「この下から、彼の気配が強く感じるわ。」

 

真っ直ぐ、目的地へと進む快斗と紅子

そして、たどり着いたのは一つの扉

互いを見て、ゆっくりと扉を開ける

 

そしてそこにいたのは、円柱の水で一杯になった水槽の中にいるシンイチの姿だった

 

ゴポッ――ゴポポ―――

 

完全に息が出来ていない

快斗は慌てて駆け寄る

 

力は抜け気っているのか、水槽の中でふわふわと漂っている

その様は、まるで死人のようであった

 

 

「新一っ!」

 

 

名前を呼んでも、反応を見せることはなかった

 

 

 

第五章 愚かな夢が終わり、そして始まる

 

 

 

「残念ですが、貴方にはもう、道は残されていませんよ?」

残酷な悪魔の笑みが、男に向けられる。

だが、なんとしてでも逃げ切って見せると、相手の様子を伺いながら

「すでに、警察は動いています。貴方もすぐに、終わりがくるでしょう。」

貴方の時はすでに止まってしまっているのですよと、逆に向けられた時の番人を見せる。

正位置でも逆位置でも、このカードは時の流れを変えるといわれている。

彼の場合は、時の流れが止まる、つまり、進む路はなくここで終わり、閉ざされるという運命。

「貴方達のような、愚かな人がいなければ、朱霞のような子も、あの男のようなものも現れなかったというのに。」

自分もまた、同じように闇に属するものだが、貫き通す信念もなく、ただ欲望のままに暴走する者は嫌いだ。

「事後処理はまかせておいて。」

「じゃぁ、あとは任せるね。」

ちょっと、気になるからあっちに向かうよと言う竜。

蓮は携帯で新一の代理だと言って警察を誘導し、その間に雅魅は男達を縛り上げていく。

そして、志保は自分達と会った間の記憶を一切なくすように仕向けた。

くたりと、糸の切れた操り人形のように、男はその場に倒れた。

「無様ね。」

しばらくして、サイレンの音が鳴り響く。

「私達も、さっさとここまで誘導して、退却しましょうか。」

「そうね。」

「誘導の必要はなくなったよ。匿名希望で、場所を連絡しておいたから。」

「じゃぁ、すぐに行きましょうか。」

どうせ、無茶をして怪我をしているにきまっている二人のために、用意して待っていようと家に戻る。

「それにしても。嫌ね。こんな男のもとにあったなんて。」

手に取った一枚の絵画。悲しそうに微笑む雅魅の顔を横目で見ながら、何も言わずに部屋をあとにする志保。

すぐに布に包んで、雅魅もその部屋を後にした。

 

 

 

 

