たとえ恨まれても、存在を疎まれても 別に構いはしなかった 警察と同じで、探偵なんて存在は、真実を全て明かす邪魔な存在でしかなかったから だけど、あいつと出会って、死ぬのを恐れた あの時だって、恐れた あいつが、落ちるところまで落ちて、こちらにやって来たとしても、もうわかってもらえないぐらい、壊れてしまいそうで だから今、生きていて良かったと本当に思う 死神なんておかしなものが居ついたけれど、それはそれで感謝している 今ここに再び戻れたのは、彼のおかげだから そして、何度も自分を呼び戻す、あいつがいたから 第九話 指名手配犯の始末方法 新一が闇に飲み込まれ、完全に気配が消えた事で、呆然としていた三人。内二人は人として考えて良いのかは謎だが。 「くそっ。あの野郎。」 また、失ってしまうのではないかという恐れが付きまとう。 もう、二度と離さないと決めたのに。こんなにも簡単に、あんなものによって連れて行かれた。 「おい、てめぇ。ややこしい時に出てくるからだろ!」 快斗は怒りをロンドへと向け、怒鳴る。目の前で連れ攫われては、さすがに快斗も冷静にはなれない。 「それは確かに悪かった。俺も、場をややこしくしたんだからな。」 そして、快斗が攫みかかろうとする手を攫み、押さえる。 それは、快斗なんかでは適わないほど強い力を見せ付ける。 「とりあえず、落ち着け。さすがに俺も、『二人の暴走』は止められない。」 「何が・・・。」 暴走って俺は怒ってるだけだと言うが、それが暴走と言うんだとロンドに言い返され、それが冷静な判断を下せなくなるものだと言われた。 新一がよく、怒りで支配されれば周りが見えなくなるぞという言葉を言うので、思い出して大人しくなる。 最終的に行き着く先は新一だ。快斗にとって、新一は絶対的な存在。 そんなことを言ったら怒るけれど、彼がいないと駄目になることぐらいわかっている。 「新一。」 どうして、あの時すぐに行けなかったのだろう。 怒りよりも情けなさでいっぱいになる快斗の前に立つロンドが、神経を辺り一面に張り巡らせているのに気づき、そして、先ほどは感じなかった殺気に気づいた。 「人は怒りで我を忘れる者が多い。・・・だが、死神とて同じだ。」 そう言うロンドの顔は人のものではなかった。快斗ですら震えを感じるほどのもの。 まさに、死神という破滅的な存在のものだと思えるだった。 「俺も怒ってるのは確かだ。それに、あいつは怒らせてはいけないものまで、怒らせた。」 何がと思うと同時に、それが何なのかに気づいた。 ロンド以上に、ひどく静かで、だけど濃い負の感情が取り巻いているものがいる。 「・・・バード?」 冷えかえるような殺気。ゾクリと背筋に寒気が走る。 名前を呼んだことで振り返ったバードの目は、快斗の知らないものだった。 「・・・お前は帰れ。」 声も、いつものふざけた彼のものとは違う。 そう、いつもの快斗がしるバードの姿ではなく、その欠片さえない。 きっと、これが彼の本来のものなのだろう。 「死神界第二の権力者だ。力も、俺なんかと比べ物にならない。」 だから、止められるものなどいないとロンドは言う。 「・・・今回、人とは違う者が関わるんだ。怪盗君は大人しく家に帰っててくれ。」 さもなくば、バードに巻き込まれて命を落とすと言われる。 そうすれば、悲しむものがいるだろうと言われて、浮かぶのは新一の顔。 そして、そう言うロンドもバードと同じで、先ほどとは比べ物にならないものへとかわっている。。 きっと、これが本来の彼等死神の姿なのだろう。 いつもなら、簡単に倒せると思うのに、今の彼等には関わりたくないと思ってしまうぐらい、それは残酷な審判者の目をしていた。 本当は自分が真っ先に行きたかったが、快斗はその場は大人しく家に帰ることにした。 必ず新一を連れて帰ってきてくれると信じて。バードに任せた。 本当に新一を大切に彼が思っているのなら、あの時と同じように自分の元へ連れてきてくれると。 「隣の嬢ちゃんによろしくな。・・・怪我人が出ないとは限らないからな。」 それを聞いて、何かのためにと急ぐ快斗。 その背を見送り、ロンドは再び静かなバードの方へ視線を向ける。 