ハァ・・・ハァ・・・そっ・・・・・・くそっ・・・

 

激しく胸が上下に動き、荒く呼吸が乱れる

そして次第に視界もかすんでいく

止まることなく、足元には己の血がポタリ、ポタリと落ちていく

まるで、地面に命を吸い取られていくような感じで、立っているのもやっとだった

 

だが、彼女は逃げなくてはいけなかった

逃げて、あれから逃げ切らなければいけなかった

 

誰かっ・・・タ・・・スケ・・・テ・・・・・・・

 

 

 

 

  一章 謎に包まれた少女

 

 

 

 

携帯の呼び出し音が鳴り、新一はいつものようにポケットから取り出して、電話に出た。

「はい。」

「工藤君。」

「どうかしたのですか、目暮警部。」

事件が起こって困っているらしく、すぐに行きますと答えて通話を切った。

一度教室に戻り、鞄を持って蘭に早退すると伝えてすぐさま警視庁へと向かった。

これがまず、事件のさらに裏に潜む闇に足を踏み入れる第一歩。

 

 

 

「すまないね、工藤君。」

「いえ。それで、困っているということとは?」

すぐさま本題に入り、状況を聞く。

まず、朝の散歩をしていた主婦が、風で飛ばしてしまったハンカチを取る為に足を踏み入れた、今は中身が全てない無人のビル。

その入り口付近で遺体を発見。

調べると、小さな足跡と、ほとんど消えて判別が不可能となった、被害者と小さな足跡とはまた違う三つ目の足跡があり、残った二つは裏側へと向かっていた。

だが、途中で足跡は完全に消えていた。たぶん、犯人が消したのだろう。

そして、一番不可解なのが、道しるべのように落ちた血だった。

入り口には被害者のものだけ。だがそこに、別の血液も混ざっていた。

その血は、屋上から下の階へと続き、裏まで続いていた。

だから、被害者は関係がなく、たまたま主婦のように通りかかり、巻き込まれたのだと言われているようだ。

身元も既に分かっていて、昨日から帰ってこなかった夫だと妻が答え、泣き崩れた姿をすでに先ほどみたところらしい。

だが、そのことよりもわからないのがもう一つの血痕だ。おかしなことに、その血は調べても何もわからないのだ。

通常なら出る結果が、何一つでない。つまり、それは血であってすでに血ではないもの。

血であることは間違いない。だが、それは水を紅い絵の具を混ぜたもののように、何一つ出てこない。

血液型も何もかも。目に見えているが、試しにしてみたルミノール反応もまた、何の結果も出なかった。

血ならば浮き出るそれがなかったのだ。

それを聞いて、首をかしげるのがよくわかった。

今回のことはきっと、また闇が関わっている。

警部には悪いが、警察の手に負える事件ではない。

「目暮警部。状況はわかりました。とにかく、その現場を一度、見て見たいのですが?」

「ああ、そうだな。高木、左藤。」

「わかりました。ちょうど、今からいくところでしたので。」

行こうかと高木に言われて、新一は二人についていく。

 

 

 

現場について、まず感じたのはやはり不自然な静かさだった。

確かにそこは人がいないので静かだが、新一が言う静かさは意味合いが違う。

「・・・闇で覆われ、命耐えた地。」

紅く黒ずんだ跡がたくさんある。

静かだというのは、鳥がいないということ。

動物は本能で、危険を察してその場から姿を消す。

確かに、ここは危険だ。何の正体もわからないものが確かにいたのだから。

ふと、太陽の光を反射して光る小さなものが目に入った。

なんだろうとそれに近寄ってみれば、そこに何かの破片が落ちていた。

それを拾い、これにも血がついていると気付き、調べてもらおうとした時だった。

「関係者以外は立ち入り禁止です。」

「・・・ここには用がある。のけ。」

低い、いかにも機嫌の悪そうな声。

新人だったその警察官は怯えながらも必死に対応して、ここから立ち去ってもらおうとしていた。

そんな彼に、天使の声が届いた。

「麻都さん?」

「工藤君の知り合いですか?」

「はい。その人は、僕の知り合いです。悪いですが、話がしたいので通してもらえませんか?」

にっこりと営業用の笑顔で言えば、しばらく固まっていたが、顔を紅くしてすぐさま失礼しましたと立ち去った。

新一は立ち去って遠くなったのを確認して、近づいてくる男に顔を向けた。

「で、何の用かな、紅目さん?」

「・・・闇の住人が動いた。」

「・・・っ・・・・・・そうか。」

「・・・工藤邸にいる。・・・リオンが、だいたいの経緯はつかんでる。残りの話は後でだ。」

「わかった。」

しばらくそこで待っていてくれと、新一は言い残して、奥へ走っていった。

事件については考えておきますと伝え、今日は知り合いも来てしまって帰りますと、謝って。

「なぁ。いつも思うが、どうしてお前はお迎え役ばかりなんだ?」

「さぁな。」

答えは、一番ふらふらとそこらにいるので、そして大抵一番新一がいる現在地に近い為です。

そんなことは新一だけではなく、本人もわかっていなかったりもする。

意外と、普段はこの男は無表情で何を考えているのかわからないが、そのままで何も考えておらず、どこかが抜けているのである。

仕事の姿しか知らない者達は、きっと驚くだろう。

だが、知る者はいないのでそんな事態にはならないが。

「誰が、来てるんだ?」

「リオン、クラウド、ドクター、蓮、烏、ドラゴンは来ている。・・・キッドと魔女には何も伝えていない。」

「一応は学生だからな。」

しっかりと授業を受けてから来てもいいだろう。

「・・・あいつが今回、関係しているのか?」

「どうだろうな。俺はまだ、何も聞かされていない。」

「そっか・・・。」

違うと信じたい。あんなものとはあまり関わりたくはない。

いつかは関わり、決着をつけなくてはいけないことだが、嫌だった。

あの男には、死の匂いを感じるから。

 

