最後に冥鎌が居たと思われる場所に飛んだ二人は、周囲を確認する。どうやら人の気配はないようだ。

「あった。れんちゃんのっ!」

そう言って、うれしそうにそれをひろった凛々がそれを冥鎌からもらったポーチにしまう。もらったものをすぐ落としたりするので、これに入れておけと言われ、渡されたのだと教えてもらったことがある。

きっと、凛々にとっては冥鎌からもらったということが重要で、それも彼女にとって大事なものなのだろう。

「あるのはそれだけか?」

「うん。…ん?…れんちゃん?」 

一つの方向へ凛々が向いたきり、まるで何かを探るようにそっちを睨みつけるように見ている凛々に、声をかけようとした天は言葉をかけるのをやめた。

今凛々が見ている方向は、冥鎌が鍵のある場所として指定してきた、あそこがあるところだ。

きっと、連絡を入れてきたのはそこへ凛々を連れて行きたくないからだ。それがわかっているからこそ、凛々には冥鎌の手紙に書かれた場所を教えていない。

だが、何か感じるのなら、凛々の方が正確だ。

「てんちゃん。今、ちょっとだけ、れんちゃんの気配があった。でも、すぐ消えちゃった。」

何やら動揺しているような、そして、ところどころ途切れながらの言葉だが、耳はいいのでしっかり聞こえたそれの続きを待った。

「れんちゃん、封印解けちゃってる。こんなところでれんちゃん、封印解いちゃったら、身体が持たないよ。どうしよう、てんちゃん。れんちゃんすごく弱ってると思うの!」

必死に訴える少女に、あまり彼女を連れていくわけにはいかないが、最後に感じた所まで案内してくれるように言えば、しっかりと頷いて、こっちと天の腕を掴んで歩き出した。

「誰か知らないけど、れんちゃんいじめる人、凛々が許さない。」

暴走する気配はまだないが、彼女にとっての敵を見つけた時、どうなるかわかったものではないので、今回は自分が止める役になるだろうと、覚悟を決める。

多少の怪我をしてでも、やり遂げて見せる。そうしないと、凛々が冥鎌を守りたいように、天もまた立花を守りたいのだ。決して大人しく守られてくれるような人ではないが、あの人への返せない程の恩に報いる為に、そして純粋に憧れる彼女の力になりたくて側にいるのだから。

「でも、一つだけ約束してくれるかい?」

歩きながら、凛々に話しかければ「なーに?」と足を止めずに聞き返してきた。まだ、彼女は人の言葉を聞く余裕があるようでほっとした。

「俺も冥鎌さんを助けたい。だけど、この先は少し危ないところなんだ。」

「危なくても凛々んは大丈夫。」

「そうだな。でも、もし冥鎌さんが動けない状態だったら、凛々ちゃんでは冥鎌さんを運べないでしょ?」

その言葉に、事実であるからこそむっとむくれて返事を返さない凛々に、反対の手で頭をなでながら言葉を続けた。

「凛々ちゃんは冥鎌さんが大事なんでしょ?」

「うん。凛々はれんちゃんが大事だよ。」

「だったらね、冥鎌さんを傷つける人は嫌い?」

「うん。嫌い。」

素直な子どもの言葉に、少しだけ苦笑する。

「でも、事故がおきたら、誰もどうしようもない。わかる?」

「事故が起きる前にどうにかする!」

「いつ起きるかわからないから事故なんだ。もし、冥鎌さんを盾にして、それを避けて凛々ちゃんが敵を倒しても、もしそこが足場の悪いところだったら、冥鎌さんが落っこちたら大変だよね?」

「…れんちゃん、落ちたら嫌。」

「だからね、なるべく戦闘は避けて冥鎌さんのところへ行く。だから、勝手に飛び出さないで、俺が待ってって言ったら待ってくれる?」

少しだけ考えて、凛々は頷いてわかったと小さな、だけど確かにしっかりと意思を持って答えた。

「じゃあ、急ごうか。賢示さんと立花さんもこっちへ来た守り人さん達をつれて同じ方向向かってるみたいだから、一度合流しよう。」

「わかった。れんちゃん、仕事できた。だから、くーちゃんとそーちゃんの大事な鍵のこと、ちゃんと探す。きっと、れんちゃん戻ってきても怒る。凛々は、怒られるより褒められる方が好き。だから、仕事、する。」