「・・・もう少し、怒りを抑えろ。この場所がお前の負の・・・死の気で『狂いはじめる』だろう。」 「・・・それぐらい、わかっている。・・・だが・・・。」 「わーってるよ。珍しく熱心だもんな。あの怪盗君同様に、何事にも興味を持たなかったお前にしてはな。」 まったく、似ているよ。ここへ来てから見たものがあるから。 だから、あれだけ喧嘩をしても、信頼して任せたんだろうな。 本当なら、彼が真っ先に行くだろうに。 かつて、黒き闇に打ち落とされた鳥と同じように。 ひた・・・ひた・・・ひた・・・ 鈍く小さな音が規則正しく響く。 「・・・う・・・ん・・・・・・ここ・・・。」 意識を失っていた新一。意識が戻って目を開き、首を動かす。 どうやら、自分は動いている。 そして、何か人の形をしたものによって肩に担ぐようにして運ばれているということに気づいた。 なんとかこの得体のしれないものから離れようと身体を起こそうとするが、どうしてか腕に力が入らない。 気づけば、身体全体が動かそうとしても、意思に反するように動かない。 「・・・どうして・・・?」 自由にならない己の身体。その間にも、これは自分を何処かへ運ぼうとしている。 逃げなければいけない。そう、本能でわかっているのに動いてくれない。指一本ですら動かない。 首も、だんだんと動かなくなっていく。重りや何かで固定されたように動かない。そしてだるくなっていく。 どうしてなのか、新一はまったくわからない。けれど、何かがあるのだと。そして、少しだけ似ているものを思い出す。 「・・・バ・・・・・・ど。」 死神がたまに漂わせるそれと似ている。 そう、そこは死の気配が漂う場所。だから、新一の考えはあながち間違いではない。 だが、それ以上は考えられなくなっていく。 生身の人間が元気に動き回れるはずの無い場所だ。だから生気を吸い取られて動く力を根こそぎ奪われているのだ。 いくら強い力と生命力を持っていても、少しいるだけでこうなってしまう。 何より、今新一を運んでいるこの死人のようなものもまた、生気を奪っていく原因のものでもある。 たいていのものは数分で命を失う。だが、今も保っていられるのは、それだけ多く持っているという証拠。 遠くなっていく意識の中、どすっと突然それから降ろされ、荷物のようにその台のような上に置かれた。 そして、逃げられないように、手足を縄でしっかりと固定させていく。 それをただ、新一は辛うじて動く首でぼんやりと見ていることしかできなかった。 それだけ、力が抜けて動けなくなっていて、思考も奪われていっていたからだった。 「これは、かなり極上の獲物だな。」 「そうだろう?あの探偵だからな。」 「こうも上手く手に入れられるとは・・・。」 くすくすと三つの耳障りな声が笑っている。 その声の主は新一を捕らえた台を囲うように立っている。 そして一つが、新一の顎に手をかけ、抵抗せずぼんやりとしている新一の顔を自分の方へ向け、観察する。 「整った顔。うらやましいものだ。」 そう言う相手の顔は、深く被ったフードで一切見えない。今の新一なら、見えないだろうけれど。 「こいつを喰らえば、しばらくは安泰だ。」 「さぁ、はじめよう。晩餐を。我等のための生贄の儀式を。」 目をあけているのもやっとな状態の新一の周りで言葉を続けはじめる者達。 ゆっくりと動きを入れながら、まるで呪文のようなそれがその場所に響く。 他が静まった際に、一人が何かをつぶやき、持っていた刃を高く振り上げた。 それは鈍い光を反射して、新一へと向けられる。 振り下ろし、刃は真っ直ぐ新一の心臓を貫こうとした時だった。 シュッ――――― 小さく鋭い何かが刃にあたり、相手の手から弾き飛ばした。 「誰だっ?!」 「誰?先に名乗るのが礼儀だぜ?」 背後に立っていたロンドが手に先が尖った指の長さ位の細い棒を数本持っている。 弾き飛ばされた刃とそれと同じものが落ちているので、邪魔をしたのがロンドだとわかった彼等は怒りを露にする。 しかし、すぐに彼等の動きは止まった。 ロンドに意識を向けていてまったく気づかなかった。 