最初はただの石ころだった

他の石ころとなんらかわらないものだった

ところがある日、その石に異変が起こった

ある命尽きそうになった男がその石をつかんだ時にかわった

 

ここで、死ぬわけにはいかないんだ・・・

あいつらを、家族を壊したあいつらを

全員に思い知らせてやらないとっ

 

血に濡れて倒れた男が最後の力を振り絞って這うように進んだ

そして、最後につかんだのはその石ころだった

 

ぎゅっと、強い力で握られたそれは

まるで男の願いを叶えようとするからのように鼓動を打つ

 

・・・男を追ってきた者達が、男が最後に手でつかんだそれを、持ち帰った

とても綺麗な、だがどこか妖しいきらきらと輝く深い紅の石

 

異国の地の宝石だと、誰もが思っていた

それに恐ろしい男の怨念でもある、呪いがあるとは知らずに

そしてその者達は、のちに互いに不信を懐き、殺しあった

 

自らの思いをその宝石に託し、

男は彼等に罰を下したのかもしれない

 

その後、宝石の行方はしれぬ

 

 

 

 二章 呪われた紅い目

 

 

 

ここはどこだろうか。

もう駄目だと思い、どうしてもしなければいけないことがあったが、すでに自分は壊されたと思っていた。

だが、どうやら少し状況は違うようだ。

「あ、目が覚めた?」

パタンと、読んでいたのだろう本を閉じて、迎えに座っていた少年が自分に近づいてくる。

とても綺麗な、印象に残る蒼い瞳を持つ人。

「誰?」

「僕は工藤新一です。・・・朱霞ちゃん。」

「っ!・・・どうして?」

「知り合いが、調べてくれたから。その知り合いが、君をここへ連れてきたんだ。」

新一の答えに、そうと、朱霞は答えただけだった。

倒れていたら助けようとするのが好意だ。だが、それによってこの人や関係のない人を巻き込んでしまうという思いで、どうしようと心が恐怖で占めていた。

「事情は、だいたい調べでわかっている。・・・昨晩に起こった、殺人事件の被害者であり、起こった原因が君。」

「そう。だから、私は行かないと。」

巻き込めないと言う。

しかし、彼女の手を、新一は攫んで止めた。

「すでに、巻き込まれてる身だ。それに、簡単には死ぬつもりもない。・・・何より、俺達もあの男には用があるんだ。」

「・・・貴方も、あの男に狙われる者?」

「少し違う。知り合いが狙われているんだ。」

「そうなんだ・・・。」

身近なところで、あの男との繋がり。

だけど、だからこそ彼になら頼めるかもしれないと朱霞は思った。

「これ、預かっていてほしいの。」

少女が取り出したものは、彼女の瞳と同じ紅い色の宝石だった。

「呪われた、石。あの男に渡さないで。きっと、私はもう、守れないから。」

自分のことは自分がよくわかっている。

新一も彼女がもう長くはないと聞かされているし、この宝石の関係者だともわかっているが、どうにかできないものかと思う。

だからきっと、どんなに隠そうとしても複雑な顔で彼女を見ていると思う。

「貴方なら、どうにかしてくれる。呪いもきっと、解いてくれると思う。」

だから、貴方に話すわと、少女は言う。

真剣な目でじっと、訴えるように強い意志で見てくる紅い瞳。

新一は、話なら聞くよと答えたら、辛そうにしながらも、強い意志は代わらずその眼に輝きを持ったまま、真っ直ぐ新一を見て話し始めた。

紅い、彼女の目の呪いについて。

 

 

 

 

 

私はすでに、一度死んだ者。

だが、呪いが魂をしばりつけた。すでに、肉体は何もないというのに。

それなのに、ある時現れた人間が、人工的に器を作って私の魂をそれに放り込んだ。

ただ、死にたかったのに。死ねないなら、ずっと眠っていたかったのに、人がまた憎しみや争いのために掘り起こした。

この、呪いの紅い石を。呪いに縛られた魂を。

 

 