彼女も守り人の使い魔の一人だ。ちゃんと仕事を理解してくれていて良かった。

「きっと、ほめてくれるよ。そしたら、歪みを終わらせて一緒に遊ぼうか。」

「うん、遊ぶ!」

ちょうど、こちらの気配に気付いた向こうがやってきて合流できた。

「回収できたか?」

「はい。」

凛々に一応見せてくれるかと聞けば、気前よく凛々は賢示達にそれを見せた。

「間違いなくあいつのやな…どうしたもんか。」

「とりあえず、いい加減あそこの馬鹿共はやりすぎだったからな。雑魚の始末してしまってもいいんじゃないか?」

「立花、お前すぐそれにいくの、やめろよな。もう少し待つことはできないのか。」

「無理。」

はっきり言ってのける自分の相棒に、肩を落とす賢示。あくまで賢示が主ではあるが、このエリアにおいては立花の方が権力も発言力も上なので、とりあえずそれ以上は言わなかった。

「で、正確な位置はまだつかめない状態か?」

「いえ。それが一度感じたらしいので、今からそこへ向かおうと思っていたところです。」

そうだねと凛々に話しかければしっかりと頷いた。

「確かに、一度あった。でも、封印抉じ開けられて、だけど押さえつけられて…れんちゃんくるしそうだった。でも、すぐ消えちゃった。」

少し考える賢示は珍しく立花に『雑魚の掃除』と称した、強制許可を出した。

元々、ここの不正の証拠を集め、強制執行を行う予定だった。それがはやまっただけ。

「賢示、お前もなかなかやること目茶苦茶だぞ。」

「そうかもしれんな。」

楽しそうに言う立花に、少しだけ苦笑して賢示は答えた。

「蒼に紅だったな?悪いが立花とともに行ってくれ。鍵回収のついでに、さっき話した厄介事の種の掃除をしてほしい。」

「それはどちらの意味で?」

「どっちでもかまわない。元々、こちらの法にのっとって裁かれるの覚悟で向こうもやってるはずだろうから。」

「では、僕は『殺す』気はありませんので。」

「ああ。それでもいい。」

先に行っててくれと立花に指示を出せば、二人と連れて走り出した。

「さて、これから冥鎌のところへ行くわけだが、そこに鍵を盗んだ関係者の誰かがいるはずだし、今はっきりと感じるこの強い魔の元もいるはずだ。」

「うん。何かいる。きっと、れんちゃんこいつがつれてった。」

絶対許さないと怒っている凛々の頭を撫でてなだめながら、方向の指示を頼み、こちらも行動を開始した。

「向こう、あの建物の中、奥。そこに…あの女もいる。」

最後の言葉は、普段の凛々のものとは違いすぎて、天は少しだけ背筋がぞっとした。普段の姿がまるでわざとこれを隠すために演じられているのではないかと思うくらい、落ち着いた、けれど低く重みのあるはっきりとした言葉。

「また、あの女か…。やっぱり、さっさと殺しておくべきだった。」

天は賢示と顔を見合わせる。これが、暴走の前触れでなければいいのにと、少し警戒しながら先を急いだ。

「てんちゃん、けんちゃん。」

ふと、いつもの彼女の口調に戻り、何だと返答を返したら、にっこり笑顔で物騒な言葉をかけられた。

「あの女、きっとまたれんちゃんいじめたんだ。だからね、手を出さないでね。凛々が…凛々が殺すから。」

最後はやはりいつもの彼女ではなかった。

この彼女の変貌は、きっと先程から出てくる女の存在が原因なのだろうが、二人には誰を指しているのかはわからなかった。こういう時、ある意味言語翻訳係でもある冥鎌がいないことは痛いなと思うのだった。

「このまま真っ直ぐか?!」

「うん、このまま真っ直ぐ。その先の扉をさらに真っ直ぐ行って、四つ目の扉。そこで、さっきれんちゃんの気を感じた。消えた後、ずっとあの女がそこにいるっ!」

「凛々ちゃん、落ち着いて。約束だ。一人で行っちゃだめだ。」

「…わかった。約束守る。れんちゃんとも約束した。約束したらちゃんと約束守るって。」

良し、いい子だと頭をなで、周囲の気配を感じ取りながら扉の前までいった。

「行くぞ。いいな。」

賢示の小さな声に頷き、一気に扉を開けた。

そこには、部屋中に絡みつき、冥鎌を拘束する鎖であふれていた。そして、凛々が言っていたであろう女の姿と、苦しそうな冥鎌の姿がそこにあった。