その一言でこの大きな屋敷の中に取り残される。 「…な。」 小さくて聞こえないその声を、再び呟く被害を被った青年。 「…ふざけるなっ!」 今度は屋敷じゅうに響くその声。 辺りが清むような綺麗な声をしているというのに、そのあまりの怒りの発言の為、屋敷の外にいた鳥達が羽休めをしていた木々から飛び出す。 「なんなんだよ、あいつは!」 青年は先ほど気配もすっかり消してしまった仕掛け人に問いかける。 答えはないに決まっているが、問いかける。 今すぐやめるのではないかと期待して。 だが、一時間経ったとしても、何も起こる事はなく、彼は屋敷の一室に閉じ込められたままだった。 それも、窓のない部屋。 「…何考えてるんだよ。」 だんだん呆れかえりながらも、冷静さを取り戻した彼は、もう真っ直ぐその瞳に曇りもなく、鋭く部屋を観察し、部屋からの、屋敷からの脱出方法を考えていた。
序章 不思議な招待状
遅刻だとわかりきっているので、のんびりと家から出てきた青年が一人。 慌てたり急ぐ事なく、郵便ポストを覗く。 そして、見つけたのは数枚の葉書と広告、そして、宛名のみが書かれた白い封筒。 青年は少し不振に思いつつも、危険物ではないかを確認し、すぐにその封筒の端を破って中身を見た。 それは招待状だった。 それも、『怪盗KID』宛のもの。だからこそ、青年は不振に思ったのだ。 そう、彼の名前は黒羽快斗。父親がしていた怪盗KIDを継ぎ、二代目となった彼。 「…へぇ、招待を受けたのなら、行かないとね…。」 正体を知られている以上、来る気がなくても無理にでもこの場所へ連れて行かれることは容易に考えられる。 「ま、楽しそうだしね。」 快斗は封筒をぽんっとその場から消し、当初の目的通り、学校へと向かった。 学校について授業の途中から入り、いつものようにのんびりとする。 教師は泣く泣く無視をして、授業チャイムが早くなることを願った。 チャイムが鳴り、次の授業は面倒なのでサボろうかと考えていた時、そこで彼は聞かれる事となる。これは、君が出したものではないのかと。 そう、快斗をしつこく間違ってはいないが怪盗KIDだと言い続ける探偵が、こんな事をするのは君しかいないと言いに来たのだ。。 「今朝、これが届いていました。これは、貴方が出したものではないのですか?」 そう、怪盗KIDはよく、白い封筒でしかも暗号で今時予告状を警視庁に送りつけるという変わった奴なのである。 だからこそ、彼も少し差出人の名前に引っ掛かりがおぼえつつも聞いてきたのだ。 だが、快斗は違うと答え、探偵、白馬探が知りたかった答えを与えた。 もちろん、怪盗と描かれた宛名を事前に別の紙を張り合わせてカモフラージュしたものを見せた。 そこには、白馬と同じ内容が書かれていた。 そして、何故か一番厄介な相手、自称魔女と名乗る怪しげなクラスメイト、小泉紅子も同じ封筒を持っていたのだった。 「…いったい、なんなのでしょうね。」 まったく、何を考えているのかわからない。紅子も、黒い靄が掛かっていてはっきりとした何かが見えなかったのだと言う。 いつも嫌味ったらしい予言をする紅子には珍しい事だと思える。 「それで、貴方達二人はどうするつもり?ご丁寧にこの招待を受けるのかしら?」 紅子の問いに、二人はもちろんと答える。 「何の目的なのか、知りたいですしね。」 「せっかく招待されてるから行くよ。」 そんな二人の答えに、私も行くわと答える。 快斗は嫌な顔をしたが、はっきりとしたこの人物の目的がわからない以上、いいかもしれないと思う。 きっと、組織に関係したことではないと、思うからだ。 もし組織なら、厄介な探偵、それも警視総監の息子なんかを招待しないし、何より紅子との接点はないはずである。 「じゃ、招待通り、明日からのちょうどよい時期にある連休を使って行きますか。」 