お隣の少女から、呆れられ、ばかっぷるだと言われている二人の青年がいました。

片方は、誰もが認める実力を持ち、その慧眼で真実を全て見、その蒼に引き付けられる美貌の名探偵、工藤新一。

ありえない数値のIQを持ち、父を尊敬し父のようなマジシャンを目指す、マジック好きだが、父同様に夜は怪盗KIDと言うなの泥棒を名乗る、黒羽快斗。

そんな二人は、隠していてもわかってしまうほどばればれでらぶらぶな、出来立てほやほやの恋人同士。

だが、そんなある日の事。

事件に巻き込まれた新一は、意識不明で危篤状態に陥り、なんと、心配停止となり、誰もが信じられないと思いながら、息を引き取ったのでした。

 

 

 

  死神が居ついた経緯

 

 

 

信じられないという思いでいっぱいだった。

電話で聞いた時、まさかと言う思いで、いつも迎えに行くように出かけた。

そして、真実を知らされる。知りたくもない、信じたくもない真実を。

「し、新一・・・?」

決して動く事がない彼。もう、声を聞く事も、あの照れてひねくれた言葉を聞く事も、たまに自分のことを好きだと言ってくれる言葉も、何も聞けない。

綺麗なあの笑顔も、何も。

「う、嘘だ。嘘でしょ?新一?ちょっと、からかってるわけ・・・?」

側では下を向いて悔しそうな哀がいた。同じように、背後では苦しそで悲しそうな刑事達の姿があった。

「新一―っ!!」

うわぁと泣き叫ぶ。父親がなくなったときですら、そんなには泣かなかったというのに。

その場は、そのまま二人だけにしておいてあげようという、彼等の配慮から部屋は二人きり。

だけど、うれしくもない二人だけの部屋。

彼が話しかけてくれないと、笑顔を見せてくれないと意味がない。

こんなの、こんなことになるなら、今日は絶対行くのを止めていた。

このままでは、身体は燃やされ、姿すら見ることは出来なくなる。

怪盗でもある快斗は、簡単に新一の身体を連れて家に帰った。

気付いた刑事もびっくりなほどの早業。

だが、しばらくは放っておこうと決めた。

彼等は互いが互いを大事にしている事を知っていたから。

 

 

