ある日の死神世界での状況 「最近、バードの奴みねぇけど、どうしたか知らねーか?」 最近見かけない悪友とも言うぐらい妙な縁でよくつるむ事が多い友人の姿が見えないことで、珍しく足を運んできた。 まぁ、メールでのやりとりはあったので、あまり違和感はなかったのだが、姿を見たのがいったいどれくらい前だったかというぐらい見ていない。 といっても、彼等の間隔では5日以上姿をお互い見ない日はないために気づくのが結構早かったりする。 なので、近くにいた適当な使用人に聞く。 一応、バードは現在死神世界を仕切る帝王の息子であり、二番目に偉いのだ。 だが、そんな彼にこんな口を聞けるのも、一緒につるむのも彼ぐらいで、使用人達もいい友人をもたれたと、あまり気にしていなかった。(本当にいい友人なのかは謎だが・・・) 「バード様でしたら、現在人間世界におりますよ。」 「人間世界?あのじいちゃん今こっちに来てるんだろ?」 茶のみ友達として聞いているじいさんは、先日こちらに来たと言う情報を得ている。 なら、新しく彼が興味を引くものがあったのだろうか。 「ロンドさんなら、知っているでしょう。一度死人名簿に名の上がった、彼・・・工藤新一様のことです。」 死神世界でも有名なのが、探偵の工藤新一。それに、死神世界で悠々と過ごす初代怪盗キッドの関係で二代目キッドの二つの存在が探偵の側にあること。 ロンドは聴いていて、何それと叫んで、すぐさま家に帰るのだった。 「彼が死人名簿から消えて、生き返ったのは知っていたけど・・・。」 まさかバードだったなんて。 いろんな意味で悔しいと、絶対に仕返ししてやると、なんだか子供じみたことで、何かをやりはじめたロンド。 というより、抜け駆けは許さないというところだったりする。 何気に哀れな、恋する青少年ロンド。 類は友を呼ぶと言うが、まさにその通りかもしれない。 指名手配犯にご注意 ガシャン・・・ 今日も豪快な食器の割れる音がする。 「お前等、いい加減にしろよ!」 何枚皿割ったら気が済むんだよ。と怒っても、これといって効果はなし。 「だって、あの真っ黒男が!」 「そんなことを言っても、この真っ白が・・・。」 「どっちもどっちだ。」 まさにその通りで、どっちもどっちだ。低レベル過ぎる争いに、お隣さんも呆れ果てる。 最近は慣れてきたが、迷惑なことこの上ない。 真っ白だの、真っ黒だの。見たとおりなのだから別にいいじゃないか。 そもそも、ある意味今はどちらも真っ黒なので、真っ白は間違いだぞと違ったつっこみを過去に入れた新一は、これと同類は嫌だと盛大に文句を言われ、否定された。 なら、今のままでいいじゃないかと思うが、それも駄目らしい。 なので、わけのわからん二人には関わらず、放置することに決めた。 だが、ここまで何度も何度も、その度にバードがどうやってか元に戻しているが、皿や物を壊されてはたまらない。 「出てけー!!」 一度頭冷やしてきやがれと、新一は二人をリビングのまどから蹴り飛ばして外に追いやり、鍵をしっかりしめて、カーテンをしめた。 開けてーという快斗の声が聞こえたし、自分の名を呼ぶバードの声もあった。 だが、全部無視。無視だと、本を手にとって、ソファに座った。 しばらくして静かにもなったし、自分も本に集中できたころだった。 ふと、隣にいつもある温もりがないことに寂しさを覚える。 追い出したのが自分だとは言え、やっぱり、いないとそれはそれで寂しかったりする新一。 静かになった窓へと近寄り、そおっとカーテンを開けて覗く。 そこには、あの二人の姿がなかった。 ふうっとため息をついて、カーテンを閉めて、ボスッとソファに座る。 そして、ポテッと横に倒れて転がってみる。だけど、望むぬくもりはない。 「快斗・・・。どこいったんだろ。」 いつもなら、追い出しても、決してどこかに行ってしまうことなんてなかったのに。 だから、余計に不安になる。かつて、自分が体験したことの逆だってありえることに。 自分よりも、今はきっと彼の方が危険が大きい。 考え出すと、不安の要素は大きくなり、いてもたってもいられなくなる。 「探さなきゃ。」 バードが一緒だから大丈夫だろうが、自分の目で確かめないと安心できない。 だから新一は、家に鍵を閉めて外へ出たのだった。 「あーもう。何処だよ。」 暑くないかと思う程、見事な真っ黒の装束を着た男が空の真ん中で喚いていた。 ちなみに、誰にも目撃されないので、不審者としては見られないけれど。 たまに、ちらりと透明な方々が見ていった気がするが、置いておこう。 「ん?」 暴れてもどうしようもないとわかっている彼は、しばらくしてから落ち着いて、目的の人物の気配を辿る。 そこで、いきあたった不愉快なもの。 「掃除中か。」 悪友はどうやら真っ白の怪盗君と一緒に邪魔者の掃除をしているようだ。 