「くそっ。」

キッドのトランプ銃を向けてみたが、刺さるだけで、決して割れることはなかった。

「黒羽君。あれはどう?」

「そっか。」

ここにはいろいろなものがある。元から破壊するつもりでいたので、奥にある椅子をつかむ。

思い切り勢いをつけて硝子へとたたきつけた。

だが、椅子の足が歪み、硝子はヒビが入るだけであまりよくなっていない。

「伏せろ。」

背後から聞こえてきた声に、二人は伏せた。

ソレと同時に聞こえてくる硝子を割る音。

バリンと大きな音を立てて硝子は割れ、中から水が流れ出る。

そして、新一の身体も割れた硝子に引っかかりながらも、流れのままに外へと押し出された。

「新一っ!」

駆け寄る快斗と、姿を見せた麻都。

ぐったりとしている新一の身体が冷たくて、もしかしてという恐怖が生まれる。

「大丈夫よ。早くしなさい。」

固まっていた快斗に指示を出そうとした紅子だったが、すぐに快斗は動いた。

気道を確保して、的確に人工呼吸を施す。

ただ、死なせたくないと言う思いだけで、今の快斗は動いていた。

数十秒後、ごほっと息を吐き返し、水を吐き出した。

「新一っ。」

なんとか呼吸はしてくれた。だが、意識は戻らない。

かなり弱気になりながらも、快斗は必死に新一の名を呼び続けた。

その間、紅子はコンピューターに必要な情報を書き落とし、戻ってきた。

「誰か来る。」

「ひとまずここから出るわよ。」

入り口は一つだけ。そこへ入ってきたと同時に、その男を倒し、上へと走る。

上に上がって扉を閉めたとき、丁度竜からの連絡が入った。

『今すぐ建物から外に出て。迎えに行くから。』

その意味はすぐにわかった。

猛スピードで入り口まで走ってくる黒い車。

「やっ。お迎え。」

運転手は竜だった。

「さっさと乗ってくれる?時間もないし、怖い人が追ってくるから。」

竜が言っても、絶対に怖い人と認識していないだろうが、それはおいておいて、キッドは慎重に新一を抱えて車に乗り込んだ。

「おいっ。時間ギリギリだ。」

今度は何かと音のする方を向けば、そこにはバイクに乗った和也がいた。

「さて。しっかり捕まっててね。」

車とバイクは同時に走り出した。勢いよくUターンをし、追って来る者達に向かっていく。

「援護は頼むね。」

ジャキっと、麻都が銃を構えて狙う。紅目を細めて、的確に追えないように仕向けた。

「ちょっと、一般じゃない道使うから、本当にしっかり捕まっててね。」

本当に生きて帰れるかしらと、このとき紅子は思った。

快斗はただそんなことよりも、なんとか息をしていても意識が戻らないままの新一を腕に抱きしめて、目を覚ますように願った。

門が見えてきた頃、待ち構える者達と、門を閉めようとする者達がいた。

「あれ、壊せる?」

「問題ない。」

和也と麻都が門の隣の壁を破壊した。

門を閉めるのなら、別に作ってしまえばいいのだ。

ぎりぎりの大きさで開いた穴に、綺麗に通り抜けてそのまま走る。

数十秒後、その背後で大きな爆発音がした。

敷地内は広く、回りに民家がなかったのが良かったかもしれない。

建物は全焼し、すぐさまサイレンの音で溢れかえる。

何より、今日はあの建物内は休みで普段よりは人はいない。

「なんとか間に合ったね。」

「どういうこと?」

「こういうことだね。」

黒い煙がもくもくとあがる。

一歩間違えれば、新一も自分達もあの中に巻き込まれていたのだ。

「他の人達の救出は無理だったよ。たとえ敵だとしても、彼は助けたがる。でも、時間がなくてね。」

あの地下を消滅させたかったらしいのだと、竜は言う。

そろそろ、あそこはいらなくなり、消しておく必要があったのだ。

だから、周りを巻き込んで破壊したのだ。

「真っ直ぐ家に戻りたいけど、一度乗り換えさせてもらうよ。」

これはあそこから借りてきたものだ。追っ手がいて、これを目標にされても困る。

「蓮。予定通り?」

「ええ。予定通りですよ。」

向かった先は、今は使われていない無尽のガソリンスタンド。

そこには白い車が一台あった。

奥では意識なく縛り上げられている男がいた。

「さて。帰るよ。」

いまいち状況がよくわからないままだが、快斗と紅子は車に乗り込んだ。相変わらず麻都も一緒だったが。

和也は途中からいなくなっていた。でも、新一のことが心配で、気にすることはなかった。

 

 

 

 

 

何度も名前を呼ばれ、目を覚ました。

「新一っ。良かったよ。」

ぎゅうっと飛びついて喜ぶ快斗。

それを剥ぎ取って、無茶させないで頂戴だいと、すでに哀に戻った彼女が快斗を睨む。

「それにしても、おどろいたわよ。」

「俺もびっくりだ。・・・麻都。あの石。」

いまいちよくわからないが、新一に言われるままに麻都は渡した。

結局、あの男は現れることなく、石を取戻しには来なかった。

「今、叶えてやるよ。」

新一は快斗に石を砕くように頼んだ。そして、砕いた後、空に散らしてほしいと言った。

「呪いは打ち砕くのが一番なんだ。・・・もう、縛られるのは嫌らしいから。」

快斗はうなずいて、石を新一から受け取った。

「ねぇ。この石の呪いは消えたけど、パンドラは残っているし、同じように呪いを持つ宝石もまだまだあるってことだよね。」

「ああ。この石の愚かな夢は終わった。だけど、全てが終わったわけじゃない。あの子が言っていたからな。」

まだ、自分が宿る石のようなものは残っていると。

同じであるから、あればわかるのだと言っていたと新一はいい、再び眠りについた。

疲れていただろうから、そのまま休ませようと、哀を覗いて皆は外へ出た。

「パンドラだけを砕くんじゃ、駄目なんだ。」

同じのようで違うもの。だけど、結末は悲しいもの。

自分の父親のような、そして朱霞のような者達が出てくる。

「なら、怪盗キッドは、パンドラ以外も狙うつもりか?」

「どうだろうな。」

もし、その呪われた石と出会えば、そうするかもしれない。

「いつまで情けない顔をしているつもり?」

「情けないってひどいなぁ。」

「彼が心配するから、止めて頂戴。」

「そうだね。」

彼が目を覚ますまでには、いつもの自分に戻らないといけない。

すでに麻都はどこかに消えていた。

工藤邸に残されたのは、哀と紅子と自分と家の主だけ。

 

 

 

ひっそりと闇の中で嘲笑うイカレタ天使は、誰の心の中にもいるのかもしれない。

あの男だけではなく、自分達の中にも。

彼を守る為ならば、なんでもしてしまいそうだから。

ソレと同時に、自分達を抑えてくれるのが彼でもあるから。

守りたいがために抑える。

 





     あとがき

 次回、最終章の予定です。
 やっと、このお話も終わりました。
 とりあえず、人工呼吸とパンドラ以外にもたくさん存在する呪われた宝石のことが・・・。
 あと、一部の方々のちょっとした内情などなどを詰め込んだお話でした。
 次回はどうなるかは未定です。
 しかし、両思い編の内容は結構決まっていたりもしなくもなく。
 とにかく、あと一息お付き合い下さいませ。


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