どれだけ時間がかかるかわからない。連休を明けてしまうかもしれない。 でも、逃げ出すのは嫌な三人は立ち向かう事にしたのだった。 そして何より快斗には別の目的もあった。 どんな招待にせよ、もしかしたらあいつも招待されている可能性があったからだ。 そう、出会った日に一目ぼれしてしまった白馬とは別の有名な高校生探偵。怪盗KIDが唯一認めた名探偵。工藤新一なら、この相手が招待していると思えたからだった。 そんな感じで、一日はすぎ、三人は目的地まで向かう。
『 宮野志保様 』
と、書かれた封筒を見て、何気なしに直感するのは、昨夜から姿を見せない困った探偵の事。 間違いなく、彼が関わっている事だと思う。 「…まったく、事件に好かれる体質もいいかげんにしてほしいわね。」 まだ、組織を壊滅に追い込んだとしても、他にどんなものが待っているかわからない。 それも、中身が嫌なものである。どこかのこそ泥の招待状みたいである。 『貴方を私の用意したゲームの参加者として招待します。 そう書かれたもの。誰に対してもかけるそれはきっと他のものと同じ文面だろう。 そして、不都合があれば変装可能ということは、厄介な連中が来る事もあるという事だろう。 「…多少、身構える必要がありそうね。」 何より、これはあの人に関わっている事だもの。何もなかったとしても、最低限の治療道具は必要よね。 それに、会いたくない人が来るかもしれないもの。彼と関わる人を招待するのなら。 ほら、あの人が来た。 志保はどうしたのと、外へ出て不在の主を待つ女をいらっしゃいと勧める。 そう、彼女にも届いていたのだ。この妖しげな招待状が。 「あの、新一は…?」 「今はいないわ。きっと、貴方の持つその招待状のせいかもしれないわね。」 中を見てもよいかしらと確認を取って見る。やはり、文面は同じ。 「それ、どうしようか悩んじゃって。お父さんのと私のとで二通。お父さんはうさんくさいから行かないって言うけど、どうしようかなって。あ、園子のところにも来ていたみたいだけど。面白そうだからって、行くつもりだったらしいんだけど明日は都合がつかないって言うから。やっぱり、一人だと嫌だなって、私はどうしようかと思って。」 「それで、彼はどうするか聞きに来た。ということでいいのかしら?」 「そうなの。」 彼女にとっては、やめておくというのが答えだと志保は思う。危険は少ないとしても、何かと厄介な事が起こりそうだからだ。 「やめておくのが一番よ。もし何かがあったとき、貴方のお父さんや彼が怒るでしょう?」 「そう…ね。じゃぁ、私はやめておくわ。ごめんね、時間とらせちゃって。」 そういって、彼女は帰っていった。怖がりな彼女は出来れば御免なのだが、彼の事が心配だから、無理にでも行くかもしれない。 つい先日、二人はお互いの気持ちを言い合い、恋人同士にはならず、幼馴染のままになったと彼から聞いていたが・・・。 「…私は、行くけどね。」 もう、彼女には聞こえない志保のつぶやき。 明日、誰が集まるか。簡単に想像できるのは西の彼だ。だが、他にも呼ばれている気がするのは何故だろうか。 行ってみればわかることよね。 さて、どんな格好で行こうかしらと地下へと足を勧める志保。その様子を心配そうに見つめる博士。
そして迎える明日。 志保は西の彼が来た場合、わからないように簡単な変装をした。 これで、わかるかしらねと、半分相手を試すような勢い。 もちろん、持っていく鞄にはいろいろ必要な物をつめてきた。もしもの為の様々な代物も。 そして向かう。招待された先、現在は工藤優作が所有している別荘として持っている屋敷へと。 そう、目的地の屋敷は優作氏が所有している編集者から身を隠す為の別荘の一つであったのだ。 |