 

 

 

 

「お帰りなさい。」

鍵を開けて玄関の扉を開けると、そこには待ち構えていたのは、お隣の少女ではなく『志保』であった。

「・・・志保。戻ってたのか?」

「ええ。どうも、状況は急いだ方がいいみたいだし。それに、足手まといはごめんだもの。」

それで、皆はと聞けば、リビングにいるわと答える志保。

そこには、紅目が言うとおりのメンバーが揃っていた。

そして、ソファには知らない少女が眠っていた。

「今回の事件は、あの男が関わってきている。この子を殺す為に、すでに関係のない者も殺して。」

蓮の言葉に、やはりあの事件は闇という組織が関わり、あの男もまた、関わるのだと理解した。

「・・・調べて、動きが見られたの。」

「・・・パンドラを求める組織は多い。それ故に、キッドとの対立は続く。だけど、パンドラ以外にも、呪い持つを宝石はあるんだ。」

「今回は、それが原因だというのか?」

「そういうことだね。」

リオンとクラウドは、何かを言おうとしてこれ以上は言わなかった。

代わりに蓮が、少女を含めて、その宝石の話をしてくれた。

「リオンやリオンの両親に関しては、この前の通り。それと同じように、人を使った『実験』は他にもあった。」

例えば、死んだものを蘇らせようとすること。人ではないものに情報を書き換えること。

人は力や知識を得て、時には愚かなことをしでかしてしまう。

「リオンとは同じであって、また違うけれど。彼女は人ではないものだ。あの男と同じようにね。」

そして、先ほどまでいた現場での、昨晩の様子を語られた。

あの男が、彼女を狙って追いかけた。その時たまたまそこにいた男が助けようと二人の間に割って入った。そして、命を落とした。

少女は逃げたが、捕まるのは、殺されるのは時間の問題だった。

そこを、可笑しな未来の予言をするタロットに導かれるままに、竜はその場所へと訪れた。

 



『―誰かっ・・・タ・・・スケ・・・テ・・・・・・・。』

 



苦しそうに、乱れた息で、必死に逃げる少女。

竜が側に近寄った時には、すでに倒れて意識はなかった。

「・・・動き出したってことね。」

事前から、動きがあることは知っていた。

もし、これが占いの結果での出会いなら、彼女は重要な位置にいる、キーパーソンである。

竜は自分が着ていた上着を彼女に被せ、男が来る前に少女を連れ出して撤収した。

それが、今そこのソファにいる少女だと言う。

志保の治療で、今は眠っているだけだが、たぶん未来は長くないらしい。

「寝言でも、殺してと言うぐらいだから、自ら命を投げ出す可能性もある。」

あの時は、まだ何か彼女にすることがあり、それのために逃げたい、誰でも良いから助けてと、心から叫んでいたんだろうと、竜は言う。

「すぐに、連絡を取った。そして、リオンが知った情報によって、確信がもてた。」

「今度は、パンドラとは違う、宝石の呪い。パンドラ以外にも、力を持つ宝石はあるのではないかと、誰かがやりだしたこと。それによって、眠っていた宝石の力が目覚めてしまったんだ。」

「それもまた、パンドラよりも厄介な・・・ね。」

和也が用意した資料に一通り目を通して、今回キッドを巻き込んでもいいのかと思ってしまう。

パンドラではないにしろ、それに近い違った呪い。

「新一の意見を聞こうと思いましてね。」

これに、キッドも入れるか入れないか。

どうせ、すでに現場に行っている新一だ。途中で放り出したりはしないだろう。

だが、まだ知らないキッドにはどうだ。

「全員、新一の指示は聞くよ?」

新一は少しだけ考えて、相手が気付くまで黙っててほしいと答えた。

何せ、三日後、怪盗キッドの仕事もある。

パンドラのことや怪盗のことだけではなく、自分が関わる事件のことまで巻きこんでは、いつも嫌だと思っていた。

出来るなら、誰も巻き込みたくないと思っているから。

優しい快斗だ。お願いしたらきっとその願いをかなえるために動くだろう。

だから、気付かれるまでは言わない。

今はキッドの仕事に専念して欲しいと思うから。

「わかった。じゃ、とりあえず、彼女についてわかっていることをもっと話すね。」

すでに必要な情報交換も終わり、持ち場に戻るためか、和也と雅美はいなかった。

 




     あとがき

 事件発生。しかし快斗はまだ知らず。
 新キャラも登場しました。が、これから先はほとんど出てこないという・・・ごにょごにょ
 この連載は早めに終わるはずでして、少しだけ二人の距離が縮まるはずという。
 縮まるはずなのですが、縮まるといいなぁ。

 *ページつくり間違っていたようです。
 皆様にはご迷惑をおかけしました。
 連絡下さった方。どうもありがとうございます。



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