死んだと思っていた彼が生き返ったことは嬉しい事。

何より、あの怪盗が何をしでかすかよくわかり、何より自分を止めるものもいないので、それはよかったこと。

だが。これは現実として受け止めにくい事実。

どうしてここに、死神がいついたのかしら・・・?

確かに、彼は事件体質でいろいろ事件を引き付けたり、その持つ魅力によって様々な人や物騒な人も惹きつけるが。

死神まで惹きつけるなんて、思いもしなかったわ。ある意味、誤算ね。

 

 

 

絶対に適わない理由

 

 

 

今日も、得体の知れない死神が、再び新一を連れて行かないかどうかの様子を見る事もかねて、お隣へと足を運ぶ。

「だ〜、離せ〜〜〜。暑苦しいんだよ!バカイトっ!!」

「離れないもん。お前は半径3メートル以内に入ってくるな!」

「うわっ、嫌な奴だな。恩人に何言ってるんだよ。」

「はぁ?何が恩人だよ。迷惑な奴だろ!というか、さっさと死神界でも地獄でもいいから帰れ!」

玄関に入るなり、勢いで吹き飛ばされるのではないかと思われるほどの音量で、声が聞こえてきた。

そして、声の主である三人がいるであろうリビングの扉を開けた。

そこでは、いったい何をやっているのかと思うほど、黒い奴を追いかけるお馬鹿な人の姿と、椅子に座って呆れている大切な探偵の姿があった。

「お、お隣の嬢ちゃんじゃないか。」

「余所見とは余裕だな!これでどうだ!」

本当にキッドだなと思うぐらい、幼稚な攻撃。ソファにあったクッションを投げている。

それを、ものの見事に交わすのだから、快斗の怒りは収まることはない。

実は、新一が戻ってこれた状況のひとつを知り、やはり居座らせるには危険だと判断したのだった。

だが、バードの言い分としては、そうでもしないと動こうとしないからしょうがないだろうと言う。

確かに、新一が戻れるように仕向けてくれた事には感謝をしてもいい。新一も、そんな非現実な事で戻る方法なんて考え付かなかったし、あの時は必死だったので、はっきりとは覚えていないのだが。

きっと、言葉にして話してしまえば無効になるが、そうなるように他で動かしていけばいいだけのこと。

戻ってこれたのは間違いなくバードのおかげ。

簡単に言えば、よくアニメとかでもあるように、身体に魂が触れて中に入ろうと思えば簡単に戻れるのだ。まだ、生き返る事が可能な時間の間になら。

お手軽だが、お手軽だからこそまさかと思って誰も気付かない。そういうものらしい。

新一の一つ前の審議では、かなりもめたのは生き返れるその事実を知り、それならばまだ地上を彷徨っていた自分は戻れたのではないかという内容で、死神達も困るほどのものだった。結局、天国の門を潜る前に、一ヶ月限定で地上に留まる権利を勝ち取り、有意義に生前と変わらないように過ごしているらしい。

だが、新一には一ヶ月だけなんて嫌だし、戻ってこれた事にほっとする。

警察関係者の面々も哀以上に驚いていたが、突然のショックで仮死状態であったのだと哀から説明を受けて、納得していた。

哀も気付かないほどのもの。新一が死んだという事実は、多くの人々を動揺させて正確な判断を下せないようにしていた。

そう、彼等も判断し、生きていた事に良かったといい、今は安静にしていて下さいと、要請をすることはなく、平和に過ごしている。

だが、快斗と哀にとってはまったく平和ではない。

ある意味、快斗はさんざん怪盗ということで胡散臭く信用できないと哀から、ひっそりと水面下でやられてきた。その点では、今はばかっぷると言われて呆れられるほどの状態になり、やる気も失せてきた哀のおかげで平和になったという事実はある。

