夢の中で、彼女は言った

自分が宿る石を壊してほしいと

でも、あの空を最後まで見ていたいから

空にばらまいてほしいと

 

そうすれば、石の呪いは消えるのだと

はじめから誰かに頼んでおけば良かったと彼女は言った

 

 

 

快斗に伝えてから、再び彼女は夢に現れた

ありがとうと、一言言って

そして、また会いましょうと付け足して

 

それ以後、夢の中で姿を見せることはなかった

 

 

最後に小さく一言だけ

気をつけてという言葉

何に気をつけてなのかは聞こえなかった

だけど、彼女がこれで解放されるのなら

それはそれでいいと思った

 

 

 

 終章 距離は少しだけ縮まる

 

 

 

ある見晴らしのいいその場所。

山の人が通らぬ道を通ればたどり着ける、自然に出来たその場所に、二人の人影があった。

そして、そこには墓が五つ並んでいた。

一つは、親友のもの。二つ目は親友を殺した男のもの。三つ目はその男の両親のもの。そして、四つ目は先日己自ら引き金を引き、命を奪ったものの新しい墓。

五つ目の墓に関しては、和也は口を開かないので、右腕と呼ばれる彼も誰の物かわからなかった。

ただ、うっすらと『か』の文字が見えるだけの墓。

「付き合わせて悪かったな。」

「いえ。・・・それより、今後はどうしますか?」

「さぁな。成り行きに任せる。・・・お前に任せておいてもいいな。」

「では、適当に裏で合わせておきます。」

「ああ。」

風が運んできた紅い花びらが、墓で眠る彼等の悲しみを表しているようで、和也は辛かった。

ここにいる者達は、本来幸せという、語句平凡な家庭で過ごして一生を終えるはずだったのだから。

「帰るぞ。」

「はい。」

来た道を戻る二人。

後始末をするために、巣へと帰る。

 

 

 

 

 

目を覚ましても、無茶は禁物だと哀に戻った彼女にベッドに貼り付けにされた新一。

さすがにじっとしているから縄はやめてくれと頼んで、現在ベッドでごろごろしている。

そこへ、ひょっこりと快斗が顔を出した。

「そうしたんだ?」

何の用かと思えば、はいっと、何かを差し出した。それは、小さな石の飾りがいくつかついたリングだった。

「・・・これ。」

この色には見覚えがあった。

「そう。あの石粉々にしたあとにね、ばら撒いたんだ。そうしたら、足元にいくつか欠片が転がっていてね。」

故意に彼女が残したように思えて、つい作っちゃいましたと言う快斗。さすがに新一もその行動には呆れた。

「ちなみに、お揃いだし、守ってくれそうじゃない?」

お揃い〜と、いつの間にか新一の薬指にはめられていたそれは、快斗が首からかけているチェーンの先に着いているものと同じだった。

「あ。これ、婚約指輪になるね。」

ほらほら、これで新一は俺のだと、相変わらずの調子で言う快斗に、さすがに苦笑する。

少し沈んでいたところもあったから、快斗の明るさがうれしいというか、助けになるというか。

それに、これが彼女の言っていた、また会いましょうの意味だったんだなと、一人で納得もしていたりした。

「・・・ありがとな。」

自然と出た笑みで快斗に言うお礼。綺麗な新一の笑みを真正面から見て、さすがに今度は快斗が顔を紅くしてあたふたする。

その姿もまた、楽しかったりもする。

「そう言えばさ。」

しばらく互いに笑っていた後、突如快斗が切り出した。

「俺と新一、キスしたよね。」

「・・・はぁ?」

「だって、人工呼吸したし。そうだよ、キスしちゃってるよ。あ〜どうしよう。これならもっとっ!」

ばこっと、それ以上暴走しないように頭を叩いて沈めてやった。

痛いようと言いながらも、新一の膝の上で沈ませられたのをいいことにごろごろ懐きながら、抱きつかれた。

「新一のことは、本気だからね。」

その指輪もキスも。偶然だとしても、思いはいつも一緒。

「好きだからね、新一。それだけは忘れないで。」

いつも無茶をする新一。心配でしょうがない。

「それに、皆だって、哀ちゃんや竜や蓮達だって、皆新一が好きなんだから、無茶だけはしないでよね。」

一番愛しちゃってるのは俺だけどねと、ちゃかしたように軽く言って、快斗はじゃあねと部屋から出て行った。

一人取り残された新一は、左の薬指に嵌められた指輪を眺めていた。

「・・・馬鹿だな。」

人の心配ばっかり。他の奴等も同じだ。

自分だって、あいつ等の事が心配でしょうがないのに。

それに、少しずつだが、快斗が自分の心の中に占めていくのを感じていた。

いつも側にいるから、いつの間にか甘えている自分がいる。

告白される前から、あいつはずっと側にいた。

そして、いつも自分の事に気付いて励ましてくれた。

この思いがなんなのかはまだわからない。だけど、嫌いではないということは確実だ。

「返事までの期間、あと何日だっけなぁ・・・。」

後でカレンダーを確認しておかないとなと、考えるのだった。






     あとがき

 やっと、翼をもがれた死者の伝言が完結しました。
 ほら。予告通り前回の連載よりも短かったでしょう?
 今回から少しずつ他の方々の内情を入れながら動いていく予定です。
 それにしても、終わりはくるんだろうか、このシリーズ。


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