最初はただの石ころだったものが、ある時命を狙われ、家族を失った者が全てを奪う者達への制裁を願った。

紅い血で濡れたそれは、次第に紅い輝きを持ち、今でいう、宝石というものに姿を変えた。

それを、追いかけていた者達が見つけ、無視の息だった男を完全に息の根を止め、その宝石を持ち帰り、主に渡した。

主は輝く紅い石をたいそう気に入り、大切にしていた。

だがある日。異変が起こった。

紅い石が、赤い水を吸うようになった。

権力を持つ、主の娘である私は、怖かったが石に訴えた。

最初は、神の怒りで、化身である宝珠かなにかかと思ったからだ。

家族を思って、無念を晴らすために死んだ男の願いを聞き入れるのなら、確かに父は悪いが、下で働く者達は違い、彼等には彼等の家族というものがあるから、助けてほしいと。

だが、石は私の願いを聞き入れようとはしなかった。

それは出来ないと、私一人残して、他の者達全ての紅い水を吸い尽くした。

残った私は、ただ呆然と座り込んでその光景を見ていただけだった。

脅威なる力は、どんなに力を尽くしても、人一人ではどうにもできないものだった。

そんな私に、あれは言った。

死した家族を弔い墓を作り、そして手を合わせた心清き娘とあれは言い、お前は助けてやると言った。

私はいらないと言った。皆、いなくなったもの。いらないと言った。

だが、石は私の願いを聞き入れない。そして、その穢れた血を残す事は出来ないといい、器を壊した。

私はそのまま、意識が遠のいていった。だから死ぬんだと思った。

だけど違った。

目が覚めてしまったのだ。

そして、透明な壁に包まれたその場所の中に一人いた。

壁の外には、動かない自分の姿があった。

何が起こっているのかまったくわからなかった。

どうして、どうしてと、何度もその言葉を繰り返し、その透明の壁を叩いた。

だが、それはびくりともせず、私を外へ出す事はなかった。

石は最後に言った。

この石を再び醜き人間の手に渡らぬように、お前がその管理人だと。

きらりと、壁が反射して、鏡のように自分の姿が映った。

「嘘っ・・・。」

そこには、以前の焦茶色の瞳ではなく、深い、それでいて紅い血のような紅い瞳の自分がいた。

「いや、嫌よ。どうして、どうしてよっ!」

私の問いに答える石の声はなかった。

私は、ずっとそこで、誰にも気付かれることなくいた。

気付かれることなどないのだ。自分の身体はあそこにあるのだから。

そして、屋敷を全て壊す事となり、何もかも跡形なく消えた。

その様を、涙を流しながら見た。何も出来ない自分が悔しくてしょうがないと、何度も何度もどうしてとつぶやきながら。

だけど、それのおかげで石は地中に埋まった。これで、人の手に渡ることはそうないだろう。

私はしばらく、いろいろ考えて実行してみて、なんとか石から遠くへは離れられないが、意識である魂を外へ出して様子を見ることは出来るようになった。

久しぶりにみる、壁のない世界。うれしくてしょうがなかった。

だけど、流れる時をただただ見ているだけは、一人なんだと思わせられて悲しくもあった。

何度、この呪いでもある忌まわしい紅い瞳をつぶしたいと思ったことか。

石は言ったのだ。管理人としての証。一種の呪いのようなものだと。

だけど、何も見えないのもさらに孤独を感じて寂しく、外の景色を二度と見られない。

だから目はつぶさなかった。

 

 

そして月日が流れ、突如壁から光が差した。

地中から掘り出されてしまったのだ。

そして、人から遠ざかろうとしたが、興味を持った人間が私を捕らえ、器を与えて戻れなくしてしまった。

きっと、この器さえなくなれば中に戻れる。だけど、戻りたくもなかった。

石から離れる事はできないので、私はいつも石を持ちあるいた。

そして、彼等の目的を知り、世界中を逃げ回った。

だけど今回、とうとう追い詰められてしまった。もう、時間も残り少ない。

ここへ必ず来てしまうだろう。

 

 

 

「だから、これを預かって。私のこの身体が消えれば、私はその中に戻る。だけど、石はもう、持ち上げられない。私自身では動かせられないから。」

新一はただ聞いていて、また人は同じ事を繰り返すのだなと感じていた。

何度も何度も、過ちを繰り返す。気がついて元に戻ればいいが、なかなか戻ることは出来ない。

自分の周りにいるあいつらもそうだ。戻れないのだ。

一度足を闇へと踏み入れれば、戻ることは難しい。

新一は紅い宝石を受け取って、それを見ていた。

ただの宝石にしか見えないのに、呪いの鎖でつながれて鈍い輝きを放つ物。

「・・・紅い目は呪いの目。貴方のその紅い目も、呪いの刻印ね?」

新一もはっと、扉のところにいる気配を感じた。

「冷たい人間に相応しい暗い藍だと言われた貴方の瞳。だけど、心は優しく傷つきやすい瞳だと言ってくれた瞳。全てを破壊するために現れた死神によって奪われ、紅く染まったのよね。」

がちゃりと扉が開き、そこには殺気だった麻都がいた。

「・・・何故知っている。」

「私、全て見てきたもの。こうなったとき、逃げる為に世界中を飛び回った。ちょうど、貴方のことも見たもの。」

せっかく、彼女と幸せになれる時だったのに。人の命を奪う側になることはなかったのに。

新一は知らない、麻都の過去。それを朱霞は知っている。

だけど、本人が話すまで、必要となるその日まで、決して無理には聞かないと決めている。

「紅が呪いなら、蒼は魔性かしら?あの男の黒は闇だけれども。貴方が愛し、今も心を縛る彼女と、幸せを奪った彼女も蒼。ここにいる彼とは同じようで違うけれど。・・・石の呪いの原因の男もまた、貴方と同じ深い藍だったのよ。・・・貴方も彼女を守りたいという魔性が生み出した力。気をつけないといけないわよ。」

「言われずとも。」

「私は、行くわ。」

これ以上は駄目だもの。

朱霞が出て行こうとしたときだった。

 



 ガシャン―――

 



窓ガラスが割れ、飛び込んできたものが、朱霞の胸を貫いた。

驚きで目を見開いて、だけどどこか諦めたように目を閉じて、ゆっくりと傾いていく彼女の身体。

「お、おいっ!」

新一が駆け寄った時には、すでに息はない。

この器は役割を果たしたのだ。だから、彼女は新一が持つ宝石に還ったのかもしれない。

「やっと見つけたと思ったら、ちょうど良かったですよ。」

クスクスとあの男が窓から中へと入ってきた。






     あとがき

 過去の情報と器が壊れる時。そして、例の方の登場。
 紅目さんの事に少し触れました。
 実はこの後、もう一つ連載や短編が入るかもしれませんが、紅目さんのお話に入ります。
 それこそ、タイトルだけ書かれて連載未定となっているあれです。
 順番にそれぞれの過去と立ち向かう予定です。
 とまぁ、それは置いておいて。
 この話はたぶん後少しで終わるはずです。
 少しずつ快斗と新一の心の距離が縮まるぞ編ですが、簡単にぱぱっと流されるはず。



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