だが、再びその平和が壊されようとしている。この得体の知れない存在のせいで、平和だとは言えない。

かつて、怪盗が新一に近づいたという事で平和が崩れるのではないかと思われた。

新一に近づいた事によって、幸せを手に入れようと尽くす反面、恐ろしい主治医との対決が待っていた。

今は、その戦いはほとんどなくなって、互いが今を大切にしていた。

そんな中、新一の死という運命が描き変わったが、代わりに居ついたものがいた。

いくら、死人名簿を書き換えてくれて恩人だと言われても、死神は死神。

この危なっかしい探偵にとっては一番の敵だ。きっと、犯罪や事件や謎よりも厄介な敵だ。

いつ、その事件によって同じ事が起こらないとも限らないし、次はこの死神が連れて行ってしまうかもしれない。

それならば、先に死神を始末してしまおうと、物騒な事を考える怪盗の姿があったが、科学者も同じで、ある意味実験台に使えそうねと考えている。

死神並に、充分彼等も危険人物である事に新一は気付いていない。

さすがは愛する恋人と気を許している科学者。新一からの信頼をしっかりと得ている。だからこそ、気付かれていないのかもしれない。

彼自身にはまったく害がないからだ。

「おっと、物騒な事を考えないでくれよ。」

どうやら、人の心のうちを見たらしい。まったくもって、全てにおいてむかつく。

「なら、今すぐ消えろ〜!」

平和な日常に入ってくるな〜と怒鳴るが、まったく聞く気はないらしい。

そうとう、彼の馬鹿がうつってきたわねと、自分自身の変わりように苦笑しながら、同じように馬鹿をやっている時。

「・・・お前等、仲がいいな。」

「んなわけないでしょ!」

「こんなのと仲良くしたくないわ!」

「俺は嫌われてるんだぞ?仲がいいわけないだろ?」

一斉に三人とも答えを返す。さすが、新一第一優先の三人組。

新一の声は聞き逃さない。

「だって、さ。楽しそうだなって。」

ちょっと、一人だけはみごにされて寂しいと思うのを言わず、楽しく騒いでいる三人を見てそう思ったらしい。三人がそれを聞けば、違うと即答して、きっちり説明してくれた事だろう。

「それにしても。お前等似てるよな・・・・。」

その、似ているがどういう意味で似ているのか。

「快斗の馬鹿さ加減とか。哀のずばずばいう口調とか。」

まさか、そんな事を言われるとは思っていなかった三人は、唖然としていた。

いや、答えに困っていたという方が正しいのか。

「な、どういうことだよ。俺は馬鹿じゃないだろ?」

「そうだよ。」

「だって、天才と馬鹿は紙一重だろ。」

がーんと、二人の動きが止まる。ある意味、同じだ。

「私はそう思ったから言っただけで、別に彼とは似ていないわよ。」

「気に入らない事はずばずばいうだろ?文句とか。でも、それがお前らしいんだけど。バードも居座る時ずばずばとさ。許可なく何時いたし。あ、快斗もそうだったな。」

余計な事まで思い出している。

もう、一番適わないのはこの本人だ。

厄介な敵は新一の天然だ。このボケボケした発言には誰も適わない。

死神でも科学者でも怪盗でも警察でも。

たとえ強大な謎でも本でも事件でも。

彼自身が一番の厄介な敵だ。

まぁ、そんなところも好きだと思う快斗はある意味新一馬鹿だ。

そんな新一でも側にいたいと思う哀もそうとうこれに慣れてきたのかもしれない。

素ではころころと変わる新一の表情に、資料を見ているよりいいとまだ居座るつもりの死神も。

一番適わないのは新一。

そして、哀とバードが適わないのは、快斗が好きな新一。

そう、このばかっぷると言われるほどいちゃいちゃらぶらぶの二人だ。

もう、見ていられないほどのもの。当てられるのは不本意だが、新一は無意識なのだからしょうがない。

こんな新一だからこそ、まだ生きてその顔を見ていたいと思うバードの気持ちもわからなくはない。

「あ〜もう。新一〜。」

べたっと抱きつく。一人ぼっちで寂しそうに、しゅんっとしていた新一がまた可愛くて。

「・・・ご馳走様。」

「目の前でいざやられると、失恋が痛いねぇ。」

「なら、自分の家に帰ったらどうかしら?」

「それは当分ない。」

まだ、居座る予定らしい。

だが、今の目の前でじゃれあっている二人には自分達の存在は完全に消されている事だろう。

「・・・彼の幸せを壊すようなことをするのなら、容赦しないわよ。」

「大丈夫。彼の幸せを願う一人だからね、宮野志保さん。」

どうやら、こちらの事情は全てお見通しらしい。むかつくが、他に知られることはないのだから、放っておく事にする。

「なら、せいぜい彼等の幸せに当てられないように気をつける事ね。」

「忠告感謝するよ。でも、あんな二人を見ているのもまた楽しいからね。」

「・・・。」

どうやら、この死神はそうとう暇人らしい。そう判断する。

哀はこれ以上いても自分達の世界に旅立った二人をいつまでも待っているほど暇はないので、お隣に帰る事にする。

何より、この死神が当分新一に害をなすようなことはないとわかったので、今は野放しにしておく事にする。

「でも、次はないと思いなさい・・・。」

次が会った時のための実験に取り掛かる。

それは、幸せな二人の知らないところで行われていた。

 





     あとがき

 在る意味最強なお隣の科学者さんでも、新一さんには適わない
 いちゃいちゃを見せ付けている怪盗さんにもまた、呆れて何か仕掛けようとも思わない
 そんなお話。



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