あまり、何も覚えていない。

ただ、あのままあそこに新一をおいておきたくないということで、無意識に連れ帰ってきたが。

「・・・明日、哀ちゃんに怒られるかもね・・・。」

でも、独占したいと思うのが心情。

今日だって、何もなければ仲良くくっついて一日を過ごす予定だった。

なんだかんだ言っても、許してくれる優しい新一。苦笑して、しょうがねーなと言ってくれた新一。

そんな彼はもういない。

考えれば考えるほど信じられなくて、涙は止まる事がなかった。

その時だった。

きっと、一生忘れないほど、かなり間抜けな顔をしていただろう。それだけの驚きがあったのだ。

腕の中に新一を抱きこんで、泣いていた。

「・・・・・・何、泣いてんだよ・・・。この、バカイト・・・。」

ふっと、頬に暖かい何かが添えられる。そして、見えるのは自分が好きな蒼。

「し、新一・・・?」

なんと、自分の頬に触れているのは新一の手。あの、暖かい、自分を闇に堕ちるのを支え、繋いでくれた手だ。

そして、自分の腕の中で永久に眠っているはずの彼の目が開かれ、あの綺麗な蒼が見える。

「おい。何なんだよ。無視しやがって。」

まだ、力が出ないのか、こつんと、頭を叩かれた。

それは、日常よくやられることで、まるで自分が夢の中にいるようであった。

きっと、夢を見ているのだと快斗は思った。

この笑顔も声も二度と見る事も聞く事もできないものだから。

いつの間にか寝てしまって、会いたいと強く願ったから、こうして夢で会えたのだと思った。

だが、それは違った。

「い、痛ひ・・・。」

思い切り、頬をつままれた。かなり痛い。夢ではなかなか味わえないほど痛い。

「どうせ、夢だとか思ってるんだろ。ま、俺も驚いたけどな。」

まったく、頭がついていかない。

「死神の手を振り切ったら、戻ってこれたみたいなんだ。」

なんだよそれと、誰もが突っ込むだろうが、快斗は違う。

「じゃぁ、本当に本当に、新一なんだね?死んで、ないんだね?」

「ああ。そうなるな。」

「夢みたいだよ。夢じゃないよね?・・・痛いし。あ、新一どこか痛いところとかある?」

「夢にしたら怒るぞ?・・・痛いところはないな。」

本当に本当なんだと、だんだんと理解できた頃、あまりにもうれしくって新一をぎゅっと、喜びを噛み締めて抱きしめた。

そんな感動的な場面に、なんとも無粋な邪魔が入った。

「おーい。そこのお二人さ〜ん。」

空耳だろうと、無視。何せ、聞いた事もない声だし、ここには新一の気配以外のものはない。

「無視するなよ。寂しいねぇ。彼の悲しい顔よりも笑顔を見れたからいいけどさ。」

悲しい顔と笑顔でぴくりと反応する。

悲しい顔という事は、本当に心を痛めて悲しんでいる時の顔。笑顔ということは、先ほどのような飛び切りの笑顔。きっと、作り物の事はさしていない。

そんなものを見るなんて、どこのどいつだと、声のした背後を見た。

「はぁ?」

まさに眼が点だ。間違ってない。おそらく、自分が怪盗KIDだとしても、間違った反応でも認識でもないだろう。

目の前で黒いローブのような服を着て、細い銀のフレームのめがねをかけた、銀髪の男がなにやら物騒な大きな鎌を持って、そこに浮いていたのだ。

「・・・死神。」

「え?!あいつが?」

では、あいつが新一を連れて行こうとした、敵か?!と認識した時。

「仕事だからしょうがないけどさ。彼の事を気に入ったので、側に置いておこうと思ったのだけど、君の事を見てあまりにも悲しそうにしているし。挙句の果てには声ぐらい聞こえるとかいって、端って行っちゃうし。」

困ったものだよと言うそいつ。ご丁寧に、ぺらぺらとしゃべってくれる。

「ま、悲しそうにしているよりも、今のような笑顔の方が新一君には似合っているけどね。」

自分に向けてくれないから残念だとか、そいつは言う。

ぶちりと、何かが切れたような気がした。

「・・・てめぇ、何様のつもりで新一を連れて行こうだ?えぇ?!第一、気に入ったから側に置いておくだと!ふざけんな!新一の隣は俺のものなの。お前みたいな胡散臭い得体の知れない真っ黒にやってたまるか!」

きっと、自分でもわかっていないだろう。めちゃくちゃに言う。

まぁ、相手が相手なだけに、多少は問題はないだろう。

「失礼な奴だな。『お前みたいな胡散臭い得体の知れない真っ黒』なんて名前じゃないよ。」

「お前こそ馬鹿か!そんな名前でいつ呼んだ!ええ!名前じゃないだろ、それ!」

「ああ。違うね。俺は死神のバードって言うんだ。まぁ、よろしくな。白いの。」

「何だよ、その『白いの』って。それに、よろしくしなくていい。というか、今すぐ目の前から消えろ!新一が生き返ったんなら、仕事いらねーだろ?それでまた連れて行くっていうのなら、容赦しないぜ・・・?!」

死神に勝てるわけがないだろうが、もう、まったく状況が見えていません。

新一のことでいっぱいです。

まぁ、それがうれしくもないのですが、もめごとは御免なので、快斗の腕を攫んで止めます。

「で、お前・・・バードはどうするつもりなんだ?」

「別に〜。面白そうだから、お前等の見学でもしてようかなってね。」

何が面白そうなのかはまったくわかっていない新一だが、快斗はしっかりと意味を理解していた。

隙があれば新一にちょっかいを出し、その反面、死神なんていう得体の知れない奴なので、きっと人の眼に見えないようにする事もできるので、側にくっついてこの愛しい恋人の表情を眺めている事だろう。

中に、快斗で遊ぶという事も入っているが、そのことはまだ気付いていない。

「あ、俺は死神帝王の息子だからさ。しばらく留守にしていてもまったく問題ないから。基本は巡回死神だし。」

そんな説明はいらないが、どうやら居座るつもりらしい彼は、自己紹介をしてくれる。

まぁ、快斗が学校の間、新一が学校で危ない事がないかどうか見ていてくれるというので、しぶしぶ居座ることを了承した。

今回の事のように後悔したくはないし、ここに連れて行く気のない死神がいれば、魂を引き止めて戻してくくれるという期待も少ししている。

そのまま連れて行くようなら、何が何でも連れ戻して、制裁を加えるつもりだ。

何せ、こっちには新一の為なら手を貸してくれる最強の科学者がついている。だから、大丈夫だと納得させ、目障りだが、ある意味恩人でもある死神のバードは家においておくことにした。

 

 

その後、帰ってきた哀が驚き、事情を話すまで何故か見えなかった死神の存在。

本当に、こいつは謎な奴だ。

説明するまで、目の前にいたのにまったく見えなかったのだ。

つまり、事情を知らない限り、見えることはない。共有する事は出来ないという事らしい。

「・・・ま、いいわ。後で、心配停止と思われていたが、仮死状態だったので、息を吹き返したと、連絡をいれておいてあげるわ。」

「悪いな。」

「いいのよ。貴方が生きていてくれたのだから。」

その点は感謝しているけれど、この幸せを壊すつもりならば容赦しないわよと、バードを睨みつけてお隣へ帰った哀。

「・・・恐ろしいな、彼女。俺、何かしたか?」

「充分、してるんだよ。」

「やっぱり、俺がどじをふんだからか?」

「新一は関係がないから大丈夫だよ。あ、今日は疲れただろうから、寝ようか。」

「・・・うん。」

二人仲良く同じ部屋へ。

まぁ、一緒に抱き合って寝るだけなのだが。

今はただ、一緒にいられる喜びを感じて眠りに尽きたかっただけだから。

しかし、残されたバードにはあまりうれしくない。

「暇だなぁ・・・。」

そこでぴんっと思いついたこと。

それでのちに、快斗が叫ぶ事になるのはもう少しあとの事。

 





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