これは是非混ざらなければと、彼、ロンドはひゅーっと空を飛んで移動するのだった。 障害物は空を飛ぶ鳥ぐらいだったが、今日は一匹も見当たらないぐらいすがすがしい空。 理由はロンドにはわかっている。バードが現在している掃除が関わっているから。 「人間よりも、動物の方が危険を察知する力はすごいよね・・・。」 だが、動物は人によって捕らえられ殺されてしまう。 それが現在の自然の理のようになっているが、それがあたり前だと思ってはいけない。 「それにしても、どこのどいつだ?」 あの死神帝王に刃向かった愚か者は。 ロンドだって、普段は悪友としてつるんでいるけれど、彼の本来の力は知っているから、怒らせてもそれは冗談の範囲までだ。 それ以上だと、自分ですら命は無いという事ぐらい自覚している。 だから、現在の状況も気になるが、ちょっかいをかけてきた不届き者にも興味がわいた。 最近、出回っていた情報で、人間界に無断で新入した『指名手配』されていた者達がいたから。 「なんだよ、これ。」 「見ての通りだ。」 その頃、問題の二人はというと、見事に得体の知れない気味の悪いものと対峙していた。 そもそも、事の始まりは数十分前の事。 新一に追い出されて相変わらず二人は騒いでいた。 だが、突然バードの動きが止まり、例のパソコンを取り出したのだった。 そして、突然見せた驚きの顔。 「少し、来い。」 腕を攫んで連れて行かれた。 いったい何事かと思えば、移動の間に教えてもらった。 なんでも、こちらへ指名手配されている物騒な連中が来ているらしい。 その連絡は前にもらっていたらしいが、今その者達がいるという反応を見せたために、始末をつけに行くのだという。 なら、巻き込まないでほしいと思ってしまうが、すでに来てしまって、目の前にいるという状況だ。 「何、あれ。」 「指名手配犯。こっちと似たようなものだ。」 死神世界で、人間界よりもたちの悪い力を持った奴だけどなと言ってくれる。 「俺を巻き込むなー!」 と今更叫んでも遅い。相手はこちらの事情などおかまいなしにやってくるのだから。 なので、つい向かってきたものに反撃なんてものをしてみたりした。 ドシャ――― 「へ?」 意外なことに、それは見事にそれにあたり、足元に落ちて潰れた。 「・・・何?」 まったく意味がわからない。なんなんだ、いったい。 そんな感じでクエスチョンマークが飛び交う。 「お前でも倒せるのはあたり前だ。それは、『あいつ』がこちらに来て取り込んだもので『造られた』意識のない『人形』なんだからな。」 片付けなければ、放置しておけばなんだか知らない指名手配犯同様に、人に危害が加えられる為、その掃除を手伝えということらしい。 なら、前もって説明をしてほしいと思っても、そもそも人外であるあの男には通じないだろう。 しょうがなく、快斗は『掃除』の手伝いをするのだった。 その時、突然第三者の声が聞こえてきたのだった。 「よ、バード。珍しく働いてるじゃねーか。」 にやにやと、バードと同類だと思う真っ黒の装束を身に纏った者が空に浮いていた。 「何?」 もう、誰という扱いではなく何である。 「ロンド」 どうやら、バードの知り合いのようだ。 何がどうなっているのかと思っていたら、ロンドと呼ばれた男が、二人と同じ場所へ降り立ったかと思えば、かなり微妙で大きな刃を持ち出し、一挙に掃除をしたのだった。 「ひっさしぶりだな、バード。」 「何しに来たんだ、ロンド。」 「そりゃ、お前がいないし、暇だし、何よりあの探偵君のところにいるって聞いたから。」 ずばり答えるロンドに殴りかかるバード。だが、それを華麗に避ける。 「でも、お前がいるからと思ったけど、一緒にいるのはあのマジシャンの息子か。」 残念という男。 「とにかくだ!俺はロンド。はじめましてな、黒羽快斗。」 そいつは、勝手に名乗って、フルネームで自分を呼んだのだった。 とりあえず、ひと段落ついたので、帰ろうとした時だった。 いくら見えないといっても、こんなのが二人もいて、自分一人がかなり馬鹿みたいに見えるからだ。 「・・・っ!」 「親玉のおでましか。」 二人の様子が変わり、快斗もさすがに気づいた。 そして、聞こえる声。 「快斗―?」 それは、愛しい人のもの。 「新一っ!」 つい名前を呼べば、先の通りの角から、ひょっこり現れる。 「あ、いた。」 どうやら、いなくなった自分達を探しに来てくれたようだ。 だが、今という状況がよくなかった。 「って、何か増えてる。」 と、素直な感想をくれる新一の背後から、口を開くように大きく一気に姿を見せたそれ。 「しっ、・・・逃げてっ!」 距離が離れすぎていて、手を伸ばしても、走っても届かない。 そして、三人の目の前で、新一は黒い闇に飲み込まれていったのだった。
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