いや、ロンドに意識を向けていなくても気づかなかっただろう。 背後に立つ冷たい殺気。自分達を狩ると言わんばかりに目の前にそえられた大きな黒い鎌。 「お前等、覚悟はいいか?」 指名手配犯だとしても、俺は気まぐれだから、彼にさえ手を出さなかったここまでしなかったんだがなと言う声。 それは怒りを含んだもので、彼等もその気配に覚えがあったからこそ焦った。 死神界を仕切るトップ。あの男と同じもの。 だが、声が違う。それで導き出される答え。 「もう、お前等と会うことはないだろうがな。・・・お前等は捕らえて罰を受ける必要すらないからな。」 もしかして、掃除してるのが俺だって気づかなかったのかなと言うバード。 そりゃ、まさかこちら側に彼がいるとは誰も思わないだろう。 普段でもふらふらとそのへんうろついているような奴だ。関わることなどないと彼等は思っていた。 それがどうだ。このような感情を向けられて、宣告されている。 「お前等に選択の余地はない。」 「そうそう。あるのは消滅のみ。」 綺麗に消えて、更生してこいと言って、バードはその鎌で彼等を狩る。 消せば、生まれ変わることも戻ってくることも無理である。 彼等は最後まで抵抗をし、叫びとともに消え去った。 「愚か者めが・・・。」 血塗れた鎌をその場から消し、動かない新一の側による。 縄を解き、新一の身体を抱き上げる。 ぐったりとしていて、危うい状況。 これ以上死の気配に包まれたこの場所の空気にさらさないように黒いマントで包み、すぐにその場から立ち去った。 「工藤君っ!」 「生きてはいる。」 「ちょっと、どうしてこんな・・・。」 とにかく、急がないと体調が悪化したら困るわと新一を運ばせて診察をはじめ、治療を施して行く。 「新一。大丈夫なんだろうな。」 「まだ、寿命があるからな。・・・それを違える奴がいるのなら、俺が変えてやるから安心して側にいてろ。」 「・・・。」 何も言わずに快斗は治療が終わったと出てきた哀の横を通り、新一のもとへ行く。 「なんだか、これから先もいろいろ厄介なことになりそうだな。」 「面白がる問題じゃないぞ。」 「それはわかってるさ。」 そんな二人の姿を見て、哀が言う。 「貴方、仲間増やしたの?」 「違うよ。これは友人。それなりに役にはたつだろうから、見かけたら扱き使っても構わない。」 「おい、待て。それじゃぁ、俺は新薬実験のモルモットにされるじゃないか。もっと友人を労われ。」 「あら。なってくれるの?」 「ご遠慮させて下さい。」 「遠慮することないのに。」 「こいつなら構わないぞ。死なないし丈夫だからな。」 「おい。」 そんな感じで、一応ロンドの紹介を済ませた。 ロンドは日を改めると行ってその日は帰り、バードもどこかへ飛んで行った。 心配なのだろうが、新一が側にいて安心できるのは快斗だけだ。 哀もわかっているから行かないし、快斗の邪魔をしようとはしない。 普段なら思い切り邪魔をしてやるところだが、今回はそんなことをして無駄な争いをしたくないのでやめておく。 それに、新一自身が嫌がるだろうから、上に戻る。 二人はお互いにお互いを求め、お互いの心が、声が二人をこの世へ引き戻し、繋ぐのだ。 だから、快斗が側にいたらあとは大丈夫だろう。 そして次の日には目を覚ました新一。哀の予想通りで、新一は快斗の声が届いていた。 快斗が泣いているのを見て、二度目だとつぶやいたのは誰も知らないけれど。 「良かったよ、新一。」 「快斗。俺も快斗のところに帰れて良かった。」 何があったのか、ほとんど覚えていない。けれど別に構わない。 きっとバードあたりが知っているだろうし、今はそんなことよりも快斗の方が大事だ。 ここ最近は心配をかけさせてばっかり。 「ごめん。」 「新一が謝ることなんてないよ。俺がもっと注意しておけば・・・。」 「お前こそ、謝ることじゃない。」 「もう、いいでしょ。そんなこと。」 そんなことよりも、今こうして抱きしめたら返してくれる手があり、ぬくもりがある。 今はそれだけで充分。
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